100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

42 / 50
41話 単純

 金、女、肉、暴力。

 ジャギバという男を表現するなら、"単純"という一言が相応しい。

 欲しい物は欲しいまま、気に入らない奴は潰すだけ。

 

「ヒャハッ! 猫の姉ちゃんは胸の発育がちぃとな……。だが杖使いの姉ちゃん共々、女としちゃ悪くねえぜ、ぐへへっ……」

 

 コンプラなど平成初期に置き去った、とばかりのセリフを仮面越しに吐き、粗野に笑う。

 

「この世紀末野郎……潰す!」

 

「武の先達者に評されたというのに、甚だ不快だね」

 

 キサラとフレイヤが嫌悪を示しつつ、トール、ハーミットと共に活路を見出すべく、攻め立てる。

 だが女性陣に下劣さを抱かせる男とはいえ、さすがは達人。

 1対4でありながら、一方的に戦いを押し進めていた。

 とはいえ時間制限がある以上、ジャギバもいつまでもグズグズしていられない。

 

「チョロチョロめんどくせえな。見せしめに一人潰しとくか」

 

 避けられずとも、ガードが辛うじて間に合う程度のスピードで、トール目掛け棒を振り下ろす。

 サクッと戦闘不能にしてやろう、と見込んだ、胸元目掛けたその一撃は──

 

「"緋色弾(スカーバレット)"!」

 

「おっ?」

 

 柄に当たった衝撃により軌道を逸らされ、棍は腕へと降ろされる。

 フレイヤがとっさに杖の先端による武器攻撃に切り替え、トールの窮地を救った。

 

「あだだだ! ……これも太めの男性達のためぇー!」

 

 左腕を抉られ激痛と出血に苛まれながら、トールは無事な右手で柄を掴み、武器奪取を試みる。

 

「ヒュー!? こら離せ!」

 

「ぬおおっ! 100kgを越えるワシの身体ごと引きずるとは……なんという膂力!」

 

 繰り広げられる、激しい綱引き。

 その隙に背後からキサラが奇襲を仕掛けるが、達人の感知能力により察知され、残る右の根で蹴り足を薙ぎ払われる。

 

「グアアッ!」

 

「ヒュー! トドメだ!」

 

 キサラの胸元目掛け、無情に振り下ろされた返しの棍は──

 

 

「キサラアアアア!」

 

 

 際で、横から庇うように割入った宇喜田の背中へと吸い込まれる。

 

「宇喜田!?」

 

「なんだぁこいつ……!?」

 

 棘に背を抉られ、悲鳴すらあげる間もなく、宇喜田は昏倒する。

 分不相応な実力が招いた、あっけない秒殺劇。

 だが時間にして1秒。この時、ジャギバの両腕は完全に塞がっていた。

 

「お前ら、ファインプレーだ。喰らえ……"兇叉(きょうさ)"!」

 

 その好機をひたすら伺っていたハーミットから、三本の発勁が胸元目掛け、交差するように打ち込まれる。

 シィンとした一瞬の硬直。

 面食らったものの、大して身体に異常は無い。

 宇喜田の背から抜いた棍でハーミットを吹き飛ばし、ジャギバは鼻で一笑し──

 

「へっ……そんなヌルい浸透勁が俺に……ひ……ひでぶっ!

 

 時間差で血反吐と吐瀉物を盛大にぶちまけた。

 ガンマナイフの原理で重なり、増幅した勁力。

 それが達人の強大な気血の防御を打ち破り、体内で炸裂する。

 ここを切り抜けられれば、ジャギバも自身の身を守るため、いよいよ手加減をやめるだろう。

 最大にして最後の勝機を嗅ぎ取り、かつて拳聖に見出された逸材達が飛びかかる。

 

「今だ……久賀舘流極意 五つ“閃雲”!」

 

「"波動鉄砲"!」

 

「"鉄山靠"!」

 

「宇喜田の仇ぃー! "ダブル・ヤマネコ・トルネード・チッキ"!」

 

「あじゃぱァーーーーー!」

 

 宇喜田を討たれた怒りがスイッチとなったのか。

 一時的ではあるが、キサラ全身という全身の毛孔から強大な動の気が開放され、溢れ出す。

 ダメ押しとなった蹴りが炸裂し、堪らずジャギバは仰向けに倒れ込んだ。

 

「あいたたた……こりゃあしばらく休場じゃのう。ワシら、達人を倒したのか?」

 

「ああ。だが、幾つものハンデが敵に無ければ、犠牲者は確実に出ていただろう。宇喜田は……重症だが息はありそうだな」

 

「宇喜田……アンタの犠牲は無駄にしなかったよ」

 

