「美羽……もう少しだけ待っていてくれ。必ず君を迎えるから」
DオブD 2日目。
叶翔がYOMIチームの控え席から、対面に腰掛ける美羽を未練がましく眺め続けている。
というのも昨夜、美羽への接触を秘密裏に図ろうと企てていた。
しかしDオブD自体が場外乱闘を禁止している上、緒方とディエゴ、2人の九拳から
"接見禁止を破らば、有無を言わさずここから退場させる"
という厳命を受けていたため、あえなく断念することとなった。
もしも翔がお構いなしに美羽に近づき、そのことがきっかけでいざこざが起きていれば、負傷者や欠員が出た可能性は否めなかっただろう。
結果、残った8チームは無事昨日のメンツのまま、本日も揃い踏みする。
『皆様お待たせいたしました、早速DオブD2回戦を開始いたします! 昨夜、全選手に配布した携帯端末から戦ってみたい選手、気になる選手などのアンケートを受領しております!
そのデータを考慮した上で2回戦の組み合わせを決める、これぞエンタメの粋、"ディエゴ・クオリティー"と言えるでしょう。それではディエゴ氏、発表をお願いします!』
ハンター試験のパクリやん、という阿含の呟きをガン無視しながら、ディエゴが松本から振られ、センタースクリーンを高らかに指さす。
『ハーッハッハ! これが2回戦の組み合わせだ! なお、準決勝は明日行われるため体力の温存は気にせず、全力で戦いたまえ!』
第1試合 ジェミニ 対 モンゴルブフ
第2試合 古代パンクラチオン 対 YOMI
第3試合 梁山泊 対 我流X
第4試合 ダイヤモンド 対 新白金連合
マッチアップが発表されどよめきが会場を包む中、明らかに過剰反応し騒ぎ立てる少年いた。
「うわーっ、我流Xだっ! 我流Xとは絶対に戦いたくないってアンケートで回答したのに!」
「ケ、ケンイチさん声が大きいですわ」
ワチャワチャとバタついている梁山泊を見下ろすフォルトナのアバターが、隣のディエゴへと疑問を投げる。
「ディエゴ殿、彼らは仲間同士ではないのかね? キックの魔獣を排除した今、無敵超人は用済みに思えるが……」
「ふっふっふ、そこは考えあってのこと。お楽しみあれ、ミスターフォルトナ」
ディエゴが意味深に呟く。その視線の先で2回戦が幕を開ける。
***
『カストル選手のスープレックスが、華麗に突き刺さったー! これはモンゴルブフのリーダーも耐えきれなかったか!』
第1試合は順当にジェミニが勝ち星を挙げた。
レイチェルが半裸の男達に包囲され、攻められ続ける構図で観客を引き込む。
その後、場が暖まったところでイーサンと連携し一転攻勢で秒殺する、前もって用意したシナリオを再現し難なく準決勝へコマを進めた。
興奮と余韻冷めやらぬ中、早速次の試合がコールされる。
『第2試合は、今大会の優勝候補同士が早くも激突します! 主催者、フォルトナ殿の御子息達で構成された古代パンクラチオン! 対するは、あの"闇"が送りし精鋭の刺客、YOMIだー!』
「パンクラチオンの皆さん!」
闘技場へ繋がる廊下を進むスパルタカス達を、ケンイチが呼び止める。
今日の早朝、たまたま散歩に出歩いていたケンイチと美羽が彼らのデスパー島脱出計画を立ち聞きしてしまった。
誤解や一悶着ありつつも、無事和解したことで水面下の協力者となっていたのだ。
「YOMIの連中は危険です。実際にボクが殺されかけたから、間違いありません。少しでも危ういと思ったら、無理せずに降参してください!」
「忠告ありがとう、梁山泊の弟子。無事生き残ってみせるよ」
スパルタカスは気丈に言葉を返すが、闘技場内へと足を踏み入れるやいなや、血に飢えた観客達の注目と喝采を一手に集め、渋い表情を浮かべる。
「ああ言ったものの、無様な降参などしたら、
