ミホライとあの子が同じチームだったら   作:皆夢の月虹

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二人とトレーナー『始動』

 

 

     ♡

 

 

「俺がスタートの合図をする。それでスタートだ。準備はいいか?」

 

トレーナーさんがライスとブルボンさんを交互に見てきた。先に答えたのはブルボンさんだった。

 

「はい、いつでも構いません」

 

ブルボンさんの後にライスが続けた。

 

「ら、ライスも大丈夫」

 

「よし、じゃあ始めるよ」

 

トレーナーさんが手に持ったストップウォッチに目線を移す。ライスは一度息を吐き出して、二日前の選抜レースと同じように構える。右隣のブルボンさんも構えを取るのが分かった。

 

ほんの一瞬だけ静寂が強まる。ライスも釣られるように呼吸が少し止まった。手を握り締めると少し手が汗ばんでいた。模擬レースでさえ、まだ緊張してしまう。ザワザワと風が一度吹いて、それからすぐにトレーナーさんの声が響いた。

 

「よーい!」

 

体の力を意識して抜く。目線は真っ直ぐのまま、耳だけをトレーナーさんの声に集中させる。

 

「スタート!」

 

『タ』くらいで思い切り前へと踏み出した。推進力を得るため強めに地面を蹴る。

 

すると、ブルボンさんはすぐに私の前へと抜け出して行った。二日前の選抜レースと同じ展開だ。どんどん引き離されていく。セーフティリードまで広がるのではないかと不安になる。そう思考が回ったからだろうか。昨日、トレーナーさんから果し状のお願いをされた後に話してくれたアドバイスを思い出した。

 

 

―――――

 

 

「え?  出来レース?」

 

トレーナー室に置かれた机を挟むように座り、向かい側にいるトレーナーさんの言葉をライスはそのまま返した。トレーナーさんは頷いて、用意してくれたお茶を一口啜る。

 

「うん。明日の模擬レースは正直出来レースなんだ。ライスとブルボンはそもそも距離適性が違う。距離が短いほどブルボンが有利だけど、逆に長くなるとライスの方が有利だ。そして今のブルボンに二○○○メートルはかなり厳しい。ライスがしっかりスタミナを二○○○メートルまで満遍なく使えれば、負けることはほぼないよ」

 

「ど、どうしてそんなレースをするの? ライス、ブルボンさんに追いつきたいけど、ブルボンさんを悲しませたりはしたくないよ」

 

ライスがそう伝えると、トレーナーさんはちゃんと分かっているというように笑みを浮かべて頷いた。

 

「もちろん。これは、俺がブルボンの心を見るレースだ」

 

「ブルボンさんの心?」

 

「本当に彼女が三冠ウマ娘になりたいと強く思っているのか、それを確かめたいんだ。そのためにもライス、君にはブルボンにとっての壁になって欲しい」

 

優しい顔のまま、けれどトレーナーさんの声は真剣だった。ブルボンさんのことをトレーナーさんなりに本気で考えてくれているのだとそれで伝わった。

 

「……分かった。ライスやってみる」

 

「ありがとう。いいかい? ブルボンがどんなに逃げようと、気にせずライス自身のペースで走るんだ。それができれば、君は絶対に負けない」

 

 

―――――

 

 

あの時、力強く頷いたトレーナーさんの顔には強い確信と、ライスへの信頼で溢れていた。僅かにあった緊張が不思議とほぐれた気がした。

 

ふぅ、と深く吐き出して、ライスははるか前を走るブルボンさんを意識から外す。代わりにゴールまでの距離を体感で意識した。

 

(推進力を維持しながら息を入れる。最終直線ラスト三ハロン程まで少しずつペースを上げていくようなイメージで)

 

走っている自分の体の状態、残りの距離、それだけに意識を集中させた。

 

 

     ♢

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

ライスさんの足音が遠くから聞こえる。前回の選抜レースと違い今回はかなり距離が開いている。彼女が上がってくる気配はない。

 

