100年に一人の天才と史上最強の弟子   作:やぶゆー

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松江名先生快復おめでとうございます




6話 阿含「強いて言うなら…顔と収入良い女の子…かなぁ」

 モブが第六拳豪(王子サマ)にバスの上でボコられた。

 その上キズッさん(逆鬼)に助けられて辛くも命拾いしたってさ。

 

 んでオレとの組手の後、修行量増加に絶えきれず、梁山泊から逃げ出しやがったそうだ。

 キズっさん曰く、「あの修業の遅れが無きゃ、ここまでぼろ負けしてねえ」とのこと。ダサ過ぎてイジる気も起きねー。

 あまりのザコっぷりに今は必死に強化イベに勤しんでやがる。

 噂じゃ中華街で死にかける大立ち回りをしたってよ。

 凡才は大変だねぇ。

 

 一方の第六拳豪も無断で姿をくらませたそうだ。

 モブを本気で仕留めにかかってしくじるとか、末代までの恥だしな。気持ちはわかるよ王子サマ。

 一時的とは言え、拳豪を三人も欠くのはラグナレクでも初の事態で、上はゴタついてるらしい。

 

 その間に宇宙人(新島)が"新白金連合"とかいう組織を発足をさせた。

 オレとモブ、そして武田,宇喜田とかいう一個上の連中を、無断で寄せ集め部隊としたとかなんとか。

 

 結論、宇宙人は速攻でモブ共にボコられてた。

 あ"ー……オレは別に邪険にはしなかったぜ。奴らと同列に扱われたくらいで一々キレねえって。

 宇宙人は武力こそ無いが、兵法,分析力,情報収集力は優秀だ。

 ああいう奴が作る組織にゃ一定の価値がある。頭ごなしに否定しねえで利用できるところだけ利用すりゃいい。

 あの三人にゃ一生できない立ち回りだろうけどね。

 

 帰宅がてら、連絡先交換してたtiktokライバーの女にLINEしようとしたとこで着信。

 ん――美羽からDM来るの初めてか?

 宇宙人がラグナレクに拉致られたから、一緒に助けて欲しい……か。

 あ"ーどうすっかな。もう大分遅えけど、美羽に貸し作っとくのも悪くねえな。

 

 

 

***

 

 

 

「阿含さん、ご足労いただきありがとうですわ」

 

「いいよ、ちょうど時間あったからね」

 

「あっ、金剛君も来てくれたんだ!」

 

 美羽と合流すると、予想通りモブも一緒だった。(当然シカト)

 移動がてら走るフォーム,スピード,スタミナから、奴のおおよその力を算出。

 組手ん時と比較してLV12→14ってとこか。

 レベルアップおめでとさん。今更オレもそんなことはもう一々気にはしないよ。

 こっちはこっちで、モブとの格差を更に引き離せる算段見つけたからな。

 

 美羽達に先導された先、夜の埠頭にラグナレク達は待ち構えていた。

 下っ端の数は少なかったが、拳豪が3人いやがった。

 この前戦ったデカブツと、網メガネ。そして帽子の男。

 ジークフリートと名乗った第五拳豪の帽子野郎は、やたらと不機嫌な様子で意味不明な挙動を繰り返す。

 ふざけた奴にしか見えねえが、こいつはそこそこ歯ごたえがありそうだな。

 タイマンならともかく、3人同時相手となると少し骨が折れそうだが……。

 

 チッさん(剣星)が前に武術家の階級ってのを話してた。

 弟子級,妙手,達人の三段階があり、弟子級はその中で更に3つに区分けされるんだと。

 武術未経験者を卒業した程度の、そこらへんの喧嘩自慢レベル。要は武術家の最下層。

 肉体や技の力を鍛えることに励む段階の開展(かいてん)

 力を付けた後、精密性を研ぎ澄ます段階の緊湊(きんそう)

 帽子野郎は開展の練度が高まってる辺りか。モブにゃキビい相手だな。

 

「作曲を邪魔されたことは腹立たしい。しかしここで阿含氏に出会えたのは天啓。

 あなたは、暴力性と規則性を兼ね備えたリズムを纏う闘士。

 我が友であるトールを下した実力もさることながら、その力には興味が尽きません」

 

 網メガネが去り、美羽が宇宙人を捜索しに向かっていった。

 その間に帽子がゴチャゴチャ言ってるが、男に言い寄られても嬉しくねー。まあ、オレ様の才能に対する評価は認めたげるよ。

 

「一度負けた身ゆえ、金剛の相手はジークに譲ってやるわい!