 皆、身体の一部に深手を負ったものの、どうにか後遺症レベルの傷は避けられた。

 そんな勝利の余韻と安堵が生んだ、達人のタフネスさを見誤った油断。

 

「ヒュ……ヒュウウ!」

 

 いつの間にか身を起こし、ジャギバが割れた仮面越しに不敵に笑う。

 男は単純で裏表がない。

 だから連合の皆が怯んだ一瞬の隙、欲求へと最優先に動いた。

 

「おめえら……やるじゃねえか。どうせなら達人に……なってみろよ……」

 

 弟子クラスに負けた武人としてのプライド。

 そして今後の闇人としての進退。

 そんなことよりも、今は勝者達を素直に称えたる。棍を投げ捨て膝をつき崩れ落ちた。

 今度こそ戦闘不能となったことを、恐る恐る確認した弟子達は互いに顔を見合わせると、

 

「……だってさ、フレイヤ姉。まだムカつく?」

 

「まあ……悪い気はしないよ」

 

 殺人剣の達人と最後は武人として通じ合い、戦いに幕を下ろした。

 

「しかしお前ら……島に来てから動きが見違えたな。一体どうした?」

 

 デスパー島への潜入時以来にハーミットが再会した連合員達は、この2日間で明らかな成長を遂げていた。

 少し前までは総合力でハーミットが頭一つ抜けていたが、その差もほぼ埋まったようだ。

 

「どすこーい! 昨日阿含と戦ってから、身体の動きにキレが出た感じだのう!」

 

「まるで私達を解析し、取り入れながらも導いているような……そんな感じだったな」

 

「金剛と戦ってから……か。そういえば……白浜と金剛はどうなった!? 奴らは手負いだったはずだが……」

 

 振り返った、ハーミット達。

 その先に映し出された光景――今まさに最後の戦いが決着しようとしていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ロウエンは愛用のバスタードソードを構え、フウと小さく鼻でため息を吐く。

 この戦い、一見フォルトナ勢が圧倒的優勢の様で、憂いが無いわけではない。

 弟子クラスを大きな後遺症を残さずに、捕らえる。

 それまではいい。

 だが、その後にこの我の強そうな連中全員を、時間制限付きで大人しく連行させるのは、容易なことではない。

 最初に特別任務を聞かされた時、レアラルとジャギバはチョロい商売だと小躍りしていた。

 あの2人は本当にこの任務の本質が、わかっているのやら。

 ロウエンの思案は、立ちはだかった相手の軍容に思わず中断してしまう。

 

「驚いたな……手負い二人だけをぶつけるとは」

 

 先程の戦闘で満身創痍となった白浜兼一。

 それと肩を並べるは、傷こそケンイチより浅いものの、疲労の色が明らかに見て取れる金剛阿含。

 レアラル達に比べ、戦力としての配分が明らかに偏っている。

 ナメられているのか。

 ロウエンはそう判断しかけ、すぐに判断を修正する。

 

「いや、DオブDで名を上げた者達を侮るのは愚策か──」

 

 逆だ。ロウエンを3人の中で一番の手練れである、と見立てたのだとしたら。

 敗戦処理の手負いをぶつけたのではなく、精鋭を選出したことになる。

 YOMIの幹部を真っ向から撃退した者達ならば、弟子クラスといえど上澄みに該当するだろう。

 バスタードソードの切っ先がゆっくりと2人に向けられる。

 

「貴様らは標的ではない。今すぐ退けば見逃してやる。……だが一度切り結べば容赦せんぞ」

 

「優しいんですね」

 

 ボリスの殺気を、叶翔の殺意を、何倍にも凝縮したような"圧"。

 ロウエンから放たれるそれを浴びながらケンイチが構え、呟く。

 

「何?」

 

「僕達に選択肢を与える必要など無い程、あなたは強いはずです。取るに足らない相手だと思ってるなら、こんなこと聞きませんよね」

 

「……斬る相手くらいは、自分で選びたいだけだ。余計な問答だったな」

 

 空気が変わる。

 殺気に加え、先程まで意図的に抑えていた剣気が一気に膨れ上がる。

 その間も、一挙手一投足を伺い解析に徹していた阿含が前に出る。

 

「剣を持ってるんじゃねえ。剣が手そのものになってやがる」

 

 通常、武器とは肉体の延長だが、達人の領域に入ればその因果が逆転する。

 

「グルルル……いざ!」

 

 間合い、重心、殺傷範囲。全てが完成された一塊となりて襲いかかる。

 野犬の様な唸り声をあげ、瞳から理性は失われていく。

 大地が裂けたと錯覚する様な踏み込みで、瞬時に距離を詰めてきた。

 

