魔女教大罪司教『強欲』担当の福音の日々   作:マチガウ生活

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第二話 警報

 

「えっと・・・・・・ここで、合っているよな?」

 

 聡がついた場所は、市内の図書館だった。新しく建てられたばかりなのか、綺麗な見た目をしている。それに、広そうだ。

 

 自動ドアをくぐって中に入ると、目に入ったのは、本が収められている大きな本棚。それなりの人数が図書館を利用しているのが分かった。

 

 そして、チラチラと聡を見ているのが分かる。まあ、先ほどの老婆が言ったように、法衣はまるで魔法使いのローブの様な物だ。変なコスプレをした人がいるという視線が、ひしひしと感じられた。

 

 とにかく、聡は行動する。目当ての物を見つけ、利用しようとしたが、注意書きが目に入る。どうやら、受付で利用する主を伝えないといけない用だった。

 

 とりあえず、聡は受付に向かう。

 

「すみません」

 

「はい、何でしょうか?」

 

 若い女性が受付に座っていた。にこやかな笑みを浮かべて、聡に対応する。一瞬、法衣を見られたが、受付の女性は気にしない事にしたようだ。

 

「パソコンを使いたいのですが」

 

 そう、聡が目当てにしていたのは図書館にあるパソコンだ。それで、情報収集をしようと思っていたのである。

 

「かしこまりました。一人につき、パソコンの利用時間は一時間までとなっています。こちらへ」

 

 受付の女性が言うと、パソコンのある机まで歩いてく。聡はついていくと、受付の女性がパソコンを操作して席を譲ってくれる。

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 聡は受付の女性に礼をすると、早速パソコンを使って調べ物をした。

 

「まずは、鎮守府からだな」

 

 ホームページを立ち上げると、検索欄に鎮守府と入力する。一番上にあった検索欄をダブルクリックする。

 

 どうやら、鎮守府・・・・・・と言うより、海軍の募集のページだったようだ。それに、聡は疑問符を浮かべる。

 

「海軍って・・・・・・今は、戦時中じゃないよな?」

 

 チラリと、パソコンに表示されている日付を確認するが、そこには西暦2024年の文字。日付もおかしな所はない。あえて言えば、自室にいた日から一日経った次の日である事だろうか。

 

「えっと・・・・・・」

 

 ウェブページには様々な情報が乗っていた。聡が今欲する艦娘や、深海棲艦の情報も書かれている。

 

「と、言っても。何やら、かわいいイラストと漫画で書かれているな」

 

 明らかに子供向けという感じで、知識のなさそうな人に向けて書かれている様な物だった。

 

「えっと・・・・・・なになに。今から十年前、突如深海棲艦という異形の物達が海に現れた。深海棲艦は海を支配しようとし、また人に危害を加えようとした。それに、対抗するため、どこからともなく艦娘と呼ばれる者達が現れた」

 

 聡にとって知らない情報だ。こんな事実があるのであれば、生きていて知らない訳がない。

 

「艦娘・・・・・・大戦中に沈んだ艦艇が擬人化した存在。姿は全員女性を模しており、唯一深海棲艦に対抗できる存在」

 

 それに、

 

「現代兵器では、艦娘と深海棲艦に攻撃を与える事は出来ない。唯一、攻撃が効く手段はお互いの武器のみ」

 

 侵略しようとする深海棲艦。深海棲艦から人類を守る艦娘。艦娘が『正義』であり、深海棲艦は『悪』そういう図式が、出来上がっている様だった。ウェブページにもそう書かれている。

 

「ふむ」

 

 このウェブページからは、これ以上の情報は引き出せそうになかった。

 

 再び、検索をかける。今度は、艦娘について調べようとした。

 

 すると、YayTubeのリンクが見つかった。どうやら、艦娘の動画らしい。備え付けられている、ヘッドフォンを使って聡は動画を視聴した。

 

 どうやら、どこかの海を日本のコンテナ船から誰かが撮影している様だった。

 

