魔女教大罪司教『強欲』担当の福音の日々   作:マチガウ生活

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 第五話まで物語を書いているので、ちょっとずつ投稿します~。


第一話 全ての始まり

 宮下(みやした)聡(さとし)にとって、生きている世界は苦痛の何物でもなかった。

 

 『病気』を患ってからは、自分から見た世界が色を失い、毎日をただの時間つぶしだと考えるようになった。

 

 医者からは言われた。病状は時間と共に良くなるが、完治する事はないと言うことを。人生の半分は今の状態であると言うことを。

 

 絶望した。こんな状態が、何十年と続くのかと言うことに。だからこそ、自分が何とか壊れないように平静を保ち続けた。医者から処方される薬も良く効いていたおかげもあったのかもしれない。苦痛ではあるが、毎日ごまかして生き続けていた。

 

 そんな折りである。とある、作品に出会った事で大きな変化が生まれた。

 

『魔女教大罪司教、『怠惰』担当。ペテルギウス・ロマネコンティ・・・・・・デス!』

 

 偶然、異世界物アニメを漁っている内に『Re:ゼロから始める異世界生活』という作品を知った。だから、なんとなくアニメを観てみようと思った。

 

 そして、聡はその作品に出てくる『魔女教』という存在に心が大きく惹かれた。いわゆる敵サイドなのだが、その中でも幹部である『大罪司教』と呼ばれる人たちは、『権能』と呼ばれるチート能力を有する。加えて、中々個性的なキャラをしていた。そして、『福音書』の記述のためなら、全てを犠牲にしようとも遂行する狂信者達だ。『魔女教』という設定が、聡にとってかなり魅力的に映った。もしも、自分も魔女教の一員であり、魔女教の幹部である『大罪司教』であったら、どんなキャラであるか妄想もした。今思えば、聡にとって遅すぎる厨二病だったのかもしれない。

 

 だからこそ、暇だった聡はとある行動に出る。

 

 

 そう。魔女教が信仰する『サテラ』を聡も信仰し始めたのだった。

 

 

 行動は早かった。まず、不規則な生活を正した。普通の人なら出来る事だが、規則正しく、朝起きて夜寝るという生活から始めた。三食決められた時間に食事も取った。今までの聡なら外に出る事ができなかったが、外で軽い運動も始めた。

 

 そして、時間が空けばサテラに祈りを捧げた。作中では魔女教に祈りの描写はないが、聡は瞑想して心の中でただ、サテラの事を思い続けていた。これら全ては、サテラの『愛』に報いるために。

 

『愛』・・・・・・そんな、漠然とした考え。聡自身、分かっていなかった。不思議と、サテラに祈りを捧げる事で平常心を保つ事ができた。

 

 それを見た周囲の人たちは、聡が新興宗教にはまったのではないかと疑ったが、瞑想しているだけで誰にも迷惑をかけていなかった。むしろ、聡の大きな変化を周囲は素直に喜んだ。

 

 

 そして、物語は始まる。

 

 

 それは、いつもの様に聡が自室でサテラに祈りを捧げている時だった。

 

 パサッ。

 

「・・・・・・ん?」

 

 何かが落ちる音が部屋に響いた。部屋にある棚から何か落ちたのだろうと、何となく音の方向に目を向けた。

 

 そして、それはそこにあった。

 

「・・・・・・本?」

 

 聡は立ち上がって、本らしき物を手に持つ。見たことがない本だ。片手に収まるぐらいの黒い装丁をした本で、表紙やタイトルが記載されていない。まるで、創作物に出てくる魔法書の様な雰囲気さえ感じた。

 

 もちろん。こんな、本に聡は見覚えがなかった。間違っても、自分の私物ではない。そしてなんとなく、聡は本を開けてペラペラと捲ってみる。現代の綺麗な紙ではなく、年期の入った素材の紙だった。所々、カサカサとした感触が手に伝わる。

 

「・・・・・・何も書かれていないな」

 

 どのページを開いても、何も書かれていなかった。誰かのイタズラか? そう、思っていた時。本の最後のページに文字を見つける。そこには、日本語で、こう書かれていた。

 

 

『私を、愛し続けて』

 

 

「っ⁉」

 

 途端、聡は全てを理解した。これは、ただの黒い装丁の本ではない。これは・・・・・・

 

「・・・・・・福音書」

 

