東西南北に点在するデスパー島のセキュリティポイント。
既に3箇所が梁山泊の豪傑により、容易く攻略された。
残り一つだけが未だ健在なのは、南の戦闘が最も拮抗しているからだろう。
「秘剣
「心刃……合錬」
セキュリティポイント手前の市街地。
不規則にうねる音速の斬撃、時たま光る粒子の様に輝きながら、それを高速で躱すしぐれ。
両者無数の創傷を全身に刻んでいるが、紀伊陽炎の方が僅かに押されている様だ。
「チェストぉ!」
その横では九拳の槍月が、逆鬼と互いに自慢の剛拳を突き合わせている。
金属音の様な音を奏で、ハンマー同士の鍔迫り合いを彷彿とさせる、真っ向の押し合い。
槍月側がふと力を緩め飛び退き、拮抗が崩れた。
「"鍔鳴り"の、頃合いだ」
「おや、久々に心躍る斬り合いができていたというのに」
槍月に呼応するかの様、すう、と陽炎の全身から殺気と剣気が削がれていく。
戦意の無い相手を斬るわけにはいくまい、としぐれも思わず動きを止めた。
「逃げるの……か?」
「今日の刹那丸がどうにも
「僕の父が作った刀だ。刹那丸もお前以上に使いこなせる……さ」
戦闘中もどこか飄々としていた陽炎の表情が、初めて驚愕に染まる。
「そうか……あの刀匠の子供だったのか! 道理で我が刹那丸があなたを……」
くつくつと笑い、独りごちりながらしぐれの顔をじーっと覗き込む。
女人にとくと興味を持たぬ陽炎であったが、初めて"香坂しぐれ"という存在を認識しようとしていた。
「素晴らしいな、梁山泊の武器の申し子。このまま続けていたら、不覚を取った可能性も大いにある。今一度剣と己を見直そう」
槍月と共、セキュリティポイントへと続くルートをあっさりと明け渡し、何処へと飛び去った。
しぐれ達からすれば島の攻略が最優先である以上、特に追撃せずそれを見届ける。
「"鍔鳴り"っていや名が知れた使い手だが……剣が調子悪ぃとか言い訳して逃げてったぜ」
「いや、確かに致命打の時だけ、僅かに奴の剣先が鈍った気がす……る。ここで仕留め切れなかったのは、後に響くかも……しれん」
「ほぉ、まあいいぜ。他の九拳共はアパチャイと剣星を足止めしてたみたいだが、適当な頃合でバックレたらしい。
ジジイの方は全く妨害が無かったそうだ。ここさえ抑えりゃ、この島もいよいよお終いだな」
意味深な言葉を残しつつも、しぐれは陽動に回りつつ捕虜を救出していた逆鬼と共に、最後のセキュリティを解除する。
それすなわち、国連軍による対空兵器、外部からの攻略が可能ということ。
犯罪の温床として難攻不落を誇り、各先進国の悩みの種となっていたデスパー島。
悪名高いその歴史に、今幕が降りようとしている。
***
『ふぉっふぉっふぉ。リアルで観戦できなかったのが残念なくらい、最高の決勝戦じゃったわい。じゃが、ここまでじゃのう』
空襲音、人々の悲鳴、本能に不安を訴えかける様な音色の警報。
あらゆる喧騒が響く闘技場の中で、ふと主催者フォルトナの声が反響する。
皆の視界の先。
上空に、ドローンと思わしき飛翔物が飛び交っている。
その内一つに備え付けられたモニタの中で、フォルトナアバターが上機嫌に低い笑い声をあげている。
厳密に言えば、まだ梁山泊とダイヤモンドという2チームが残ってはいるので、決勝は終わっていない。
だがこの状況では大会の続行などまず不可能。
このままDオブDは、フォルトナによる鶴の一声で、ノーゲームとなるだろう。
「で、優勝賞金の1000万ドルはどうなんの?」
『そりゃあ……この島が
おぬしらの優勝ということにしても良いが、この島にもたらした損害を差し引いたら、結局チャラになるのう』
はぁ、と大して落ち込んでいない様子のまま阿含が頭を掻く。
