9話 阿含「ケンイチ君、どんな惨めな顔しとんのやろ」
また
乱戦の中で第三拳豪(アマゾネさん)に即KOされ、タイマンでは第一拳豪(白スーツ)に完敗。
おめーはバグからモブに格下げな。
だが、上位拳豪が出張るってこたぁいよいよだ。
ラグナレクも拳豪が半分離脱して、大分焦げ付いてやがる。
とりま、あいつの惨めなツラでも拝もうかね。
ちっぽけなプライドと自信を圧し折られて、さぞ荒れてんだろうな。
***
「どうじゃケンちゃん、ここは一つワシ直々の修行を受けてみては!?」
ヤバいなんだこいつは……ヤバい!
ってオレ、前にもこのセリフ言ったことあるような……。
梁山泊に寄って早々、過去一度肝抜かれたわ。
天を貫く存在感。巨大な老人が、落ち込んでるモブに手を差し伸べる。
後で聞いたら美羽の
ヒゲッさんや傷ッさんは
だが祖父さんは、カテゴリにハメられる気がしねえ。
祖父さんが言葉を発する度、モブの目が希望で輝きやがる。
動くだけで、オレの細胞が反射的に反応する。
目を合わさずとも、オレの一挙手が観測されてる気がする。
人は車にマラソン勝負を挑まねえ。コンピューターに解析対決を挑まねえ。
爺さんに強さで挑むってのは、多分そういうことだ。
モブが祖父さんに意気込んだり、迫力にガクブルったりしてる間に撤収。
師匠達の反応からして、モブはやべー修行(拷問?)を仕込まれるはず。
うまくいった暁には、オレや美羽、白スーツの領域に近づくってか?
だったらモブにはオレの影すら踏ませねえよ。
そろそろ選ぶかね。美羽が話してた、静の気と動の気。
オレの才能なら両方に適正あって、自由に選べるはず。どちらを習得すっか――
"天才は凡人を踏み潰して進め。そうすれば俺が報われる"
なんだ? なんで今、雲水の言葉が脳裏に浮かぶ?
そうだ、オレは今揺れている。
モブとの組み手,バグみてえな一撃,モブ子の不意打ち,王子サマの復活――理解が及ばない事象が何度起きたかわからねえ。
そこに加えてあの祖父さんの登場だ。果たしてオレは、正常な判断が出来ているのか。
モブを理解らせ、凡人や格下を踏み潰すために、静か動の力を選ぶ。
本当にそれでいいのか? それとも探すべきか。オレだけの、第三のルートを――
***
時は数日遡る。
「ッッ……各チームの皆様がそろいました!」
ラグナレクの主要基地の一つ。閉鎖されたオフィスビルの一角にある、大プロジェクトルーム。
警備のため同席を許された上級兵達は、室内の光景に生唾を飲み込む。
「どうしたロキ、不服かい?」
「いやあ、これだけ大規模の策を練るのに俺への相談が無いとはね」
完璧なる統率者、オーディーン。
戦う参謀、ロキ。
「私も今日の事は聞いていないよ。オーディーンの独断だ」
「珍しくオレの食指を動かした、新白金連合……。潰すのにあんたが"待った"をかけた理由が、これか」
最強の女兵にして武器使い、フレイヤ。
天賦の右腕、バーサーカー。
ラグナレクの屋台骨ともいえる、スリーオブカードと参謀。
彼らの視線が、対面に腰掛ける2人に集中する。
「龍斗様ーお誘いいただき光栄です! あとリミのLINEも既読スルーせずに、スタンプだけでも返してほしいなぁー」
「世間話はいいから、とっとと本題に入ってくれんかい」
「私のことは"オーディーン"と呼べ、アタランテー。
かつて君がリーダーだった時以来だな、クロノス。焦らしてすまないね」
音速の狩人、アタランテー。
大巨漢、クロノス。
ゴスロリ服の少女とスキンヘッドの大男という対極的な二人。
ラグナレクの対抗チームとされている、ティターン。
その筆頭格の使い手達を呼び出した張本人、オーディーンがデスクに身を乗り出す。
「では話に入ろう。手元に配った資料にある通り、新白金連合という武闘派チームが台頭した。
徐々に力をつけ、我々としても見過ごせない存在となっている」
「確か白浜兼一に金剛阿含という二枚看板を擁しているチームじゃろ。その他に謎の美人猛者もおるとか」
「謎の美人猛者? リミの直感センサーがアラートを告げてるんよ……」
「ああ。白浜はうちのリーダーが直々にぶっ潰したんだけどね。
金剛って曲者がまだいて、うちを脱退した拳豪の一部とも手を組んでやがるのよ」
忌々しそうなロキの態度。クロノス達も余程手を焼いているのだろう、と相手方戦力の潤沢さを悟る。
だが、ただ情報を突きつけられても「だから何だ?」で終わる話だ。次にオーディーンの口から本題が飛び出すまでは。
「我々は元々、拳聖様により立ち上げられたチームだ。多少のトラブルや小競り合いはともかく、卑劣な手段では潰し合わないという暗黙の了解はあった。
どうだろう。ここで一つ新白金連合を潰すため、我らで盟を結ぶというのは?」
その場に緊張が走り、皆の顔色が変わる。
兵隊達は動揺を示し、リミ一人が賛同する中、ロキは提案の真意を読み取り渋い表情を浮かべる。
(そりゃあ……被害の大きい俺らにとっちゃ、ウルトラCだろうよ。
だが、新白金連合と関わりのねえこいつらが、この要求飲むか?
