100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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33話 前夜

宇喜田

試合時間 1分10秒

コメント「ちょっと怖かった。人を見てる感じじゃなかった。なんか重心のコツが少しわかったかも」

 

武田

試合時間 1分18秒

コメント「後半からボクの力が開放されてく気がしたんだけど、それでも最後急に攻撃が当たらなくなっちゃったよ」

 

キサラ

試合時間 1分9秒

コメント「尻上がりで調子上がってきたのに、それを上回られちまった! 次は勝つ!」

 

フレイヤ

試合時間 1分12秒

コメント「最初は隙が無いわけではなかったのだが、終盤は精密機械のようだった。こちらの身体捌きや杖術における重心を色々考えさせられた」

 

トール

試合時間 1分15秒

コメント「相変わらず無機質な男じゃが、敵意は感じなかったぞ!」

 

 

 DオブD3日目の夜更け。

 窓から鮮やかな月光が差す客室のベッドで、新島はタブレットを夢中でペタペタといじくり回す。

 2回戦の()()分析と考察が思いの外難航していたからだ。

 阿含と戦った5人の試合結果から一定の法則が見えるものの、メンバーのコメントが微妙に食い違っていた。

 

(皆、阿含と戦ってる間に調子を上げていったが、1分経った辺りで急に完璧に対応された。阿含の新しい気の力は"成長を促しつつも相手を1分で解析する能力"……でいいのか?)

 

 公開情報だけを鑑みればその推察に行き届く。

 だが、使い勝手の微妙な能力をここまで腐心して開発するだろうか。

 阿含に直接聞くのは情報漏洩のリスクから考えて論外。

 そもそも自分が阿含の立場なら"お前(新島)ならそれくらい自力で突き止めろ"と突き返すだろう。

 

 新島とて、別に阿含の能力を解析する義理は無い。

 隊員達も全員比較的軽症で、1日医務室で休めばどうにか力を取り戻せる以上、戦力上の憂いも無い。

 ただ、これまで組織運営や戦略構築を肩を並べて行い続けたプライドが、知らずにいることを許さない。とはいえ思考にもタイムリミットと損切りは必要だ。

 

「えーい、これ以上はヘタの考えなんとやら、だ! 後は阿含に任せるか」

 

 観念したように頭を掻きむしり、ベッドに寝転ぶ。

 この場で答えに至れなかったが、それも仕方ないこと。

 あの阿含の一手は、ただの合理や最善手だけで説明のつくものではなかったからだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ではこれより、本日の梁山泊ミーティングを行う!」

 

 隣の客室では隼人号令の下、梁山泊の豪傑達が一堂に会する。

 卓を囲う6人の達人は、無意識下にも"ゴゴゴゴ"という迫力のオーラと、鋭い眼光を垂れ流し続けている。

 彼らを知らぬ一般人がその場に居合わせたら、きっとその圧力で一目散に逃げ出してしまうだろう。

 

「思った以上にこの島のセキュリティは堅牢だな。偵察だけでスケジュールが1日後ろ倒しになっちまった。動くなら明日の昼だ」

 

 国連軍と連携し、島に集っている"闇"や反社会的勢力、裏社会の人間達を一手に捕える極秘計画。

 事前に島へと潜入していたFBI、ジェニファー・ラングレーと共に調査していた逆鬼が、瓶ビール片手にプリントアウトした地図を指さしていく。

 今は機械とAIが跋扈する令和の世。

 不眠不休で動き、痛みも感じず不平も漏らさない、自律型のセキュリティシステムが目を光らせている。

 いかに特A級達人といえど、慎重に対応せねばならない。

 

「後は敵戦力だね。達人級の気配がウヨウヨと漂っている上、笑う鋼拳,拳聖と同等の力も感じられる」

 

 秋雨が敵の特A級戦力に触れると、剣星としぐれから含みを感じさせる独り言が漏れる。

 

「一つ……懐かしい気配がしたね」

 

「ボクの刀がさっきからざわついている……。因縁の予……感」

 

 一筋縄ではいきそうもない明日の決戦を皆が予期する。

 そんな中、ホールから持ち込んだ果物を食べ漁っていたアパチャイが、ふと話題を変えた。

 

「アパ、そういえば、ケンイチと美羽はどこよ?」

 

