カードゲーム世界の中心で「遊びで命賭けんな!」と悲哀を叫ぶ 作:平成平
トリックスターワールド/ニューオーダー
Introduction
「見えたんだ。一縷の光が」
「遊びじゃない。今の自分は、本気だ」
とある近未来、全ての優劣が「トリックスターワールド」の強さによって決定される世界。各国政府は自国のトリックスターワールドトッププレイヤーを国家の代表に据え、威信をかけて戦うプロファイター制度を施行した。
日本の平凡な家庭に生まれた主人公、光一縷(ひかりいちる)は、ある日カードバトルの才能を見出され、プロファイター育成教育機関「トリックスターハイスクール」の門を叩く。一人のファイターが世界を賭けたバトルに身を投じることになる。
(DCG『トリックスターワールド/ニューオーダー』公式サイト世界観設定より、一部抜粋)
■■■■■■
それがDCG『トリックスターワールド/ニューオーダー』における主人公共通のデフォルトネーム。微かな光を引き寄せる一縷の望み、奇跡を起こす人間に相応しい名前。まっすぐで明るい性格をした、暖かい心の持ち主。それが彼/彼女。
ソシャゲのシナリオパートの中心を担う人物にありがちなコミュ力お化け、なのだが……。何分、『トリックスターワールド/ニューオーダー』————略称『トリルドニュー』はシナリオが鬱ゲーと美少女ゲーを掛け合わせたみたいなテンポで進むので、パーフェクトコミュニケーションを行ったとしても痛い目を見てしまう子でもある。
そういう特殊な性癖の人が開発側にいたのだろうか。舞台となる高校に入学した初っ端から、リョナラーが色々喜びそうな目に合っている。というか、『性別を女にした方が可哀そうで可愛い!』みたいな、度し難く良くない目で見るプレイヤーが結構いた。
ぼかされて描写されていたが、成人した人間なら『あ、これってつまりそういう…?』と分かるような塩梅で酷い目に合っている。それも男主人公でも女主人公でも平等に。
『青使いの褐色少女』には窒息寸前まで頭を水槽に突っ込まれるわ腹パンされるわ、『緑使いの戦闘狂』には指を何本かへし折られた上に鉄パイプで何度も何度も殴打されるわ、『黄使いの男の娘』には強姦一歩手前まで行きそうだったわ……。おい特に最後。二回言うが、男主人公でも女主人公でも平等に、このイベントが起きるのである。ホモォ。
何でこんなことされて、最終的にそのメインキャラ三人と友達になれるんだよというツッコミが上がったが……。後々判明した『過去の事件』で頭のネジが何本か消し飛んでいることが分かったり……。
「どうかしました?」
俺の隣でその女の子が腰掛けている。肌荒れすらない白い肌が、橙色の髪の間から零れた。ピアス穴が開いた耳には、今は何もついていない。
中学生にしては発育が良い体格を屈めると、白い小袖から強調してくる豊かな胸が緋色の袴に圧し潰される。一回り近い年下なのだが色々と目に毒だ。性格的に難しいのだろうが、もう少し女性として慎みを持ってもらいたい。
「悪いな、呼び止めてしまって。まさかこの歳で道に迷ってしまうとは」
「いえいえ、新しい土地って大変ですよね、分かります。困った時はお互い様です!あ…、でも出会ったばかりの私じゃ御迷惑でした?」
「いや、全然。ああ、自己紹介をしていなかった。俺は角谷礼司という。この場所は良いな……。今後はここに通わせてもらうさ」
「ありがとうございます!あ、私は光一縷と申します!今後ともこの神社をごひいきに……って変ですかね?」
あぁー……。シナリオで判明していた部分だけでも知っていると、何と言うかもどかしい……。お労しい枠筆頭の主人公がこうもマトモに振舞えるのが、このカードゲーム世界における社会の歪さと度し難さレベルを跳ね上げていると思う。
しかもアニメ展開されていた作品ともクロスオーバー前提の設定共有が成されていて、血縁とか因果とかも込みでエグイんだよなぁこの子。開発側のコメントを見る限り、消された裏設定とかもあったみたいだし。
「……ん、あれ?」
「神社の前が騒がしいな。罰当たりな連中がいるもんだ」
「……ちょっとごめんなさい。見てきます」
「一緒に行こう、子供だけで行かせるのは忍びない」
石段を跳ねるように降りていく光。彼女は風船のように軽やかだった。弾む髪の軌跡が紅い夕暮れに映えている。揺れる巫女服の袖は鳥の羽根のようで、俺は目を離すことができなかった。
階段の麓には、黒い服を着た集団がいた。その中から、茶髪のガラの悪い外国人が前に出て来る。
「よぉ。
「げッ。『オイアグロス・ブラウン』……」
「……何だ?知り合い?」
女主人公ちゃんと違い、こっちは見たことないキャラだな……。原作開始前だからか?
