100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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4話 金剛裁判

 金剛阿含は比較的上背がある方だ。

 そんな阿含が月夜の下、巨漢から不敵に見下されている。

 

「ワシの張り手を腕でガードするとは……チャラついた見た目によらず鍛えておるではないか!」

 

 アドレナリンを滾らせ吠える、道着姿の巨漢。

 阿含の両腕に走る鈍い痺れ。

 そう、阿含と第七拳豪トールは今まさに戦いの最中である。

 

 脈絡無く戦い始めている理由を第三者が問うたとしたら、彼はきっとこう返すだろう。

 

 (あ"ー? これまでの流れを見てりゃ、拳豪との決闘になることはわかるだろ。

 ラグナレクとの予定のすり合わせやら、戦闘前のやりとりなんぞカットだカット。

 そんなことより、今の状況分析が先だ)

 

 相手は実戦相撲の使い手。巨体ゆえにフットワークとリーチは低いが、パワーと攻撃速度は今まで阿含が相手した連中とは桁が違う。

 そして何より、地面をくり抜いて鉄板で加工したこの"地獄土俵"は逃げ場が無く、トールに有利過ぎるフィールドだ。

 この狭い場所では阿含の(彼いわく、あのチビのものはオレのもの)"デビルバットゴースト"は使えない。

 ワンミスを避ける勝負展開になることを考えれば、外した時のリスクが纏う"エア・カット・ターミネーター"も得策ではない。

 それに加え――

 

「トール相手にこの地獄土俵でどう立ち回るか、高みの見物させてもらうよん」

 

 この決闘を立会う、第四拳豪のロキが戦いをばっちりと撮ってるときている。

 どうやらラグナレクは本格的に阿含の攻略に乗り出したようだ。

 下手に大技の手の内は明かせない状況に思える。

 が、その実ただ勝つだけなら、末端攻撃、急所攻撃、絞め技――阿含とて対策案は幾つか思いつく。

 

「おいデカブツ、相撲ってケリ技は反則?」

 

「デカブツ言うな! ワシはトールだ!

 ……胸や腹を蹴り上げるのは良しとされていない。足を蹴るくらいなら不問だが、それがどうしたのだ?

 ワシの実戦相撲は禁じ手もガンガン使うぞ」

 

 決闘の最中、唐突に話しかけられたというのに、己が愛する武術ということもありトールは律儀に答えてくれた。

 一方の阿含は相撲などカケラも興味が無い。

 曰く、何が悲しくて男と裸でぶつからなければならないのかという話だ。

 それでも、拳で殴ったり髪を掴むのが反則なことは一般教養として知っていたが、蹴りのルールだけは曖昧であった。

 

「お前の得意な相撲のルールでプチッとねじ伏せてやるためだよ。反則で勝ってもつまんねえし」

 

「なっ……貴様、本気で言っているのか!?」

 

「才能と格の違いを見せつけてやるって言ったろ。そのためにこっちは真剣にやってんだけど」

 

 トールは怪訝な表情で眉を潜め、ロキは「性格わりーな……」とぼやく。

 そんな拳豪達をガン無視し、阿含はトールに倣うように足を開き、重心を前傾させる。

 その選択はトールのプライドを刺激し、憤らせるのに十分過ぎる程だった。

 

「ワシ相手にインファイトじゃと? 相撲の立会いで生じる衝撃は一トン! 貴様の体格で真っ向から防げる道理は無いわ!」

 

 どっしりと身構え顔面をガードする阿含の胸部へと、トールの自重を乗せた渾身の張り手が容赦なく打ち込まれる。

 

「あちゃー、さっきは腕で力をうまい具合に受け流して防いでたのに、今度は鳩尾にモロクリーンヒットしちゃったよ。痛そー」

 

 衝撃音を聞き届け、愉快そうに右手で頭を抱えるロキ。

 掌の感触から手応えを確信した様子のトール。

 直後、拳豪達は凍りつく。

 

「くおっ!?」

 

 巨体が初めてぐらりと傾く。

 誰も知覚できぬ間に、掌底がトールの顎を斜めから抉っていた。

 

「おいおい、トールの一撃に踏みとどまって耐えたのか!? 呆れたタフガイだな」

 

 ロキの言う通り、その張り手はまともに喰らえば一般人なら病院送り。

 阿含とて無事では済まないはずの一撃だった。

 阿含の全身を纏う気の光が回答を物語っているが、それを知覚できるものはごく一部だろう。

 動いている間は"気の発動"を使えないという弱点も、迎撃用の防御に使えば関係ない。

 肉体こそ丁寧に鍛えているが、気の鍛錬は皆無であるトールとの頑強差は明白だった。

 

「と、解説したとこでこの戦いもさっさと〆るか」

 

 誰に向けるでもなく独り言をつぶやき、阿含は左足で地獄土俵に三日月の跡を描く。

 

「"上手出し投げ 上弦之月"」

 

