ミホライとあの子が同じチームだったら   作:皆夢の月虹

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二人とトレーナー『彼女の夢』

 

 

     ♤

 

 

キーボードを叩く音が俺一人のトレーナー室に響く。モニターにはライスシャワーこと、ライスのデータや動画のウインドウを下にして、彼女のトレーニングプランを書き上げている文書ソフトウェアが映し出されている。区切りのいい所で俺は景気よくエンターキーを叩くと、一度時計に顔を向けた。針は十一時を示している。両手の平を上に向けて思い切り伸びをして、固まった背中がほぐれる心地よさを十分に堪能した。

 

選抜レースが終わった次の日、今日も今日とて俺はトレーナーの仕事に朝から勤しんでいた。しかし仕事の内容は昨日までとはすっかり様変わりしていた。本格化を迎え始めたたくさんのウマ娘を来る日も来る日も分析していた毎日から、今はライスただ一人のために全ての時間を捧げている。

 

――本当に、担当ができたんだな。

 

一つ息を吐いて、俺はキーボードの横に置いたクリアファイルに視線を移した。クリアファイルには昨日作成した担当契約書の一枚が綺麗に収まっている。紙には長々と定型文染みた条項が綴られ、その下に俺の角ばった字とライスの小さく丸い字でそれぞれの名前が並んでいた。彼女に言われた通りこれを五枚作成して、もう手元にあるのはこの一枚だけだった。まさか、提出に向かう途中で五枚中二枚を風に攫われて紛失する事になるとは。ドジっ子なのかと思ったが、どうやら彼女は少々不運な気質持ちらしい。見たところ昔からその質に苦労してきた様子だった。流石におせっかいになる領域かもしれないが、その辺も含めてライスの力になってやりたいと思った。

 

決意を改め、俺は書き上げ途中のトレーニングプランを上書き保存し椅子から立ち上がった。

 

 

―――――

 

 

生徒と共同で使えるカフェテリアにはチラホラと他のトレーナーが座っていた。十二時を過ぎると授業を終えた生徒がたくさん来てしまうため、お昼前の今だけが事実上トレーナーの使用時間となっていた。ちらっと今日の献立を確認して、俺は注文受付のスタッフに話しかけた。

 

「すみません。日替わり定食を一つ」

 

「はーい。少々お待ちください。日替わり一つ!」

 

受付が奥にいるのだろうスタッフに声を掛けてそっちの方へ引っ込んでいく。俺はポケットから財布を取り出して中身に目を落とした。

 

「よう」

 

すると背後から聞き馴染んだ声がして振り返った。案の定そこには先輩が立っていた。

 

「先輩。お疲れ様です」

 

「お疲れ、一人か?」

 

「ええ、いつも昼は一人ですよ」

 

「そうか、お前金は払ったか?」

 

「いえ、これからですけど」

 

俺がそう言うと、先輩は自身の財布を取り出して、千円札をカウンターの前に置いた。

 

「奢るよ」

 

「え? いや、そんな悪いですよ!」

 

「いいよ、気にすんな。初めて担当を持ったんだろ。社食一回奢ってもらったって罰は当たらないさ」

 

「あれ? なんで俺に担当ウマ娘ができたことを知ってるんですか?」

 

「お待たせしましたー」

 

俺が質問したタイミングとほぼ同時に、受付が日替わり定食を俺の前に置いた。

 

 

―――――

 

 

日替わり定食(今日は豚の生姜焼きだった)を持って先輩と手近な空席に座った。生姜焼きの香ばしい匂いが鼻に届いて空腹に拍車がかかる中、コーヒーと購買のサンドイッチだけをテーブルに並べた先輩に改めて質問した。

 

「それで、どうして俺が担当を持ったことを? まだ誰にも話していないのに」

 

すると先輩はコーヒーカップを手に取りながら、呆れたような笑みを見せた。

 

「お前さ、さては担当ウマ娘のことばっか考えて、学園からの一斉連絡メール見てないだろ?」

 

「あ、そういえば」

 

確かに昨日ライスと担当契約を結んでからというもの、彼女のトレーニングプラン作りに没頭してしまって、今までパソコンのメールボックスなど開いていなかった。

 

