林間学校を利用した、ボリス率いる軍隊による襲撃。
連合やスタンレイ姉弟の加勢もあり、無事生徒達を守り抜き──
姉の立場を守るべく戦うイーサンを、長老から授かった新しい技で退け──
飛び級生として転入
(天才が転入先に荒涼なんか選ぶわけないだろ! いい加減にしろ! by新島)
した櫛灘千影と、闇人ではなく一人の少女として接すべく、力を使わない戦いを挑む。
活人拳の弟子として、白浜兼一は数ヶ月で目覚ましい成長を遂げる。
全てが順調かに思えたが、彼の戦績には一つだけ大きな傷がある。
春先、コーキンとの一騎打ちで完膚無きまでの敗北を喫し、心の臓を止められ三途の川に一歩踏み込む羽目に。
その時は、どうにか大門寺まこと,新島,秋雨の連携で蘇生し、辛くも生き永らえた。
しかし殺意のこもった一撃は、ケンイチが無意識に押し込めていた恐怖を呼び覚ましていた。
その恐怖を克服すべく、当時梁山泊が打ち立てていたリハビリ計画とは──
***
「ケンイチ、美羽、風呂入る……ぞ」
松江市から遠く離れた街の旅館。
屋外に設営された混浴風呂でしぐれと美羽に挟まれ、ケンイチが肩まで湯につかっていた。
目のやり場に困る様子で、縮こまるように丸まっている。
「あの……お風呂に入るなら、ボクだけ後で入ればよかったのでは? この光景、ボクには目の毒というか……」
「私はケンイチさんでしたら気にしませんわ。他の殿方がいたら、ちょっと抵抗はありますが……」
「時間ズラしても、他の女性客が来るかもしれん……だろ。それにこの先戦うYOMIが女だったとして、全裸で襲ってきたらどうするん……だ? 阿含なら難なく対応できる……ぞ」
「んな無茶苦茶な……確かに阿含くんは女性慣れしてそうですけどぉー」
阿含と比較されダメ出しを受け、ふてくされたように口元を湯に付け、ぶくぶくと息を吐くケンイチ。
美羽は苦笑しながらそれをヨシヨシと慰める。
「しぐれさんも阿含さんの事、気にかけてますのね」
「あいつにも何か事情があるんだろうな……。そのうち戻ってきて、アパチャイと一緒にゲームで遊べるはず……さ」
他者に干渉しない性質の師匠陣は、当然阿含の事も深追いしようとしない。
去る者追わず、戻る者拒まずの精神で行く末を見届けるつもりだろう。
「ところで、今回はケンイチさんの恐怖を克服する旅……ですわよね? どうして私まで……」
ケンイチがコーキンから受けたトラウマを払拭する修行、であるはずが何故か美羽も長老から、しぐれとの同行を促されていた。
弟子クラスが一人増えても、しぐれの負荷が増えるだけのはず。
首をかしげる美羽を、しぐれはじいっと見ていたが……
「フッ!」
突如、剣気と敵意が混じった気迫が、ケンイチと美羽目掛けて放たれる。
「うわああっ!」
「ッッ!?」
近くに小動物がいたなら、失神は免れぬ程の強い気当たり。
それをまともに受け、虐待されている子供の様に、大げさにのけぞるケンイチ。
その横で、美羽も身体をガチガチに強張らせ、身震いすることしかできない。
「ケンイチだけ……じゃない。美羽の心の傷も、あの日から開きっぱな……し」
先日のDオブD。我流xとの修行で、己の闇の部分と向き合った。
その際見事突破した美羽であったが、精神に大きな摩耗を抱えてしまった。
後に翔の死でその心傷は人知れず肥大化。
今日までそれは可視化されなかったが、長老達は察し、密かに美羽の心身を案じていた。
ならばついでに美羽もしぐれに面倒を見させて、心を療治してしまおう。
此度梁山泊が企てた、荒業とも言える計画であった。
「お前達がすべきことは、恐怖の克服では……ない。人の死に立ち向かうこ……と。
1日や2日でどうこうできれば苦労はし……ない。一生をかけて己と向き合っていくん……だ」
もしも隣にいる大切な人を失くしたら。
想像して息を呑む2人を和ますよう、針で刺すような気当たりが解除された。
「ま、これしき達人になるなら一度は通る道……だ。
ところで、DオブDで優勝したら……お前ら交際するんじゃなかったの……か?
