魔女教大罪司教『強欲』担当の福音の日々   作:マチガウ生活

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第六話 休息

「こちらになります」

 

「ありがとうございます」

 

「いえ。必要な物があれば言って下さい。では」

 

 大淀は扉を閉めて退室する。それを聡は目で見送った後、改めて部屋を見渡す。

 

「ある程度は物が揃っているか」

 

 ここは先程まで聡がいた鎮守府の管理室であった。本来、ここには憲兵等が在中する場所である。しかし、この鎮守府には提督と艦娘が管理しており、他の者達はいない。いわゆる、空き部屋であった。

 

 管理室には家具が揃っており、聡が一晩過ごすには問題ない。嬉しいことにテレビもあり、時間もつぶせる事が出来る。

 

「拓郎提督には感謝だね」

 

 なにぶん、聡は帰る場所がなかったのである。それを拓郎提督に伝えた所、この場所をあてがってもらった。

 

「そろそろ、夕食の時間だけど・・・・・・どうすればいいのかな?」

 

 強欲の権能がある聡は、食事を必要としない。しかし、普段から食事はしっかりと取っていたので、食べないというのは何か違和感がある。その時である。

 

「ちーっす。食事を届けに来たよー」

 

「ちょっと、鈴谷! いきなり扉を開けるのは失礼ですわよ!」

 

 ノックもなしに、いきなり扉が開くとそこには二人の少女がいた。何やら食事が乗ったお盆を持っている。

 

「えっと・・・・・・」

 

「ほら! この方も困っていますわ!」

 

「ええー、別にいいじゃん」

 

「殿方のお部屋に入るのなら、最低限の礼儀をかかなくてはいけませんわ!」

 

「熊野は堅いなー」

 

 と、何やら二人で盛り上がる。それを聡は、どうすればいいのかと見ていると、

 

「あ、自己紹介がまだだったね。私は、鈴谷。こっちのうるさいのが、熊野だよ」

 

「誰がうるさいですか!」

 

「そういうのだよ」

 

「むきーっ!」

 

 正直。聡は、「何だこいつら」という感想しか持てなかった。若干、引いていると、

 

「大淀さんに頼まれて、ご飯を持ってきたんだ。机に置いておくね」

 

 鈴谷はこの部屋にある机に食事の乗ったお盆を置く。それで、用が済んだと思っていた聡だが、

 

「ねえねえ。金剛さんを救ってくれたって本当?」

 

 鈴谷が聡に聞いてくる。それに対して聡は、

 

「本当だ。僕の力を使って、深海棲艦を倒したんだ」

 

「へえー、強いんだね」

 

「まあね。僕はサテラに愛されているから。その気になれば、この世界を滅ぼす事だって出来るんだよ」

 

「うわ・・・・・・」

 

 聡の言葉を聞いた熊野がどん引きする。

 

「うんうん。厨二病ってやつだ」

 

「鈴谷! 思ってもそういう事を言ってはいけませんよ!」

 

「まあ、これぐらいの年代の人は誰だって煩うし。いい経験だと思うけど」

 

「はあ・・・・・・」

 

 うるさい女達だな。というのが聡の正直な感想だ。あまりにも、うるさくするのなら聡にだって考えはあるが、食事を持ってきてくれた恩はある。ここは、黙っているべきだと思っていたが、

 

「・・・・・・で、あれが君の力?」

 

「力?」

 

「ほら、榛名さんと長門さんを模擬戦で倒したじゃん。砲撃は効かなかったし、一方的に勝っちゃったでしょ?」

 

「まあ、強欲の権能の力だね。僕にはそれしかないけど、僕にとって脅威となる存在はいないと言い切れるね」

 

「へえ、自信があるんだ・・・・・・ねえ、君って何者?」

 

「魔女教大罪司教『強欲』担当。宮下聡だよ」

 

 知っている? と、鈴谷は熊野を見るが、熊野は首を横に振った。

 

「ま、いいや。一応、お礼を言っておくね。金剛さんを助けてくれてありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「・・・・・・あの時は、すごく悔しかったよ。自分の何も出来ない不甲斐なさに」

 

「鈴谷・・・・・・」

 

「本当に、ありがとう」

 

 素直に面と向かって感謝を伝えられた聡は、あまり感謝された経験がないため、少し気恥ずかしく思う。

 

「でも、びっくりだよ。艦娘達の間でも噂になっているんだよね。あの人は何者だって」

 

「言ったじゃないか。僕は、敬虔なる魔女教徒だって」

 

「はいはい。分かったよ」

 

 まるで、友達に話す様に鈴谷は言う。どこか、調子が狂うなと思う聡。

 

「まあ、いいや。私たちは、もう行くね。じゃあね。ほら、熊野」

 

「わ、分かりましたわ。失礼しますわ」

 

