夜、クラブ「ESTELLA」からそう遠くない路地に停められたプジョー406の車内でガニマールはイヤホンを着け何かを聴いていた。
《この名前、お兄さんでしょ?ねぇこれシージャックだったんじゃない?》
《ッ・・・》
「・・・遂に動き出すか?」
キンジと理子の会話を聴いたガニマールはそう呟くと車を発進させた。
ESTELLAの前を通りかかると丁度キンジが店から飛び出してきた。
「ガニマール警部!丁度良かった」
「どうしたんだいキンジ君?」
「申し訳ありませんが、大至急空港に向かってもらえませんか?」
ヒステリアモードのキンジがガニマールに言う。
「もし俺の推理が正しければ、アリアが危ない」
「分かった、乗ってくれ」
ガニマールはキンジを乗せるとインターセプトモードに切り替え車を発進させる。
キンジは車内で自身の推理をガニマールに伝える。
「成る程、つまり一連の事件は全てアリアを誘き出すためのものと?」
「俺の推理では」
「確かにその可能性は高いな。よし、本庁に連絡して離陸を中止させよう」
「良いんですか?一介の武偵の推理ですよ?」
「私は君を只の武偵だとは思っていないよ。それに、もし本当に爆弾が仕掛けられていて未然に阻止できなかったとあってはガニマール四世の名が泣く」
ガニマールは本庁に連絡しアリアの乗る旅客機の離陸を中止するよう訴えた。そしてそのまま空港に到着すると滑走路へのゲートに向かい車を走らせる。
「ガニマール警部!?入口はあっちですよ!?」
ヒステリアモードから戻ったキンジが狼狽える。しかしガニマールはアクセルを緩めない。
「時間がない!多少強引に行くぞ!」
「えっうわっ!?」
ガニマールがスイッチを押すとニトロが点火し車が加速する。
「フライトモードオン」
更に別のスイッチを押すと車体の両側から翼が展開しハンドルが操縦桿の様に前後に稼働するようになる。
その状態のまま車は滑走路の出入り口へ向かう。当然ゲートは閉じられている。
「舌を噛むなよ!」
「まさか!?」
ガニマールがスイッチを押すと本来変形用に使われていたジャッキが勢い良く飛び出し、その衝撃で車体が浮かび上がる。
車はゲートを飛び越え数十メートル程滑空し無事飛行場内に着陸した。その際管制塔のレーダーに一瞬機影が表示された為一部の航空管制官の間で様々な憶測が噂されたとかされなかったとか。
ガニマール達はそのまま空港の裏口に車を停めて警備員に手短に事情を説明するとアリアの乗る旅客機へと走った。
「お客様!?」
「警察だ!連絡が来ている筈だ、離陸を中止しろ!」
「わ、わかりました!」
CAはドアを
「時間が無い。君は前を、私は後ろを調べる」
「わかりました!」
ガニマールは尾翼側へと走って行った。キンジも機首側へ走り出すと何故か旅客機が動き出してしまった。
「何で!?」
「あ、あの」
驚くキンジの元へ先程のCAが話し掛けてきた。
「無理でした。規則で今止めることは出来ないと機長が・・・」
「何だって?警察からの連絡が来てる筈だ!」
「機長は何も聞いていないと・・・」
「クソッ、何処かで妨害されてるのか?仕方ない、すみません!神埼・H・アリアという女の子が何処にいるか知りませんか?」
「そのお客様でしたらここから三つ先のお部屋にいらっしゃいますが」
「有難うございます、貴方は先程の警部さんにも説明してきて貰えませんか?」
「わかりました。間も無く離陸しますので席に座ってシートベルトをお着け下さい」
CAはそう言うとガニマールの元へ走って行った。
ガニマールは後方の客室にアリアが居ないか確認した後、爆発物がないか調べる為貨物室へと来ていた。
「荷物の中に紛れ込ませるのは至難の業だが、奴ならやりかねないな・・・」
ガニマールは乗客の荷物を一つ一つ調べるか迷っていたが、何かに気付き動きを止めた。
「よしなよお嬢さん。ワルサーは背中に感じ易いんだ」
「ンフフフ、流石ねガニマール」
「その声は聞き覚えがあるぜ・・・峰理子、いやリュパン四世」
「やっぱり気付いてたのね?」
振り返ると先程のCAがワルサーP99を構えていた。
「学校やキンジの服に仕掛けられていた
実は初日に理子の正体を見破ったガニマールは武偵校内や理子と親しいキンジの持ち物等に盗聴器や発信機を仕掛けていたのである。その為絶妙なタイミングでキンジの前に偶然を装い現れる事が出来ていた。
勿論バレたら犯罪だがリュパン逮捕の為には多少の無茶を容認するのがこの男である。
「お前には言われたく無いな。それにしても、女は化粧と髪型で化けると叔母さんは言っていたが、まさかあのリュパン四世の素顔があんなに幼かったとは。年下に良いように遊ばれていたとはガニマールの名折れだな」
「あら?元々リュパン家にとってガニマール家は取るに足らない遊び相手のようなものよ?」
「言ってくれるな?確かにうちはホームズや銭形に比べて地味かもしれないが、私はこの名前に誇りを持っている」
「・・・そういう所、理子大っ嫌い」
ドカアアァァァン!!!
