聡は海の上に立っていた。そして、目の前にいるのは、艤装を着用した榛名と長門。榛名と長門からは、ピリピリとした雰囲気が発せられていた。対して聡は、余裕の笑みを浮かべている。
『では・・・・・・開始!』
スピーカー越しに開始を告げる拓郎。その瞬間、 ドン! ドン!
ほとんど二人同時に聡に砲撃する。もちろん、聡にはその砲撃は目で追えない。ただ、その場に立っているだけだった。
そして、
「「っ⁉」」
「ほら、言ったでしょ?」
やはり、そこには無傷で立っている聡の姿。先程と同じ様に聡に砲弾が触れた瞬間、砲弾が力を失って海上に落ちる。
「そ、そんな馬鹿な・・・・・・」
「あ、ありえないです・・・・・・」
長門と榛名は驚愕する。しかし、二人はすぐに切り替えた。そして、聡に再び砲撃を放った。それも立て続けに複数発も。
しかし、
「だから効かないって」
砲撃によって立ちこめた黒煙の中から現れる聡。直立した状態で一歩も動いていなかった。
「さて、模擬戦らしく僕からも何かしないといけない訳だけど・・・・・・僕が権能を使って攻撃すると君たちを殺しちゃうからなあ」
ふむ。と、聡は顎に手を当てて考える。分かりやすく言えば、戦闘不能にすればいいだろうと結論づける。
実は権能を使えば殺してしまう、と聡は言ったが、原作でレグルス・コルニアスが保有していた権能とは性質が違う事を理解していた。サテラから魔女因子を取り込んだ事により更に強化されていたからだ。
それにより、手加減という物がある程度出来た。だからこそ、
「っ⁉ 消えた⁉」
そこに立っていたはずなのに、聡がいきなり消えたのだ。長門が最初に気づき、その言葉で榛名は周囲を見渡して警戒する。
しかし、
「後ろだよ」
「っ⁉ ぐはっ!」
強欲の権能により一瞬で長門の背後を取った聡は軽く蹴りを入れる。それだけなのに、長門はまるで、勢いよく突撃してきた車に轢かれたかの様に吹っ飛ぶ。
「長門さん!」
長門は海上を跳ねる様に転がる。そして、止まったが、ピクリとも動かない。
「あ、やばい。手加減したとは言え、結構綺麗に吹っ飛んだよ・・・・・・死んでないよね?」
意外にも難しいなあ。と、一人聡は言う。
「このっ!」
聡が立っている場所に砲塔を榛名は向けるが、
「遅いよ」
すぐ、榛名の目の前に聡が現れる。気づいた時には遅かった。
「えい」
今度は軽く聡は榛名の額をデコピンする。そして、
「がっ!」
まるで、ハンマーで勢いよく叩かれたような痛みを榛名は感じた後、意識を失って海面に倒れた。それを見ていた聡は、
「ふう・・・・・・これで、いいかな?」
ただ、この結果が当たり前であるかの様に言うのであった。
「・・・・・・驚いたよ」
聡が提督室に入った瞬間、拓郎が言った。
「まあ、当然の結果ですよ」
長門と榛名を聡が戦闘不能にした。二人は医務室に運ばれたが、命には別状はなかった。拓郎はある程度は覚悟していたとはいえ、こうも圧倒的な力を見せられれば、改めて信用しなければいけなかった。
ただ、気になる事があった。
「それほどの力、どこで手に入れたんだ?」
「・・・・・・僕には話す必要も義理もありません」
「・・・・・・深海棲艦に対抗出来る唯一の存在にして、艦娘よりも圧倒的に強い力を持っている。正直、君が詳しく話してくれないのなら、君をここで野放しにする訳にはいかない」
その拓郎の言葉に聡はため息をつく。
「僕と敵対するというのですか? 言っておきますけど、僕は世界でも相手に出来る力を持っていますよ? 世界征服なんてちっぽけな事も可能です。あまり、僕の機嫌を損ねない方が・・・・・・」
すると、話しの最中に聡に、「あの感覚」が襲う。
「っ⁉」
慌てて福音書を取り出して確認すると、
『今は、拓郎提督の指示に従え』
「・・・・・・」
新たな福音の記述。突然、黒い装丁の本を取り出した聡を見て、
「どうしたんだ?」
「・・・・・・あなたの指示に従います。そうですね。まずは、俺がここに来た理由を話します」
どういう風の吹き回しだ、と拓郎は思ったが聡は福音書の記述通りに全てを話す。そのあまりにも突拍子もない話しを聞く内に、拓郎の顔はどんどんと険しい物になる。
「・・・・・・つまり、君は異世界から来たのだと?」
「そうとしか言えません。僕のいた世界では、艦娘とか深海棲艦とかいませんでしたし」
拓郎は難しい顔をして、
「にわかには信じがたい話しだ。しかし、君の力を見て、別に突拍子もない話しだとは言い切れない」
「まあ、僕は福音書の記述通りに行動するだけなので。あなたが、指示する事は全て聞き入れます。どんな願いだって叶えましょう」
「ううむ・・・・・・」
拓郎は両腕を組んで考え込む。実際、聡の言葉はかなり魅力的な言葉だった。彼を使えば、この戦争を終わらせる事が出来ると考える。
しかし、拓郎が全ての話しを聞いても、本当に信用にたる人物なのかは分かっていなかった。
「・・・・・・少し、考えさせてくれ」
「分かりました。その指示に従います」
その聡の言葉は、まるで全く自分の意思を感じない声音だった。軽く一礼をして、提督室を後にしようとしたが。
「待ってくれ。今日はこの後、どうするんだ?」
「・・・・・・実家に帰ろうと思います。そこで、休んで改めて伺います」
「分かった。明日には返事をする。今日はゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます」
そう二人は言葉を交わして、聡は家に帰ろうとするのだった。
「・・・・・・家がない」
強欲の権能を使って一瞬で住んでいた場所まで移動した聡。
しかし、自分の住んでいた場所に別の家が建っていた。一応、念のために、この家の人に聡は色々と聞いてみた。
結果分かったことは、自分に加え両親の事を知らないと言われた。
「まあ、何となく分かっていたけど」
ここに来るまで住んでいた地域だというのに、全く見覚えのない建物が多かったのだ。更に言えば、近所の家と表札が違った。
「さて、どうしようかな」
聡は無一文なのだから、泊まれる場所がない。更に言えば食事すら出来ない。
「まあ、権能があるから睡眠もいらなければ、食事もいらないけど」
しかし、野宿するのもはばかれた。
「仕方がない」
そう聡は言って、拓郎達がいる鎮守府に戻るのであった。