(ライスさんは自分のペースに集中していると推測。セーフティリードを演算)

 

スタートしてから第一と第二コーナーを越え、向正面中間へと入ってくる。残り距離とライスさんの推定位置、そして自分のスタミナ残量、様々な観点から逃げ切れるリードを計算する。

 

しかし、そのリードまで至るのは不可能に等しかった。無理に実行すれば、最後まで走り切れない。

 

(呼吸の乱れを確認。現在の速度からさらに減速は非推奨。現在のペースを維持しつつ、体力の消費を低減する方法は……)

 

そこで思考が止まる。思考力の低下も引き起こし始めていた。向正面が終わり第三コーナーへ入る。その中間付近であった。

 

……ドドドドド。

 

(ライスさんの足音が、近付いている)

 

徐々にライスさんが背中まで迫っていた。

 

(これ以上の加速、減速、共に不可。……くっ!)

 

対処法が見つからず、私はただ、歯を食いしばった。冷静かつ理性的な思考はもはやできず、残ったのはただ、負けたくない思いだけだった。

 

そして第四コーナーを越えて、最終直線に向いたタイミングだった。

 

視界の端に、ライスさんの黒髪が揺れた。

 

 

     ♡

 

 

いつの間にか、第三コーナーのあたりで少しずつブルボンさんに迫っていた事に気が付いた。ゴールに近づいた分スタミナ管理に割いていた意識が少なくなったため、彼女の方を意識する余裕ができていた。ペースを上げずとも、ブルボンさんの背中が迫る。完全にスタミナが切れている様子だった。

 

(これなら……!)

 

私は第四コーナーに入るタイミングで、曲がる遠心力を利用してブルボンさんの後ろから外れて外に体を持ち出した。必然的に走行距離が伸びる分は僅かにペースを上げてカバーする。

 

ブルボンさんとの距離は無くなっていき、第四コーナーが終わって直線を向いた時、彼女の横顔が見えた。

 

(並んだ! ライスがブルボンさんに!)

 

視線をブルボンさんから最終直線の向こうへと戻す。ゴール代わりのヒシアマゾンさんボードが目に飛び込んできた。

 

(出来レースだっていい! 今日はライスが勝つんだ!)

 

残った体力を全て込めてライスはスパートをかけた。ブルボンさんの姿が視界から消える。ゴールだけを見つめて、そこに飛び込もうとするように体を限界まで前へと倒す。一昨日とは違い最後まで残した足は、空を飛ぶように軽かった。

 

頭に勝利がよぎった。後ろから激しい猛追の音が聞こえたのはそのすぐ後だった。

 

(ブルボンさん! まさかまだ……!)

 

振り返らずとも分かる、大地を強く蹴る轟音が背後に迫った。引き離したはずのブルボンさんとの距離が縮まる。彼女の酸素を貪るような呼吸すら耳に届く。

 

(凄い、やっぱりブルボンさんは凄い……。でも、ライスだって!)

 

負けない!

 

その時、スパートをかけていたはずの足がほんの僅かだけど、さらに軽くなった気がした。

 

 

     ♢

 

 

苦しい。肺が機能していないようだ。足は鉛のように重い。思考だってとっくにフリーズしている。ゴールまでの距離だってもはや推測しかできない。

 

並んできたライスさんが抜け出して私の左前に出た。脚色は衰えず、グングンとその小さな背中が遠ざかっていく。適性の違いをまざまざと見せつけるように。ライスさんの背中だけが、今の私が理解できる世界の全てだった。

 

少しだけ、苛立ちを認識した。

 

私は感情表現が苦手だ。僅かに笑ったりする事はできるけれど、ライスさんやフラワーさんのように感情全てを爆発させるみたいに表に出せない。だからいつも殆どの感情は秘められてばかりだった。そのためだと思う。私の中で湧いた感情は途端に膨らんだ。

 

ライスさんの背中を疎ましく思った。腹立たしく思った。そして何より、羨ましかった。私が喉から手が出るほど欲しているものを持っている彼女に、この極限の中で私は憧れた。

 

(追いつきたい。差し返したい。勝ちたい。負けない! 私は、三冠ウマ娘に!)

