100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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52話 狂戦士VS狂戦士

「あとさ、勝手に1対2にすんなよ。狂戦士の相手は、やっぱ狂戦士(バーサーカー)がうってつけだろ」

 

 ペングルサンカンが態勢を立て直し、再び唸り阿含へと斬りかかる。

 そんな構図すら予想していた阿含のつぶやきを、体現するかの様。

 その後方、頭上より音もなく現れた影が、巨漢の後頭部へと強烈な一撃を浴びせこむ。

 

「"バーサクモード" 発動」

 

「グルオオオッ!?」

 

 影が巨体を蹴り飛ばし、着地する。

 阿含を上回る引き締まった良質な鋼の肉体に、掴みどころのない表情。

 しかし瞳の奥底には野生と狂気を孕む、鋭い眼光が宿る。

 鍛冶摩や龍斗に劣らぬ、カリスマ性のオーラを放つ男の姿が露わになる。

 

「バーサーカーさん!?」

 

「拳聖殿の弟子か……」

 

 元ラグナレク第二拳豪にして、緒方に弟子入りした吉川将吾。

 更なる乱入者にゴルベが露骨に眉をひそめる。

 だが、バーサーカーが達人級ではないと即座に見抜くやいなや、不敵に一笑した。

 

「なんだぁ? YOMIのガキが楯突く気か!? 無手組ってのはどいつもこいつも自分勝手で躾がなってねえな」

 

 ゴルベの挑発を気にも留めず、バーサーカーはケンイチ達を一瞥する。

 

「阿含には借りがある。それを今日返すだけだ」

 

 基本的に相手を苗字ないしフルネームで呼ぶバーサーカーが、下の名で阿含を呼ぶ。

 明らかに2人の関係値が進んでいる事を示唆しつつ、再度立ち上がったペングルサンカンへと踊りかかる。

 

「オロロロロ!」

 

「ガアアアッ!」

 

 一太刀でも浴びれば無事では済まない大太刀の斬撃。

 バーサーカーは決まったフォームの無い、無型の動きで立ち回りそれを躱し続ける。

 

「ほぉ……ペングルサンカンの太刀筋を見切るか。悪くねぇ反射神経だが、動きが荒いな。まだ妙手に成り立てといったところか」

 

 物見遊山で見守るゴルベの評価は、遠からず当たっている。

 ラグナレク解散後、緒方に弟子入りしつつも、秘密裏に阿含のスパーリング相手を務め続け、見事妙手へと成り上がった。

 その成長した動体視力と反応、避け勘を頼りに躱せてはいる。

 だが妙手級という水準でシビアに判定した場合、最適な身体捌きとは言い難い。

 

「ぐっ……!」

 

 その隙を突くよう、バーサーカーの脇腹や肩を斬撃が切り裂いていく。

 大太刀とは逆の手に持つ、小回りの効くダガーが細々と負傷を積み重ねていった。

 

「ああっ……武器のリーチ差が影響してますわ!」

 

「相手の男もただ者じゃない! でもバーサーカーさんは……」

 

 一見バーサーカーの劣勢に見える局面。

 だがそれを見守るケンイチには、その劣勢を巻き返す予期があった。

 

「コォォォォ!」

 

 かつてラグナレクと連合が激突した際、阿含とバーサーカーが繰り広げた一騎打ち。

 PPVのアーカイブから何度もそのベストバウトを見返していたケンイチは、負傷こそがバーサーカーが覚醒するキーだと知っているからだ。

 

「 "バーサクモード セカン ベルセルク・タスク"」

 

 開放された強力な動の気と脳内麻薬を体内で融合し、新たな気を創り出す。

 かつて弟子クラスだった時代の阿含が最も苦戦を強いられた、極限集中状態が動の極地であるバーサーカーに静の力を授け給える。

 

「……これで暴れ馬だったオレの気が、ミクロ単位で制御できるようになった。

今なら制空圏を薄皮一枚まで絞り込める」

 

「ゴニョ……ゴニョ……?」

 

 ペングルサンカンを徐々に困惑が蝕みつつあった。

 それまで的確にバーサーカーの身体を捉えていた短刀が、急遽空を切る。

 それはケンイチの流水制空圏 第一段階を再現したかの様。

 野生と理性を融合させた最小限の動きで、攻撃を躱しペングルサンカンの領地を占有していく。

 

「あの方、私と同じ動のタイプですのに、ああも精密に静の武術家みたいな気のコントロールをしてますわ……」

 

 だが、今々時点でこの場にいる者はバーサーカーの真価を未だ測りかねている。

 龍斗,阿含から天賦と認められたその素質は、この程度の枠に収まらない。

 

「"ニュートライズ・ブロー"」

 

 一撃、二撃と浅くはあるが徐々にバーサーカーの拳が、ペングルサンカンの身体を捉えていく。

 強固なペングルサンカンの肉体に、ダメージはほぼ見られない。

 だが、バーサーカーの目的は別にあった。

 妙手に登り詰めたケンイチ達が警戒する程の、ペングルサンカンの動の気。

 その強大な気から、狂気が削ぎ落とされていく。

 

「ゴオオオッッ!?」

 

「まさかこのガキ……ペングルサンカンの気から"動"の力だけを奪って、無の気にしようとしてやがるのか!?」

 

 修行に失敗することで、リミッターの制御が効かなくなり、気の掌握を修められず達人に至れなくなる。

 それが動の武術家における最大の難点だ。

 だが、既にリミッターが壊れてしまった妙手を、使い捨て上等の鉄砲玉として扱えば、敵からすれば厄介な兵器となる。

 そんな使われ方をしていたペングルサンカンに対し、バーサーカーは阿含も、達人ですらも辿り着いていない新たな気の運用術を試みた。

 