梁山泊がこの島でコトを起こすと聞いた時から、十分想定していたケースだ。
別段失望する程のことではない。
そして……
「なっ……何やら穏やかじゃない連中がいるじゃなーい!」
「まさか……島を攻撃された腹いせで、私達を狙うつもりですの!?」
闘技場、そして居残った新白金連合を包囲する様に、武装兵,武術家,ドローンの小隊がわらわらと現れる。
この状況も、阿含にとっては造作もなく予期できていたこと。
『安心せい、金剛阿含と梁山泊は九拳への義理立てで手は出さんわ。
だが、他の者達は別じゃわい。武術家の素養ある若者にワシは目がなくてのう……皆この島からお持ち帰りじゃ!』
フォルトナ合図の下、周囲の武術家が一斉に躍り出る。
「ヒュー! 今回はガキ共と戯れるだけのチョロい仕事だな。ぐへへ……」
仮面の中から下卑た笑い声を漏らし、棘付き棒を振り回す男――
「……弟子クラスを攫うなど気乗りせぬが、これも金のためだ」
野性味溢れる顔立ちで、バスタードソードを構える男――
「キキキ……暴れると痛いわよ。ボウヤ達」
ハンドクローとアイスコープを身につけ、不敵に笑う長髪の女――
デスパー島に常駐する達人の警備兵3名。その姿を見た秋雨が血相を変え、控え席から飛び出す。
「まずい! こいつらは全員マスタークラスだ! 私が対処するから皆は退避を……」
『"哲学する柔術家"殿、か。特A級達人の中でも上位の腕と噂されているお主が相手とならば、こちらが複数の達人といえど突破されかねん。
じゃか、
「はっ……いかん!」
だが、すぐに引き返した。
フォルトナか誰かが遠隔操作しているであろう、空中を飛び交うドローン兵。
それらに備え付けられた光線銃が、自分ではなく控え席にいる連合の非戦闘員、二軍隊員を狙っていると気付いたからだ。
「ぬおおっ!」
ドローンから放たれた光線を、瞬間的に強大な気血を纏わせ、蹴りと突きで弾き飛ばした。
そのまま、隊員達を控え席の奥へと押し込む。
間一髪間に合ったものの、秋雨はその場に釘付けにされてしまった。
『雑兵共の命が大事なら、お主はそこに控えておれ! さあ達人衆よ、他の達人がこちらに来る前に若者達をお持ち帰りするのじゃ!
取りこぼしても背後は、私設兵がカバーするわい!』
そんなやりとりの間にも、新島は全力で状況と戦力分析に勤しんでいた。
"新島アイ スカウターエディション"
強さを判定する精度だけなら、阿含以上の性能を誇る新技が導き出したのは――
(こちらの戦力は、負傷した阿含とケンイチ、不調の美羽ちゃん、武田、フレイヤ、キサラ、トール、宇喜田……。アタランテーは気絶してやがる。
相手は達人3人に、飛び道具持ちの兵士5人……。奴らの詳細な強さを、個別分析する以前の問題だ。
絶望的な彼我の差であった。
そもそも連合の隊員達は、かつて李天門という男の襲撃から、達人の恐ろしさはその身に叩き込まれている。
新島や阿含ほど優れた眼力を持っておらずとも、自分達の置かれた状況をすぐに飲み込めてしまう。
「皆……僕が陽動するから一人でも多く、離脱を……!」
『逃げてもよいが、その場合は残った者から見せしめで適当に、全警備兵で集中攻撃させるぞい』
「くっ……なんて卑怯な!」
身体を張って活路を見出そうとしても、先回り先回りであっさりと叩き潰される。
ケンイチもこの歯がゆい状況に、負け犬の遠吠えを漏らすことしかできない。
『お主ら、金剛阿含を見習わんかい。
フォルトナアバターが指さす先。
負傷が蓄積したのか、肝心の阿含が先程から片膝を付き、ピクリとも動かない。
目は諦めているとも、冷静なままとも取れる。
秋雨が動けぬ今、戦闘力と判断力、その総合値において最も優れる阿含が戦闘放棄したのだとしたら。