 そのまま右脇を掴み、上手出し投げで引き倒す。

 前のめりになったまま視界と意識が揺らいでいるトールを、風車の様に舞わせダウンを奪うことは、相手の重さと巨体を加味しても難しくない作業だった。

 もがき身を起こそうとするトールに馬乗りした阿含から、喉に一本拳が突きつけられる。

 

「まだやる?」

 

 阿含の顔に終始貼り付けていたニヤつきが引っ込む。

 それはまるで、この後にトールが見せるリアクションから、彼の格付けや評価を決めようと値踏みするかのようだった。

 カメラを構えポカンと口を空けたままのロキが見下ろす中、トールから戦意が急激に抜けていく。

 マウントポジション越しの阿含にも、それは十分伝わっていった。

 

 

 

***

 

 

 

「それでは、お互いほぼ負傷せずに第七拳豪の"とおる"さんを平定したのですか。

 なかなかやりますわね、阿含さん」

 

「美羽ちゃんこそ。第八拳豪を一騎打ちで倒すなんて、なかなかやるじゃん」

 

 デカブツに勝利した翌日、梁山泊に立ち寄ったオレは美羽と互いを称賛し合う。

 その様子を、稽古中のモブが遠巻きに眺めている。汗臭そうな顔で羨ましそうにジロジロ見ててウケるわ。

 あの時、美羽達も仲間を脱会リンチから助けるため、ラグナレクの大隊と戦っていたそうだ。

 拳豪を討ち取った大金星の美羽。

 一方のモブは雑兵にやられかけたところを、宇宙人顔に助けられ窮地を脱していた。

 オレ達に比べてショボい戦果を、奴の妹(新キャラ一号 あだ名はとりまモブ子でいいか)にイジられてやがった。

 

「今のケンイチ君のレベルでは、力をいなせる敵に太刀打ちできまい。

 君の友人が作った連合に身を寄せ抑止としつつ、至急技を身につけるべきだろう」

 

 眼光とオーラがやべえ、道着姿のヒゲのオッサン(新キャラ二号)が合理的な提案を授ける。

 ブレーン担当みてえな師匠までいんのかよ。至れり尽くせりだねえ。

 だがモブは、連合を隠れ蓑にしてヘイトを分散させることに否定的だった。

 「数にものを言わせ大きな顔をしていては、ラグナレクと同次元」、だってさ。

 

「クク……ご立派ご立派」

 

 周囲のリアクションに追従する様に、オレも肯定して鼻で笑う。

 いやはや、呆れて笑うしかねえって。

 群れるのがダサイっつーのは概ね賛成。だがそういう縛りプレイは明らかな強者や、地盤固めの準備を怠らなかった奴の特権だろ。

 

 ラグナレクはこの一件で、完全にメンツを潰されたと判断するわな。仮に総攻撃を仕掛けてきやがったら、モブ一匹なんざ秒殺だ。

 そこで一縷の望みとなる連合を、自分から遠ざけようとしてやがる。

 師匠共に鍛えられて自分は()()()と思い上がってんのか? いや、そこまで自信過剰じゃねえよな。

 こいつは自分の弱さを認めた上で、あえて徒党を拒んで――

 

 って、ゴチャゴチャと何マジになってんだオレ。

 モブなんざどうでもいいか。

 群れてイキってるのは下っ端だけで、拳豪の奴らは個々の力に誇りを持ってやがる。

 ヒゲッサンの言う通り、今のあいつじゃほっといても上位拳豪とエンカウントした時点で半殺し決定だ。

 精々高みの見物させてもらうか。

 と道場を去ろうとしたその時――本能が脳へと献策を囁く。

 

「……あ"ーだったら今からオレと試してみる? お前が頭数に頼らなくてもやってけんのかをよ」

 

 全員の意識がオレに集約されるのを感じる。これまで散々モブを眼中にない様に振る舞ってたから、意外な提案だっただろうな。

 

「ええっ……金剛君と僕が組手?」

 

「何か考えがあるようだね。特段断る理由も無いし、やってみたらどうかね?」

 

「いいんじゃねえの。努力で才能の無さをカバーしている俺達の弟子と、才能ゴリ押しの金髪小僧との組手とはよ。

 ヒートアップしそうならキリのいいとこで止めてやるって」

 

 興味本位で他人事の様に話を進めようとする師匠共。

 対照的に、美羽はオレを警戒するようにモブ相手にこそこそ耳打ちしてる。

 声は聞こえねえが、どうせオレがデカブツ相手にやった勝ち方から勘付いたかな。

 手練れを傷つけることなく制圧するなんざ、武士道精神通り越した異常対応だ。

 この前までオレ、気絶した雑魚の死体蹴りしてたもんな。

 勘が良けりゃ、不自然過ぎてオレが何か企んでることくらい気付けるか。

 ま、それでもオレのやることは変わらねー。

 

 双子の兄(雲水)がどれだけ努力しても至れない、選ばれた者の領域。

 モブ如きがその生き様を擬態するってんなら、その平凡な遺伝子に刻み込んでやる。

 武の才能だけじゃねえ。

 霊長類としてのあらゆるカタログスペックで、オレとお前には境界線があることを。

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