「!?」
CAに扮した理子がスイッチを押すと突如貨物室の壁が吹き飛び、ガニマールは機外へ吸い出されてしまった。
「うぉおわッ!?」
「さようなら正義・ガニマール四世。貴方との追いかけっこはまあまあ楽しかったわ」
「今のは!?」
「爆発!?」
合流したアリアとキンジは突然の音と振動で座席から立ち上がった。その直後、機内にアナウンスが流れる。
『アテンションプリーズ、デヤガリマス。当機ハ只今ハイジャックサレマシタ、デヤガリマス』
「この喋り方は武偵殺し!」
『乗員乗客共ハ自室デ大人シクシテイロ、デヤガリマス。但シ武偵ハ例外デヤガリマス。相手シテ欲シケレバ1階ノ”バー”ニ来ルデヤガリマス』
「上等ね、風穴を開けてやるわ」
「俺も行く、ガニマール警部の事も気になる」
二人は銃を手にバーへと向かった。
カウンターにはCAが一人ワイン片手に座っていた。二人はCAの背後に回り込み銃を突きつける。
「お前は!?」
「フフフ、今回も綺麗に引っかかってくれやがりましたね?」
CAはそう呟くと変装用のマスクと服を脱ぎ捨てる。
見知った改造制服にブロンドツーサイドアップ、キンジのクラスメイトである峰理子が立っていた。
「理子!?」
「Bonsoirsキンジ、そしてオルメス」
「アンタ一体何なの?」
「理子・峰・リュパン四世。それが理子の本当の名前」
理子の突然のカミングアウトに驚愕する二人。
「お前がリュパンなのか!?」
「アンタが本当にリュパンの末裔だとして、何故こんな事をするの!」
「それはね、理子は理子だから」
「「?」」
「マスコミも使用人もガニマールも、どいつもこいつも四世、四世!四世!!」
「それが何?四世の何が悪いって言うのよ?」
「悪いに決まってんだろ!私は数字か?只の遺伝子かよ!?私は理子だ!数字じゃない!お母様がくれた理子だ!!」
理子のあまりの剣幕にたじろぐ二人。理子は気持ちを落ち着かせるために一旦深呼吸する。
「はぁ・・・ガニマールの奴は先に始末しておいたわ」
「まさか・・・さっきの爆発は!?」
「あれだけイキっておいてあっさり死んじゃうんだもん。フランス警察きっての天才って言われてたけど所詮はガニマールね」
「お前・・・!!」
「本命はオルメス四世。アリア、お前だ」
「ッ!」
「100年前、曾お祖父様様同士の対決は引き分けだった。つまり、オルメス四世を倒せば私は曾お祖父様を超えたと証明できる」
そう言うと理子はキンジを見る。
「キンジ、お前も役割を果たせよ」
「えっ?」
「オルメスの一族にはパートナーが必要なんだ。初代オルメスにも優秀なパートナーが居た、これで条件は揃った。あとはお前達二人を消せばこのくだらない茶番劇も終わる」
「・・・本当に、お前が武偵殺しなんだな?」
理子の話を聞き終えたキンジは問う。
「えぇそうよ?自転車もバスジャックもガニマールを殺したのも・・・貴方のお兄さんを殺したのもね」
「ッ!!」
怒りに震えるキンジに対して理子は笑う。
「貴方もすぐにあの世で会わせてあげるから感謝しなさい!」
「勝手に殺さないでくれるかい?」
「「「!?」」」
声のした方向に振り向く三人。
そこには機外へ飛ばされた筈のガニマールが銃を構えて立っていた。
「死んだ筈じゃ!?」
「ところがこれが生きてるんだな」
機外に放り出された際、咄嗟にワイヤー付きの手錠を投げそれが奇跡的に破損した壁から飛び出した鉄柱に引っ掛かり、生還したのである。
ガニマールは銃を構えたまま理子に近づく。
「お前の目的は大体理解った。そんなに名前で呼ばれたかったらいくらでも呼んでやるよ。但し刑務者の中でな」
「あら、そう簡単に捕まえられるかしら?」
そう言うと理子のスカートからスモークグレネードが落ちてきて煙幕が張られる。
「クッ!何処よ!」
「視界が!」
「落ち着け!」
混乱する二人にガニマールが叫ぶとモーター音が鳴り煙が彼の腰辺りに吸い込まれていく。
「超小型空気清浄機”高原の風”まあ喫煙者のマナーだな」