「連合とパンクラチオンチームのお見舞いに行ったようだ。ケンイチ君達は、フォルトナに飼われている彼らの事を気にかけていたからね」

 

「チッ……ガキ共を奴隷にするなんぞ、忌々しい事しやがって……。こんなふざけた真似は明日で終わらせてやる」

 

 缶ビールを紙コップの様に握りつぶし、憤慨する逆鬼の横で隼人も場を締めくくる様に力強く頷いた。

 

「うむ。これほどの武術大会を開催し続け、若き才能を活性化させている主催者には一定の敬意を持とう。それでも彼奴の負の面まで認めるわけにはいかん。

明日誰一人として欠けること無く、血塗られたこの島の歴史に幕を降ろそうぞ」

 

 

 

 ***

 

 

 

「叶翔……これ以上近づくな! 試合外で選手同士の不要な接触は禁止だろう!」

 

「安心しろ、明日の試合までお前には指一本触れないさ。用があるのは美羽だけだ」

 

 月が綺麗な三日月を描く夜空の下、少年達が1人の少女を争うかの様に対峙する。

 事の発端は、医務室の見舞い帰りに夜道を散歩していたケンイチ、美羽を叶翔が待ち構え現れた事に起因する。

 

 植物園で会った時と違い、翔に対し明らかな壁を作った、拒絶の態度を美羽が貫く。

 自分達の命を狙おうと襲撃してきたジェイハンが、失敗の責を負うべく師に粛清された。

 李親子がまともに思える程の、非情な闇の手口。

 それを思い知った美羽からの嫌悪の感情を察知し、翔の瞳がわずかに揺れ動いた。

 

「美羽……俺は君の味方だ。この前、ナガラジャ達の襲撃を伝えたことも、本当だっただろう。

今こうして接触していることだって、"闇"から懲戒されても文句の言えない利敵行為だ。

……それでも君を守りたい。君は俺が初めて見つけた片翼だから」

 

 しばし膠着状態を経て、美羽が無言でケンイチの横から、ずいと一歩前に出た。

 翔の目を見て直感で判断する。

 彼に対し、ただの拒絶や上辺だけの対応で済ませるのは礼を逸する行為だと。

 

「叶……さん。私はそこまで人を見る目が優れているわけではありませんが、あなたが嘘をついているようには、見えません。それにどこか懐かしい匂いもします」

 

 影と闇の雰囲気だけが纏う翔の目に、ほんの少し輝きが生まれる。

 

「でも、ごめんなさい。もう守ってくれるって約束してくれた人が、ここにいるんです」

 

 だが美羽が横にいるケンイチの腕を掴むことで、その輝きもすぐに黒ずんでいった。

 

「今のそいつではあなたを守ることなど無理だ。俺はおろか金剛にも、カストル達にも、今日俺が倒したスパルタカスにだって勝てやしない。それくらい身内の色眼鏡を外さなくともわかるだろう」

 

「……確かにケンイチさんはお人好しで、ちょっと不器用で、何度も色々な相手に不覚を取っていますわ。それでも……梁山泊の皆さんが。阿含さんや新島さん達がいれば、ケンイチさんの不得手な所を補って、高みへ登っていけると信じてますの」

 

 目をそらさずはっきりと宣言され、翔の視線と意識は初めて、意中の女性から隣の恋敵と明確に移る。

 

「潰す相手は金剛阿含だけだと思っていたが……どうやら虫ケラ、お前の息の根を止めて、美羽の目を覚まさなきゃならないようだ」

 

「叶翔、ボクは明日逃げも隠れもしない。お前がどうしてそこまで美羽さんに執着するのか知らないが、美羽さんはボクが守る。そして、パンクラチオンチームの人達の仇も取る!」

 

 明らかな宣戦布告に対し、フンと鼻を鳴らした翔がひとっ飛びで闇夜に消え失せる。

 デスパー島の外庭は再び静寂を取り戻すと思われたが――

 

「ッッ……!」

 

「美羽さん? 大丈夫ですか!?」

 

 突然の変調に頭を抱える美羽。

 痛々しい表情が、翌日の暗雲を物語っていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「おのれぇスパルナめ! あのガキ、あれほど言ったのに梁山泊の弟子に接触しおって!」

 

 九拳用に確保された、特別なゲストルーム。

 その中央で、快活に笑いながら立腹する、情緒不安定なのか器用なのかわからない様子でディエゴが翔に憤慨する。

 傍のソファに腰掛ける緒方は、他人事の様な食えない表情で肩をすくめた。

 