 

「はあああああ!」

 

限界の体から力を搾り取る。僅かだが速度が上がり、ライスさんの背中が少しだけ近づいた。

 

しかし、それもつかの間だった。またライスさんが加速したのだ。彼女の地面を踏み締め蹴る音が一層大きくなった。近づいた背中はさらに遠ざかる。差はみるみる広がっていき、もう、彼女の背中に迫ることはできなかった。

 

 

     ♤

 

 

ライスのスピードが一段上がった。ブルボンに僅かとはいえ迫られたことで、何かスイッチが入ったのかもしれない。二人は鬼気迫る表情のまま、ゴール代わりのヒシアマゾンボードを駆け抜けた。結果的にはライスが二バ身ほどブルボンを引き離しての勝利となった。ストップウォッチのタイムを確認すると、現段階としては二人とも十分過ぎるタイムを叩き出していた。特にブルボンは距離適性が合っていないにも関わらずだ。最後にみせた僅かな伸びも、彼女の強い気持ちがあってこそだと見ているだけで分かった。

 

声にこそ出さなかったが、胸の熱くなる模擬レースだった。少しずつその熱が静寂の中に溶けていったところで、俺は二人分のドリンクを持って、ゴールの先で呼吸を整えている二人の元へと走った。ライスは膝に手をついて、ブルボンは腰に手を当てて天を仰いでいた。

 

「二人とも、お疲れ様」

 

声をかけながらグラウンドに入る。二人はこちらに目を向けてくれたが、まだ何か言葉を発せるほどではないだろう。

 

俺はドリンクを示すように持ち上げた。

 

「まずは二人とも休憩だ」

 

 

―――――

 

 

ライスとブルボンが水分補給を済ませて呼吸も落ち着いたところで、俺は再び口を開いた。

 

「まずは二人とも、お世辞抜きで最高のレースだった。どちらも現段階では十分過ぎるタイムだ」

 

俺はライスとブルボンにそれぞれの走破タイムを示しながら総評を伝え、さらに言葉を続けた。

 

「新米トレーナーの言葉で信用に足らないだろうけど、ブルボン。今日の走りを見て確信できた。君ならクラシックレースも走れる。いや、勝てる」

 

ブルボンが息を呑む。つり目気味の目が少し見開かれた。

 

「……ですが、完敗でした。今の私では、ライスさんに同じ条件だった場合、何度レースをしても勝利は見込めないかと」

 

「その通りだ。だけど『今は』だ。ブルボン、ライス、君達に渡したい物がある」

 

俺はライスとブルボンにそれぞれ左上端をホッチキスで止めた紙束を渡す。それを見て最初に声を上げたのはライスだった。

 

「トレーナーさん。これって」

 

こちらに目を向けるライスに俺は頷いてみせた。

 

「二人それぞれのトレーニングプランだ。ライスはスピード、ブルボンはスタミナに重点を置きながら総合的に能力を伸ばせるように作ってある。もちろん実力の付き方や練習の負荷にどれだけ耐えられるかで細かく修正していく必要があるけどね」

 

「……質問してもよろしいでしょうか」

 

紙を何枚か捲った後、ブルボンが俺に顔を向けた。

 

「なんだい?」

 

「早急に確認したところでは、とても綿密に練られたトレーニングプランだと認識しました。ですが、私とあなたは契約をしている訳ではありません。どうして私の為にここまでしていただけるのですか?」

 

ブルボンは疑う、というより不思議に思っている様子だった。少し笑みを深めて俺は彼女に返答した。

 

「君が夢を叶える瞬間がみたいと思ったからだよ。だから俺にできる最大のサポートをしようと思った。それだけだ。もちろん、ライスの夢もね」

 

ライスの方をちらりと見ると一瞬彼女と目が合って、彼女は照れくさそうにして目を逸らしてしまった。

 