「何を言ってるの。兄さんに死なれでもしたら、その時点で皆戦う意思そのものを失くしてしまうでしょう」
「それを言ったらオクタヴィア姉さんこそ、俺達の精神的支柱だろ。姉さんに何かあったら俺達、恐怖と怒りの箍が外れて、死ぬまで戦い続けるよ」
スパルタカスがため息を吐きながらスッと手を上げ、共依存の様なやり取りを止めさせる。
「私の言葉がナンセンスだった。必ず皆で無事勝ち上がろう。気が進まないが、たとえYOMIの選手達をやむを得ず殺すことになっても……」
視線の先。叶翔、親衛隊と思わしき2人、そしてボリス・イワノフの4名。
YOMIの両名は言わずもがな、臣下達も一々人数合わせではない力量がありそうだ。
『覚悟と誇りを胸に』
今回のバトルフィールドは、円形の壁に囲まれた場外への逃げ場無しのステージ。
決意を立て合い入場すると、翔が余裕たっぷりの様子で一人前に出る。
「ボリス、勢多、芳養美、まずは俺がやる。合図するまで待機だ」
「
『はっ、翔様』
ボリスと親衛隊が返答する間にも、スパルタカスを中心として5人はガードを硬め、一塊の鋼鉄の様に丸まり連なっていた。
「
「そんな縮こまっちゃって、攻め放題だよ」
横滑りに軽快なステップを踏みつつ、機をうかがう。
オールバックの次男が一瞬瞬きした隙を見極め、翔の中段突きが放たれ――
「ヒュッ!」
隣からオクタヴィアの手刀が拳側面を的確に捉える。
炸裂音と共、急所目掛けた攻撃が次男の腕へと逸らされる。
「す、すまない姉さん……」
「およっ、タイミングとテクでオレの突きを流すとは――」
「
その隙、陣形を崩した三男の腕を鞘の様に使い、抜刀術の如くスパルタカスが左手刀を抜き放つ。
デコピンのタメと居合切りの要訣を合わせスピートと火力を増強した、破邪の一閃。
後ろ飛びに回避するも、掠めた頬に痺れが走る。
マイペースに振る舞っていた、翔の瞳孔がカッと見開かれた。
「チチッ……なかなか速いね!」
「何っ……翔様が初弾で押されただと?」
ハイレベルな攻防に声援が増す中、後方で勢多と芳養美の顔色が変わり――
「さすが若君達……今日も堅実に戦い進めておられる」
衛兵達が満足そうに戦いを見守る。
だが当のオクタヴィアとスパルタカスの手応えは真逆であった。
(……弟子クラスであんなに速い突きを放てるなんて。辛うじて捌けたけど、この先全弾防ぐのは厳しいかもね)
(グレートホーンは十分"決め"に使える大技だ……。それがあの男には皮一枚触れるのがやっとか)
一方翔も認識を改める。
5人の連携と高い士気が合わさり、翔単体を超えるパフォーマンスを敵は発揮している。
己の力を誇示することに拘り、負け筋を生むのは愚の骨頂。
すぐさま方針を切り替える。
「……やるねえ。特にスパルタカス、お前を含めて1対5だと、万に一つがあるかもしれないな。ボリス、奴を狙え。勢多と芳養美はボリスをサポートしろ。足止めするだけでいい」
「4人とも防陣に徹しろ! 私がフリーになるまでオクタヴィアの指揮下に入るんだ!」
リーダー同士の指示が飛び交い、目まぐるしく盤面が動く。
スパルタカスをボリス達が包囲し、集中攻撃の末分断させる。
状況は3対1と1対4の変則的二面の戦局となった。
「貴様を仲間とは合流させん。指示は速やかに遂行される……」
「私達に加え、YOMI幹部のボリス氏も包囲に加わっている。お前が突破することは無い」
「我らとしばらく戯れろ。翔様の方なら直に終わる」
「むううっ……」
ボリスらの宣告通り、ボリス単独でも手を焼くのに加え、後方支援まで備えられてはスパルタカスが敵陣を打ち破るのは至難だ。
そうなると、動くのはもう一つの戦場になるが――
「普通は4対1の数的有利に甘えたくなるところを、リーダーの指示に徹し守りを貫くか。YOMIにも欲しいレベルの人材だね」
