100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

55 / 55
53話 金剛阿含VS闇の蛮刀使い

 耳障りな鋭い金属音。

 続いて破壊音が、闇夜の広間を切り裂く。

 達人級の斬撃は、常人の骨肉をバターの様に容易く両断する。

 そんなゴルベの初撃は、阿含が際どいタイミングで横から添えた刀に受け流され、床を叩き割り粉砕した。

 

「あ、あの初太刀を捌いた!」

 

 手を抜いていない達人の一撃に、阿含が初見で対応した。

 苦戦を覚悟していたケンイチが思わず安堵しかけるが、ゴルベは気にすること無くニヤついたまま蛮刀を切り返す。

 

「わざと防ぎやすくしてやったんだぞ。そら、これでどうだ?」

 

「──ッッ!」

 

 喉元迫る右切上げを躱し──

 

「その体術で同格以下にさぞイキり散らかしたんだろうなぁ。

だが達人の俺相手にゃ物足りねえわな」

 

 横一文字、袈裟切りと続く追撃の連撃が容赦なく阿含を襲う。

 約1分程。

 両者の剣が幾度と交差し、鍔迫り合いが火花を散らす。

 間合いを測るように、阿含が後方へ弾け飛び距離を取った。

 避け切れず生まれた浅い創傷が身体には既に幾つも刻まれ、額からは汗が滲んでいる。

 五分には遠く、なんとか阿含が凌いでいるといったところか。

 

「やっぱ達人だけあって倒し甲斐があるねぇ、オッサン」

 

「……ふん」

 

 小童の軽口にゴルベが息を漏らす。

 それは感嘆と忌々しさが同居した複雑なものだった。

 

(このクソガキ……剣を握って本当に半年ちょいかよ。この領域に達するのに、俺が何年修行したと思ってやがんだ)

 

 春前、武術界に"100年に一人の天才"の噂が流れた。

 その時はたかが弟子クラス一人に何を舞い上がっているのか、と内心冷笑していた。

 だが実際に対峙したことで、ゴルベはその規格外の才能を思い知らされる。

 

(……この小僧、近い将来達人に上り詰めるだろう。だが今ならまだ俺の剣技が上! それでも焦りは禁物だ)

 

 殺すなら今しかない。

 だがそれに躍起になって、隙を生んでは本末転倒だ。

 阿含の防御性能こそ見事だが、それでも全体的な能力は達人の水準に届いていない。

 ならば、率先して阿含を殺そうとせず、攻めさせカウンターを狙う方が堅実か、とゴルベが狙いを切り替え様子を伺う。

 阿含もそれを察した上で、あえてその意図に乗り攻勢に打って出る。

 

「秘剣 "飛飯綱(とびいづな)"」

 

 水平に振りかぶった刀を振り抜くと、刀身から不可視の真空波が一直線に走る。

 顔面目掛けたカマイタチを、ゴルベは達人の眼力と反射で難なく横っ飛びに躱す。

 

「さっきの飛ぶ斬撃と同じ……いや、刀を高速で振るい真空の刃を飛ばしたか。

器用な奴だが、距離が離れすぎて余裕で見切れるな」

 

「"八門遁甲 開門"+"瞬歩"+"牙突壱式"」

 

 その隙とも言えない隙を突き、阿含が全身と足裏に気を充足させつつも腰を落とし、右手を剣峰に添えながら突貫する。

 相手の視覚からちょうど真正面に進む移動術も相まって、距離感を狂わせる高速の突進であったが──

 

「おっと、悪くねえ平刺突だ。妙手以下なら避け切れなかったかもな」

 

 これも闘牛士のごとくひらりと躱され、惜しくも空を切ってしまう。

 だが阿含もそれを見越し、既にフリーとなった右拳を横に振るっていた。

 

「"風の拳"」

 

 間髪入れず空気弾を打ち込む。

 さすがにそれはゴルベの虚を突いたものだったが、達人の反応速度により剣のガードで弾かれる。

 

「ほぉ……剣技と体術の併用かよ。一発もらいそうになったが、それも憶えたぞ」

 

 基礎技術だけで優位に立てるゴルベに対し、阿含は初見殺しの技や未知の攻撃パターンを繰り出し、どうにか対抗している。

 斬り結べば結ぶ程、動きと剣筋を見切られ不利になっていく。

 

(なんかひっかかるぞ。相手の男は達人だ。阿含くんも手を抜いてるわけじゃない。

それでもDオブDで共闘した時の様な、不退転の気迫が感じられない。

それにバスタードソード使いに有効だった、神速の攻撃も使う気配がない。

まるでこの後の連戦を想定して、余力を温存しているような……。一体何を狙っているんだ?)

