対ヨロです
間違い、とは、いったいどこまでのものを否定するのだろう。数学の問題から調理方法、そこからとんで道徳や倫理、行い、思想。そして、果てには存在。それらは間違いとまとめることで否定し、単純明快な結論で締めることができる。
しかしその間違いは、いつでも不正解じゃない。
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気持ちを沈めるほど暗い雲、指先の感覚を奪うほどの寒さ、されど温もりと幸せを示す彼女の頬のピンク。気の早い店が似たようなクリスマスの装飾をつけて並び立つ通りをミカと一緒に歩く。こうやっていっしょに歩むのだって、久しぶりだ。広場のようなところの中心では、十数メートルに及ぶクリスマスツリーがあった。よく見れば本物のモミの木。さすがトリニティ……。おリッチな……。
「あ、先生!あれ見て!ツリーの頂上!」
「ああ、おっきい星のかz……ロールケーキだとッ!?」
「そういえばナギちゃんが気合入れてた気がする!今年こそは間に合わせるぞーって。」
「間に合わせるって、え?アレ作ってんの?」
「うん。生クリームにもこだわってるっていってたよ。」
「あれ実物かよ。誰がどうやって食うんだ。」
「なんか定期的に、金銭的に不自由な子供たちに分け与えているらしいよ。」
「よくあるどでかいの作る系YouTuberかよ……。」
しかもロールケーキという糖質脂質の塊で、本当に健康になるのか……?いや配る時はフルーツなども追加されているだろう。そう願いたい。
「そういえば先生は、その、25日って、ど、どうなの?」
「25日はねえ。
「うわっ、暗い顔……。」
「ごめんね、ミカ。ちょっと、大人の責務を果たさなきゃ……。」
「ここで聞きたくなかったよ!」
ミカとの久しぶりの外出、いわばデートなのだ。……付き合っているわけではないのだが。それでも、せめてこの数少ないデートに思い出が残るようにしたい。なにか、いいものは……。
ふと、雑貨屋のショーケースに、答えだろうものを見つける。
「ミカ、ちょっと買いたいもの思い出したから行ってくるね。」
「あ、うん。じゃあ近くで待ってるね。」
「すぐに戻るから—。」
そうやって、なるべく用事を終わらせるべく、かけて店に行った。
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「……行っちゃった、なあ。」
たまのデートだというのに、先生がいってしまった。きっと先生のコトだから、私といるのがつまらないからとかではないのだとわかる。わかるが。
「ちょっと、寂しいかなぁ……。」
何の意味もなく、呟く。ただそれだけだったのが、口にした瞬間、急に寂しさが体を覆う。あたりは肌寒い乾燥した空気。マフラーを口もとにかぶせ、背中の壁にもたれかかる。
先生は何をしているだろうか。雑貨屋に入っていったようだが、何を買うのだろうか。クリスマスも近い。きっと他の女の子へのクリスマスプレゼントを買うだとか、きっとそういうものなのだろう。私ではないと思う。だって私は魔女だから。先生はこうやって優しくしてくれているけど、それでも。何かをもらう権利はないから。
しかし。やはり、妬いてしまうものは妬いてしまうものだ。それは他の生徒に対してではなく、先生の平等な優しさに対して。やっぱりずるい。お姫様、なんて特別扱いをしてくれているが、先生にとっては生徒に接するという行動の一環だ。それなのにうれしくなってしまう自分もいるし、物足りないと感じる自分もいる。自分で自分の気持ちに収拾がつかない。
うーん。やっぱりこれに関しては考えても無駄だろうか。私は今、先生を待っているだけだ。それ以外にリソースを割いたら何もできない気がしてきた。せめて意味がなくても前を見てみよう。下ばかり向いていたらきっとそういうことばかりを考えちゃうから。
ふと、道路の方。猫が飛び出していた。そしてそれに気づくと同時に耳に入るエンジン音。
車の進行方向一直線上に猫がいた。
さっきまでの悩みなどはすべて消え失せ、体が動く通りに飛び出していた。
だいぶする体制で腕を広げ、猫をつかめるように。
キャッチ。そしてあとは受け身を取れば。猫をかばい、自分が外周になるように体を丸める。
ゴロゴロと地面に着地し、自動車の方もあまり速いスピードでなかったからか、猫が引かれる地点より少しあとの地点で止まっていた。
……私が、まさか猫を助けるために身を投げるなんて、いろいろ私も変わったのかな。猫を抱き上げながら思う。猫は少し暴れる。さすがに抱き上げられるのは嫌だっただろうか。放してやる。自分の身体に目を落とせば、受け身で地面を転がったためにお気に入りの服が汚れていた。こんな姿で先生と合流するのはちょっと……。うーん。