俺の様子を見た先輩は嘆息を漏らし、コーヒーを一口含んでから話し始めた。

 

「担当契約書が受理されるとな、その契約を結んだトレーナーとウマ娘の名前は、学園のトレーナー全員に公表されるんだ。既に他と契約しているウマ娘と知らずにスカウトするのを防止するためにな。彼女達にとってはそういう勘違いスカウトを断る時間だって勿体ない訳だからさ」

 

「言われてみれば、以前も時々何処のチームに誰が入ったとかメールがきてました。ただの連絡事項くらいにしか思ってなかったので、完全に忘れてましたよ」

 

あのメールにはそういう理由があったのかと一人で頷く。その様子が可笑しかったのか、先輩は軽く声を出して笑った。

 

「まぁ、気持ちは分からんでもないさ。初めての担当だ、肩に力も入るよ。とりあえず初担当、おめでとう」

 

「ありがとうございます。未熟ですけど、頑張ります」

 

「当たり前だ。俺たちが頑張らなきゃ、担当に申し訳ないぞ」

 

先輩の言葉で頭にライスの顔が浮かぶ。どこか儚げな笑顔、申し訳なさそうな顔。初めて会った昨日だけでも様々な彼女の表情を見ることができた。ただできることなら、笑顔が一秒でも長くあって欲しいと心から思う。

 

「はい、肝に銘じます。必ずライスの夢を一緒に叶えます」

 

俺が力強く返事をすると、先輩は少しだけ目を丸くする。しかしすぐに口角を上げた。

 

「夢、か。ああ、頑張れよ。相談ならいくらでも乗るからな」

 

先輩の頼もしい言葉を最後に、俺達は一度食事の時間を始めた。俺は「いただきます」と手を合わせて小さく呟いてから、生姜焼きを口に含んだ。濃厚な味が空腹に染み渡っていく。毎日のようにここの昼食を食べているが、いつ来てもどのメニューも味、栄養バランス、何を取っても完璧に作り上げられていた。さすがはトレセン学園、調理スタッフも一流だ。

 

生姜焼きに舌鼓を打ちながら食事を進めている時だった。俺はふと脳裏に昨日の選抜レースを思い出し、先輩がスカウトに向かったミホノブルボンの事が気になった。

 

「そういえば先輩」

 

噛んでいた物を飲み込んでから先輩に口を開く。先輩はサンドイッチを咀嚼しながら、「うん?」とこちらに目を向けてきた。

 

「結局、昨日ブルボンはどうなったんですか? 先輩含めてあれだけスカウトが行ったから、どこかと契約したんだと思いますが」

 

軽い気持ちで聞いたつもりだった。しかし俺が言い終わるとすぐに先輩の表情が僅かに曇った。まずい事を聞いたかと内心焦ったが、先輩はサンドイッチを飲み込むと言葉を返してきた。

 

「それがな、ちょっと予想外なことになったんだ」

 

「予想外なこと?」

 

鸚鵡返しに聞き返すと、先輩が少しばかり周囲を気にする素振りをして、少しだけこちらに顔を寄せた。

 

「俺を含めてな、昨日声を掛けたトレーナー全員と契約を断ったんだ、ブルボンは」

 

 

     ♡

 

 

「ん〜!」

 

グラウンドの隅で自分のつま先へと手を真っ直ぐ伸ばす。カチンコチンの体はあいも変わらず九十度より絶対曲がらなかった。正直恥ずかしいが、せっかくトレーナーさんが契約してくれたのだからそんな理由で手を抜く事はしたくなかった。

 

今日はストレッチと軽く流しながらのフォーム確認だけ行う予定だった。昨日トレーナーさんとライス二人で最初に決めた事で、無理をした選抜レースの疲れを完全に取ってから本格的なトレーニングを開始することになった。

 

ストレッチしながら昨日お話したトレーナーさんの声や表情を思い出す。とても優しくて温かく、ライスの好きな絵本に出てくるお兄様のようだと思った。

 

「トレーナーさんとなら、ライスもなれるかな……みんなを幸せにできるウマ娘に」

 

そう呟いて、また息を吐きながら体を前へ倒そうとする。筋肉はビシッと固まって動かず、また息を吸って体を戻した。はたから見て戻すほど倒せてないと思うけれども。

 