「チッ……素の速度が"瞬歩"以上かよ」

 

 足裏に気を集め、高速移動での翻弄を試みる。

 そんな弟子クラスの立ち回りを嘲笑うかのよう、ただのダッシュで容易に阿含の足跡が辿られる。

 

「捉えたぞ!」

 

 壁に阻まれ退路を失った阿含へ、斬撃が振り下ろされる。

 ただの剣圧が次元ごと切り裂くかのよう、周囲の空気を振動させる。

 達人の一太刀が迫る中──

 

"八門遁甲" 生門、開

 

「何っ……!」

 

 再度リミッターを外した気を集約させた足で大地を蹴り、ロウエンの斜め前へと跳躍する。

 想定外の高速ジャンプがロウエンの虚を突き、僅差での回避に成功する。

 

"風の拳・四連(クワドロ)"

 

 反転しながら放たれた、空気弾の乱れ撃ちは斬撃であっさりと払い落とされる。

 だが、静かに距離を詰めるロウエンに軽視や楽観の様子は見られない。

 

「やはり肉体と気のリミッターを自在に外せるか……末恐ろしいな。だが長くは続くまい!」

 

 追撃するロウエンと、防戦に徹する阿含。

 ケンイチはそんな二人の様子を伺いながら、先程阿含とやりとりした内容を頭に反芻させる。

 

 

 

『あいつが油断してるなら勝ち筋は幾つか思い浮かぶが、今回それは期待できそうもねえ。オレ達の勝機は初弾だけだ。

俺が足止めすっから、その隙にお前が一撃で決めろ。っつても、あいつの耐久なら銃弾の1,2発くらい難なく耐えちまうだろうがな』

 

 本来ならば、それは寝言としか思えない提言だろう。

 先程まで弟子級の叶翔相手に手を焼いていたというのに、それより遥かに強い達人相手に、隙など常識的に考えて作れるはずがない。

 だが、阿含はやると言ったらやってみせるはず。

 瞬時にケンイチはその言葉を信じたが──

 

『ううっ。でも肝心の達人を一撃で倒せる技が今のボクには……』

 

『だろうな。技っつーか、気の運用概念を一つ教えてやるから、それ使え。

性質上、狙って出せるモンじゃねえから最終手段だがな』

 

 ケンイチがその言葉に衝撃を受けるのも無理はない。

 これまで周囲の技術をトレースし、自身の技術流出を徹底的に防いでいた阿含が、無償で提供しようという僥倖。それほどまでに状況は逼迫しているということだろう。

 

『最終手段……か。しくじったら?』

 

『オレは退くが、代わりに控え席で休ませてる美羽がお前を助けようと、飛び出してくるわな。

その時ぁ多分お前は人質にされてて、美羽もそのせいで捕まるんじゃねえか?』

 

 それを意訳するなら、"御託はいいから成功させろ"といったところか。

 ケンイチもそれ以上の問答を切り上げ、不退転の覚悟を決める。

 

『そっか……。最後にもう一つ……どうして達人相手に挑むなんて無謀に協力してくれるんだい? 阿含君はターゲットじゃないよね』

 

『ここで達人に挑んで返り討ちにされんのは、オレにとっての敗北にはならねえ。

だが、奴らの思い通りに好き勝手させんのは違えってことだよ。おめーも男ならわかんだろ』

 

 阿含はケンイチの尻を足で小突き、そのままロウエンへと向かう。

 返事を待たずとも、それで納得するはず。

 そう扱われていると感じたケンイチは、こそばゆい感覚に苦笑しながら阿含の後を着いていく。

 合理性やら、知略戦はケンイチにはさっぱりだ。

 だが、信念の勝ち負けなら理解りあえ、共有しあえる。

 この天才とも、肩を並べて戦える。

 

 

 

「我が斬撃を良く躱すが、そろそろ潮時だな。

弟子クラスにしては上出来の反射神経だが……"神速の超反応"とは、我らの領域からすれば誇大表現だぞ!」

 

「……"八門遁甲" 第四門・傷門、開

 

 徐々に阿含の体術に慣れ、確実に喉元へと迫るロウエンの刃。

 現時点で阿含の肉体がローリスクで耐えられる限界。

 その境界線を超える、第四門を反論代わりに解き放ち──

 

「んじゃあ達人サマに見せてやるかね。本物の"神速"ってやつを。

気の運用 第四階層──変化系発 "Ether(エーテル)再定義"

 

 双眸と全身の気に走る虹の発色が、ロウエンの全身の毛を逆立たせ、本能に警鐘を鳴らした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。