ガニマールはそう言うとスーツを捲り腰の後ろのベルトについている小型空気清浄機を見せる。
煙幕が晴れると理子の姿はなかった。
「クソッ!何処だ」
ベレッタを構え警戒するキンジの背後から理子が音もなく忍び寄る。
「ッ!キンジ!!」
理子の接近に一早く気付いたアリアは咄嗟にキンジを突き飛ばすと理子へ向かって発砲した。理子はそれを躱すとお返しと言わんばかりにワルサーP99を発砲するがアリアは理子の腕を払い銃口を外させそれを避ける。
「二丁拳銃は、アリアだけじゃないよ!!」
理子はそう言うと左袖からFNブローニングM1910を取り出し構える。
二人は組み付きながらお互いの射線を外し合う。
「アリア!」
「チッ・・・こう組み付かれると援護射撃も出来ない」
二人の猛攻に見守ることしか出来ない二人、しかしチャンスはやって来る。
アリアが理子の両腕を脇に挟み動きを封じる。
「キンジ!ガニマール!」
キンジが理子の銃を取り上げるとガニマールは腕を背中に回し手錠をかけた。
「理子・峰・リュパン四世、殺人未遂の現行犯で逮捕する」
「フフフ・・・切り札っていうのはね、最後まで取っておくものよ!」
その時、突然理子の髪の毛が意思を持つように動き腰からナイフを取り出しアリアとガニマールを斬りつける。
「何ッ!?」
「ッあ!?」
「アリア!?」
二人は咄嗟に避けるがアリアは耳を掠めて血が滴る。それを見たキンジが動揺した隙をついて髪の毛で手錠の鍵を外した理子が銃を取り返すとアリアの胸に押し付ける。
ダァンッ!!
「アリア!!」
至近距離で発砲された弾丸は防弾制服を貫通しなかったものの、その衝撃によりアリアは倒れた。
「クッ!」
ガニマールは理子に向け発砲する。理子はそれを躱しアリアから離れる。
「キンジ君!アリア君を連れて逃げろ!」
「でも!」
「今の君は足手まといだ!アリア君を助けろ!」
「!」
キンジはアリアを連れて逃げる。理子はそれを追わずにガニマールと対峙する。
「お優しいこと」
「警察は人命優先だからな」
「今の私に勝てると思ってるの?」
ガニマールは拳銃一丁、それに対し理子は二丁拳銃と髪の毛にナイフを二本、どう見てもガニマールが不利だった。
「それにしても超能力使いだったとはな、論理と科学の名が泣くぜ」
「悔しかったらアンタもやってみなさいよ」
「私は超能力者じゃない。だから科学で対抗する」
ダンッ!!ダンッ!!
「!?」
その時、理子の
理子が正面のガニマールを見ると輪郭がぶれ始める。よく見ると天井に一匹のテントウ虫が居り頭から光が照射されていた。
「ホログラム!?」
「そういう事」
カウンター裏から本物のガニマールが現れる。理子は彼に向かってナイフを投げ躱した隙に手錠を外すと彼から離れる。
「そろそろキンジ君達が戻って来る筈だ、諦めろリュパン四世」
「・・・フフフ、どうかしらね?」
その時、突然旅客機が大きく揺れ始めた。ガニマールは思わず床に手をつくとその隙に理子は尾翼側に逃走する。
「待て!」
ガニマールは彼女を追いかけるとしばらく進んだ先の壁際に立っていた。
「それ以上近づかないほうが良いわよ?」
彼女の周りを囲う様に爆弾が設置されていた。
「お前の話の中で一つ腑に落ちない事がある」
「?」
「初代を越えたきゃ盗みで超えれば良い、なのに何で急にアリア君を狙うなんて行動を取ったんだ?」
「・・・・・・」
「私が知るリュパン四世は何時だって粋でクールな女で、けど盗みの最中にはまるで年頃の女の子のように楽しそうに笑っていたよ。そんなお前を追い駆けるのが好きだったんだがな?」
「五月蝿い!!お前に何が理解る!!」
「少なくとも今のお前は全く楽しそうじゃないってのは理解るさ」
「ッ・・・」
「お前は一体何に焦ってる?何がお前を変えた?」
「・・・お喋りはここまでね。最後にイ・ウーからプレゼントがあるみたいだよ?お楽しみに♪」
「イ・ウーだと?待て!」
爆弾が爆発し彼女は壁ごと機外へ放り出される。彼は壁際へ走り外を見ると理子は着ていた制服をパラシュートに変形させ雲の中に消えていった。