オクタヴィアを新たな柱として、4人でガードを固め翔の攻撃に耐え忍んでいた。
「だが、お前らの
「むっ……俺を狙うか!?」
翔の眼が妖しく発光し、北斗有情拳を放ちそうな髪型の三男へと向けられる。が――
「と見せかけて、こっちだろ?」
「っ!?」
昨日の1回戦、翔は一見完勝に見えた彼らの戦いを、抜け目無く観察していた。
チーム一小柄な末女。
彼女がかすり傷を負った程度で、スパルタカスが衛兵へナーバスに騒ぎ立てたこと。
敵の狙いが彼女に移った瞬間、味方のカバーが強まり、攻めにブレが生じていたこと。
この兄弟の真のアキレス腱こそ――
「しまっ」
「"人越拳 捻り貫手"」
末女へと向けられし、殺傷能力を突き詰めた無慈悲の貫手。
両隣のオクタヴィアと三男が身を挺してとっさに防いだ。陣形に発したその僅かな隙を――
「せっかくだから、空手以外も使わないとね。"フライング・バルセロナ・アタック"!」
「あっ、私が格ゲーを参考にして教えた技を……」
ディエゴが気まぐれに翔へと授けた空中殺法。
壁を蹴り三角跳びから、鳥の様に飛翔した翔の手刀が防陣を抉る。
予想外であった空からの攻撃に、鉄壁の布陣が完全に分断された。
「金剛阿含、お前の技も使ってやるよ」
「あ"ー?」
控え席への阿含へと、不敵に笑う翔の姿が、着地するやいなや霞む。
開放した静の気を足裏へと集め、一気に蹴り上げた。
「"瞬歩"」
「消えっ!?」
一瞬で4人の反対側へと回り込み――
「"ソーク・クラブ"! "地転蹴り"!」
『ゴハアッッッ!』
一影九拳のムエタイ使い アーガード・ジャムサイから授かりし、回転肘打ち。
拳魔邪神から挨拶代わりに教わった、逆立ち状態からの回転蹴り。
次男と三男の死角から九拳お墨付きの技が叩き込まれ、一撃でダウン……いや、失神へと追い込まれる。
「くっ……」
辛くも反応が間に合い、ターゲットから外れたオクタヴィアが後ずさる。
先程までの翔はスピードと基礎技だけで、遊び半分にゴリ押していただけだった。
だが認識を改められ、本気を出されたことで、これほどの差が生まれてしまった――もはや目の前の男に、完全に飲まれてしまう。
「あんたら、主催者のお子さん達だよね……さすがにオレも空気が読める男だから、半殺し程度で済ませてあげるよ」
どの口がホザいてるのやら、と阿含とディエゴが内心同時にツッコむ間に――
「よくも兄さん達を……許さない!」
「待て! 一旦私の後ろに……」
オクタヴィアの静止を振り切り、末女が翔へ飛びかかるが、
「お前の実力に綻びがあって、チーム決壊の起点になったんだろ。俺に当たる前に自身の能力不足を省みろよ……フンッ!」
「カハッ……」
ハエを追い払うように片手で攻撃をあしらわれる。
そして鳩尾と顎、正中線へと恐ろしく的確に突きを抉りこまれ、新たな屍を重ねてしまった。
『なっ、ななななんと電光石火の一幕! あのパンクラチオンの3人があっという間に沈められてしまった! これほどのものだったか、YOMIのリーダーにして"史上最凶の弟子"、叶翔選手!』
昨日の阿含や、先程のジェミニが霞む程。弟子クラスとして頭一つ抜けた力。
もはやパンクラチオンチームとは役者が違う存在に、ざわめきが徐々に歓声を侵食する中。
「……」
苛立ちとも怒りとも言えぬ、今までにない険しい表情。
たった今、翔に技を模倣された阿含が無言のまま戦場を見下ろし――
「長老……お願いがあるのですが」
「なんじゃねケンちゃん?」
「"我流X"に伝言をお願いします」
「ふむ……」
先程まで隼人との対戦を控え、隣で震え上がっていたはずの一番弟子。
その瞳は今、若かりし頃の無敵超人とどこか似た輝きを放っていた。
DオブD最後の戦いまで殴り書きレベルで下書きが終わったので順次推敲していきます
7月末くらいにDオブD編完結予定です