「しかし棄権はさせられませんよね。準決勝はジェミニの2人を、梁山泊にぶつけるつもりなのでしょう? ならば金剛少年の相手は、翔君一択になりますよ」

 

 まだボリスも残ってはいるが、一方の阿含はここまでチームメイトを誰も明かさず無傷のまま温存している。

 さすがに負傷したボリス一人では、荷が重いことはディエゴも承知している。

 

「それに先ほど、フォルトナ殿からもスパルナ対金剛阿含は絶対やるように言われた……つーか私も見てみたい。スパルナのやつ、これも計算ずくだったのか? ……いや、まさかな」

 

 VIPゲストからの事前アンケートでは、阿含と翔の対戦を望む声が圧倒的だった。

 そしてジェミニには梁山泊の弟子を討ち取って、決勝で阿含ないしは翔を倒してもらいたい。

 それらを踏まえれば、準決勝は誰一人欠けさせず、確実に成功させたい。

 

「問題は、梁山泊の達人と国連に不審な動きがあるということですね。

私とディエゴ殿だけでは、梁山泊との総力戦になった場合、どう見積もっても火力不足でしたが、あなたが居て不幸中の幸いでしたよ、拳豪鬼神殿」

 

 緒方の視線は、対面の席でグビ……と白酒(バイジウ)を煽る髭面の男に向かう。

 剣星の実兄にして一影九拳の一人、馬槍月が偶然にもフォルトナに筆頭用心棒の一人として雇われていた。

 

「普段なら酒だけもらってバックレようが寝返ろうが、九拳の格で多少の破天荒は許されます。ですが今回ばかりは一影殿から勅命が出ているので、ご協力お願いしますよ。

 梁山泊を内部に入れてしまった我らが、闇のスポンサーであるフォルトナ殿をできるだけ戦闘面でサポートしなければなりません。……例え、弟さんと拳を交えることになってもね」

 

 槍月はピタリと硬直し、何も無い空を見上げる。

 しばらくして空っぽになった酒瓶を置き、無言のまま新品に手を伸ばす。

 どちらかというと梁山泊を招き入れたのはディエゴ個人の責任と言えるが、なかば連帯責任の様な形でその補佐を一影が直々に命じていた。

 

「……俺としてはあんたとも戦ってみたかったがな。鍔鳴りの紀伊陽炎

 

 槍月に名を呼ばれた、部屋の壁に寄りかかる長尺の痩身剣士に九拳達の視線が集まる。

 武器組の一人、居合術使いの紀伊陽炎。

 フォルトナが用心棒として雇った達人の中で、槍月と双璧をなす使い手であった。

 達人級ではあるが、一影九拳と対をなす武器組の最高幹部、"八煌断罪刃(はちおうだんざいば)"には所属していない。

 断罪刃は一影九拳と違い、実力は当然のこと、協調性と統率を重んじる性質だ。

 そのため、クセの強い性格の陽炎は不適格とされていた。

 しかし実力は折り紙付き。もしも断罪刃に加入したのなら剣の腕は頭領に次ぎ、二番手争いに食い込めるのではないかと噂される程だ。

 ちなみに陽炎が3人と距離を取っているのは、気難しい人格から壁を作っている。

 ……というわけではなく、単に近くにいる生物を自動で居合斬ってしまう、難儀な能力を持っているからである。

 

「ふふ、お仕事の後で良ければお相手いたしますよ、拳豪鬼神殿。我が愛刀、刹那丸の稼働は年中無休ですから」

 

 我が子を労るかの如く、鞘をそっと撫でる陽炎の眼は、既に明日の梁山泊との戦いを描いているかのようだった。

 各々それぞれの夜を過ごし、DオブDもいよいよ3日目――全てにケリを着けるべく最終日に突入する。

 

 

 

 深夜。ケンイチ達の後にひっそりと医務室を見舞い、その後暗闇の自室で寝息を立てる阿含。その全身で、微かに気が脈動する。

 それはトレーニングでも、無意識下の発勁でもない。

 まるで阿含と共生を約束された生き物のように、眠る主の意思すら介さず自律して循環、変質、還元を繰り返していた。

 




テンポの都合上、DオブD編では達人同士の戦いはあまり描写されません
ご容赦ください
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