100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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34話 決勝

 DオブD最終日の朝日が孤島全域を照らす頃。

 まだ朝っぱらだってのに、観客席は満員御礼だった。

 昨晩も乱痴気騒ぎしてたのに、バイタリティあるねえおたくらも。

 昨日よりも濃い熱気の中、オレ、ケンイチ、そしてYOMIの4人が闘技場へ並ぶ。

 

『ハーッハッハ! 諸君、ここまでよく勝ち上がった。栄光ある優勝まであと2つだ! まずは準決勝第一試合、"梁山泊"VS"ジェミニ"!』

 

 ジェミニがケンイチを叩き潰して、場を温めたとこでオレと叶翔のメインマッチを。レスラーのオッサンが描いてるシナリオは、そんなとこだったんだろうが――

 

「カストル、ボルックス! 白浜兼一は俺の獲物だ。準決勝で金剛阿含を踏み潰した後に、そいつも始末する。棄権しろお前達」

 

 叶翔の一言で、全部吹き飛んだ。

 こいつ……闇の武術家でよかったな。

 普通の学生でこんなんやってたら、クラスのグルチャハブられて、ディスコの趣味サーバーも秒でBANされんぞ。

 

「はあ? 何冗談言ってんのよ。ていうかそんなにこのボウヤと戦いたいなら、フォルトナ様に直談判して組み合わせ変えてもらえば?」

 

「ダメだ。金剛はお前らに勝てるかもしれないが、無事では済まないだろうし、白浜はそもそもお前らに勝てない。

 万全の金剛と虫けらを俺が倒すためには、お前らの棄権が手っ取り早い。これはリーダーとしての命令だ」

 

 

 

 観客席がざわつき始める。

 レスラーのオッサンもキレて、叶の討伐を直々に覆面女に指示した。

 弟子クラスの勝手な暴走なんて主催者権限で却下すりゃいいものを……。

 しゃあねえな。

 

「せっかくだから、オレも混ぜてくんね?」

 

 ポケットに手ぇ突っ込んだまま、叶と覆面女の横へ出る。

 

「同士討ちとか一番つまんねえだろ。なあルチャのオッサン」

 

 主催席で腕組むレスラーも、ようやく気付いたように眉を動かした。

 叶と覆面女が潰し合えば、ケンイチとオレが一方的に得をする。

 オレはともかく、梁山泊勢に漁夫の利させんのはあんたもオモろくねえはずだよな。

 

 その間に、ケンイチも前へ出てきた。

 美羽は昨日の変調がまだ尾を引いてるらしい。

 控え席で休ませてるみてえだ。

 

「あ"ーこいつ()はオレが先にやるから。お前はまだ待っとけ」

 

 そう手で制した途端、ケンイチが首を傾げた。

 

「ええっ……でも君達が戦ったら阿含君が勝つだろうから、ボクがパンクラチオンの人達の仇を討てなくなるよ」

 

「あぁ?」

 

 横で叶の敵意が膨れ上がった。

 

「……お前、結構無自覚の煽り屋だよな」

 

 予想しなかった方角から遠回しな敗北予告を飛ばされ、ギリと叶が歯を食いしばる。

 その反応が妙にツボに入って、思わず口元が吊り上がった。

 

「あ”ーそれに仇とか要らねえから。借りはオクタヴィアに直接返させてやるよ」

 

 意味深な俺の言葉にケンイチが眉をひそめ、翔はハン、と鼻を鳴らす。

 その横から更に覆面女まで割り込んできた。

 

「ちょっと待ちなさいよ。全員で戦いだしたら人数的にYOMIが余るじゃない。最悪ボルックスはどうでもいいとして、あたしまで待ってろっての?」

 

 横の無口男が「えっ?」みてえな顔してるが、完全に無視されてた。

 そんな連中を眺めながら、オレは後ろへ視線を向ける。

 

「ああそれなら大丈夫じゃね。……もう来る頃だな」

 