 その代わりに、ハーミットが仕留め損ねた白浜はワシがもらいうける!」

 

 デカブツはモブとやる気満々だ。

 奴もあれから特訓したのかしらねえが、雰囲気が変わってんな。

 

「おいモブ、あのデカブツはオレが楽勝で勝った時のレベルじゃねえ。精々気をつけな」

 

「え、あちょっと!」

 

 モブの返事を待たずに、オレと帽子は場所を移す。

 あんな木っ端にもアドバイスしてやるとは、オレ様も甘っちょろいな。

 

「ラーラーラーラー↑ラーラーラーラー↓♪」

 

 ……なんでオレはベートーヴェンの第九を聴かされてんだ?

 こいつ、攻める気配がまるでねえ。カウンターでも狙ってんのか? ま、めんどくせえからワンパンで終わらせるか。

 

「精々舌噛むなよ」

 

 おもむろに距離を詰め、顎下目掛け左フックを浴びせる。

 着弾間際でも反撃の気配がねえけどいいの?

 決まった――いや、手応えが違う! こいつ、オレの打撃を喰らいながら、軸をズラしていなしやがった。

 と同時に、帽子の体がコマの様に旋回する。

 

「メゾフォルテ(やや強く)!」

 

 旋回した先から放たれた手刀が、オレのこめかみに――

 見えてる攻撃が超反応に通用するかよ。コンマ1秒速かったら惜しかったかもな。

 

「なんと、私の"輪唱アタック"を初見で躱したのは貴方が初めてです……!」

 

 だったら表情に出せって。

 セリフとは裏腹に帽子は無表情のままだった。まだ想定の範疇ってか?

 左右から攻撃を加えりゃ逆方向からこいつのカウンターが飛んでくる。なら直線で殴りゃいいだけだ。

 中段突き。ボディへの攻撃なら、いなすためには後ろに逃げるしかねえ。

 帽子が無抵抗のまま、みぞおちに打ち込まれたオレの拳を受け止める。

 ――瞬間、奴の体が「く」の字に勢いよく折れた。

 

「スラー(なめらかにつなげ)&フェルマータ(ほどよく伸ばす)!」

 

「おっ……? フン……」

 

 迫る頭突きを皮一枚で回避。

 オレの攻撃を完全に脱力したまま受けて、体を折り曲げた勢いで狙ったのか。

 踏み込みを半歩緩めてなきゃ、超反応でも間に合わずに食らってたな。

 

「ふむ、"流水の調べ"にも対応しますか。反射神経と戦闘勘は見事なものです」

 

 大分読めてきた。こいつは変則カウンター専門の"後の先"野郎だ。

 "輪唱アタック"ってやつはクセが強えし課題点もある。

 でも遠心力とか色々運用してておもしれー。とりま頭の片隅にブックマークしとくか。

 つかこいつ……

 

「お前、いいとこのボンボンだろ」

 

「その心は?」

 

「目と身だしなみ見てりゃなんとなくわかんだよ。

 不良ごっこなんぞしやがって、何不自由ないボクちゃんの遅れた反抗期か?」

 

 我ながら安い挑発だ。帽子も軽く流してくる。

 

「そっくり金剛氏にお返ししますよ。何故わざわざ血生臭い闘争に身を投じるのです。

 貴方の素質ならば普通に生きているだけで、大抵の事象は思い通りになるでしょう」

 

 一理あるな。だがオレは知っちまった。

 オレが初めて才能の全てをなげうってもいいと思えた事象。

 武の深淵を覗いちまったからな。

 

「乾いてんだよ。人生思い通りに行くかどうかなんぞ、どうでもいいくらいにな」

 

「私も同じですよ。闘争から生まれるメロディに焼かれ、焦れてしまっただけのこと。

 人は愚かで欲は果てしない。飢餓が解決すれば次は身の安全を求める。

 治安が満たされれば、今度は便利な道具を欲す。

 文明の利器に囲まれ何不自由無くなれば、その結果先人達が死に物狂いで手に入れた"安全"を放棄し、リスクを承知で刺激と娯楽を求め出す。

 なんとも皮肉な話です」

 