 その言葉を発した瞬間、世界がゆがむ。聡は立っていられないほどの、気持ち悪さを感じた。

 

 そして、

 

『愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している』

 

「がああああああっ!」

 

 思わず、聡は福音書を落としてしまう。

 

 耳に・・・・・・いや、これは直接脳内に語りかけている。今までに感じたことのない不快な感覚。聡は、思わず両手で頭を抑える。

 

 そして、意識を手放す時までその声は聞こえるのであった。

 

 

 真っ暗な世界。床も天井も分からないその場所で聡は目を覚ました。しかし、どこか夢見心地で完全には意識が覚醒していなかった。

 

 その世界の特性と今の状態で、まるで空中に体が浮いている様だった。

 

 聡の体は動かせない。声も発せない。しかし、不思議とこの世界が心地よかった。安心感すらあった。

 

「っ⁉」

 

 聡の目の前に突如、少女が現れた。鼻と鼻がくっつきそうな距離。銀髪の少女だった。かなり顔が整っており、まるで精巧な人形の様だった。その少女は両目を閉じている。

 そして、ゆっくりと少女の両目が開かれる。その色は、紫紺色だった。

 

 しかし、その目には狂気を孕んでいた。狂愛とも呼ぶべき愛を渇望している、濁った目だった。

 

 それを、聡は真正面から見る。動かなかった体が自然と動き、なぜか声も発する事ができた。

 

「・・・・・・サテラ」

 

 彼女の頬を片手でそっと触って、聡はそう言う。 すると、少女・・・・・・サテラは優しく微笑んだ。自分が愛している聡が名前を呼んでくれた事に。

 

 サテラは、おもむろに聡を抱きしめる。聡は答えなくてはいけないと思い、同じようにサテラを強く抱きしめた。

 

 そして、サテラから聡に何かが流れてくる様な感じがした。それは、とてつもない大きな力であり、常人なら発狂してもおかしくない絶対的な力。これは、サテラが聡に『魔女因子』を渡している事に他ならなかった。

 

 そして、聡はこの力の全てを感じとった。魔女教大罪司教の権能。それが、流れてくるのが聡は感じた。

 

 しかし、全ての大罪の魔女因子を取り込める事など、人の身である聡には絶対に出来ない。サテラから流れる魔女因子は、聡に適合するものだけ。それを聡は代償をなしに全てを受け取る。

 

『強欲の権能』それが、適合するのが聡には分かった。

 

 そして、サテラから直接受け取ったせいか強欲の権能が、『大きく強化』されているのを聡は感じ取った。これは、レグルス・コルニアスが使っている権能よりも、はるかに強大な力だ。

 

 そして、聡は魔女因子によって、体が作り変えられていくのが分かった。魔女因子に適合するためだ。

 

 全てが終わると、サテラは聡から少し距離を取る。そして、サテラは両目から涙を流しながら、

 

「愛して」

 

「・・・・・・ああ」

 

 サテラはそう言った。そして、その愛に聡は答える。全てを失っても、その願いだけは叶えようと。

 

 すると、突然この世界に光が満ちてくる。名残惜しいが、そろそろ時間だと聡は悟った。

 

「またな」

 

 そう言って、光がこの世界を全て満たし、聡は意識を失うのであった。

 

 

「・・・・・・はっ!」

 

 とっさに、聡は起き上がる。意識を取り戻すと、そこはどこかの浜辺であった。視界一杯に、青い空と広大な海が広がっていた。海独特の、磯の香りもした。

 

「夢・・・・・・じゃないよな」

 

 聡が先ほど、サテラと会ったこと。それを、夢じゃないと断言する。

 

 なぜなら、

 

「はっ!」

 

 聡が軽く上に手を振るだけで、それは起きた。小さいながらも、まるでモーゼの十戒の様に、海が割れたのだ。その衝撃によって、海の水が雨のように聡に降り注ぐが、一滴も濡れる事はない。

 

「・・・・・・やっぱり、強欲の権能を持っているか・・・・・・って」

 

 そして、気づいた。自分の髪色が白髪に染まり、何やら黒いローブを着ている事に。一度、ローブを脱いで確認すると、魔女教の法衣である事が分かった。

 

「部屋にいたときは、ジャージだったから法衣の下はジャージだな。靴は、なぜか自分が愛用しているスニーカー。そして・・・・・・一文無しである」

 