「これが、艦娘。それに、深海棲艦か」

 

 海の上で戦闘しているのが分かった。艦娘と深海棲艦は海面の上に立ち、足にモーターでもあるのか、まるでスケートリンクを滑っているかの様な機動力がある。

 

 そして、艦娘が使っている武器・・・・・・艤装によって、深海棲艦が倒された。

 

「へえ、こんな感じなんだ」

 

 最後はコンテナ船に近付き、少女達が手を振っている。ファンサービスもしっかりしている様だった。

 

 それからも、色々と聡は調べた。最も、軍関係のことのせいか、開示されている情報は限られてくる。幸い、図書館だったので艦娘や深海棲艦についての書物を漁った。

 

「なるほどね」

 

 ある程度の知識が聡についた。これ以上、ここで得る物はないだろうと思った。

 

「そういえば・・・・・・」

 

 自分の容姿を確認していないことに聡は気づく。髪が白髪にもなったし、どことなく体格も変わっているのを感じた。

 

 図書館にあるトイレに向かい、中に入ると鏡で確認する。

 

「・・・・・・レグルス・コルニアスだな。これ」

 

 リゼロのレグルスが、現実世界に飛び出したような、そのままの見た目だ。モブっぽい顔をしていると聡は思った。

 

「さて、これからどうするかな」

 

 確認は終えた。そして、やることがなくなったのも事実だ。老婆に言われたとおり、鎮守府の観光でもしようかな。と、聡が考えている時だった。

 

 

 突然、それは起こった。

 

 

 ウー! ウー! ウー!

 

 警報が鳴り響く。

 

「な、なんだ」

 

 慌ててトイレから聡は出る。見れば、図書館内は慌ただしくなっていた。

 

「落ち着いて下さい! 皆さんは、シェルターへの避難をお願いします!」

 

 先ほどの受付の女性が、そう図書館内にいる人たちに呼びかける。パニックになる寸前とも言うべき雰囲気。

 

 近くにいた、男性に声をかける。

 

「何が起きているんですか?」

 

「深海棲艦が攻めてきたんだ! もう、すぐそばまで来ている! こんなこと、最近では起きていなかったのに! ちくしょう!」

 

 ここは、安全じゃなかったのか。そう、聡は思ったが、ここは海岸沿い。一番、海に住む深海棲艦が攻めてきやすい場所でもあった。

 

「とにかく、君も早く避難した方がいい! いつ、深海棲艦が攻めてくるか分からない!」

 

 そう男性に言われたが、自分に危険が迫る事はないだろうと聡は思った。なぜなら、強欲の権能があるからだ。

 

 まあ、いざとなれば深海棲艦からこの街の人たちを救ってもいいとすら思った。

 

 

 そして、その感覚は突然起こった。

 

 

「っ⁉」

 

 なぜか聡は、急いで『福音書』を確認する。そこには、

 

「『金剛を深海棲艦から救え』・・・・・・これが、最初の福音書の記述か」

 

 サテラからの信託。それを、直感的に聡は感じた。で、あるならば、聡は行動に移すのみである。

 

「・・・・・・行くか」

 

 避難している人たちとは逆の方向。海に向かって、聡は動き出すのであった。

 

 

「納得できません!」

 

 提督室に榛名と白い軍服に身を包んだ男の姿があった。目の前にいる男に向かって、榛名はそう言い放った。

 

「どうして、お姉様を助けに行くことが出来ないのですか⁉」

 

 その言葉に男は辛い表情を浮かべて、

 

「俺だって、そうしたいさ。ただ、深海棲艦がそこまで来ている。警報も鳴った。出撃できる艦娘で防衛に当たらなければいけない」

 

「ですが!」

 

「榛名!」

 

「っ⁉」

 

 そう、男が叫ぶ。悲痛な表情を浮かべて。

 

「・・・・・・俺が悪いんだ。全て・・・・・・俺が悪いんだ」

 