「……ライスさんのトレーナーさん」

 

再びブルボンに視線を戻す。彼女は真っ直ぐこちらを見つめていたが、僅かに下に目線が落ちる瞬間があった。無表情の中に隠された彼女の不安な気持ちを感じた。

 

「私は、三冠ウマ娘になれるでしょうか?」

 

声に出したブルボンが拳を握る。欲しい答えを求めているそんな懇願が声色から伝わった。俺はしっかり彼女の顔を見て、言葉を紡いだ。

 

「その質問にハッキリと答えるために、君の走りを改めて見たかったんだ。君がどれだけ本気か、今日でよく分かった。ブルボン、君は三冠ウマ娘になれる。その夢が叶えられると信じてるよ」

 

俺がそう伝えると、ブルボンは一度深く息を吐き出した。どこか張りつめていた彼女の力が弛緩していく。それから彼女は切り出した。

 

「ライスさんのトレーナーさん。もし可能ならば、私とも専属トレーナーの契約を結んでいただけないでしょうか?」

 

ブルボンの言葉に最初反応したのは、俺ではなくてライスだった。

 

「わぁ! じゃあ、同じチームになれるんだね、ブルボンさん!」

 

「はい、トレーナーさんさえよろしければ、そういう関係になるかと」

 

ブルボンが嬉しそうなライスの方に向き直って頷く。ライスに釣られているのか、無表情ながらも少し声は明るかった。

 

新人の俺からすれば、ブルボンの気持ちは願ってもない事だ。これだけ才能がある子を、それこそ二人も担当できるなんて早々巡り会えないだろう。しかし、ブルボンとライス、二人それぞれに俺自身が全力で応えるためには、どうしても確認しなければいけない現実があった。

 

「ライス、ブルボン。一つだけ、二人と同時に契約をするために確認しなければならない事がある」

 

二人の顔を交互に見る。俺の表情から察したのか、二人とも真剣な顔に変わった。俺は言葉を続けた。

 

「二人共、もう本格化が始まって今年デビューする事になると思う。つまり、同期でトゥインクルシリーズに参戦する。そうなれば、生涯に一度しか出られないクラシックレースに、二人は同時に出る事になる」

 

二人の反応は無い。それが何を意味するのかしっかり分かっている様子だった。それでも俺は敢えて口にした。

 

「俺は二人の夢を等しく応援したい。ブルボンの三冠達成も、ライスのたくさんの人を幸せにするっていう夢も。だけど、もしそれで二人がお互いを気にする余り、望むレースに出られなかったり全力を出せなくなるような心持ちになってしまうなら、同じチームになるべきではないと俺は思う。……二人の気持ちを聞かせて欲しい。特にライス」

 

ライスは唇をキュッと結び俺を見つめていた。先ほどは逸らされてしまった目線は、今回は動かなかった。

 

「君の夢はクラシック級に限らない。シニア級になっても目指していける。でも、だからといってクラシックレース全てをブルボンに遠慮するような事はあって欲しくない。ティアラ路線も君の適性から俺は進ませるつもりはない」

 

「うん。分かってるよ、トレーナーさん」

 

「そうか、じゃあ厳しい言葉になるけど、あえて聞くよ。ライス、君はブルボンの三冠を、彼女の夢を、チームメイトでありながら阻む覚悟はある?」

 

するとライスは瞑目した。僅かな間沈黙が流れる。風が一つ吹いて、ライスの長い黒髪を揺らした。隠れていた右目が黒髪の隙間から少し覗いて、それから彼女は目を開いた。彼女のアメジストを想像させる綺麗な双眸が俺に向いた。

 

「トレーナーさん。ライス、ブルボンさんの夢も大切に思ってるけど、それで自分の夢を曲げるような事はしないよ。だって今は、ライスだけの夢じゃないから」

 

強い決意に満ちた声だった。いつものどこか不安げで気弱なライスはそこにいなかった。

 