「ええっと……、この神社の立ち退きを要求してくる地上げ屋に雇われたカードバトラーです」
うわー出た、ホビアニ世界で良くあるヤツ。実際に見ることになるとは。だが、現実だと笑い話にならないな。
「人聞きが悪いな。ちゃんと相場以上の金は用意してある。あの爺も婆も老い先短いなら、とっととこの場所を寄越せばいいものを」
「……。どうして、この場所を狙うの?」
「生憎、俺は答える言葉も義理も持ち合わせてねぇ。どうしても聞きたいってんなら、これで決めるしかねぇな?」
オイアグロスとやらは、革ジャンのポケットからカードケースを取り出した。うーん、やっぱり違和感凄いな。普通銃とかナイフとかで脅すだろ、こういうスジモンは。
「というかこっちも疑問だ、どうしてこんな場所に固執するんだ?ああ?」
「……ふっふーん。生憎、貴方たちに答える言葉も義理も持ち合わせてないよ」
地上げ屋連中を嘲り、鼻で笑う光。あーそうだ、シナリオでもちょくちょく出て来るけど、カチンときたら意外と煽るんだよなこの子。見ろよ黒服たち。煽りで色めき立ってるぞ。
「てめぇ……」
「騒がないで。その勝負、受けるよ。私が勝ったらこの場に干渉するのを止めて、あなたたちの目的を吐いてもらう」
「へぇー?んじゃあ俺が勝ったら、この神社の土地を全て貰う。互いに賭けるものは決まったなぁ!」
……正気か、こいつ?
「あー光ちゃん?部外者が口挟むようで申し訳ないが、メリットとデメリットが釣り合ってないぞ」
「構いません。というか、こうでもしないと嫌がらせが終わりそうにないし。おじいちゃんとおばあちゃんの為に、ここであなた達を倒す……!」
胸元に手を突っ込んで、どこに入れていたのか光一縷もデッキのカードケースを取り出した。……本当にどこに入れてたんだよ、胸に挟んでたのか?
(いやツッコミは野暮だな。流石にこれ以上考えるのは止めておこうっと……)
彼女と男が向かい合う。それから起こるのは、アニメやゲームでよく見た光景だった。二人はデッキを突き出し高らかに叫ぶ。カードによって運命を決める戦いの合図を。
「「レディーファイト。トリックスターワールド」」
俺はその超常現象を知っていた。デッキから九枚のライフカードが飛び出し、別時空間『トリックスターワールド』への扉を創り出す。二人は自分の目の前に出現した異次元ゲートを潜り、消えていった。
「おう、兄ちゃん。あの乳臭ぇ巫女中学生の知り合いか?」
「……それが?」
「こっちに来い」
うげ、黒服の男たちに囲まれた。護身術程度なら習った覚えがあるけど、この人数だと、流石に……。
「……何故?」
「何故ってお前……見たところ『ワールドヴィジョンデバイス』持ってないだろ。バトルの様子が気にならねぇのか?」
あ、異空間内の映像見せてくれんのね。こういうところ、カード至上主義で助かるわ……。
■■■■■■
この世界において、カードゲーム『トリックスターワールド』とは誰にでも使えるよう簡略化された魔術儀式の一つとされている。護符=カードに宿る魔力を用いて異空間を形成し、その中でバトルを行うことで強制力が働く、というのがアニメでの大まかな設定だったはずだ。
バーンスタイン財閥が開発した『ワールドヴィジョンデバイス』が空間投影する画像内で、異空の地に立つ二人。彼女らは、腰の高さで浮遊する板『カードフィールドボード』に己がデッキを置いた。