「・・・・・・」

 

 そう男に言われてしまえば、榛名は黙る事しかできない。ただ、榛名は静かに涙を流すだけだった。

 

 

「それで、あなたは何者なのデスか?」

 

「さっきも言ったでしょ。魔女教、大罪司教『強欲』担当。宮下(みやした)聡(さとし)だって」

 

「それは、分かっているのデス! なぜ、人間のあなたが深海棲艦を倒す事ができるのデスか⁉ それに、なぜ私を助けたのデスか⁉ というか、なぜ一瞬で鎮守府についたのデスか⁉」

 

「ああー、もう。色々と聞いてくるねえ君」

 

 やれやれと、聡は首を振る。そもそも、自分にだって良く分からない事なのだ。

 

 福音書の記述通りに聡が行動した後、金剛を聡が肩を貸して送り届けた。強欲の権能を使い、一瞬にして鎮守府に移動した二人。今は、鎮守府内の港にいる。

 

「・・・・・・でかいな」

 

「鎮守府を見たことないのデスか?」

 

「ああ。ここに来たばっかりだからね。地理には疎いんだ・・・・・・そうか、ここが鎮守府なのか」

 

 先ほど図書館で調べた情報。聡が想像していたよりも広く感じたのと、どの建物も大きかった。

 

「出撃できる艦娘は防衛に当たれ! 急げ!」

 

 と、誰かの怒号とも呼ぶべき声が飛んでくる。そして、慌ただしく艦娘達が出撃のために急いでいるのが分かった。

 

 それを見た聡が、

 

「忙しそうだね」

 

「それは、そうなのデス。強力な個体の深海棲艦がそこまで来ているのデスから・・・・・・デスが・・・・・・」

 

 すると、聡達に気づいた他の艦娘達が足を止める。すると、黒い長髪で背の高い艦娘が、恐る恐る近付いてくると、

 

「こ、金剛なのか?」

 

「・・・・・・長門」

 

 長門と呼ばれた艦娘。金剛の姿を見ると、

 

「し、信じられない。どうやって、お前はここに・・・・・・だって、お前は」

 

「それは・・・・・・」

 

 金剛が答えようとした時だった。

 

「お姉様!」

 

 誰かが聡達に近付いてくるのが分かった。金剛と同じ、巫女服みたいなデザインをした服を着ていた。

 

「お姉様!」

 

「は、榛名・・・・・・」

 

 近付いてきたのは、榛名だった。金剛は榛名に近付こうと歩きだそうとしたが、その身はボロボロだったので思わず倒れそうになる。その身をしっかりと、榛名が抱きしめた。

 

「お姉様ぁ! 無事で良かった・・・・・・」

 

 ワンワンと泣き出す榛名。そして、榛名の頭を優しく撫でる金剛。

 

「心配かけたのデス。私は、大丈夫デスから。それよりも皆は?」

 

「お姉様のおかげで、全員撤退出来ました。轟沈者はいません」

 

「それは、良かったのデス」

 

 ほっ、と金剛は胸をなで下ろす。身を挺して頑張ったかいがあったと思った。

 

「でも、どうやってあの場所から生還したのですか?」

 

「それは・・・・・・」

 

 チラリと金剛は聡の事を見る。そして、榛名が初めて聡の事に気づいた。

 

「あなたは・・・・・・」

 

「・・・・・・ああ、自己紹介がまだだったね。僕は魔女教、大罪司教『強欲』担当。宮下聡だよ」

 

 他の艦娘達は「魔女教?」「なにそれ?」と、疑問符を浮かべる。

 

「魔女教・・・・・・なんですかそれは?」

 

「・・・・・・」

 

 聡の言葉を聞いた瞬間、榛名と長門だけは怪訝な目を向けてくる。と言っても、聡にとってこれは自分に与えられた役割だ。この名乗りを変えるつもりはない。

 