「ライスも絶対、クラシックレースに出走する。それで、ブルボンさんの夢を阻む覚悟を示すために、ライスの夢を叶えるための目標を決めました」

 

「目標?」

 

俺がそう聞くと、ライスは強く頷いて、まるで睨むように目に力を込めて俺とブルボンに宣言した。

 

「ライスも、三冠ウマ娘になる」

 

息を呑んでしまった。時間が止まったかのような錯覚を覚える。ライスの顔からそれが思いつきではなく、本気で言っている事が強く伝わった。

 

「そうか」

 

それならば、もうライスの心配は無用だろう。俺は次にブルボンに顔を向ける。

 

「ブルボン、君の夢はクラシック三冠だが、俺はそれだけで終わって欲しくないと思っている。君はさらにその先でも勝ち続けられる逸材だ。そうなれば君は、ライスの夢を阻む障害になる。その覚悟はあるかい?」

 

「はい」

 

ライスと違い、ブルボンは即答で首肯した。

 

「私は三冠ウマ娘だけで終わるつもりはありません。シニア級を迎えても勝利し続けます。最強であり続けてこそ、三冠ウマ娘という称号には価値があると考えています。その為にも――」

 

するとブルボンはライスの方へと向き直る。ライスもブルボンの方へ体を向けた。

 

「私はライスさんと勝負をし続けなければなりません。私に土を付けるだけの実力を持ったライバルと」

 

ブルボンは最後、不敵な笑みを浮かべながらそう宣言した。その表情からして、負けるつもりはないようだ。それに気付いたようにライスも笑みを零す。

 

「ライスだって。絶対勝つよ、ブルボンさんに」

 

「はい、そうこなくては困ります」

 

二人の様子に俺はもう大丈夫と悟り、空気を弛緩できればと笑みを浮かべて見せた。

 

「よし、二人の気持ちはよく分かった」

 

俺は再びライスとブルボンを見渡す。二人がこちらに顔を向けたところで言葉を続けた。

 

「じゃあ改めて、これからよろしくな。ライス、ブルボン」

 

「うん! こちらこそよろしくお願いします!」

 

「はい、今後ともよろしくお願いします。マスター」

 

ライスとブルボンが丁寧に頭を下げてきた。だが、一つ気になることがまた現れた。

 

「ブルボン、マスターってなんだ?」

 

俺がそう聞くと、顔を上げたブルボンは何を聞かれたのかよく分かっていない様子の顔を見せた。

 

「マスターはマスターですが……。これから様々に指示、指導をしていただくので、この呼称が最適と判断しました」

 

「んー。まぁいいか。呼びやすいように呼んでよ」

 

「はい、マスター」

 

とりあえず学園で変な噂が流れない事だけ祈っておこう。そこでふとライスに目を向けると、ライスはブルボンをじっと見ていた。どこか羨ましそうな目で。

 

「ライス、どうした?」

 

「え? あぁ、ううん、なんでもないの!」

 

ライスはワタワタと首を振った。時々こう言って誤魔化す時があるが、何かあるのだろうか。まぁ、近いうちに聞く機会があれば聞いてみよう。

 

「そうか。さて、それじゃあ明日から早速三人でチーム始動だ。三人で頑張っていこうな!」

 

『はい!』

 

俺の言葉にライスとブルボンの返事が重なった。

 

 

     ♧

 

 

目を奪われていた。あのミホノブルボンに勝つなんて、あの子は一体誰なのだろう。もしかしたら、あの子もあたしの同期になるのかもしれない。

 

走ってみたい。勝負してみたい、あの二人と。

 

気持ちが昂り走りたい衝動を抑え切れなかった。明日少し個人練習メニューを増やそうと決めた。

 

そうと決まればじっとしていられない。明日のためにも早く宿題を終わらせて今日は休まなければ。

 

あたしはグラウンドの三人から目を離し、教室を出て帰路に着いた。暗い廊下で転ばないよう気を付けながら、出来る限りの速度で走っていった。

 

 

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