直後、ミサイルが二発向かってきて旅客機のエンジンを撃ち抜いた。
「グッ!クソッ」
ガニマールは急いで操縦席へと向かう。そこには既にアリアとキンジが居り何とか高度を維持しようと奮闘していた。
「ガニマール!理子は?」
「逃げられたよ、ついでにエンジンが二基破壊された。そっちの状況は?」
「パイトットは眠らされて当分起きそうにないし操縦経験があるのはアリアだけ」
「経験者と言っても小型機の操縦だけよ。しかも自衛隊からの無線で羽田空港の滑走路はトラブルで使えない、状況は最悪だわ」
「それだけじゃないな」
ガニマールは操縦席の計器を見る。
「燃料が漏れてる、良くて後十分って所だな」
「そんな!」
「今からじゃ他の空港は間に合わないしこの大荒れじゃ海上も駄目だ」
「じゃあどうすれば!」
「学園島内の空き地島に不時着させる。あそこなら距離的にもギリギリ足りるはずだ」
「でもあそこは明かりも何もありませんよ!」
「手はある」
ガニマールはそう言うと無線機を取り出す。
「こちらガニマール警部だ!リュパン四世が現れた!リュパンは現在東京武偵校内の空き地島に潜伏している模様!動ける者は直ちに空き地島を包囲せよ!」
『リュパンが!?了解しました!』
「これで良し。後数分もすれば明かりが点く」
「まさか!」
そう、ガニマールは警察の警備艇や海上保安庁の巡視船の明かりを頼りに着陸しようとしているのだ。
「アンタ、こんな勝手して大丈夫なの?」
「私はリュパン四世逮捕に限り天下御免で指揮権限がある。まあ後で言い訳を考えておくか」
「助かりますガニマール警部!」
暫くすると警察の警備艇や海上保安庁の巡視船、更にはキンジ達の状況を知り無理を承知で独断で駆け着けてきた武偵の船などが島の周りを囲み何とか地形を把握することができた。
「さてと、操縦を代わろう」
「アンタ操縦できるの?」
「シミュレーターを二回だけね。けど、こういう責任は大人が取るものだ。君達二人に押し付ける訳には行かないよ」
「ガニマール警部・・・」
「信用できないなら君がやるかい?」
「・・・いいえ、アンタを信じるわ」
「俺も信じます」
「ありがとう、行くぞ!」
燃料切れまで残り一分、乗客にアナウンスをした後旅客機は強行着陸を試みる。
「あ、あのう警部?」
「何だ?」
「あの飛行機・・・なんだかこっちに向かってきてませんか?」
上陸し周辺捜査をしていた若手の刑事が中年の警部に話しかけた。振り向くとまさに旅客機が着陸態勢に入っている所だった。
「な、何で?・・・全員退避!退避!!」
「「「「うわああああぁぁぁ!!!???」」」」
警部の号令に警官隊は一斉に逃げ始める。その上を旅客機が過ぎ去り強行着陸する。
旅客機は島にあった備品をなぎ倒し火花を散らしながら滑って行き、最終的に島の端に建設された風力発電施設に翼が激突し海へダイブする寸前で停止した。
不時着の翌日、旅客機の周りを作業員が忙しなく動く横でガニマールと銭形は並び立っていた。
「相変わらず無茶をしますね。事後処理をする此方の身にもなって頂きたい」
「ハハハ、面目無い」
「今回の勝手な行動の数々は乗客全員を無事救出したことで不問になりましたが、私としては貴方を逮捕したいですよ」
「リュパン逮捕まで私は止まる気はありませんがね」
結局理子の行方は掴めなかった。女子寮の彼女の部屋はまるで最初から誰も居なかったかの様に綺麗さっぱり物が無くなっており、彼女に関する押収品は何も得られなかった。
しかし、今回の事で神崎かなえの武偵殺しに関する冤罪は晴らす事はできた。
二人はタバコに火を点ける。
「お前はどうするつもりだ?」
「もうしばらく日本に留まるつもりです」
「何故だ?国外に逃げた可能性もある」
「勘ですよ。彼女はきっとまたなにかやらかすに違いない」
「・・・はぁ、これ以上無茶をするなよ」
「流石にこれ以上の事は起きて欲しく無いですけどね」
二人は不時着した旅客機を見上げた。