(動の力そのものに、この男の狂気が絡みついてやがる。だったら、狂気だけを力から分離してやる)

 

 それはバーサーカーすら意図していなかった、ただの偶然。

 狂気を削ぐだけでなく、ペングルサンカンの精神にある副作用を与えていた。

 

 

 

 ──そうら。次は開放した強力な動の気を更に高めつつ、制御する特訓だわいのう。

 この試練に耐え、達人に登り詰めよ、ペングルサンカン。

 

 もっと強く。

 もっと激しく。

 

 ──キサマの才能は我が認めるわいの。

 甘さを捨てればキサマは達人になれる。

 我が命じた相手は、子供一人残らず全て切り捨てるのだ。

 

 敵は殺す。

 目の前の相手を殲滅しろ。

 

 ──むぅ……我としたことが、少々意気込んで修行ペースを追い込みすぎたわいのう。

 あと一歩で達人になれたものを……じゃが、まだ利用価値はある。こやつを幽閉しておくのだ!

 

 殺意と怒りだけが燃え盛る。

 それ以外は何処かに消失してしまった。

 胸の奥に渦巻いていた殺戮マシーンとしての感情が、今嘘のように静まり返っていく。

 

「私は……何を……」

 

 そこで初めて、周囲が目に入った。

 武術家と思わしき者達が、固唾を飲んで見守っている。

 薄暗い室内は荒れ果て、壁と床が砕けている。

 短刀は血に濡れていた。

 全身を蝕んでいた気から、禍々しさが跡形もなく雲散している。

 そして、目の前に立つ傷だらけの獅子の様な少年。

 

「……そうか」

 

 全て思い出した。

 武器組の小組織から無手組の邪神へ売り飛ばされ、壮絶な修行を潜り抜けた。

 そして最後に気の掌握を修める。

 その最終工程直前。

 才能溢れる自身の資質に奢り、ほんの一瞬、少しだけ気の制御を弛んでしまった。

 赤黒い殺意に意識を乗っ取られ、気付いた時には子供の亡骸が眼前に転がっていた。

 

 世話係として献身的に働いていた、従者の少女。

 給金と邪神から福利で与えられた果物の一部を、毎月家族に仕送っている。

 そんな、他愛もない雑談をした憶えがある。

 

 あの日から心が決壊し、それから十数年ずっと地獄の中にいた。

 そして今、その地獄から目の前の少年が救い出してくれたのだろう。

 

「戻(・)っ(・)て(・)きたか。俺達才能ある奴が、誰かの言いなりで使い倒されるなんて屈辱だよな。またコンディション良い時に死合おうや」

 

 既に戦意を喪失し、剣持つ腕をダランと弛緩させた無防備な身体に、中段突きが突き刺さる。

 雄々しくも美しく、洗練された動の気を纏う拳だった。

 

「見事……だ。感謝……する」

 

 自身を制御できなくなった間も、数えないくらいの命を斬り捨てた。

 それでも人として生きろ、と言われた気がした。

 狂戦士は最後に人として、かつての己に少し似ている少年に謝辞を送る。

 そしてその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 バーサーカーの突きが鳩尾に吸い込まれ、ペングルサンカンの巨体が音を立て床に倒れ、埃を派手に舞い散らせる。

 実力で格下の者が格上の相手に勝利した。

 ここにいる武術家達は、この勝負がそれだけに留まらない内容であったと気付いている。

 

「え……ちょっと待って、バーサーカーさんもしかして、他人の気のリミッターを外から掛け直したの!?」

 

「リミッターが外れ、達人への道が絶たれた動の気の武術家は少なくないと聞きます。

バーサーカーさんがいれば、手遅れと言われた彼らも、元に戻せるかもしれませんわ……!」

 

「クカカ……俺の前でまた一つ武が進歩した。たまらないな。これだから武術は素晴らしい」

 

 眼の前でとんでもない事をやってのけられた。

 無手組の者達が次々に高揚する中、唯一の達人が忌々しそうに舌打ちする。

 

「チッ……何が狂戦士だ、まるで役に立たねえ。所詮無手組なんぞママゴトってわけか」

 

「あのなオッサン、状況わかってんのかよ。YOMIに手出すなって言ったのお前だろ。今1対4だぜ?」

 

 耳の穴をほじりながらの阿含の言葉に、ゴルベが「は」と周囲を見渡す。

 ケンイチ、美羽、そしてバーサーカーにいつの間にやら四方を包囲されている。

 3人が負傷していることを加味しても、妙手4人がかりは厄介だ。

 初めて動揺を浮かべるゴルベを嘲笑う様、阿含は一人距離を詰め死地一歩手前の間合いまでやってくる。

 

「そうビビんなって。オレがタイマンで相手してやるから。

現時点でのおめーの実力は認めてやるよ。だからこそ、格下のオレに負けたら、どう転んでも言い訳できねえってわけだよな」

 

 達人が格下にケンカを仕掛け、返り討ちにされる。

 そんな事実が流布されれば、武の世界で信用はあっという間に地に落ちるだろう。

 

「バカが……仲間と戦えば良かったと、あの世で後悔しとけ!」

 

 侮っていた相手から、脅しまがいの心理戦を仕掛けられた。

 ゴルベはプライドを傷つけられた怒りに身を任せ、達人の脚力で踏み込み一瞬で距離を潰す。

 そのまま開戦の狼煙を上げるよう、無慈悲の斬撃を不敵にニヤつく阿含の脳天目掛け、振り下ろした。

 

 見守るケンイチを、言いようの無い不安が付き纏う。

 この勝負、敗者はもとより勝者も大事なものを手放す、そんな死闘になるのではないか──




書き溜めが大分減ってきましたが、9月前半はなんとか定期連載できそうです
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