車の中から人が出てきて、その人は必死に謝っていた。どこかけがはないかとか、猫を轢かなくてよかったとか。きっといい人なんだろう。私を責めることはしない。……この人は。
「おい、そこの!」
道路の反対側から、一人の大人がやってくる。身なりは警官、というより交番に努めている、巡査?みたいな感じだ。違いはあまりわからないけど。
「そこのトリニティ生徒、道路への飛び出しは違反だぞ。」
「え、いや、私は猫ちゃんを助けようとしただけで……。」
「そんな言い訳で通ってたら警官は要らないんだよね。そもそも猫なんてどこにもいないし。」
「それは、さっきまでここに……。」
「いないもんはいないんだ。ほら、学生証見せろ。学校に報告するからな。」
「それだけは!」
「うるさいな。黙って見せれば全部丸く済むんだから。ほら、罪を重くしたくないだろ?」
……今ここで学校側に伝達されてみたら、謹慎中の私は何をされるかわからない。退学だってあり得る。なんてったって、私をまだ恨んでいる人にとっては好都合だ。しかし、周りの目が集まってきて、そうも言ってられなくなってきた。
運転手さんは必死に私の無実を訴えてくれているが巡査はまるで取り合わない。
……先生が帰ってくる前に終わらせないと、きっと先生に迷惑がかかる。いま私が学生証を見せれば、私が罰を受け、終わり。それでいいじゃないか。うん。そうしよう。
私はバッグのポーチから、学生証を取り出し、巡査の手元に差し出す……。も、横から、覆うようにして表れた人がいた。
「うちの生徒が、どうかしたでしょうか。」
「……先生。」
「あー、あんたはシャーレの。このトリニティ生徒が道路に飛び出したんで学校に連絡するところでして。」
「って言ってるけど、本当はどうなんだい?ミカ。」
巡査には厳しい顔をしていたのに、こちらを向くときにはもう穏やかな表情だった。
「その、道路にいた猫を助けようと……。」
「へー。だ、そうですが?」
「いや、それも勘違いかもですし……。」
「つまり、私の生徒が、嘘を言っていると?」
「え?いやあ……。」
先生が、圧をかけている。そういえば、と、先生が続ける。
「このあたりの巡査に、おかしなヤツがいるって聞きましてね。なんでも、自分の点数稼ぎのために言いがかりをつけては謝らせたりしているやつがいるらしいから、注意しろってききましてね。」
「あ、いえ、その……。」
巡査はしどろもどろになり、集まっていた人の目に耐えられなくなり、逃げ出した。
「大丈夫だったかい?ミカ。」
「あ、うん。ありがとう、先生。」
先生に迷惑をかけまいとしていたのに、結局迷惑をかけてしまった。本当に、申し訳ないな。
「なんだか人が多いし、とりあえず移動しようか。」
先生が手を差し伸べる。少し迷って、私の手を重ねる。
先生が手を引き、またデートが始まる、と思った。後ろの方で、声がする。
「ねえ、今ちらっと、ミカって聞こえなかった?」
「もしかして、聖園ミカのこと?」
「さっきの学生証からちらっと見えたよ、聖園ミカ、って。」
「え?もしかして、魔女って言われていた?」
先ほどまで集まっていた群衆が、どよめき始める。……やっぱり、ダメだな、私。下を向いてしまう。つないだ手が、どうしても急におこがましい物のように思えてしまう。でも、先生は。明るい声で言った。
「なんだ。みんな、ミカの可愛いところに気づいていないんだな。道路に出るのは間違ったことでも、行いは正しかったと思うけどなあ。」
先生は私の手を引き、群衆の輪の一点に向けて歩いていく。目の前で生徒たちが私たちに聞こえるほどの音量で、私について言っている。
「そこ、通してくれるかな。」
明るく、太さを感じさせる声に、たまらず彼女らは道を開けていく。そしてできた道に、つかつかと歩いていく。群衆の声は小さくなり、やがて散らばり始める。
「いやー。大変だったね。」
「ごめんね、先生。」
「? どうかしたかい?」
「その、先生に迷惑かけちゃった。私の所為なのに。」
「何言ってんの。あの状況、責める方がおかしいって。」
「でも、あの巡査の言うとおり、私、嘘をついていたかもしれないんだよ?」
「え?じゃあ嘘だったのかい?」
「いや、違うけど……。」
「ほら、やっぱり、嘘じゃないじゃないか。」
「……。」
「というか、嘘かホントかは重要じゃないよ。私はミカの味方をするって、決めているからね。」
「……先生、ずるいって。」
もう、先ほどまでの外気の寒さはなくなってしまうほどに、彼の隣が暖かくて、心地良くて。恥ずかしくて、でもうれしくて。この感覚のどれもが一様に、彼のことが好きなのだと言い切っている。
「あ、そうそう、ミカにあげたいものがあったんだった。」