 

 この場でケンイチの疑問に辿り着いている者は、ただ一人。

 先ほどペングルサンカンを下したばかりで、高揚冷めやらぬバーサーカーが小さくつぶやいた。

 

「欲張りだねえ……」

 

 天賦同士で何かが通じ合うものがあったのか、阿含の双眸に宿る意思を見抜き忍び笑っていた。

 

「バーサーカーさん……何かわかったんですか?」

 

「具体的な方法まではわからねえが、阿含の勝ち筋はなんとなく思い当たる。この勝負の要点はパワーでもスピードでもねえ。射程と間合いだ。ほらよ」

 

 バーサーカーから手渡されたチューインガムを噛みながら、ケンイチは今一度阿含の動きと狙いを注視しながら、見守る。

 その視界の先で、ゴルベの蛮刀が更に阿含をジワジワと削り取っていた。

 

「ククク……ジリ貧だなぁ」

 

 阿含は持ち前の反射神経とセンスで、動脈や眼球、首筋といった急所への攻撃は的確に反応してみせる。

 だがそれに注力する余り、その他の末端部位に対するガードを犠牲にしている。

 ならばまずは部品(パーツ)を壊してから、本体(急所)を狙えば良い。

 ゴルベの狙いは単純ながら、効果的に機能していた。

 

「秘剣 "飛飯綱(とびいづな)"」

 

「またバカの一つ覚えの飛び道具か……うおっ!?」

 

 先程は顔面を狙った真空の刃が、今度は眼前でホップする。

 軌道を見誤り、回避しそこねたゴルベの右側頭部から髪が離れ、ハラリと床に散らばった。

 

「このガキ……俺様のドレッドを!」

 

「余裕こいてギリギリで躱してるからそうなんだよ。依然おめーはノーダメなんだし、気にすんなって」

 

 なおも挑発を繰り返す阿含に憤りかけ、ゴルベは辛うじて踏みとどまる。

 怒らせて冷静さを奪い、精密な距離感を狂わせようとしている。

 その狙いがあからさまな以上、これまで通り堅実に戦うだけでいい。

 阿含が自身の急所を庇いながら戦っている以上、技量で優位なゴルベを攻め崩すことは無理なのだから。

 

(俺の動きに対する奴の剣の呼吸、技の速さも読めてきた。そろそろ仕留めるか)

 

 僅か、ゴルベのつま先に力が入り重心が前に向く。

 阿含もそれに合わせるように、あからさま上半身を前に傾けた。

 お互いが()()に行こうとしている。

 それを察したその場の武人達が息を呑み見守る中──

 

「"八門遁甲 休門"+"瞬歩"」

 

 阿含が果敢に最短距離を疾走し、自ら間合いを詰める。

 本日最高速のダッシュは、ゴルベの動体視力に捕捉され蛮刀の腹が斬撃を食い止める。

 一歩引いた阿含が刀を切り返し、右横一文字切りを放つ。

 とりとめて何の変哲もない、ただの一撃。

 それも容易く受け止められる──そのはずだった。

 

「気の運用 第二階層 "Utoposへの接続" ()()()()()() "周"」

 

 阿含の体表を纏う気が、皮膚から剣へ。

 その超常現象に皆が気付いた時には、気は手に持つ剣と強い紐づき(リンク)が生まれ、刀身の先端、遥か先まで覆い伸ばしていた。

 

「"旋空弧月"」

 

(なっ……気を刀に纏わせ刃のリーチを伸ばした!? なんてガキだ……だが!)

 

 自身の気を物質へ癒着し、伝達させる。

 妙手がその離れ技をやってのけたこと、それ自体は驚愕すべきものだ。

 しかし斬撃の速度そのものは、先ほどまでと変わらない。

 つまり、達人の反応が十分間に合ってしまう。

 伸びる斬撃に対し、反射的にゴルベが阿含の顔面へ蛮刀を抜き放つ。

 達人の速度差も相まって、それは皮肉にも美しいクロスカウンターとなりて襲いかかった。

 

(タイミングが際どいですわ……! おそらく両者の攻撃は同時に当たる! でも……)

 

(まじいな。蛮刀野郎の胴に命中するはずが、奴の反応が間に合ったことで腕に阻まれちまった)

 

(ダメだ……蛮刀使いの手と阿含君の顔じゃ、相打ちでも釣り合わない!)