 "ダイヤモンド"の控え席に腰掛ける一つの姿。

 暗がりの席から、影が勢いよく飛び出し――

 

 

「喜べ男子ども!」

 

 

 闘技場中央へ着地する。……うわ、やりやがったよ。

 コスプレ用のセーラー服に着替え、ご丁寧にアイパッチまで付けてやがる。

 空気をぶち壊す格好のまま、小頃音リミがドヤ顔で仁王立ちしていた。

 

「あなたは! ……トガヒミコさんでしたっけ?」

 

「そーそー。トー横からお越しいただいた、オレのチームメイトね」

 

「小頃音リミだっての! 間違えるにしてもそっちじゃないでしょ。あとトー横言うな! パパ活もしとらんし、マンジャロも打っとらんわ!」

 

 アイパッチを早々に床へ、ペチッと投げ捨て矢継ぎ早、ケンイチとオレに次々ツッコむ。

 朝っぱらからテンション高ぇなコイツ。

 オガッさんから聞いた話、オレが実験している気の運用が、龍斗の後遺症への治療に活かせるとかなんとかで、オレに協力しに来たらしい。

 

「龍斗様の幼馴染! リミ様独自の調査によると、アンタ女性を攻撃できないんでしょ? 旅団以外に能力使えないレベルのヤバ制約やん! しゃあないからリミお姉さんが代わりに……」

 

「ちょっと、まさか()()とあたしを戦わせようっての? 勘弁してよ……」

 

 ケンイチにダル絡みするリミに対し、覆面女が露骨に嫌そうな顔をする。

 まあ、気持ちはわかるよ。オレも3回LINEブロックしかけた。

 

「ははーん? アンタ、リミから逃げるんだ? じゃあリミが金髪美人インフルエンサーキャラNo1ってことで。裏社会のおじさま達に取り入って芸能界ゴリ押ししてもらおーっと」

 

 得意気に支離滅裂なマウントを取られ、覆面女も瞬間湯沸かし器の如く、額に青筋を立てる。

 

「なーんかわかんないけど……あたしより目立とうとしてるようで気に食わないわね。 ボルックス、あんた控え回ってなさい!」

 

 突き飛ばされる無言男。完全に巻き込まれ事故おつ。

 

「拳聖様ぁー龍斗様に伝言をお願いします!」

 

 その間にもリミが胸の前で両手を組み、キリッというSEが付きそうな迫真の様子で主賓席のオガッさんに直訴する。

 

「これがジャンプなら他の2戦はダイジェスト。リミ対覆面女の人外魔境美少女決戦は、単行本1巻分の死闘になるかと思います。リミはたとえ、静と動の気を同時に発動させるあのゲキヤバ技を使おうとも、龍斗様のために勝利を……」

 

「あーいやアタランテー……事後処理に困るから程々に頑張ってくれれば良いよ。多分君達の戦いは……」

 

『気の毒じゃがこれは尺的に……のう……』

 

「……すまんカストル、ババを引いてしまったようだ」

 

 何かを察したオガッさん,フォルトナアバターが歯切れの悪い様子で口ごもり、横でレスラーのオッサンが頭を抱える。

 リミは態度からして多分意味わかってねえなこいつ。その横で――

 

「ボリス。叶翔だけでなく、お前ともボクは因縁があった。ボクだけでなく美羽さんをもその手に掛けようとしたこと……この手で今日、ケジメをつけてやる!」

 

「ほう……2日間の連戦でボロボロだというのに、よくそこまで強気になれる」

 

「そっちこそ腕をケガしてるみたいだが、容赦しないぞ!」

 

 暑苦しいセリフが飛び交ってた。

 ケンイチがロシア軍人に珍しく闘争心をむき出して、拳を突き出す。そして最後に――

 

「金剛阿含……キサマと白浜の存在を、美羽から徹底的に消し去る必要があるようだ」

 

 叶がこっちに視線を向けると、昨日までは無かったヤツの明確な殺気が、全身の皮膚を突き刺す。

 

