100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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スケジュール調整のため今週は月,水,金の週3投稿いたします。


36話 最凶

「ふぅ……そ、そういえば、他の戦いは!?」

 

 ボリス撃破から小休止し、ケンイチは最低限の体力を回復させる。

 闘技場を分かつ壁を這い登り、登頂した先に迫る光景――残る2つの戦いは未だ苛烈を極めていた。

 

 

HAHHAー! 服をこれだけ破かれても怯まないとは、私に負けずあなたもエンターテイナー気質デスね!」

 

「こっちは脱がせてくる変態対策に、特注のボディスーツ身につけてるんよ! もうあの時みたいなヘマはせん! 最高速度でブチ抜いたる!

 

 

 右方ではケンイチにとって中々目に毒な、リミとレイチェルのキャットファイトが。

 そして左方では――

 

 

「どうした……2回戦で有象無象共にやったみたいに、1分以内にオレを解析しないのか?」

 

「1分経っても攻略できねえ相手が、ようやく現れたってことだろ」

 

「へぇ……お褒めに預かり光栄だね! お礼に闇で学んだ殺法のフルコースをご馳走してやるよ」

 

 未だお互いクリーンヒットを許さぬ、阿含と翔の精密な攻防が続いていた。

 

「阿含……ボク達と戦った時は1分で完全に読み切ったのに、叶翔の動きはまだ捉えられてないじゃなーい! まさかここで舐めプしてるのかい!?」

 

 控え席で勝負を見守る武田の疑念に対し、奥に腰掛ける秋雨が首を横に振る。

 

「いいや、金剛君は3つの理由で対応しあぐねている。1つ目、あのYOMIの少年の技量が単純に高い。この大会で成長した君達の二回り以上は上の領域にいる」

 

「ど、どすこーい! 番付が容赦ないのう……」

 

「はっはっは、ウソはよくないからね。勘違いの自惚れは武術家にとって致命的となるよ。2つ目、相手は静と動の気をスイッチしながら戦っている。あれはかなり力量を読み辛くしているね」

 

「なあヒゲの先生! 我流Xが見せた幻影の阿含も同じことやってたが、それって練習すりゃできることなのか?」

 

「練習というよりは才能だね。静動両方の適性が無ければ無理だ。もちろん、動の素質が無い私にもあれは出来ない。3つ目……相手はケンイチ君と同じく、複数の武術を学んでいる。それを活かした、ファイトスタイルの切り替えもしているようだ」

 

 おそらくこの勝負の内に、金剛阿含が叶翔を完全に解析することは不可能。

 みなまでそう言わずとも秋雨の態度から、それを察知した連合の隊員達が見守る。

 その先でふと翔が猛撃の手を緩めた。

 

「……お前の御大層な"気の運用"、とやらを真っ向から味わうために様子見してやったが……これ以上の引き出しは無いらしいな」

 

 代わりに冷たい殺意、プレッシャーと静かな怒りが翔の周囲を満たしていく。

 

「そこの虫けらもそうだ。マグレとはいえボリスを倒したことは褒めてやるが……お前ら如きの力で、美羽を守るだのぬかした罪……万死に値する!」

 

 昨日阿含が披露した、解析能力と思わしき力。

 普通の武術家なら短期決戦を仕掛け、解析される前に仕留めようとするだろう。

 だが翔のアプローチは逆だった。

 長期戦でその力を真っ向から否定し、阿含の才能そのものを見限ったのだ。

 

「へぇ。シャカシャカ戦術変えまくる涙ぐましい努力の他に、何か見せてくれんの?」

 

 そんな阿含の軽口も、もはや翔の嗜虐心を焚きつける材料にしかならない。

 

「……これを見てもまだ同じことがホザけるかな!? "静動轟一"。併せて "神謀のビレイグ――フェールセーフモード"

 

 ざわ――と場の空気が凍り付く。

 マグマの様に煮えたぎる、破壊欲を纏う動の気。

 水面すら揺らさぬ、静かな殺意を研ぎ澄ます静の気。

 陰陽太極図を歪めた様に、翔の体内でじわりとそれらが交わっていく。

 かつて朝宮龍斗が生み出した、気の運用において禁忌(タブー)とされた二大奥義。

 それをかつて間近で見たケンイチと新島達だけでなく、秋雨達も険しく眉をひそめる。

 

「あれは……龍斗さんの技まで……!」

 

「うむ……活人拳として相容れられぬ技だ。だが、"フェールセーフ"とはまさか……」

 

 聞き慣れぬ修飾子に秋雨の意識が引っかかる。

 その間にも、叶翔という器に禍々しくも凄まじい生命エネルギーが充足された。

 それを見届け、阿含が自己流の"最強コンボ"を打ち込むべく構える。

 

"風の拳・四連(クワドロ)"

 かつて一度翔に放った時とは速度、威力ともにレベルが違う風弾が4発。

 自身目掛けて同時に迫りくるそれを、黒疸が刻まれた両眼が、弟子クラスを超越した動体視力で難なく視認する。

 

カァァァアッ!

