モブが第六拳豪(王子サマ)にバスの上でボコられた。
その上
んでオレとの組手の後、修行量増加に絶えきれず、梁山泊から逃げ出しやがったそうだ。
キズっさん曰く、「あの修業の遅れが無きゃ、ここまでぼろ負けしてねえ」とのこと。ダサ過ぎてイジる気も起きねー。
あまりのザコっぷりに今は必死に強化イベに勤しんでやがる。
噂じゃ中華街で死にかける大立ち回りをしたってよ。
凡才は大変だねぇ。
一方の第六拳豪も無断で姿をくらませたそうだ。
モブを本気で仕留めにかかってしくじるとか、末代までの恥だしな。気持ちはわかるよ王子サマ。
一時的とは言え、拳豪を三人も欠くのはラグナレクでも初の事態で、上はゴタついてるらしい。
その間に
オレとモブ、そして武田,宇喜田とかいう一個上の連中を、無断で寄せ集め部隊としたとかなんとか。
結論、宇宙人は速攻でモブ共にボコられてた。
あ"ー……オレは別に邪険にはしなかったぜ。奴らと同列に扱われたくらいで一々キレねえって。
宇宙人は武力こそ無いが、兵法,分析力,情報収集力は優秀だ。
ああいう奴が作る組織にゃ一定の価値がある。頭ごなしに否定しねえで利用できるところだけ利用すりゃいい。
あの三人にゃ一生できない立ち回りだろうけどね。
帰宅がてら、連絡先交換してたtiktokライバーの女にLINEしようとしたとこで着信。
ん――美羽からDM来るの初めてか?
宇宙人がラグナレクに拉致られたから、一緒に助けて欲しい……か。
あ"ーどうすっかな。もう大分遅えけど、美羽に貸し作っとくのも悪くねえな。
***
「阿含さん、ご足労いただきありがとうですわ」
「いいよ、ちょうど時間あったからね」
「あっ、金剛君も来てくれたんだ!」
美羽と合流すると、予想通りモブも一緒だった。(当然シカト)
移動がてら走るフォーム,スピード,スタミナから、奴のおおよその力を算出。
組手ん時と比較してLV12→14ってとこか。
レベルアップおめでとさん。今更オレもそんなことはもう一々気にはしないよ。
こっちはこっちで、モブとの格差を更に引き離せる算段見つけたからな。
美羽達に先導された先、夜の埠頭にラグナレク達は待ち構えていた。
下っ端の数は少なかったが、拳豪が3人いやがった。
この前戦ったデカブツと、網メガネ。そして帽子の男。
ジークフリートと名乗った第五拳豪の帽子野郎は、やたらと不機嫌な様子で意味不明な挙動を繰り返す。
ふざけた奴にしか見えねえが、こいつはそこそこ歯ごたえがありそうだな。
タイマンならともかく、3人同時相手となると少し骨が折れそうだが……。
弟子級,妙手,達人の三段階があり、弟子級はその中で更に3つに区分けされるんだと。
武術未経験者を卒業した程度の、そこらへんの喧嘩自慢レベル。要は武術家の最下層。
肉体や技の力を鍛えることに励む段階の
力を付けた後、精密性を研ぎ澄ます段階の
帽子野郎は開展の練度が高まってる辺りか。モブにゃキビい相手だな。
「作曲を邪魔されたことは腹立たしい。しかしここで阿含氏に出会えたのは天啓。
あなたは、暴力性と規則性を兼ね備えたリズムを纏う闘士。
我が友であるトールを下した実力もさることながら、その力には興味が尽きません」
網メガネが去り、美羽が宇宙人を捜索しに向かっていった。
その間に帽子がゴチャゴチャ言ってるが、男に言い寄られても嬉しくねー。まあ、オレ様の才能に対する評価は認めたげるよ。
「一度負けた身ゆえ、金剛の相手はジークに譲ってやるわい!
その代わりに、ハーミットが仕留め損ねた白浜はワシがもらいうける!」
デカブツはモブとやる気満々だ。
奴もあれから特訓したのかしらねえが、雰囲気が変わってんな。
「おいモブ、あのデカブツはオレが楽勝で勝った時のレベルじゃねえ。精々気をつけな」
「え、あちょっと!」
モブの返事を待たずに、オレと帽子は場所を移す。
あんな木っ端にもアドバイスしてやるとは、オレ様も甘っちょろいな。
「ラーラーラーラー↑ラーラーラーラー↓♪」
……なんでオレはベートーヴェンの第九を聴かされてんだ?
こいつ、攻める気配がまるでねえ。カウンターでも狙ってんのか? ま、めんどくせえからワンパンで終わらせるか。
「精々舌噛むなよ」
おもむろに距離を詰め、顎下目掛け左フックを浴びせる。
着弾間際でも反撃の気配がねえけどいいの?
決まった――いや、手応えが違う! こいつ、オレの打撃を喰らいながら、軸をズラしていなしやがった。
と同時に、帽子の体がコマの様に旋回する。
「メゾフォルテ(やや強く)!」
旋回した先から放たれた手刀が、オレのこめかみに――
見えてる攻撃が超反応に通用するかよ。コンマ1秒速かったら惜しかったかもな。
「なんと、私の"輪唱アタック"を初見で躱したのは貴方が初めてです……!」
だったら表情に出せって。
セリフとは裏腹に帽子は無表情のままだった。まだ想定の範疇ってか?