それが意味するところを察した者達から、戦意が徐々に薄れていく。まさにその時――
「どすこーい! 白浜の言う通り、全員で脱出するぞ。一番槍はワシが務める!」
控え席からトールがいの一番に身を乗り出した。
そのまま鼓舞するかの様に、豪快に四股を踏む。
「よせトール! お前の敵う相手じゃない!」
『こりゃ褌担ぎ、空気を読んで神妙にせんかい!』
新島、フォルトナ共に諌められようとも、怯まずケンイチの横に並び立った。
「褌担ぎ言うな! ……ワシは新島や金剛ほど賢しくはない。
だが、どうせ今この場で生き延びたところで、この先ロクなことにならんことくらいは、わかる。ならば一縷の望みに賭けるまでよ!」
気づけば勢いよくキサラも飛び出し、トールの背後を守るように、背を突き合わせた。
「良く言ったよトール。でも人生の際まで、無理に皆で足並み揃える必要は無いよ。
死にたく無い奴は大人しく着いてく権利があるさ。私は誰かの言いなりになるくらいなら、戦いを選ぶけどね」
燻ぶりかけていた皆の闘志に、再び火が灯ろうとしていた。
それを察知したフォルトナはすぐさま、鎮圧を試みる。
『そこまで死に急ぐなら、ちと痛い目を見てもらうぞ! しつけは最初が肝心じゃからな。……ん?』
達人の後方に控える私設兵を動かし、懲らしめてやろうと思案しようとした時。
空から何やら、銃撃とも警報とも違う音が聞こえてきた。
「ラッラアアアアアアア」
全員が見上げる先、雲一つ無い空の下にある一つの落下物。
それは絶叫しながら自由落下する、紛れもない一人の人間だった。
「アアアアアアアアアアアアアア1秒でも速く皆のもとへ!」
着地が迫った際どいタイミングでパラシュートを開き、天晴な受け身で転がり周り、闘技場に着地した。
戦闘機が空襲戦闘を繰り広げる中、生身で突っ込むという無謀を成し遂げた男。
その場にいる全ての興味と意識を集めながら、立ち上がり今一度高らかにその名を轟かせた。
「ジーク・フ・リーーーートオオオオオ!」
『うまい! すり切りいっぱいじゃ!』
「ヒュー エキセントリックな小僧だぜ!」
「キキキ……フォルトナ様のサプライズかしら?」
味方は等しく呆然とし、むしろフォルトナ陣営の方が呑気に喝采を送る。
ここにディエゴがいたならば、疑う余地もなく彼を称賛していただろう。
「ジーク……来てくれたのか!」
「
私としたことが不覚、時差を見落とし到着が1日遅れてしまいました。して、この状況は?」
仔細を全く知らぬジークフリートへ、新島が現状を簡潔に伝える。
長期離脱していた間、なにやら尋常ではない修行を行ったのか。
肉体も気も一回り以上の成長を遂げた様子の彼であったが、表情は自然と険しくなる。
「ふうむ、この
しかしこのジークフリート、総督の命令とあらば、連合のため活路を切り開きましょう!」
『もしや、新白金連合の隠し玉か! 素晴らしい、衛兵共、この子もカートに追加してお持ち帰りじゃあ!』
前途輝かしい弟子クラスが一人加勢したとて、ただフォルトナを喜ばせるだけ。
そう、ジークフリートただ一人だったならば。
「あ"ー 商品購入の際は、決済を忘れずお願いします。ミスターフォルトナ」
合図と思わしき言葉を漏らし、阿含がニィ、と微笑むと――
「"
ジークフリートを取り囲もうとした一般兵達が、突如背後から新たな侵入者の奇襲を受け、悲鳴を上げる間もなく昏倒する。
「お、おのれ!」
仲間を倒され、残り3人が慌てて腰の武器を構え、曲者を迎え撃とうとする。
入口から遅れてやってきたもう一人の侵入者。
黒疸の刻まれた両眼から力強い眼光を放ち、残兵を一手に纏め吹き飛ばした。
「"グングニル"!」
警備兵の3人は原作で逆鬼としぐれに秒殺されてたので
フォルトナと同じくらいかなというイメージです。