この『カードフィールドボード』こそが異空間内におけるTCG用プレイシート。シート内は右側上部が『デッキエリア』で、その下が墓地である『セメタリーエリア』、左側は六枚の裏向きのライフカードが置かれた『ライフエリア』となっている。そして、中央部は横に三分割されており、上部は相手に攻撃可能なユニットを召喚できる『モンスターエリア』、中部はコストを支払い唱えることができる魔法を生む場『トリックエリア』、下部は初期コストとなる表となったライフカード『祈り手の命の欠片』が置かれた『ワールドエリア』となっている。
「私から、か……。スタートフェイズ。ドローフェイズ」
【一縷の手札:4→5枚】
カードフィールドボードが光った。先攻は光一縷となったらしい。
「メインフェイズ。『サキモリザード』、『テッカバード』を召喚」
彼女は、ワールドエリアに初めから置いてあったライフカード『祈り手の命の欠片』を横向きにする。カードが横向きの状態はレスト状態と呼ばれ、行動がこれ以上できないことを示している。ワールドのエナジーが使用されたことによって、対応するコスト数のモンスターやトリックを召喚や行使ができる。
ちなみに、それぞれのカードに対応する色を持つワールドをレストしなければならない。だが『祈り手の命の欠片』が有するスキルは『色を一色指定することで、このワールドは指定された色を得る』という便利なものであるため、コストの支払いはライフカードを使用すればほぼ問題は無い。気を付けるべきはライフカードを全て使用しワールドカードを用いる時だが……それはまた後程。
【一縷のフィールド】
【モンスターエリア】『(1)サキモリザード/BP1000』『(3)テッカバード/BP3000』
【トリックエリア】なし
【ワールドエリア:使用可能コスト0】『祈り手の命の欠片』×3(レスト状態)
【一縷の手札:3枚】
どうやらデッキ構成は、俺の知っている彼/彼女のデッキと変わりないらしい。フィールドに出た槍使いの竜人と武装した鷲が雄叫びを上げる。
「テッカバードの召喚時スキルで、ワンドロー。ターンエンド」
【一縷の手札:3→4枚】
第二ターン、オイアグロス。
「スタートフェイズ。ドローフェイズ。チャージフェイズ、『闇蠢く洞窟』を展開」
後攻からはターン進行に、コストとなるワールドを展開できるフェイズ、『チャージフェイズ』が追加される。ワールドエリアに置かれたのは、緑のワールドカード。二人が立つ異空間内にも変化が起き、オイアグロスの背後の地面が迫り出し、不気味な洞穴が形成された。
【オイアグロスの手札:4枚】
「メインフェイズ。『クイックローチ』を召喚。召喚時スキルでデッキを上から三枚オープン。その中にワールドカードがあればワールドエリアに展開できる。残ったカードは墓地へ送る」
グロテスクな緑がかったゴキブリが金切り声で叫び、オイアグロスのデッキトップを操作する。オープンされたカードは『シケイタッグビートル』、『クイックドロー』、『粘液滴る岩肌』。
「ワールドエリアに『粘液滴る岩肌』を展開」
【オイアグロスのフィールド】
【モンスターエリア】『(3)クイックローチ/BP3000』
【トリックエリア】なし
【ワールドエリア:使用可能コスト2】『祈り手の命の欠片』×3(レスト状態)『闇蠢く洞窟』『粘液滴る岩肌』
「……アタックフェイズは何もしない、ターンエンド。エンドフェイズ時、墓地にあるトリックカード『クイックドロー』のスキル発揮。墓地にあるこのカードは手札に戻る」
緑属性のデッキの特色、ビートダウンの下地作りが着実に行われている。イニシアティブはオイアグロスが握っているな。光一縷はコストのアドが開いていく前に決めきれるか?