 ふむ。と、片手を顎に手を当てて聡は考える。これでは、まるでリゼロのスバルと同じ状況だ。

 

 しかし、スバルと違うのは、サテラの『愛』に報いること。それをするためなら、全てを犠牲にしてでも良いと聡は思っていた。

 

 もしかしたら、自分は狂ってしまったのではないかと聡は思った。

 

「・・・・・・けど、それでいい」

 

 なぜなら、こんなにも満たされているのだから。それに、答えるのが道理だと信じて疑わなかった。 日頃から、サテラに祈りを捧げていたのだ。それに、サテラが答えてくれたのにすぎない。自分はサテラのために行動するだけだ。

 

 しかし、だ。

 

「そもそも、この場所がどこか分からないし・・・・・・とにかく、人のいる場所まで行くか」

 

 そうと決まれば、聡は行動しようとした時だった。

 

「あ、福音書が落ちている。これも、持っていかないと」

 

 浜辺に落ちていた福音書を拾う。なぜか、落ちていたというのに、全く汚れていない。だが、軽く聡は福音書の汚れを落とすように触る。

 

「行くか」

 

 そうして、聡は歩きだしたのだった。

 

 

 歩き出してしばらくすると、アスファルトの道路が見えてきた。いきなり、浜辺という場所で目を覚ましたから、最悪ここが無人島なのではないかと聡は思ったが、それは杞憂だった。

 

 道路にそって歩く。普通の道路だ。時々、車がすれ違うが、特に気になる事はない。日本車の様だ。チラリと見たが、運転している人も普通の日本人そうだった。

 

「よくある、中世ヨーロッパみたいな異世界ではなさそうだな。道路標識も日本語だし、と言うことは、僕の部屋から別の場所にテレポートしたのかな?」

 

 まだ、そうだと言い切れない状況だ。聡はとにかく、全く疲れない体を動かして、人のいる場所を目指すのであった。

 

 

 聡が歩くこと十五分。港街が見えてきた。とりあえず、情報収集のため近くの人に聞いてみる事にした。

 

「あのー。すみません」

 

「はいはい。どうしましたか?」

 

 聡は近くにあった個人店の八百屋で、店員の一人であろう、人の良さそうな老婆に声をかける。

 

「ここって、どこですか?」

 

「ここは、新潟市だよ。観光客かい?」

 

 観光ではないが・・・・・・と、聡は思ったが、やはりここは日本みたいだ。聡が住んでいた場所からかなり離れている場所だが、帰れない事もない。お金はないが、強欲の権能はある。いざとなれば、それを使えばすぐにでも帰る事ができるだろう。最も、サテラによってここに飛ばされたと言うことは、何か意味があると聡は確信していた。

 

 とにかく、ここを離れる訳にはいかない。そう、思っている時だった。

 

「あんた。変な格好をしているねえ。よく言う、コシプレってやつかい?」

 

「え? ああ・・・・・・」

 

 それを、言うならコスプレだろうと、あえて聡はつっこまなかった。

 

 そういえば、魔女教の法衣だった事に聡は改めて気づく。あまりにも、体になじんでいるから気づかなかった。

 

「まあ、いいさ。鎮守府でも観光しに来たのかい?」

 

「鎮守府?」

 

 老婆が言った単語は、聡には聞き慣れない物だった。確か、日本が戦争していた時。つまり、軍関係の言葉だった様な・・・・・・そんな、程度の知識しかなかった。

 

「鎮守府と艦娘のおかげで、一時、大変だったけど、この港街は平和そのものさ。ありがたい事だねえ」

 

「・・・・・・」

 

 老婆がしみじみ話すが、聡には老婆が話す言葉が何一つ分からなかった。

 

 艦娘? 深海棲艦? どれも、聡は聞いた事がない。

 

「あの、艦娘とか深海棲艦って何の事ですか?」

 

「・・・・・・あんた、おかしな事を言うんだね。知らないのかい?」

 

 怪訝な顔で老婆が聡の事を見る。とっさに、言い訳をしようと思ったが、特に聡は思いつかなかった。

 

「変なやつだねえ。まあ、いいさ。観光を楽しむんだねえ」

 

 そう言って用は済んだと、老婆は店に戻る。

 

 聡は一人考える。艦娘に深海棲艦。更に、情報を集める必要があると思うのであった。

 

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