 二人は部屋から退出する。そのタイミングで、早速聡は食事に手をつける。

 

「カレーか。まあ、好きな方かな」

 

 そう言えば、海軍は金曜日にカレーが出るという事を聡は思い出す。色々あって忘れていたが、明日は土曜日だ。

 

 最も、聡にとっては前まで曜日に囚われない生活を送っていた。明日は、何をしようかと考えるのであった。

 

 

「ふう・・・・・・」

 

 風呂につかりながら聡は一息つく。ここは、鎮守府内の男湯だ。聡が住んでいた家の風呂よりも大きい。最も、四人ぐらいしか入るスペースしかないのだが。

 

 そうして、今日の疲れを癒やしながら聡は考える。

 

「色々とあったなあ。サテラに魔女因子を渡されて、異世界に飛ばされた。飛ばされた先は日本だと思ったけど、似ている様で全く違う世界だった。福音書の記述通りに行動しないといけないって強制力もあるし・・・・・・さて、これからどうなるんだろうなあ」

 

 まあ、なる様になるだろうと聡は思う。それよりも、新たな福音書の記述の方が大事だ。

 

「『今は、拓郎提督の指示に従え』肝心なのは『今は』って所だよなあ。その時が来たら、別に従わなくても良いって意味がありそうだし。その場合は、新たな記述があるのかなあ」

 

 まあ、福音書の記述の真意など本当の意味では聡には分からない。ただ、福音書には『幸福』が訪れると言う。原作のリゼロで、その様な事が書かれていた。最も、

 

「サテラの幸せは、僕の幸せだ。サテラと福音書が繋がっている以上、僕はその通りに行動するだけさ」

 

 それ以上でも、それ以下でもない。そう改めて考えている時だった。

 

「お、聡も入っていたのか」

 

 拓郎提督が風呂場に入ってくる。聡は、「ええ」と答えると。

 

「今日は色々と疲れただろ?」

 

「ええ、まあ」

 

 そんな会話をしながら、拓郎提督は体を洗うと、

 

「隣いいか?」

 

「どうぞ」

 

 浴槽に入ってくる。聡は少し隣のスペースを空けた。

 

「ふう・・・・・・」

 

 拓郎は肩まで湯船につかると、一息もらした。両手でお湯をすくって、自分の顔に浴びせる。そして、拓郎は聡を真っ直ぐ見ると、

 

「・・・・・・聡」

 

「何ですか?」

 

「俺の方でも色々と考えたが・・・・・・やはり、君の力を借りたい」

 

「いいですよ」

 

 拓郎の言葉に即答する聡。拓郎はその反応に苦笑いすると、

 

「いいのか? 君が俺に力を貸すと言うことは、表舞台に出る事になる。深海棲艦に唯一対抗出来る人間としてだ。お前は困らないのか?」

 

「特に」

 

「なるほどな。剛胆なやつだ」

 

 拓郎は笑う。それに対して聡は、

 

「あなたが、『指示』するのであれば、僕はそれに従います。それ以上でも、それ以下でもないです」

 

「・・・・・・それが、君の言う『福音』だからか?」

 

「そうですね」

 

「君の言っている事は正直、突拍子もない事だ。突然、異世界に飛ばされ、不思議な力を与えられた。福音の記述の下、それに従わないといけない。ただ・・・・・・」

 

「ただ?」

 

 拓郎が言いずらそうにする。しかし、拓郎自身は言わなくてはいけない。

 

「聡は・・・・・・自分を見失っていないのか?」

 

「・・・・・・」

 

「これだけは言わせて欲しい。気に触るのはもちろん覚悟してだ。君が与えられている役割のせいで、自分自身、何をして良いのか分かっているのか? 自分の意思を殺してまで、それを成し遂げないといけないのか?」

 

 聡は似たような事を、金剛に言われたことを思い出す。

 

 

『あなた・・・・・・演じていますよね?』

 

 

 しかし、拓郎の言葉を聞いても聡は揺れ動かない。なぜなら、

 

「魔女教大罪司教『強欲』担当。宮下聡ですからね。僕自身、福音の記述があれば、正直他はどうでもいいですからね」

 

 そもそも、ここで怒った方がいいのだろうか。と、聡は思ったが、拓郎の真剣な問いに同じく真剣に答えなくてはいけない。

 

 そう。聡はいたって真剣に答えた。しかし、拓郎は残念そうな顔をして、

 

「そうか・・・・・・悪い。俺はそろそろ上がるよ。明日から忙しくなる。今日は、ゆっくり休んでくれ」

 

 拓郎はそう言うと、浴槽から出て風呂場を後にする。

 

「・・・・・・自分を見失うか」

 

 聡が小さくつぶやいた言葉だったが、風呂場なので、酷く反響するのであった。

 

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