しぐれが2人の関係を茶化し、場を和ましつつも長風呂を楽しみ、その日は何事も無く一泊を終えた。
翌日、3人は古くは江戸時代に武士の手により造られた、山中の決闘場へ訪れる。
そこには武器博覧会を催すかの様、多種多様な得物を持つ武人達が集っていた。
活人殺人問わず、しぐれが持つ無名刀、"刃金の真実"を欲している様だ。
弟子クラスから達人級まで、ピンキリの武器使い達がピリピリと互いを牽制し合う。
そんな中で、ケンイチや美羽でも遠目にも異質とわかる存在が2つあった。
一人はかつてしぐれと斬り合った、特A級の闇人 "鍔鳴り" 紀伊陽炎。
そして──
「……あれは千影ちゃん!?」
「彼女は無手組だったはずでは……」
十代半ばにも満たぬ少女、"神童" 櫛灘千影が大の男達に混じり、周囲から好機の視線を集めながらも、堂々たる佇まいで立ち尽くしていた。
その隣には櫛灘美雲が神聖な気を纏わせ、ただそこにいるだけで場の空気を一変させている。
「お前達の知り合い……か……。師と思わしき隣にいる無手の女、鍔鳴りと同様、かなり出来……るぞ」
「YOMIですよ、あの子は。ってことは、隣の人は一影九拳!?
それにあのデカいのっぺりした人も、同じくらい強いんですか?」
「あちゃー。お前ら、帰っていい……ぞ。九拳クラスが一人ならギリ立ち回れ……る。
だが、二人相手となれば、さすがにボクもお前達両方を庇いきれる保証が……無い」
達人の多くは各々の誇りから、任務でもない限り遥か格下や多勢に無勢の相手を、能動的に手に掛けないとされている。
だがプライドなど犬に食わせろ、とばかりに弟子クラス狩りやリンチを躊躇無く行う達人も、稀だが存在するだろう。
この場において、弟子クラス2人の存在は完全なリスクとなってしまった。
しぐれの目的はケンイチと美羽の恐怖を飼いならし、制御させること。
危険度の見合わない試練など、無意味とばかりに撤退を促すが──
「ボクは……残ります! でも美羽さんは無理しないで、引き返して大丈夫ですから」
ケンイチが美羽の身を慮ろうとすると、美羽は逆の事を言い始めてケンイチを帰そうとする。
しぐれは微笑ましい様子でやりとりを眺め、やはり2人とも無理矢理追い返そうか、としばし逡巡した末、
「フ、お前ら本当に仲がいい……な。では、危うくなったらすぐに撤退すると約束して、ボクに着いてこ……い。よう……また会ったなのっぺり!」
おもむろに崖上から飛び出すと、木々を足場にして決闘場のど真ん中へ舞い降りる。
標的が自ら敵陣ど真ん中へ攻め入った。
織田信長の如きしぐれの強行に、武人達は泡を食った様にざわめき立てる。
その場で平静を保っていたのは2人だけ。
陽炎はしぐれの顔を思い出そう、と冷や汗を流しながら小首を傾げ、美雲は不動のまま挙動を伺う。
「むむ、のっぺりとは失礼な! で、誰だっけ……みっちゃん?」
「しぐちゃん……だ。みっちゃんはこっち」
「まあ、みっちゃんではありますけど……」
遅れて降りてきた美羽を指さし、ケンイチに「変な人に美羽さんを紹介しないでください!」とたしなめられた。
しぐれは鏡の様に磨かれた愛刀を抜き、周囲を威圧する。
「あれが梁山泊の女剣士と一番弟子、そして隼人の孫娘か。
弟子の方は拳帝肘皇の弟子にやられリタイアした、と聞き及んでいたが……」
美雲がただじっと見つめてきた。
それだけでケンイチに寒気が走り、自然と全身が武者震う。
阿含や新島の相手を見透かす眼力を更に精密に磨き上げたような。
心の中まで覗き込む、薄気味悪い美雲の視線。
その隣で千影がス……とケンイチを指さす。
「師匠、あの者の首級は十分に成熟したかと。私が討ってもいいでしょうか?」
「ならん。九拳といえど"渡世のしきたり"というものがある。
次に白浜兼一と戦う者の順番決めが、まだ終わっておらぬのじゃ。此度の接敵は予想外じゃったが、偵察止まりといこうかの」
元々櫛灘師弟は、ケンイチが"女子供には手をあげられない"という情報から、千影の相手には不足として戦いを敬遠していた。
それでもボリスと三回に渡り戦い、勝ち越した実績から十分な格は担保された、と決闘の順番待ちに挙手している状態だ。
今回はまだ他の九拳に配慮し戦うつもりは無さそうだが、周囲の武人達の反応は違う。
武器の申し子の弟子と、無敵超人の孫娘という肩書きは、下位の武術家達の食指を動かすのに十分だ。
しぐれの首を他の猛者に譲った者達が、2人を標的と定め囲っていく。
「ケンイチさん、背中を任せますわ!」
「はい美羽さん……!」
その間も極上の得物に舞い上がった達人が矢継ぎ早、しぐれへ襲いかかる。
