100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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39話 達人

 東西南北に点在するデスパー島のセキュリティポイント。

 既に3箇所が梁山泊の豪傑により、容易く攻略された。

 残り一つだけが未だ健在なのは、南の戦闘が最も拮抗しているからだろう。

 

「秘剣 薄刃陽炎(うすばかげろう)!」

 

「心刃……合錬」

 

 セキュリティポイント手前の市街地。

 不規則にうねる音速の斬撃、時たま光る粒子の様に輝きながら、それを高速で躱すしぐれ。

 両者無数の創傷を全身に刻んでいるが、紀伊陽炎の方が僅かに押されている様だ。

 

「チェストぉ!」

 

 その横では九拳の槍月が、逆鬼と互いに自慢の剛拳を突き合わせている。

 金属音の様な音を奏で、ハンマー同士の鍔迫り合いを彷彿とさせる、真っ向の押し合い。

 槍月側がふと力を緩め飛び退き、拮抗が崩れた。

 

「"鍔鳴り"の、頃合いだ」

 

「おや、久々に心躍る斬り合いができていたというのに」

 

 槍月に呼応するかの様、すう、と陽炎の全身から殺気と剣気が削がれていく。

 戦意の無い相手を斬るわけにはいくまい、としぐれも思わず動きを止めた。

 

「逃げるの……か?」

 

「今日の刹那丸がどうにも()()()とはいえ、ここまで剣と身体を一つにして、私に手傷を負わせるとは。何者か、お嬢さん」

 

「僕の父が作った刀だ。刹那丸もお前以上に使いこなせる……さ」

 

 戦闘中もどこか飄々としていた陽炎の表情が、初めて驚愕に染まる。

 

「そうか……あの刀匠の子供だったのか! 道理で我が刹那丸があなたを……」

 

 くつくつと笑い、独りごちりながらしぐれの顔をじーっと覗き込む。

 女人にとくと興味を持たぬ陽炎であったが、初めて"香坂しぐれ"という存在を認識しようとしていた。

 

「素晴らしいな、梁山泊の武器の申し子。このまま続けていたら、不覚を取った可能性も大いにある。今一度剣と己を見直そう」

 

 槍月と共、セキュリティポイントへと続くルートをあっさりと明け渡し、何処へと飛び去った。

 しぐれ達からすれば島の攻略が最優先である以上、特に追撃せずそれを見届ける。

 

「"鍔鳴り"っていや名が知れた使い手だが……剣が調子悪ぃとか言い訳して逃げてったぜ」

 

「いや、確かに致命打の時だけ、僅かに奴の剣先が鈍った気がす……る。ここで仕留め切れなかったのは、後に響くかも……しれん」

 

「ほぉ、まあいいぜ。他の九拳共はアパチャイと剣星を足止めしてたみたいだが、適当な頃合でバックレたらしい。

 ジジイの方は全く妨害が無かったそうだ。ここさえ抑えりゃ、この島もいよいよお終いだな」

 

 意味深な言葉を残しつつも、しぐれは陽動に回りつつ捕虜を救出していた逆鬼と共に、最後のセキュリティを解除する。

 それすなわち、国連軍による対空兵器、外部からの攻略が可能ということ。

 犯罪の温床として難攻不落を誇り、各先進国の悩みの種となっていたデスパー島。

 悪名高いその歴史に、今幕が降りようとしている。

 

 

 

***

 

 

 

『ふぉっふぉっふぉ。リアルで観戦できなかったのが残念なくらい、最高の決勝戦じゃったわい。じゃが、ここまでじゃのう』

 

 空襲音、人々の悲鳴、本能に不安を訴えかける様な音色の警報。

 あらゆる喧騒が響く闘技場の中で、ふと主催者フォルトナの声が反響する。

 皆の視界の先。

 上空に、ドローンと思わしき飛翔物が飛び交っている。

 その内一つに備え付けられたモニタの中で、フォルトナアバターが上機嫌に低い笑い声をあげている。

 

 厳密に言えば、まだ梁山泊とダイヤモンドという2チームが残ってはいるので、決勝は終わっていない。

 だがこの状況では大会の続行などまず不可能。

 このままDオブDは、フォルトナによる鶴の一声で、ノーゲームとなるだろう。

 

「で、優勝賞金の1000万ドルはどうなんの?」

 

『そりゃあ……この島が()()()()でそれどころではないわな。

 おぬしらの優勝ということにしても良いが、この島にもたらした損害を差し引いたら、結局チャラになるのう』

 