 

 そのまま翔は、"天地上下の構え"のまま咆哮した。

 

"正拳突き"

 

 腰を捻りながら引き手を引き、正面に回転を加えながら拳の突きを打ち込む。

 単純にして洗練された空手の基本技が、鋭い風圧と共に空気の塊を纏めて弾き飛ばした。

 シンプルにして見事な基礎力を用いての対応。

 相手方である秋雨が思わず内心唸る中、阿含と翔が同時に駆ける。

 

"瞬歩"

"瞬歩"

 

 阿含の高速移動先へと翔が容易く視認,追従し、遂には先回りしその動きを捕捉する。

 きっかり2人揃って滑る姿は、さながらペアスケーティングの様。

 

"人越拳 捻り貫手"!」

 

 水月目掛け打ち込まれた、必殺の貫手を阿含の"廻し受け"が弾く。が――

 小さく舌打ちする阿含の左肩に、軌道を逸らしきれずに抉られた痕が刻まれた。

 血が舞い散りコロシアムの床を鮮やかに装飾すると、観客達の歓声が一際強くなる。

 

悪くない反応と"廻し受け"だったが……"静動轟一"と"神謀のビレイグ"の力の前では無力だな。お前の動きなど止まって見える。左腕の性能、2割減といったところか

 

 ついにはっきりと両者の力量差が目に見える様に現れた。

 一方、戦いを見守る新島は焦らない。

 あの力の弱点……長期戦に弱いことは、オーディーンの結末を見て阿含も当然把握しており、そこを淡々と突くはず。

 だがそんな新島の予測を裏切るかのように、「フ」と翔の全身から"静動轟一"の気が消失していく。その様子を見た阿含が視線をスッと細めた。

 

「あ"ー? 気を解除した……いや、()()()()した?」

 

「緒方先生の研究成果を享受できたのは、お前だけだと思うなよ? とっくにこの技の最大のリスクは対策済だ」

 

 翔は緒方のアドバイスにより"静動轟一"の力を一部コントロールする術を持った。

 出力を8割程度に抑えることで攻防終了時、あるいは身体に負荷を与える前に、己の意思とは別に自動停止する安全稼働(フェールセーフ)の技術。

 そして更にもう一つ――

 

"静動轟一・フェールソフトモード"」

 

 半分以下の出力に抑えられた気での、"静動轟一"の縮退運転(フェールソフト)

 肉体の負荷を抑え、静または動の気と切り替えることで、第三の気のスタイルをノーリスクで行使できる。

 もはや阿含の気の解析能力を完全に嘲笑う力を手にしながら、翔は突きと蹴りを容赦なく打ち込みつつも、この場の活人拳達に各々の無力さを知らしめる。

 

「何故これ程の気の制御を、俺が容易く出来ると思う?

 この俺自身の才能もあるが……先に実験台になった弟子、朝宮龍斗の壊れ具合と証言を()()()()として情報提供されたからだよ」

 

 非情なる闇の性質が生んだ、技の伝授。

 龍斗と敵対していた新島達ですら、言いしれぬ不快さに拳を握りしめる。

 そして誰よりもその宣言を聞き捨てならぬ少年が、闘技場の壁上にいた。

 満身創痍の全身をわなわなと震えさせ、拳を壁に叩きつける。

 

「ふざけるな……実験結果だと? 龍斗が修羅道に落ちたのは……闇」

 

 あまりの激しい憤怒に呼吸を乱しながら、力のままに叫ぶ。

 

 

きさまらの仕業だったのかああ――!