ちぎっては投げの勢いで、しぐれがあっさりと返り討ちにする傍ら、
ケンイチと美羽も、先程まで怖気づいていたとは思えない戦いぶりを披露する。
敵の中には弟子級上位の使い手もいたが、それでも2人が圧倒している理由がある。
「"無拍子"!」
「"風林寺・光鵬翼"!」
一つは、互いを守り合うような息の合った連携。
二つ目は長老より授けられ、先程しぐれから手渡された、年季の入った業物の手甲。
ケンイチの強固な制空圏と合わさり、敵の斬撃をことごとく防いでいた。
最後に、恐怖を麻痺させるのではない。
五感にプラスした、新たな感覚の一つとして取り入れる。
しぐれが掲げた運用方法を取り入れ、敵が繰り出す初見の戦術を恐怖センサーで感知し、躱し続けていた。
「ふっ……そうだ。恐怖を無理に隠そうと取り繕えば、いつか綻びが出……る。恐怖を飼い慣らして、武器にする……んだ」
「弟子達をレクチャーしながら、達人衆をあっさりと片付けるとは……さすが剣の申し子、また腕を上げたようだな」
自分と櫛灘師弟以外の、最後の一人が倒された。
それを見届け、陽炎は呑気にあくびしながらゆっくりとしぐれへ歩み寄る。
「
「ふっ……お前こそ、今日は逃げるな……よ」
先程まで武士達があげていた、威勢の良い掛け声による喧騒から一変、戰場は静まり返る。
木枯しと共に吹いた木の葉が、両者の視界を一瞬塞ぐ。
それが開戦の合図となった。
「"音超えの斬"!」
「前よりも……疾くなっている……な」
陽炎の鍔が小気味よい音を立てた時には、音速を超えた斬撃は放ち終わっている。
急所を皮一枚掠める様に数発の斬撃を避け、刀でいなす。
そんなしぐれの反応速度に自然と陽炎もテンションが上がり、徐々に口調と表情が一変していく。
「ムッホー、ギアを上げてくにょ! "音超え 二速"!」
「むぅ……!」
更に抜刀術の速度があがり、絹のようなしぐれの柔肌を徐々に小さな切り傷が蝕んでいく。
早くも自身の奥義である、"心刃合錬斬"の境地に入るべく、集中を極限まで研ぎ澄まそうとしたその時──
「バケモノ共め……後ろに下がって手あげろ!」
闖入者の一喝が戦場を切り裂いた。
物陰に隠れ、頭数が減るまで様子を伺っていた男が、機を伺い飛び出した。
男は素人ではないが、武術位階は弟子級の域を出ない。
しぐれ達にとって、本来歯牙にも掛けない次元の相手であったが、問題は男の武器にあった。
「銃使いも、いたの……か……!」
「あらら、あまりにも気が貧弱で見落としていたにょ」
男が自慢げに振りかざすそれは、狩猟用の散弾銃。
達人級なら難なく対処出来るが、銃口を向けられる先が弟子級となれば、話は大きく変わってくる。
「美羽、ケンイチ、退避しろ!」
隙を生むのもお構いなし、しぐれが陽炎越しに奥にいるケンイチ達へ、叫ぶ。
陽炎にとっては間違いなく好機であったが、あえて見逃すと普段通りの能面に戻り、ため息を吐く。
こんな偶発的事故など、チャンスでも何でも無いただの邪魔な水入りでしかない。
「全く、無粋な輩じゃのう。下がっておれ千影」
「はっ……」
眉をひそめる美雲の言う通り、千影は速やかに建物の後ろに隠れる。
ケンイチ達もそれに続くはずだったが……
「っっ……翔ッッ!」
銃を見た途端、美羽の全身が総毛立つ。
翔を撃たれ、喪った時の恐怖と怒りが、鮮明に脳裏へと蘇っていた。
殺気に近い気当たりがほとばしるが、肉体は本人の意思に反し、マヒした様に固まり動かない。
「美羽さん!?」
「しまっ……た! 銃こそが美羽のトラウマのトリガーだった……か!?」
本来ならば美羽は、銃口の向きと引き金を観察し、銃弾を躱す技術を持っている。
が、ここに来てしぐれは声掛けだけでなく、腕一本犠牲にしてでも無理矢理に陽炎を突破し、救助すべきだったと己の誤算を悔いていた。
「な、なんだその目は小娘! 言う事聞かねえなら、まずはお前からだ!」
気当たりに怖気づいた男が、小心ゆえに躊躇せず、美羽へと引き金を引く。
「美羽さ……うおおおっ!」
銃弾が発射される直前、ケンイチは走り出していた。
そう、DオブD最終日のあの日、ケンイチを庇おうとした美羽。
その美羽を守った叶翔と全く同じタイミング、動きで盾になろうとした。
戦闘中で動けぬ師匠の眼前で、一人の弟子が美羽のため命を散らす。
まるであの日のシーンを再生したかの様。
仁王立ちしたケンイチの身体を、発射された鉛玉が貫きその生命を奪い去る──はずだった。
「気の運用 第四階層 "
美羽を活躍させたいと思いつつもテンポの都合上なかなか出番が回せない・・・
美羽とケンイチの関係性の進み具合は原作より早めになるかもしれません