 はぁ、と大して落ち込んでいない様子のまま阿含が頭を掻く。

 梁山泊がこの島でコトを起こすと聞いた時から、十分想定していたケースだ。

 別段失望する程のことではない。

 そして……

 

「なっ……何やら穏やかじゃない連中がいるじゃなーい!」

 

「まさか……島を攻撃された腹いせで、私達を狙うつもりですの!?」

 

 闘技場、そして居残った新白金連合を包囲する様に、武装兵,武術家,ドローンの小隊がわらわらと現れる。

 この状況も、阿含にとっては造作もなく予期できていたこと。

 

『安心せい、金剛阿含と梁山泊は九拳への義理立てで手は出さんわ。

 だが、他の者達は別じゃわい。武術家の素養ある若者にワシは目がなくてのう……皆この島からお持ち帰りじゃ!』

 

 フォルトナ合図の下、周囲の武術家が一斉に躍り出る。

 

「ヒュー! 今回はガキ共と戯れるだけのチョロい仕事だな。ぐへへ……」

 

 仮面の中から下卑た笑い声を漏らし、棘付き棒を振り回す男――

 

「……弟子クラスを攫うなど気乗りせぬが、これも金のためだ」

 

 野性味溢れる顔立ちで、バスタードソードを構える男――

 

「キキキ……暴れると痛いわよ。ボウヤ達」

 

 ハンドクローとアイスコープを身につけ、不敵に笑う長髪の女――

 

 デスパー島に常駐する達人の警備兵3名。その姿を見た秋雨が血相を変え、控え席から飛び出す。

 

「まずい! こいつらは全員マスタークラスだ! 私が対処するから皆は退避を……」

 

『"哲学する柔術家"殿、か。特A級達人の中でも上位の腕と噂されているお主が相手とならば、こちらが複数の達人といえど突破されかねん。

 じゃか、()()()()()()()()()として扱えば、対応できると思わんかね?』

 

「はっ……いかん!」

 

 だが、すぐに引き返した。

 フォルトナか誰かが遠隔操作しているであろう、空中を飛び交うドローン兵。

 それらに備え付けられた光線銃が、自分ではなく控え席にいる連合の非戦闘員、二軍隊員を狙っていると気付いたからだ。

 

「ぬおおっ!」

 

 ドローンから放たれた光線を、瞬間的に強大な気血を纏わせ、蹴りと突きで弾き飛ばした。

 そのまま、隊員達を控え席の奥へと押し込む。

 間一髪間に合ったものの、秋雨はその場に釘付けにされてしまった。

 

『雑兵共の命が大事なら、お主はそこに控えておれ! さあ達人衆よ、他の達人がこちらに来る前に若者達をお持ち帰りするのじゃ!

取りこぼしても背後は、私設兵がカバーするわい!』

 

 そんなやりとりの間にも、新島は全力で状況と戦力分析に勤しんでいた。

 "新島アイ スカウターエディション"

 強さを判定する精度だけなら、阿含以上の性能を誇る新技が導き出したのは――

 

(こちらの戦力は、負傷した阿含とケンイチ、不調の美羽ちゃん、武田、フレイヤ、キサラ、トール、宇喜田……。アタランテーは気絶してやがる。

 相手は達人3人に、飛び道具持ちの兵士5人……。奴らの詳細な強さを、個別分析する以前の問題だ。()()()()()()!)

 

 絶望的な彼我の差であった。

 そもそも連合の隊員達は、かつて李天門という男の襲撃から、達人の恐ろしさはその身に叩き込まれている。

 新島や阿含ほど優れた眼力を持っておらずとも、自分達の置かれた状況をすぐに飲み込めてしまう。

 

「皆……僕が陽動するから一人でも多く、離脱を……!」

 

『逃げてもよいが、その場合は残った者から見せしめで適当に、全警備兵で集中攻撃させるぞい』

 

「くっ……なんて卑怯な!」

 

 身体を張って活路を見出そうとしても、先回り先回りであっさりと叩き潰される。

 ケンイチもこの歯がゆい状況に、負け犬の遠吠えを漏らすことしかできない。

 

『お主ら、金剛阿含を見習わんかい。()()盤面だと早々に理解して、大人しくしておるではないか』

 

 フォルトナアバターが指さす先。

 負傷が蓄積したのか、肝心の阿含が先程から片膝を付き、ピクリとも動かない。

 目は諦めているとも、冷静なままとも取れる。

 秋雨が動けぬ今、戦闘力と判断力、その総合値において最も優れる阿含が戦闘放棄したのだとしたら。

 それが意味するところを察した者達から、戦意が徐々に薄れていく。まさにその時――

 