「やっぱり、これトレーナーさんに見せるの恥ずかしいな」

 

その時、風がひと吹きライスの髪を撫でた。それは自然なものではなくて、何かが通り抜けた時に生じる風だと直感で理解する。顔を動かすと、グラウンドを走る姿が一つ、ライスからどんどん離れていく。とても見覚えのある後ろ髪が靡いていた。

 

「ブルボンさん……」

 

「相変わらず速いねぇ、ブルボンは」

 

近くで声が聞こえて今度はそちらに目を向けた。ライスと同じトレセン学園のジャージを着た見覚えのないウマ娘が二人立っていた。寮長さん達と違い、ライスは記憶力が無いから知らない人が結構いるのだ。

 

「この前の選抜レースも凄かったよねぇ。正直、同期でデビューしたくないわー」

 

感嘆の声を上げた相手に合わせるように、もう一人が溜息混じりにそう返した。むしろライスは同期でデビューできたら素敵だな、なんて思うのだけど。そう内心で考えると、最初に口を開いた方のウマ娘が意外そうにまた口を開いた。

 

「でもあの子、この前のスカウト全部断ったらしいよ」

 

「え?」

 

つい声が出てしまった。話していた二人が揃ってこちらを見てくる。

 

「あ! えっと……! ごめんなさいー!」

 

慌てて立ち上がり逃げるように二人から離れた。グラウンドの反対側まで逃げて、膝に手をついて息を整える。その体勢のまま、私はグラウンドを見渡した。幸い他に走っている人はおらず、ブルボンさんの姿はすぐに見つかった。遠くからでも分かる力強い走りはどれだけ見ていても憧れた。

 

また話したいと思った。昨日は結局レース後にお話することができなかったから、改めて緊張をほぐしてくれたお礼とか、自分にトレーナーさんができた事とか、それからもし聞けるなら、スカウトを断った事とか。たくさん話したい事が浮かぶ。その気持ちと、練習の邪魔をしちゃいけないという理性がせめぎ合う。

 

「う〜。どうしよう、声を掛けていいのかな……」

 

迷いに迷っている間に、ブルボンさんは迫ってきた。いつの間にか、クールダウンなのかジョギング程度のスピードで走っている。彼女が近づいてくるにつれて、緊張からか心臓の鼓動が早く強くなった。

 

ブルボンさんが私のすぐ側まで来て、そして通り過ぎようとした時だった。ブルボンさんの目が確かにライスをチラリと見て、ライスと目が合った。すぐに彼女は視線を前に戻したが、それが一押しになった。

 

「あ、あにょ!」

 

噛んだ! 盛大に!

 

やってしまったと反射的に思う中、ブルボンさんは足を止めてくれた。

 

「はい、何か御用でしょうか、ライスさん」

 

「あ! えっと、その、ぶ、ブルボンさんはまだ、トレーニングされますか?」

 

「はい、一周クールダウンをして呼吸を整えた後、次に少しペースを上げてフォームチェックを予定しています」

 

なんという偶然だろう。それならブルボンさんの邪魔になりにくいかもしれない。

 

「えっと、じゃあ、ライスもこれからフォームチェックしようと思ってて、もし、よかったらなんですけど、一緒にトレーニングできませんか?」

 

ダメ元の提案だったが、意外にもブルボンさんはすぐに頷いてくれた。

 

「了解しました。ではクールダウンの後、並走する形でフォームチェクをするという事でよろしいでしょうか?」

 

「は、はい! よ、よろしくお願いしましゅ!」

 

また噛んだ!

 

「あわわ、ごめんなさい!」

 

しかしブルボンさんが首を傾げるだけだった。

 

「謝罪の理由が分かりませんが、一先ず、もう一周してきますので、少々お待ちください」

 

そう言ってブルボンさんは再び走り出した。その背中を見送っていると、ほんの少しだけ先程よりもペースが早いような気がした。

 

 

―――――

 

 

フォームチェックの併走を終え、ライスとブルボンさんはグラウンドの周りに設置されたベンチに並んで座って休憩していた。

 

「ふぅ、お疲れ様でした。ライスさん」

 