「スタートフェイズ。ドローフェイズ。スタンドフェイズ、『祈り手の命の欠片』をレスト状態からスタンド」
行動不能を示すレスト状態は、自分のターンのスタンドフェイズで解除され、スタンド状態に戻すことができる。コストを支払ったワールド、攻撃や防御を行ったモンスターどちらも対象だ。
「チャージフェイズ、『月光宿す勾玉』を展開。メインフェイズ、『狛獅子コウハク』を召喚」
「……。やっぱり赤と白の混色デッキだったか、お前」
また、これも基本だがモンスターの召喚やトリックの使用でコストを支払う際、フィールドにあるモンスターのライフエナジーの数で軽減することができる。
『狛獅子コウハク』の召喚に必要なコストは3だが、コスト軽減に用いることができるのは赤のライフエナジーが最大2つ、白のライフエナジーが最大2つ。つまり、一縷のフィールドには赤のライフエナジーを1つずつ持つ『サキモリザード』と『テッカバード』がいる為、支払うコストは1つで良い。
第一ターンでコスト1のサキモリザードを召喚した後、コスト3のテッカバードを2コストで召喚できたのはこのシステムのおかげである。
【一縷のフィールド】
【モンスターエリア】『(1)サキモリザード/BP1000』『(3)テッカバード/BP2000』『(3)狛獅子コウハク/BP2000』
【トリックエリア】なし
【ワールドエリア:使用可能コスト3】『祈り手の命の欠片』×3(1枚レスト状態)『月光宿す勾玉』
「そして……、『月甲姫将ロードツクヨミ』を召喚」
異空間内の世界が、急に夜になった。月光が差す雲間から、何か輝かしいものが降りて来る。射干玉の髪を思わせるコード、緋色が一部に混じるウィングスラスターユニット、周囲を浮遊する三日月型の偏向射斬撃浮遊ユニット。
神々しくも儚げな雪細工。それが、月より降り立った絡繰りの姫君だった。
「それがお前のキーカードか…!」
【モンスターエリア】『(1)サキモリザード/BP1000』『(3)テッカバード/BP2000』『(3)狛獅子コウハク/BP2000』『(5)月甲姫将ロードツクヨミ/BP10000』
【トリックエリア】なし
【ワールドエリア:使用可能コスト1】『祈り手の命の欠片』×3(全てレスト状態)『月光宿す勾玉』
【一縷の手札:2枚】
「……アタックフェイズ。『サキモリザード』でアタック。アタック時スキルでこのモンスターのBPをプラス5000する」
ついに光一縷が動いた。モンスターカードをレストし攻撃命令を下すと、槍を持った竜人が駆けだした。
「(『サキモリザード』が俺のモンスターを破壊した時、『狛獅子コウハク』のスキルで1枚ドローされる。なら……)ライフで受ける。ライフで受けた時、ワールド『闇蠢く洞窟』のパッシブスキルでデッキから1枚ドロー」
【オイアグロスのライフ:6→5】
【ワールドエリア:使用可能コスト2→3】
ライフが破壊されると、ライフカードは表向きにされ『祈り手の命の欠片』に変化し、ワールドエリアに置かれる。ライフが削られると敗北に一歩近づくが、使用可能コストが増えるというメリットが存在する。
「続けて、『月甲姫将ロードツクヨミ』でアタック。バトル時スキル発揮。相手のモンスターを最大2体まで手札に戻す。『クイックローチ』をバウンズさせる」
「フン。3コストを支払いバトルトリック、『トラッピングウェブ』を使用。このトリックカードの効果で、相手のコスト4以下のモンスター全てをレストさせる。『テッカバード』と『狛獅子コウハク』をレスト状態に」
(……さっきのライフを削った時にドローしたのか。これで私の残りモンスターは攻撃行動ができない)
「ツクヨミのアタックはライフで受ける。『闇蠢く洞窟』の効果でワンドロー」
「ターンエンド。エンドフェイズ時、『月光宿す勾玉』のパッシブスキルで、自分のレスト状態のモンスターを全てスタンドさせる」
ここまでは一進一退と、言ったところか。俺の周りの黒服たちは盛り上がっているが、序盤も序盤。ライフが無くなれば召喚や支払いのためのワールドが増える。
「スタートフェイズ。ドローフェイズ。チャージフェイズ。『粘液滴る岩肌』の効果。チャージフェイズ時にワールドカードを展開しないことで、自分はデッキから一枚ドローできる。俺はドローを選択」
ワールドカードが無かったのか、それとも手札にキーカードを引き寄せたいのか……。光一縷のフィールドには行動可能状態のモンスターしか存在しない上、あの『月光宿す勾玉』のもう一つの効果も警戒しているからか。
やられ役のような外見をしているクセに、中々できるじゃないかオイアグロスとやらは。
「メインフェイズ。『シケイタッグビートル』、『クイックローチ』を召喚。クイックローチの効果でデッキから3枚オープンし、その中にあったワールドカード『誘蛾の樹海』を展開。そしてトリックカード、『クイックドロー』。メイントリック効果でデッキから1枚ドロー」
セメタリーに落ちたのは両方ともモンスターカード、『シルクモスキート』と『ドラゴヤンマー』か。だとしたら、奴のデッキ構築はおそらく……。
「そっちが仕掛けて来たんなら、俺も見せなきゃ失礼だよなぁ!」
「来る…!種族『ワーム』デッキのキーカードの一つ!」
光一縷も何が来るのか分かったらしい。旋風が世界を吹き暴れると、生臭そうな死が漂い出した。
「召喚!『幽鬼蟲ヘルゴーストマンティス』!」
「……!」
闇のように粘り付く風を切り裂いて、巨大な躰を持つ化物蟷螂が劈く絶叫を迸らせた。
ルールとかは考えてるけど、最低限しか書いてないから読者を置き去りにしていないだろうか……。