どすこーい! 白浜の言う通り、全員で脱出するぞ。一番槍はワシが務める!」

 

 控え席からトールがいの一番に身を乗り出した。

 そのまま鼓舞するかの様に、豪快に四股を踏む。

 

「よせトール! お前の敵う相手じゃない!」

 

『こりゃ褌担ぎ、空気を読んで神妙にせんかい!』

 

 新島、フォルトナ共に諌められようとも、怯まずケンイチの横に並び立った。

 

「褌担ぎ言うな! ……ワシは新島や金剛ほど賢しくはない。

だが、どうせ今この場で生き延びたところで、この先ロクなことにならんことくらいは、わかる。ならば一縷の望みに賭けるまでよ!」

 

 気づけば勢いよくキサラも飛び出し、トールの背後を守るように、背を突き合わせた。

 

「良く言ったよトール。でも人生の際まで、無理に皆で足並み揃える必要は無いよ。

死にたく無い奴は大人しく着いてく権利があるさ。私は誰かの言いなりになるくらいなら、戦いを選ぶけどね」

 

 燻ぶりかけていた皆の闘志に、再び火が灯ろうとしていた。

 それを察知したフォルトナはすぐさま、鎮圧を試みる。

 

『そこまで死に急ぐなら、ちと痛い目を見てもらうぞ! しつけは最初が肝心じゃからな。……ん?』

 

 達人の後方に控える私設兵を動かし、懲らしめてやろうと思案しようとした時。

 空から何やら、銃撃とも警報とも違う音が聞こえてきた。

 

ラッラアアアアアアア

 

 全員が見上げる先、雲一つ無い空の下にある一つの落下物。

 それは絶叫しながら自由落下する、紛れもない一人の人間だった。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアア1秒でも速く皆のもとへ!

 

 

 着地が迫った際どいタイミングでパラシュートを開き、天晴な受け身で転がり周り、闘技場に着地した。

 戦闘機が空襲戦闘を繰り広げる中、生身で突っ込むという無謀を成し遂げた男。

 その場にいる全ての興味と意識を集めながら、立ち上がり今一度高らかにその名を轟かせた。

 

 

「ジーク・フ・リーーーートオオオオオ!」

 

 

『うまい! すり切りいっぱいじゃ!』

 

「ヒュー エキセントリックな小僧だぜ!」

 

「キキキ……フォルトナ様のサプライズかしら?」

 

 味方は等しく呆然とし、むしろフォルトナ陣営の方が呑気に喝采を送る。

 ここにディエゴがいたならば、疑う余地もなく彼を称賛していただろう。

 

「ジーク……来てくれたのか!」

 

我が主(マイロード)、申し訳ありません。チベットより招集を受け、駆けつけたのですが……。

 私としたことが不覚、時差を見落とし到着が1日遅れてしまいました。して、この状況は?」

 

 仔細を全く知らぬジークフリートへ、新島が現状を簡潔に伝える。

 長期離脱していた間、なにやら尋常ではない修行を行ったのか。

 肉体も気も一回り以上の成長を遂げた様子の彼であったが、表情は自然と険しくなる。

 

「ふうむ、この重厚(ペサンテ)なオーラ……。確かに達人相手では焼け石に水かもしれません。

しかしこのジークフリート、総督の命令とあらば、連合のため活路を切り開きましょう!」

 

『もしや、新白金連合の隠し玉か! 素晴らしい、衛兵共、この子もカートに追加してお持ち帰りじゃあ!』

 

 前途輝かしい弟子クラスが一人加勢したとて、ただフォルトナを喜ばせるだけ。

 そう、ジークフリートただ一人だったならば。

 

あ"ー 商品購入の際は、決済を忘れずお願いします。ミスターフォルトナ」

 

 合図と思わしき言葉を漏らし、阿含がニィ、と微笑むと――

 

 

「"頂肘鬼哭 烏龍盤打(ちょうちゅうきこく うりゅうばんだ)"!」

 

 

 ジークフリートを取り囲もうとした一般兵達が、突如背後から新たな侵入者の奇襲を受け、悲鳴を上げる間もなく昏倒する。

 

「お、おのれ!」

 

 仲間を倒され、残り3人が慌てて腰の武器を構え、曲者を迎え撃とうとする。

 入口から遅れてやってきたもう一人の侵入者。

 黒疸の刻まれた両眼から力強い眼光を放ち、残兵を一手に纏め吹き飛ばした。

 

 

「"グングニル"!」

 

 

 

 




警備兵の3人は原作で逆鬼としぐれに秒殺されてたので
フォルトナと同じくらいかなというイメージです。
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