水を一口飲んだブルボンさんがこちらに顔を向けてくる。先日に選抜レースを走ったばかりなのに、これだけのトレーニングができるなんて凄い。故障してしまうのではないかとこちらが不安になるレベルだ。

 

「あの、ブルボンさん。その、トレーニング、無理とかしてない、ですよね?」

 

「はい、これくらいのトレーニングであれば常に継続して行ってきました。故障のリスクは最低限を維持しています」

 

「そっか、やっぱり凄いな、ブルボンさんは」

 

すると、ブルボンさんは少しばかり考え込むような様子を見せた。

 

「…………」

 

「ブルボンさん?」

 

「……失礼を承知で質問します。私の意見ですが、本日はむしろ、ライスさんの方が練習量に気を使っているように見受けられます」

 

「え? あぁ、そっか。実はね、ブルボンさん」

 

私はこの前の選抜レースで、担当のトレーナーさんができたことをブルボンさんに伝えた。ブルボンさんは少しだけ目を丸くしたが、すぐに静かで優しい笑みを浮かべてくれた。

 

「そうだったのですね。おめでとうございます。本日の練習量はその方と決めた事、ということでしょうか?」

 

「うん、本格的なトレーニングは明日から、昨日のレースの疲れを取ってからなんだ」

 

「なるほど、ライスさんの様子から、信頼のできる方だと推察します」

 

「うん、まだ新人さんみたいなんだけど、ライスが夢を叶えるところを見たいって言ってくれたんだ」

 

「っ! ……夢」

 

ブルボンさんはそう呟いて、俯いてしまった。いつもとは違う様子に、ライスはもしかしてと思い、気になっていることを聞いた。

 

「ブルボンさん、その、変な事を言ったらごめんなさい、なんだけど……」

 

切り出すとブルボンさんがこちらに顔を向けたので、そのまま言葉を続けた。

 

「ブルボンさんが、スカウトを全部断ったのって、その、ブルボンさんの夢と、何か関係があるの?」

 

ブルボンさんはまた考え込むように視線を下げる。少しだけ待っていると、ブルボンさんはどこか遠くを見つめるように顔を上げた。

 

「私は、三冠ウマ娘になりたいんです」

 

その時のブルボンさんの声は印象的だった。普段は冷静で理性的な落ち着いた印象を醸す声音に対し、その時の声は強い意思というか、彼女の奥にある熱とか決意、そういう感情的なものでできているように感じた。

 

「三冠、ウマ娘……」

 

続けてライスが呟くと、ブルボンさんはライスの方に顔を向けて、続きを話してくれた。

 

「幼い頃なら、私は意思が希薄で、周りからのリクエストにばかり応えていました。そんな中、偶然父と三冠ウマ娘のレースを見る機会がありました。その時、強く憧れたのです。その方に」

 

「それで、ブルボンさんは三冠ウマ娘になりたいって思ったんだ」

 

「私がそれを父に伝えると、父は本当に嬉しそうで。今でも覚えています、あの時の父の顔を。それから三冠ウマ娘は、私と、父の夢になったのです」

 

ブルボンさんは、少しだけ口角を上げていて、穏やかで、だけどどこか照れくさそうな、そんな優しい微笑みを浮かべて、ライスの事を見ていているはずなのに、焦点は少し定まっていない感じで、きっとブルボンさんは、過去と今の狭間にいるんだと思った。それだけ、ブルボンさんにとってそれは、大切な思い出だったのだ。

 

「だから、譲れないんだね。ブルボンさんの夢は」

 

「はい、昨日私に声をかけていただいたトレーナーの方々は全員、私に短距離路線を進もうと提案されました。分かっています。私の適性がスプリンターであることも、まだクラシック一冠目の皐月賞、二〇〇〇メートルすら満足に走れない事も。走れるようになるのかすら分からない事も。でもこの夢だけは、譲歩できません」

 

途端にブルボンさんは真剣な顔になる。ブルボンさんの熱が伝わったのか、ライスの胸の奥も、とても熱くなっている気がした。

 

 

     ♤

 

 

「そうか、それでスカウトを」

 

「うん、ブルボンさんの気持ち、きっと変わらないと思うんだ、何があっても」

 