 

 その場の誰もが、阿含が攻撃を取りやめると思った。

 だが──

 

 ザクリ。

 

 小気味良さと不快さが入り混じった、独特なサウンドエフェクトが室内に木霊する。

 人体を切り裂いた時に生まれる、あの音だ。

 阿含の伸びる斬撃が、ゴルベの左手首に突き刺さった。

 しかしこの攻撃は相打ちとなるはずだ。だから、

 

「キャアッ!」

 

「あ、阿含君!?」

 

 美羽とケンイチが手で口を覆い悲鳴をあげる。

 その視界の先で、阿含の眉骨から下顎にかけて蛮刀が鮮やかに、そして無慈悲に切り裂いていた。

 左顔面は盛大な血しぶきを宙に舞い上げる。

 

「ぐおあっ……!」

 

(まさかこの小僧……俺の手に一撃与える、それだけのために左目を捨てやがった!?

バカかこいつ……今日俺にどうしても勝つ必要はお前にねえだろ。

勝ち目がねえなら、適当なところで逃げりゃいいだろうが。何故そうまでして……!?)

 

 左手に走る、痺れる様な痛み。

 全員の予想と思考をブチ抜いた鬼手への動揺。

 それらは取り返しのつかない、致命的な隙となりて阿含に勝機をもたらす。

 

「刀がまともに振るえなきゃ、捌くこともできねえよな」

 

 腹筋,胸筋,背筋,両腕──上半身のバネが素晴らしい機能美の下、最効率で連動する。

 瞬時に極限まで振りかぶった刀が、零距離からゴルベ目掛け突き刺さり──

 

「ギャアアアッ!」

 

 その巨体は、遥か後方の壁まで吹き飛びそのまま昏倒する。

 斬撃というより、むしろ砲撃と言って良いその破壊力は、強大な気血に守られた左肩に大穴を空けていた。

 戦闘不能──それどころか、再起すら怪しいレベルだろう。

 

 一方、それを右目一つで見下ろす勝者からは、今も血が滴り落ちている。

 今まさに決め手となった技名を高らかに口上し、その場の武人全てを畏怖、圧倒させる勝鬨を上げた。

 

「"牙突零式"」

 

 その左顔に、一見取り返しのつかない致命的な傷を刻み──

 それすらも後への伏線として用意したかのよう、不敵に笑い立ち尽くした。

 




誤変換報告ありがとうございます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

転生したのに念能力が使えない男(作者:ゴリラ廻戦)(原作:HUNTER×HUNTER)

ざけんなや オーラが無いんじゃ ドブカスが▼


総合評価:4943/評価:6.38/連載:10話/更新日時:2026年09月04日(金) 12:00 小説情報

氷叢家の種馬(ガチ)(作者:のりしー)(原作:僕のヒーローアカデミア)

氷叢零至(ひむられいじ)▼落ち目の氷叢一族に産まれてしまった鬼子。▼現役No.2ヒーローであるエンデヴァーの炎系個性に対抗しうる程の才を持ち産まれ……故にその個性は『コキュートス』と名付けられた。周囲の希望の願いと共に。▼ ▼しかし……▼幼き頃は神童で、育てば秀才……成人後はただのクズ。▼『あの』雄英高校に華麗なる推薦合格ゴールをブチかました後、この男は才を…


総合評価:3806/評価:7.86/連載:27話/更新日時:2026年08月31日(月) 20:21 小説情報

最強はポットクリン(別題:その無敵性を絞り上げる)(作者:淵岳 月夫)(原作:HUNTER×HUNTER)

死にたくない。▼だが、死なないだけでは終われない。▼日本で死に、スラムに生まれ落とされた男は心に生と死の天秤をかかげながら、綱を渡るように物語を歩む。▼目指すのは、まだ見ぬ物語の続き──暗黒大陸。▼※念能力の考察を中心とした話です。考察を元にした独自設定もあります▼※おおよそヨークシン編を本編とする短い連載です▼※ sesamer様の『流れ者の考察記録』から…


総合評価:4628/評価:8.7/連載:7話/更新日時:2026年09月04日(金) 18:02 小説情報

第四の壁を越えて(作者:タカリ)(原作:HUNTER×HUNTER)

死んだと思ったらハンターハンターの世界に転生した。ゴンの兄だった。▼原作にガッツリ関わる立場になっちゃったけど、別に自重しなくていいよね?


総合評価:7608/評価:7.72/連載:66話/更新日時:2026年05月27日(水) 12:25 小説情報

かめはめ×ハンター(作者:波動待ち)(原作:HUNTER×HUNTER)

子供の頃、俺には夢があった。▼ かめはめ波を撃つことだ。▼ 当然、出なかった。▼ 何度構えても、何度叫んでも、掌から出るのは気合だけ。やがて俺は大人になり、かめはめ波なんて撃てないという、つまらない現実を受け入れた。▼ そして二十七歳で死んだ。▼ 気がつけば、俺は見知らぬ世界の赤ん坊に転生していた。▼ 巨大な獣、見たことのない国、妙に身体能力の高い人間たち。…


総合評価:6995/評価:7.58/連載:13話/更新日時:2026年08月29日(土) 23:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>