左右から攻撃を加えりゃ逆方向からこいつのカウンターが飛んでくる。なら直線で殴りゃいいだけだ。
中段突き。ボディへの攻撃なら、いなすためには後ろに逃げるしかねえ。
帽子が無抵抗のまま、みぞおちに打ち込まれたオレの拳を受け止める。
――瞬間、奴の体が「く」の字に勢いよく折れた。
「スラー(なめらかにつなげ)&フェルマータ(ほどよく伸ばす)!」
「おっ……? フン……」
迫る頭突きを皮一枚で回避。
オレの攻撃を完全に脱力したまま受けて、体を折り曲げた勢いで狙ったのか。
踏み込みを半歩緩めてなきゃ、超反応でも間に合わずに食らってたな。
「ふむ、"流水の調べ"にも対応しますか。反射神経と戦闘勘は見事なものです」
大分読めてきた。こいつは変則カウンター専門の"後の先"野郎だ。
"輪唱アタック"ってやつはクセが強えし課題点もある。
でも遠心力とか色々運用してておもしれー。とりま頭の片隅にブックマークしとくか。
つかこいつ……
「お前、いいとこのボンボンだろ」
「その心は?」
「目と身だしなみ見てりゃなんとなくわかんだよ。
不良ごっこなんぞしやがって、何不自由ないボクちゃんの遅れた反抗期か?」
我ながら安い挑発だ。帽子も軽く流してくる。
「そっくり金剛氏にお返ししますよ。何故わざわざ血生臭い闘争に身を投じるのです。
貴方の素質ならば普通に生きているだけで、大抵の事象は思い通りになるでしょう」
一理あるな。だがオレは知っちまった。
オレが初めて才能の全てをなげうってもいいと思えた事象。
武の深淵を覗いちまったからな。
「乾いてんだよ。人生思い通りに行くかどうかなんぞ、どうでもいいくらいにな」
「私も同じですよ。闘争から生まれるメロディに焼かれ、焦れてしまっただけのこと。
人は愚かで欲は果てしない。飢餓が解決すれば次は身の安全を求める。
治安が満たされれば、今度は便利な道具を欲す。
文明の利器に囲まれ何不自由無くなれば、その結果先人達が死に物狂いで手に入れた"安全"を放棄し、リスクを承知で刺激と娯楽を求め出す。
なんとも皮肉な話です」
クク……と無意識にオレの口から笑みが漏れる。
どうやらこいつもオレと同類だったようだ。
正直、嫌いじゃない人種だ。だからこそ、才能の格付けだけはここできっちりやらねえとな。
「そうかよ。お喋りで中断して悪かったな」
パンチングマシーンで遊ぶような、わざとらしい程の隙だらけなテレフォンパンチ。
アホなら好機とばかりにオレに飛びかかるが、多少頭がキレるやつなら罠だと見抜くだろう。
帽子も後者で、顔面へと弓引かれるオレの右拳に対し臆することなく身構える。
「残念ですが、フェイントなのが見え見えですよ」
ハナからまともに当てるつもりはねえ。
帽子の宣言通り、ヒット直前でオレは拳を寸止めする。
そんなオレの腕へと、関節でも捕えようとしたのか掴みかかってきた。
全ては新技を炸裂させるための、このオレの布石だと知らずにな。
「そらよ」
寸止め状態から軽く拳を顔面に押し込んだところで、帽子が衝撃の軸をずらすべく反応する。
そのコンマ数秒後、オレの身体は淡い光に纏われる。
「"
「おおう!? 裏拍っ!?」
"気の発動"時に身動き出来なかった弱点は、既に克服済。
モブとの組み手後に速攻で解消したわ。まあ才能ってやつだね。
その際、未熟だった気の運用で悪癖が生まれてね。
そいつを利用した、二度の衝撃を生む拳だ。
帽子は遅れてやってきた正体不明の衝撃により、意図しない形で更に後方に仰け反る。
「ぅ……コンブラブーラ(巧妙)に!」
帽子の身体を掴み固定し、アスファルトの地面に叩きつける。
直前、どうにか詰み盤面から逃れようと藻掻く奴の蹴りが、オレの側頭部を視界外から掠める。
チッ……わざわざ必要以上のダメージを与えないように、舐めプ制圧してるからな。
まあ、こういうもらい事故は割り切るしかねえ。
「しょうもない悪あがきすんなよ。
詰みに気付ける程度の知能はあるよな。お友達のデカブツもちゃんと敗北を認めたぜ」
「ッッ……確かに、今私がこうして意識があるのは、後頭部ではなくわざわざ肩から地面に叩きつけられたから……。
暴力性と規則性を兼ね備えたあなたのリズム……お見事でした」
マウントポジションから見下される帽子から、身体の緊張と戦意が喪失する。
また一つ、オレの才能が証明された。全身を充足感が包みかけると――
もう一つの戦いの決着。それを告げる炸裂音の様なものが、背後からオレの耳朶を叩く。
「ぬうう……なんという一撃じゃ! もったいぶって隠し持っておったとは……」
苦悶の表情で腹を抱え、膝をつくデカブツ。
「こ、この突きは……!?」
全身汗と傷に塗れフラつきながらも、呆けた様に己の右腕をしげしげと眺める、モブ。
しばらくしてデカブツはバカ笑いをあげながら、あっさりと負けを認めた。
「あ"ー……?」
拳豪2人を手加減したまま難なく屈服させたオレ。
拳豪にボコられ続けようやく辛勝したモブ。
格の違いは歴然だ。気の発動にも慣れて、奴を更に引き離したはず。
なのに、なんだこの腹にこびり付つ違和感は。
……原因は、さっき背後から聞こえたあの一撃だ。あれは凡才が出していい音じゃねえ。
生まれついてのモブが、別の生き物に変身しようってのか?
どうやら、もう1回ヤツを
――翌日、オレは臨戦態勢中に生涯初のクリーンヒットを許すことになる。
初めて日刊乗りましたありがとうございます。
しかし感想の受信通知が急にgmailに来なくなりました……