日も暮れた頃、トレーナー室で仕事をしているとライスが突然訪ねてきた。書いて欲しいと頼んでおいたトレーニングノートをもう持ってきてくれたのかと思ったが、どうやらブルボンから色々と話を聞いたようで、それを俺に相談したいということだった。

 

「俺も昨日スカウトに行った先輩トレーナーから話を聞いたよ。近いうちに、ブルボンは現実を受け入れなきゃいけない時がくる。その時にまたスカウトする。それが、トレーナー達の総意だろうだって」

 

「おに、……トレーナーさんもそう思う?」

 

ライスの顔はどこか必死に願うような様子だった。俺は少しだけ言葉を選び、ライスに答えた。

 

「俺は、ブルボンに夢を目指して欲しい」

 

「え?」

 

少し高い声でライスは声を出し、目を丸くしていた。俺は言葉を続ける。

 

「もちろんトレーナーとしては、先輩の意見に賛成だ。短距離路線であれば、彼女はほぼ間違いなく大成する。それだけの素質がある。でも、俺がトレーナーになったのは、ウマ娘が夢を叶える瞬間を一番側で見たいからだ」

 

ブルボンやライスに変わらない夢があるように、俺にだってトレーナーになった目標、夢があった。それが簡単に曲がらない事はよく知っている。俺には経験が足りないと言われればそれまでだけど、そんな事で捨てられるようなものなら、そもそもトレーナーになんてなっていない。

 

「ライス、君はブルボンとは逆で長距離路線向け、ステイヤーの適性がある。クラシックにも問題なく出られるだろう。でも、もし君が短距離路線で勝ちたい。マイラーになりたい。そんな夢を本気で思う日がきたとしたら、俺は、全力でその目標を叶えるサポートをするよ。それが俺の本心だ」

 

「お兄様……」

 

「お兄様?」

 

ライスの呟きに首を傾げる。ライスは自分の言葉に気がついたのか、ワタワタと両手を振った。

 

「ああ、いや何でもないの! 気にしないで!」

 

「そうか」

 

「えっと、でも嬉しいな、やっぱりトレーナーさんと契約して本当によかった」

 

「そう言ってくれると嬉しいよ。半人前だから自信を付けていきたいからね」

 

ライスが笑顔になって俺も釣られて口角を上げる。やはり彼女の笑顔には周りも巻き込む力がある。その事からも分かる。彼女には彼女の夢を叶えるだけの素質がある。多くの人を幸せにできる素質が。

 

「そ、それじゃあトレーナーさん。えっと、凄く変な事、というか我儘、言っていいかな?」

 

笑顔からまた不安そうな、けれど真剣な表情でライスが言う。でもそこには俺への信頼があるように感じた。視線が泳いでいるライスに俺は頷いた。

 

「もちろん。なんだい?」

 

「ら、ライスの夢だけじゃなくて、ブルボンさんの夢も、支えてあげられないかな、なんて」

 

「……それはつまり、ブルボンと契約はできないかってこと?」

 

俺が聞き返すと、視線を泳がせていたライスが真っ直ぐ俺の方を見た。

 

「ブルボンさん、今、不安だと思うの。自分の夢を応援してくれる人がいないんじゃないかって。そんな事ないよって、伝えてあげられないかなって……」

 

俺は少し考える。ライスがせっかく我儘を言ってくれたのだから、可能な限り力になってあげたい。トレーナーとしてもブルボンのような才能のあるウマ娘が苦しんでいるのは見ていられない。

 

「契約についてはブルボンの気持ちもある。俺たちの一存では決められない。こればかりは変えようがない」

 

「そ、そうだよね。ごめんなさい」

 

ライスの様子に慌てて手を振って言葉を続けた。

 

「いや、契約したくないわけじゃないよ。むしろブルボンが俺を選んでくれるならこんなに嬉しいことはない」

 

「じゃあ!」

 

ライスが期待に満ちた目で俺を見つめる。その目にただ頷けたら良いのだけど、まだそれはできなかった。

 

「ただ、その前にどうしても、俺自身がブルボンに確認したいことがある」

 

「確認したいこと?」

 

首を傾げるライスに、俺は一度頷いてから少しだけ笑みを見せた。

 

「ライス、一つ、協力して欲しいことがある」

 

 

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