「まずはキサマから砕いてやる。この前みたいに水入りはないと思え」

 

「……しょうもねえ才能マウントは卒業したが、今日おめーだけは特別だ」

 

 殺気を真正面から受け止め、反射的に脈打つオレの気が、僅かに熱を帯びた。

 

「圧倒的なオレの才能でプチッと潰してやるよ」

 

 観客席の熱気が、数段跳ね上がった。

 本来なら準決勝のはずが、急遽変更。同時進行による変則決勝戦へ姿を変える。

 レスラーの指示で闘技場中央から壁がせり上がり、空間がきっちり三等分されていく。

 

 ケンイチにはもう、オレの檄は要らねえよな。

 ズタボロでもなんでもいいから勝てよ。

 周囲も外壁に囲われて、場外負けも出来なくなった。──舞台は整ったな。

 

『ぬわんとぉ、突如4チーム入り混じっての混戦となったァァァ! ハブられたボルックス選手がかわいそうだが、名勝負の激戦になること間違いなし!

 まずは各局面を勝ち上がれ! 三局同時進行のDオブD決勝戦──開始ィ!』

 

 その場のテンションに身を任せた松本の叫びと同時。

 会場の熱は絶頂に達し、オレ達は示し合わせた様に駆け出した。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ケンイチは叶翔との因縁に終止符を打ちたい気持ちを抑え、ボリスを指名した。

 元々ボリスからは、かつてエムブレムを突きつけられ、決闘の先約をさせられている。

 そして阿含の意思を優先したこともあるが、それよりも気になることが。

 

「ボリス……一体何があった?」

 

「ふん……2か月あれば人は変わるということだ」

 

 かつて雪山で戦った時とは、何かが違う。

 闇人ながら変な素直さもあった精神性に、荒んだものが混じっている。

 ケンイチはその違和感を言語化できなかった。

 だが梁山泊の達人はボリスの瞳に度々過ぎる暗がりを見抜き、目を細める。

 

「コマンドサンボの使い手ということは、彼はロシア軍人かね……」

 

 剣星の呟きに、隼人が静かに頷く。

 

「やはり()()()()しまったようじゃな」

 

 殺人拳にも理由はある。

 生きるため。守るため。誇りのため。あるいは己の欲望のため。

 だが戦場は違う。

 そこでは殺すことそのものが目的となる。

 

 兵卒はただ、恐怖と苦痛、そして理不尽な死に抗うだけ。

 創作の世界ならいざ知らず、そこに光や夢は存在しない。

 

「あの少年……このままでは引き返せなくなるのう」

 

 隼人の鋭い視線の先、ボリスは無言のまま前へ出る。

 その瞳の奥で揺れるのは、二つの異なる闇。

 闇人の矜持と、戦場が植え付けた兵士の冷徹さだった。

 

「ヒュオオオ……」

 

 ケンイチは空手の"息吹"で心身を整える。

 相手の流れを読む制空圏。

 そしてその内側に、気の流れを捉えるべく生成された第二の制空圏。

 

「"ツンドラの大木"!」

 

「"流水重層制空圏"!」

 

 我流Xとの戦いを経て、形となりつつあるケンイチが纏う二層のパーソナルエリア。

 弾丸のように迫りくるボリスと、それが交錯した。

 

 

 

「始まったか。双方手負いの身である以上、ケンイチ君達はそう長々とは戦うまい。金剛少年の方は……」

 

 秋雨の鋭い眼光の先。端正に練り上げ、開放された静の気を纏う叶翔が攻め立てる。

 かつて阿含が相手した、バーサーカーやジェイハンといった手練れ。

 彼らをも凌駕する速度を維持しながら、危険を排除した距離から慎重かつ巧妙に突きと蹴りを繰り出している。

 

 現時点では互いに探り合うのみ。こちらは長い戦いになりそうだ。

 梁山泊の豪傑達はそう見立てながらも、()()決行に備え、そろそろと身支度を始めていた。




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