「……わーお。無いと思ってた。」
「あるにきまってるだろう。このデ……お出かけの記念とかそういう感じで。」
彼はバッグからラッピングの可愛い袋を取り出す。
「形に残るものがいいと思って、クリスマスのオーナメントを買ってきましたぁ!」
そう言って、可愛いサンタさんの陶器かプラスチックか分からない材質のオーナメントを手渡す。先生がくれたものであるだけで、なんだかとても大切なものとなる。秘めがちなこの感情は、なかなかどうして気持ちを動かすものなのだろうか。
「ありがとう、先生!大切に飾っておくね!」
私の顔は今、満ち足りているのだろう。その証拠に、こうやって笑いかけられることすら嬉しいと思って、無限に幸福を感じられる。噛みしめていては間に合わないほどの。こんなに、私が幸せを受け取っていいものだろうかという疑問も、きっと目の前の彼なら否定してくれるのだろうと、それほど大きな存在であることを、感じられることすら幸せ。何をしても、幸せになってしまう、困った事態だ。
そんな中、後ろの方に女子生徒が話しながら通り過ぎていく。彼女らはなんでもないように。
「そういえばさー。この前彼氏がありえないプレゼントしてきたの」
「まだ付き合いたてだっけ。」
「そそ。んでそいつ、早めのクリスマスプレゼントーって言いながら、トナカイのオーナメント送ってきたのよw」
「うっわw使えなwてか、オーナメントとか送るヤツは終わってるって。早く別れて、新しいヤツ見つけたら?」
「そうしようかな~。」
……。もう、彼女らの姿は見えなくなる。全然関係ない人たちであるのにはっきり聞こえた会話。一番、最悪なタイミングで聞こえた会話。
先生は顔面蒼白になり、震えだす。
「ご……ごめんなぁミカ。い、嫌だったら、全然言ってくれていいんだからなぁ……。」
「そんなことないってば!そういう考え方は人それぞれだから!!私は本当に嬉しかったから!というか!大好きな人からもらう物で嬉しくない物なんてないんだから!!!顔上げてよ!!」
「……よし!お詫びになんかもう一つぐらい買おうか!オーナメントがダメならスノードームで!」
「それも嬉しいけど置物ばっかり増えていくんだね!?」
「それか、消耗品?でも女の子の消耗品ってなんだ?カップラーメン……は違うだろうし、化粧品?でも何が何だかわからないぞ?本人に選ばせるのは確実だろうけどなんだか味気ないし……いやでもそれしか……。」
先生は一人でブツブツと抱え込み始める。……そんなに、このデートに思い出が欲しいのだろうか。そんなに、このデートを大切なものだと思ってくれているのだろうか。私は、この人の大切に、なれているのだろうか?淡い期待であると知りながら、満足感が湧くものだ。その満ち足りた心と高揚に身を任せて、いまだに悩んでいる先生の腕をとる。
「もう、先生。女の子はね、その、形のない物だって、うれしいんだよ?」
「形のないもの……。」
「例えば、その、ハ、ハグ……とか……。」
「…………?」
「ああもう!本当にわからないって顔してる!先生のバカ!」
「・・・?」
「間違ってでもいいからせめて反応してよ!!」
それから、変にスイッチの入った先生を抑えることに成功し、帰路につかせることに成功した。私も駅までは一緒になれるためついていく。
手を繋ぐでもないが、隣合って。決して他の誰よりも近い距離を維持する。
私はたくさんのものを積み上げてきた。間違いも、正解も、不正解も、罪だってそうだ。本当は、私が道路に飛び出したことだって、ルールの上では間違いに分類されるのだろう。あそこで先生が庇ってくれなかったら、猫を助けたことだって悪のまま終わっていたかもしれない。いや、自分が助けたからこそ悪になったかもしれない。でも、たぶん今日起こったまちがいは、先生と犯したまちがいならば。いくらでもしたいと思うのだ。それはきっとよくないことだろうけど、彼の隣にいられる分だけでも、積み上げて大事にしたいと。
......ところで、さっきすごく恥ずかしいことを口走った気がするが、気のせいだろうか。そうだと思いたい。隣にいる先生は、顔を見せないようにしているため分からない。いつの間にか熱くなっている自分の顔を見せないようにと下を向きながら。違う場所に帰るとはいえ、途中まででも同じ道を行きながら。
いつか、同じ帰路を歩めるようにと願いながら。
米津玄師さんの「まちがいさがし」をもとに書こうとしたらあらぬ方向に曲がっていったのはナイショ。歌詞を引用もしてないけど一応仕様楽曲にやっておきますわ
感想評価お気に入り改善点アンチコメントなどなどは私がブレイクダンスするほど喜ぶのでジャンジャンどしどしお願いします
気が向いたらまた投稿しますね