 クク……と無意識にオレの口から笑みが漏れる。

 どうやらこいつもオレと同類だったようだ。

 正直、嫌いじゃない人種だ。だからこそ、才能の格付けだけはここできっちりやらねえとな。

 

「そうかよ。お喋りで中断して悪かったな」

 

 パンチングマシーンで遊ぶような、わざとらしい程の隙だらけなテレフォンパンチ。

 アホなら好機とばかりにオレに飛びかかるが、多少頭がキレるやつなら罠だと見抜くだろう。

 帽子も後者で、顔面へと弓引かれるオレの右拳に対し臆することなく身構える。

 

「残念ですが、フェイントなのが見え見えですよ」

 

 ハナからまともに当てるつもりはねえ。

 帽子の宣言通り、ヒット直前でオレは拳を寸止めする。

 そんなオレの腕へと、関節でも捕えようとしたのか掴みかかってきた。

 全ては新技を炸裂させるための、このオレの布石だと知らずにな。

 

「そらよ」

 

 寸止め状態から軽く拳を顔面に押し込んだところで、帽子が衝撃の軸をずらすべく反応する。

 そのコンマ数秒後、オレの身体は淡い光に纏われる。

 

「"逕庭拳(けいていけん)"」

 

「おおう!? 裏拍っ!?」

 

 "気の発動"時に身動き出来なかった弱点は、既に克服済。

 モブとの組み手後に速攻で解消したわ。まあ才能ってやつだね。

 その際、未熟だった気の運用で悪癖が生まれてね。

 そいつを利用した、二度の衝撃を生む拳だ。

 帽子は遅れてやってきた正体不明の衝撃により、意図しない形で更に後方に仰け反る。

 

「ぅ……コンブラブーラ(巧妙)に!」

 

 帽子の身体を掴み固定し、アスファルトの地面に叩きつける。

 直前、どうにか詰み盤面から逃れようと藻掻く奴の蹴りが、オレの側頭部を視界外から掠める。

 チッ……わざわざ必要以上のダメージを与えないように、舐めプ制圧してるからな。

 まあ、こういうもらい事故は割り切るしかねえ。

 

「しょうもない悪あがきすんなよ。

 詰みに気付ける程度の知能はあるよな。お友達のデカブツもちゃんと敗北を認めたぜ」

 

「ッッ……確かに、今私がこうして意識があるのは、後頭部ではなくわざわざ肩から地面に叩きつけられたから……。

 暴力性と規則性を兼ね備えたあなたのリズム……お見事でした」

 

 マウントポジションから見下される帽子から、身体の緊張と戦意が喪失する。

 また一つ、オレの才能が証明された。全身を充足感が包みかけると――

 

 もう一つの戦いの決着。それを告げる炸裂音の様なものが、背後からオレの耳朶を叩く。

 

「ぬうう……なんという一撃じゃ! もったいぶって隠し持っておったとは……」

 

 苦悶の表情で腹を抱え、膝をつくデカブツ。

 

「こ、この突きは……!?」

 

 全身汗と傷に塗れフラつきながらも、呆けた様に己の右腕をしげしげと眺める、モブ。

 しばらくしてデカブツはバカ笑いをあげながら、あっさりと負けを認めた。

 

「あ"ー……?」

 

 拳豪2人を手加減したまま難なく屈服させたオレ。

 拳豪にボコられ続けようやく辛勝したモブ。

 

 格の違いは歴然だ。気の発動にも慣れて、奴を更に引き離したはず。

 なのに、なんだこの腹にこびり付つ違和感は。

 ……原因は、さっき背後から聞こえたあの一撃だ。あれは凡才が出していい音じゃねえ。

 生まれついてのモブが、別の生き物に変身しようってのか?

 

 どうやら、もう1回ヤツを()なきゃなんねえようだ。

 

 ――翌日、オレは臨戦態勢中に生涯初のクリーンヒットを許すことになる。




初めて日刊乗りましたありがとうございます。
しかし感想の受信通知が急にgmailに来なくなりました……
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