 そして、先ほど金剛に名乗りを告げる前、聡には新たな福音書の記述があったのだ。

『魔女教、大罪司教『強欲』としてこの世界で過ごせ』と。

 

 もう、既に聡は理解していた。ここは、日本にとても酷似しているが、異世界であると言うことを。そして、サテラを崇拝し、愛に応えるため、そうあり続けなければいけない。

 

「嫉妬の魔女、サテラを崇拝する敬虔な魔女教徒の一人だよ。それ以上でも、それ以下でもない」

 

「・・・・・・嫉妬の魔女? ・・・・・・サテラ? ・・・・・・ふざけているのですか?」

 

「榛名の言うとおりだ。お前、あまり私たちをからかうんじゃない」

 

 とうとう我慢ができなくなった榛名と、長門はとっさに聡にそう言ってしまう。まるで、出来の悪い物語の設定を聞いている様で嫌気が差したからだ。馬鹿にされているとすら思ってしまった。

 

 そして、それに分かりやすく聡は反応する。榛名と長門にズカズカと近付くと、怒りを隠そうともせずに、

 

「・・・・・・あのさあ。僕は自分から名乗って自己紹介したっていうのに、名乗らないどころか、サテラを馬鹿にするような発言をするなんて・・・・・・僕に喧嘩を売っているって事で間違いないよね?」

 

「だ、だってあなたが!」

 

 思わず、榛名は言い返す。しかし、聡の怒りは収まらない。

 

「だっても、なにもないでしょ。それに、なにその反抗的な目。僕がいくら優しいからって、そんな対応するのなら、僕にだって考えはあるんだよ?」

 

 矢継ぎ早に話す聡と、何とか反論しようとする榛名。しかし、サテラを馬鹿にされた聡にはブレーキがきかない。それはまるで、会話にすら成り立っていない様だった。

 

「おい、お前! いいかげんにしろ!」

 

 この場に似合わない男の登場に、固まっていた長門が、すかさず間に入る。

 

「なに?」

 

「魔女教とか言っていたが、お前は何者だ? どうして金剛と一緒にいる?」

 

「はあ・・・・・・また、その質問か」

 

 思わず聡はため息をつく。

 

「だいたいさあ。金剛を助けて連れて来たっていうのに、こんな歓迎されたらたまったもんじゃないよ。そもそも、福音の記述は金剛を深海棲艦から助けたことで達せられたんだよ。ここに送り届けたのは、ただ単に僕の親切心。なのに、それを踏みにじるような発言と行動は、どうかと思うよ」

 

「た、助けたって・・・・・・ど、どういう意味ですか?」

 

 その言葉の意味が分からなかった榛名は、思わず聞き返してしまった。思わず、話しの腰が折られた聡は「はあ?」と言うと、

 

「言葉通りだよ。深海棲艦に金剛が襲われていたから僕が助けたんだ」

 

 何を今更。と、聡がため息をついた。しかし、榛名には信じられない事だった。

 

「そ、そんな事ありえません! あ、あなたはただの人間ですよね⁉ 艦娘ではない、ただの人間に深海棲艦に対処することなんて・・・・・・」

 

「・・・・・・あのさあ。女、あんまり調子に乗っていると・・・・・・」

 

 流石に聡は我慢の限界だった。普段の聡なら大抵の事は許せるが、聡が愛してやまないサテラを馬鹿にされたのだ。加えて、言った相手は謝る素振りすら見せない。謝ってくれるのであれば、許そうとすら聡は思っていたのに、これでは怒りが収まらない。

 

 もう、いい。もう、いいさ。そう、聡は思った。

 

「答えてください! あなたは何者なのですか⁉」

 

「答えろ!」

 

 榛名と長門は聡に詰め寄る。しかし、フッ、と聡から表情が消えた。そして、ゆっくりと聡が右手を振ろうとした時。

 

「ま、待って下さい!」

 

 その異変を感じ取った金剛が、慌てて間に入るのであった。

 

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