まさか、「ラグナレクが潰れたら次のターゲットはお前らになるぞ」とか脅すわけにもいかねえしよ)
「待てい。あんたを気に入っとるアタランテーはともかく、我らのどこにメリットがある?」
ロキの懸案通り、クロノスが当然の疑問を呈する。
「えー、リーダーのリミが良いって言ってるのに!」
「現リーダーはお主。真っ向から俺に勝った以上異論は無い。
だが、チームのことを考えない独断を前リーダーとして、通すわけにはいかんの」
武人のポテンシャルはリミの方が上。
リーダーの器はまだクロノスに軍配が上がる、といったところか。
それまで静観していたバーサーカーが、噛み続けていたチューインガムを包み紙に吐き出す。
「……こいつらを納得させる手土産があるってことか?」
その言葉を待っていた、とばかりにオーディーンが指をパチンと鳴らす。
「繋げろ」
合図と共に兵隊がパソコンを操作し、プロジェクタを起動させる。
しばらくして部屋に備え付けの巨大なスクリーンが起動した。
『やあ諸君、久しぶりだね』
画面に映し出された、白いフードを羽織るアラサーの男。
アプリか何かで無地に加工した背景をバックに、見た目に合わぬ渋い声をあげる。
達人にして闇の幹部、一影九拳。
拳聖、緒方一神斎の登場に、その場の若人達が一斉に色めき立つ。
「拳聖様!」
「あっ、拳聖様お久しぶり! 相変わらずラスボスっぽい声してますね。
今度オール・フォー・ワンか阿良川一生のモノマネしてくれますかー」
無遠慮に絡みまくるリミを、オーディーンが窘めたことで即座に大人しくなる。
うーん、筋は良い子なのだが……と拳聖がぼやき、場の空気は少し弛緩した。
「確か今は山奥の方で隠遁されているはずでは?」
『耳が早いねロキ。今は闇の基地局が増えて、山中にいてもこうして通信することができる。
恥ずかしい話、私も武術家のコミュニティの中ではしがない管理職でね。多忙を極める身で、なかなか顔を出せずにいた。
正式な弟子ではないとはいえ、一度も指導できていない者に対してはすまなく思っている』
緒方は画面越しに弟子達を一瞥すると、皆が次に待ちわびている言葉を投げかけた。
『今回、龍斗たっての頼みで空き時間を確保しておいた。
オンライン越しで良ければ、君達に個別コーチングを施す予定だ。
後々、武術理念で袂を分かつ者、別の道を歩む者も現れるだろうが、今この場においては皆に等しく教えよう。
定時報告で受け取った情報から、君達の直近の戦闘動画と身体能力のデータは頭に叩き込んである』
「ふむ……これは」
「悪く無い話だ」
本来ならばコネを築いた上で順番待ちし、大金を支払い受講できるのが一影九拳クラスからの直接指導。
その価値がわかるこそ、お呼ばれされたリミ達だけでなく、拳豪達の目の色と気迫も変わる。
金剛阿含と今まともにぶつかれば、フレイヤやバーサーカーでも絶対に勝てると言い切れない。
ならば先に上位戦力をまんべんなく増強するまで。単純ながら堅実な策だった。
「新白金連合とやらの動画も見せてもらったが、白浜兼一君と金剛阿含君は面白い素材だね。
一度実物を見ておきたいところだ」
「……金剛はともかく、白浜は買いかぶり過ぎですよ拳聖様。
――どうだい。策に拘っているものの、本心では君も純粋な武の練磨を望んでいるのではないか?」
肩を叩かれ耳打ちされたロキは、悔しさ混じりにわなわなと震えながらも、歓喜が凌駕していた。
(俺が秘密裏に用意していた乗っ取り計画……新八拳豪も纏めて吹き飛ばす一手じゃねえか。
おもしれえ、やっぱりアンタは俺がいつか屈服させてやる!)
「体は成った。
今ここに潮目が変わる。確信に至ったオーディーンの高らかな宣言が響いた。
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次回は19日の日曜夜に投稿いたします