場所は変わって、鎮守府の港に聡達の姿があった。加えて、なんだなんだと他の艦娘達の姿もある。
それも、そのはずだ。これから、聡対榛名と長門の模擬戦が行われるのである。そして、その中心人物である聡は、
「はあ・・・・・・何か大事になってきたな」
見物客を見て、そう聡はため息をつく。すると、入渠を済ませた金剛が近付いてきて、
「仕方ないのデース。この鎮守府に、提督以外の男性がいるのは珍しい事デスから。それに、こんな事になったのなら尚更デース」
「そうは言うけどさあ・・・・・・」
なんだかなー。と、聡は頭を掻く。すると、聡は気づいた。
「へえ。さっきまでボロボロだったのに、もう傷が治っているのか」
「これデスか? 艦娘は入渠を済ませると、元通りになるのデース。最も、私の場合あれほどの傷を負えば、入渠の時間は長くなるのデスが、高速修復材を使って、短時間で終わらせて来まシタ」
「なるほど。傷一つないや」
金剛の姿を見て、そう言った聡。すると、それを見た金剛が、
「あまり乙女の体をジロジロ見ないでくだサーイ。目つきが、いやらしいのデース」
「はあ・・・・・・お前ごときに欲情なんかするわけないだろ・・・・・・って」
聡は、ふと気づく。
「お前、何か態度が柔らかいな」
あまり自分に金剛が良い印象を持っていないと、聡は一人思っていた。だからこそ、正直不思議に思っていた。
「一応、お前の仲間達を殺そうとした男だよ」
「あー、やはりさっきのはそうでしタカ・・・・・・止められてよかったのデース」
「だったら・・・・・・」
「フム・・・・・・」
金剛は何か考える素振りを見せる。そして、その何かがまとまると、
「あなたを、純粋な悪人だと私は思わないのデース」
「・・・・・・別に悪人だと僕は名乗った覚えはないんだけど」
金剛の言っている意味が、正直分からない聡。
「最後まで話しを聞くのデース。確かに、殺そうとした事実はありマース。けど、あくまでも正当性があるのデース」
「・・・・・・どういう意味だ?」
「あなたは、明確な『怒り』を覚えていまシタ。絶対に触れてはいけない場所に、榛名達は踏み入れてしマッタ・・・・・・それは、榛名達が悪いと思っていマース」
だからこそ、と金剛は続けて、
「悪人になりきれていない。と私は見ているのデース。私を助けたのと、あなたに謝って許してもらった事。一見、話しが通じないようで通じているのデース」
「・・・・・・つまり、何が言いたい」
「簡単なことデース」
そう言って、金剛は一拍置くと、
「あなた・・・・・・演じていますよね?」
「っ⁉」
分かりやすく聡は動揺する。それを見て、金剛は言葉には出さなかったが、内心で「やはり」と思ってしまった。
「あなたの本来は、心の優しい人なのデース。なぜ、そうまでして偽らないといけないのか分かりませんガ・・・・・・自分を殺しているとしか私には見えないデースね」
「・・・・・・なぜ、そう思った」
聡は少し、威圧を込めた言い方を金剛にする。すると、金剛はそれに押されない。
「簡単な事デース。ぶっちゃけると・・・・・・」
またまた、金剛は言葉をためると、
「何か、厨二病っぽいのデース」
「・・・・・・はあ⁉」
その想像をしていなかった言葉に、聡は大声を出してしまう。
「今、僕が厨二病だって言ったのか⁉ 何を⁉ どこを、どう見て⁉」
「あえて言えば・・・・・・言動とか見た目デースかね? ほら、厨二病な姿をしていまスシ」
「これは、魔女教の法衣だよ! 魔女教徒の証なんだよ! ああ、まったく!」
ガリガリと頭を掻く聡。それを見て、金剛はクスクスと笑う。
「素がでましタネ」
「・・・・・・」
「ま、これ以上は何もいいまセーン。模擬戦頑張ってくだサーイね」
ヒラヒラと手を振って、金剛は艦娘達が集まっている場所まで歩いていってしまう。それを、何とも言えない表情で見る聡。自然と、大きなため息をついてしまった。
金剛の言ったことは本当だった。『魔女教、大罪司教『強欲』としてこの世界で過ごせ』それが、福音の記述。そして、この記述が『心臓』と化している。それを達成するためにも、自分は『強欲』を演じなければならない。
しかし、金剛は聡を優しいと言ったが、本人はそうじゃないと思っている。聡自身は臆病だ。金剛が言うように、『演じ』なければ、アイデンティティーを保つ事ができない。
それに加え、この抽象的すぎる福音の記述は正直、聡の頭を悩ませた。この力を使えば、暴虐を尽くし、世界を破滅させる事も出来る。逆に、世界に平和をもたらす事も出来る。それほど、強大な力なのだ。
福音の記述を違えば、体に『大きな変化』が起こると本能的に聡は理解していた。そもそも、なぜか抗うという選択肢すら浮上しない。だからこそ、聡は福音の記述通りに行動する。
そして、今の状態は記述通りに動けているというのに他ならない。もしも違えば、ペナルティーが加されてもおかしくはないからだ。
・・・・・・これから、どうすればいいのか。その聡の問いに誰も答えてはくれない。
いっそ、おかしくなった方が楽なのではないかと聡は考える。しかし、それを考えて内心笑ってしまった。
そう。元々、自分は狂っているのだから。
「けど・・・・・・」
聡は気づいてしまった。金剛が言ったように、先ほど素が出てしまったことを。だが、福音の記述に違いは無かったようで、何も起きなかった。
「本来の僕・・・・・・」
いや、やめよう。そんなもの、サテラに力を与えられ、この世界に来た時点で『死んでいる』。自分は、魔女教大罪司教『強欲』担当。人見聡なのだ。厨二病だか、なんだか知らないが、聡はこれを変えるつもりはない。強欲なら、全てを犠牲にしてでも、それを掴み取らなければならない。本当の意味で強欲にならなければならないのだ。
それが、聡の考える福音書の記述通りの行動。今の時点で、それは間違っていないのだ。だからこそ、そうあり続ける。
「準備はいいか?」
「っ⁉ あ、ああ・・・・・・」
考え事をしていた聡は、思わず驚いてしまった。 気配に気づかなかったが、拓郎が聡のすぐそばまで近付いて来て声をかけたのだ。拓郎のそばには、榛名と長門の姿もある。
「大丈夫か? 緊張でもしているのか?」
「いえ、大丈夫です」
「はっ! 今更、逃げ出したくなったか?」
そう、長門は聡に挑発をする。
「そんなわけないでしょ。さっさと始めよう」
「分かった・・・・・・と、その前に」
パン!
拓郎がそう言った瞬間、いきなり聡に拳銃を撃つ。もちろん、強欲の権能によって聡は無傷だった。
「・・・・・・何するんですか」
「いや、悪いな。一応、確認のためだ。今使ったのはゴム弾だが・・・・・・全く痛くないのか?」
「だから、そう言っているじゃないですか。僕にはどんな攻撃も通用しないって」
「分かった・・・・・・では、始めよう」
拓郎が言うのであった。