カードゲーム世界の中心で「遊びで命賭けんな!」と悲哀を叫ぶ   作:平成平

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 主人公一家の名前ぇ……。


序章 異世界転移する角谷家

「『異戒の聖断神アーク・アウロリアス』で、アタック」

「あっちゃー……。私の負けだね、今回はお兄ちゃんの勝ちー」

 

 机を挟み向い合せで座っている俺の妹が、持ったカードをぱらりと手放す。

 

「三勝二敗で、お前の方が勝ち越してるんだから良いだろ。しっかし、相変わらず好きだよな、このカードゲーム」

「そりゃーもっちろーん。外で遊ぶより、兄さんとこうしてた方が楽しいしね」

 

 俺の妹、角谷(かどや)茉奈(まな)は朗らかに笑って近寄ってくる。車椅子の車輪が擦れる音が、がらんとした洋館の中に寂しく響いた。

 

「あ、外がイヤってわけじゃないよ?羽虹良(ばにら)さんの趣味のガーデニングしてる庭も綺麗で、その中を兄さんが車椅子を押してくれる時間なんて幸せだし」

 

 未だ中学生だというのに、茉奈は随分と大人びた考え方をしているように思う。昔の俺なんかよりよっぽどしっかりしていて、兄としてちょっと恥ずかしい。

 

「あ。もしかして、私の体の不調のこととか考えてる?もー、そんなわけないじゃん。駄目だよー、兄さん。目に見えることを簡単にイコールで結びつけるのは」

「はいはい。分かってるよ。ところで小腹が空かないか?今日は俺が菓子を作ったんだが、食べるか?」

「うん、食べる食べる!消化の良いものが良いな!」

「ああ、当然だろ」

 

 二人だけで住むには随分と広い屋敷が、彼女の生きる世界だった。俺たちの父親は戦場カメラマンをしていたが、茉奈が物心付く頃には死んでしまっていた。考古学が好きで幼い俺を何度も旅に連れて行ってくれた母親も、数年前に旅に出たまま行方不明となった。最後に便りが届いた国は、突然内紛が勃発し数多くの外国人旅行者が巻き添えで死んだとか。つまりはまあ、そう言うことだった。

 母親から最後に送られてきたプレゼントの指輪は、俺も茉奈も肌身離さず指に嵌めている。二人とも思い出に縋る趣味はないのだが、どんな理由が有れ、在りし日の母親の行いを無碍にはしたくなかったからだろう。今となっては、古ぼけた骨董品のリングが、愛おしいものに思えている。

 

「……おや。お二人ともご休憩でしたか。ハーブティを淹れました。お飲みになりますか?」

「あ、羽虹良さん。買い出し終わったんだ」

「はい。恙無く。えっへん」

 

 食堂に到着すると、角谷家のハウスキーパーとして雇っている女性、月影(つきかげ)羽虹良(ばにら)が、庭で採れたミントをクリアガラスのティーポットに入れていた。

 ちなみに彼女、形から入るタイプの女性であり、エプロンドレスとヘッドドレスを装着したヴィクトリアンメイドスタイルで街を平気で出歩いている。世間知らずなのは知っているが、ここまで来ると一周回って色々と慣れてしまった。商店街の人達も微笑ましいものを見る目になってるし、本人も気にしてないっぽいし放っておこう……。最近じゃメイド服のお姉さんって小学生にまで認知されているな、羽虹良……。

 

「んー……おいし。あったまるー……」

「それは良かったです。にこにこ」

 

 とある理由で表情が変わることが無い羽虹良は、会話の最後に擬音語で自分の心境を表現する癖がある。どうやら茉奈に褒められてご満悦のようだ。

 

「すまない。席を外すぞ、あと一時間でバイトの時間だ」

「えー、もうちょっとトリルドで遊ぼうよ、兄さん」

「ごめんな。あー……羽虹良、頼めるか?」

「はい。私もあれから腕を磨きました。茉奈様、お相手します。わくわく」

「お、リベンジマッチ?負けないよ~?これでも全国大会行ける実力あるからね!」

 

 ただ、体調を崩して棄権せざるを得なかったんだけどな……。実力的に優勝狙えただけに、日の目を浴びせられなかったのが不甲斐ない。

 

「そーだ。じゃあ兄さん、出かけるついでに最新弾ブースターパック、ボックス一つ買ってきて欲しいなー。今回のレジェンドレア、黒と白のシークレット欲しいし」

「もうどっちも通常版含めて持ってるだろが」

「えー、シクも三枚欲しいのー」

 

 ま、買ってきてやるか。上着のポケットに入れたデッキケースを触りながら、裏庭に面したドアに手をかける。

 

 

『—————、見つけた』

 

 

「……?」

「どうかしましたか?はてな?」

「あ、ああいや……こっちの話だ。気のせいだろう」

 

 何か、変な声が聴こえたが。疲れている、のか?

 

「…に、兄さん?」

「茉奈?」

「私たちの、指輪が……!」

 

 指輪……、は!?これは、宝石部分が、光って…⁉

 

「うぉ!?」

「くっ…」

「きゃあッ‼」

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 —————やがて、眩い光が収まった。

 

「なんだったんだ、今の?」

「うぅー……目がシパシパするぅ…」

「……‼」

 

 羽虹良は俺たち二人の周囲で様子を伺っていたが、弾かれたように虚空を向いた。

 

「何者ですか」

『ふ、ふふ。何者か、その問いに応えよう。私は祈りを導く者。ようこそ、祈る者(プレイヤー)たちよ。この世界へ—————』

 

 怪しい声と、黎明の光が洋館の中を駆け巡る。

 

『ふ、ふふ、ふふふ、ふふふふふ……へぶぎゃッ!?』

「「へ?」」

 

 ……、何か変な声したな?

 

『……、ふ、ふふふっ、ふふはーっはははは!』

「気配が、外に向かっています…。あ、礼司様?」

 

 俺は、声に導かれるように駆けだした。輝く指輪が嵌る指が空を切り、朧気に揺らめくナニカの幻を突き抜けていく。

 

 

 

 走る。

 

 奔る。

 

 迸る。

 

 

 

「……、声に導かれてここまで来た、が。家の近くにこんな場所、あったか?」

 

 石畳の階段を上がると、色褪せた朱色の鳥居が見えて来た。

 

「さっきの声。『この世界へ』、とか言ってたな……?まさか、ここは別の世界だとでも言うのか。そんな非科学的な……」

 

 近くの自販機で買った水を飲みつつ、ボロボロの境内で夕暮れを見ていた。電子決済は使えたから、多分戸籍や口座はそのまま残っている。完全な異世界ではなく、細部が違う並行世界の自分に乗り移ったのか?

 

「この指輪、本当に何なんだ?というか、母さん本当に何やった?今まではこんなことは無かったのに……」

 

 今は周囲の散策を続けよう。そう考えて、神社から立ち去ろうとした瞬間だった。

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

 巫女服を着た、オレンジ色の髪をサイドテールに結んだ少女が箒を持って立っていた。年齢は茉奈と同じくらいだろうか。

 アニメ絵がそっくりそのままリアルに飛び出したような、見覚えがあり過ぎる美少女だった。

 

「……ははっ。マジか」

 

 DCGとして展開されている『トリックスターワールド/ニューオーダー』の女版主人公ちゃんじゃねぇか。

 ということは、まさか……。

 

(ここ、大体カードゲームで物事が解決する世界かよォォォ⁉)




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