 

 

「おいケンイチ、そうじゃねえだろ」

 

 激昂し、思わず壁上から飛び降りかけたケンイチを止める声。

 今まさに翔の猛攻に四肢を削り取られながら、彼が心の底から最も認めるライバルが視線を合わさぬまま、静かに諭す。

 

「おめーも武術家なら、最善の行動を考えて尽くせ」

 

「阿含……君……」

 

 勝者との決戦に備え、今はただ雌伏せよ。

 阿含の眼差しがそう語る。

 だがそのやりとりもYOMIの最高峰にして、壮絶な闇の世界を渡り歩き、生き延びた男に一笑される。

 

「クク……素人同士の馴れ合いか……ヘドが出る。"静動轟一"

 

 それは決して安い挑発ではない。

 闇人の誇りと怒りを携え、もはや鬼神と化した翔が、肉体と精神を容赦なく摘んでいく。

 

どうせお前ら部活感覚でこの世界に飛び込んだんだろ? 負けても帰る家とフカフカのベッドが、いつでも待ってたんだろ?

 

 右足内外出血――

 

『友達とケンカした』だの、『SNSで相手にされねえ』だの、幼稚で低次元な悩みばかり世俗のガキは撒き散らす――

 

 左脇損傷――

 

オレ達に()なんてねえ。武術家として無様に負ければ、再起不能になれば廃棄される

 

 右側頭部裂傷――

 

若き闇の同士が捨てられた光景を、何度見せられたと思う? ――お前らとは生きるステージが違う

 

 右人指負傷――

 

だからこの程度の才能で、100年に一人の天才だのほざいて愚かにも闇に盾突き、生き恥を晒すんだよ

 

 右腕橈骨負傷――

 

 

絶望(おれ)ろ活人拳――"無拍子"

 

 

 空手、柔術、中国拳法、ムエタイ全ての要訣を取り入れた突き。

 金剛阿含がケンイチという武術家を意識するに至った奥義が、今初めて自身の身体へと叩き込まれる。

 

「ッ……ガハァッ!」

 

「ボ、ボクの技まで……」

 

「阿含さん……!」

 

 左ボディを抉られ、たまらず身をかがめ態勢を崩す阿含。

 己のアイコニックな切り札を容易く模倣され、呆然とするケンイチ。

 初めて見せつけられた、自身を上回るかもしれない完璧な武術の才。それが親友を浸食する様を突きつけられ、顔を手で覆う美羽。

 仲間達を象徴する3人の打ちひしがれる姿。

 眼前の光景に、連合員達の意気が次第に消沈していく。

 新島ですら翔の底知れぬ才能に打ち震え、阿含達の身を案じていた。

 

 この状況で不敵に笑うは叶翔ただ一人、いや――

 

「クク……どうやらお前の武術の才能は、オレを完全に上回ってんな」

 

 左脇を抱え口からみっともなく体液を垂れ流しながらも、悪童が釣られて笑う。

 だが、吐き出された言葉は実質的な敗北宣言にも等しい。

 

「お前は緒方先生のお気にっぽいし、ここで平伏して闇に永劫の服従を誓えば命だけは助けてやるよ。"100年に一人の天才"に"神速のインパルス"――だったか? その重すぎる看板もついでに貰ってやろうか」

 

 あれほど自分の才を信じ、あらゆる武術の逸材を屈服させてきた男の殊勝な発言に、翔も侮蔑が混じった不敵な笑みを引っ込める。

 今はただ敵の未来を食らう闇人としての畏怖と誇りを掲げ、隷属かフィナーレ(終幕)の二択を迫るだけ。

 

「そーかい。なら()()()()()()してくれや」

 

 翔の眉根がわずかに寄せられる。

 

「気の運用 第三階層 "Akashic Recordへの権限委譲"

 

 全身の気が再び、サーキットの様に循環する。

 既に攻略された切り札に縋り付く様を見せられ、翔はフン、と小さく鼻を鳴らす。

 

 敗北が迫って錯乱したか、プライドがお茶を濁そうとしているのか。

 いずれにせよ降伏を即断しなかった時点で、交渉フェーズは終わった。

 これ以上の問答は長物とばかりに、重心をつま先に傾ける。

 そのまま"静動轟一"を発動し、一思いに屠るべく飛びかかろうとしたところで――

 

()()()() 実行権解除。"推 論 演 算(Inference Engine)"

 

 風林寺美羽が見せた気の発動により誘われ、

 梁山泊と闇の英傑達により深淵に惹かれ、

 白浜兼一という例外(バグ)に歪まされ、

 非情な武の世界が磨き上げた、同世代の到達点を突きつけられ、

 拳魔邪神により発破をかけられた。

 金剛阿含の真なる才能が今、満を持して日の目を見る。

 




 次回は主にこれまでの阿含の修行のネタバレ回になります
 自分なりに彼の才能を描写できればと思っています
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