勇者過軍~魔王の死後、80年後に召喚された俺たちは時季”ハズレ”の勇者と呼ばれていた。   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれれば幸いです。
m(_ _)m




第十一話

 

 

四条が騎士団に捕まった後、火風とアーエーの二人は街外れにある厩舎(きゅうしゃ)に身を隠していた。

そして、夜明け頃、彼女たちの元へ白く可愛らしい蟲がやってきた。

昆虫に鼻はない。その代わりとなる主な器官が触覚であり、その匂いを感じる力は人よりずっと優れている。身近なところで言うのなら(ハエ)等は数十キロ離れた匂いも感じ取る事が出来ると言われており、【神器:天害蠱軍】の蟲たちもその例に漏れず、叫虫は火風の匂いを辿り飛んできていた。

 

「アーエー、起きろ。四条からの使いが来た」

「おー、それでー、四条はどういう状況におかれているのですかー?」

 

アーエーは寝ぼけ眼を擦りながら、火風の肩にとまった叫虫を見るが、叫虫は可愛らしく首を傾げるだけだった。

アーエーの視線が次は火風へと向けられる。

それを受けて火風は堂々と言い放つ。

 

「知らん!私には蟲達の言っていることがわからないからな。というか、四条の奴も蟲達の言葉がわかると言う訳ではないようだぞ」

「ええーですー。普通は使い魔の言葉はー、通じるものなのですよー」

「【神器】により召喚される蟲だぞ。魔人族(おまえたち)が使役する“使い魔”とは、原理が異なるのだろう」

「・・・なるほどー、それは盲点だったのですー。それでも四条の言葉は通じている様でしたからー、四条は普段からこいつらの身振り素振りで意図をくみ取っていたということですかー。お前たちのご主人様はよくやるのですよー」

 

アーエーは胸に抱いている具足虫の頭部をグリグリと撫でる。

四条(ご主人様)が褒められて、具足虫()はご満悦だった。

アーエーと具足虫が仲良くなっている中、火風は叫虫の身体を探る。

そして、翅の裏側や足の付け根に伝書(でんしょ)が無い事を確認していた。

 

「普段、あいつが蟲で連絡を寄越すとき、蟲の身体に伝書を忍ばせているのだが・・・それがない。身体検査で紙やペンを没収されたのだろう」

「ということはー、やはり四条は爆破事件の犯人として捕まっているということですー。やはり早く助けに行くべきではー?」

 

アーエーの言葉に同意して、彼女に抱かれている具足虫が前脚を上げた。

 

「いや、使いの蟲を出せる余裕があるのだ。まだ大丈夫だろう。あいつが自分で容疑を晴らすのを待とう。騎士団とのもめ事など、穏便に済ませるのが一番だからな」

「・・・火風は悠長ですねー」

「おまえは血の気が多いな」

 

火風とアーエーの視線がぶつかる。

同時に火風の肩にとまる叫虫とアーエーに抱えられる具足虫の視線もぶつかった。

すると具足虫は叫虫を威嚇し、叫虫も羽を広げて応戦したが、少しすると叫虫が火風の服の内側へと逃げていった。

具足虫は勝ち誇った様子で脚をワキワキと動かしていた。

そんな二匹の蟲達のやり取りを興味深そうに見ていたアーエーは火風に訪ねる。

 

「同じ四条の蟲なのにこいつら仲が悪いのですかー?」

「種類によって気性の荒さが違うらしいぞ。具足虫は過激派。この叫虫は穏健派だとあいつは言っていた。あいつの目の届かない所で蟲達の意見が割れれば、それぞれ別行動もするらしい」

「タカ派とハト派ですかー。風見鶏(かざみどり)が必要ですねー」

「一応、バランス役の蟲もいるのだが、今は見当たらないな」

 

火風は地面を見るが、そこに鬼百足(別種の蟲)の気配はない。

仕方がないので火風は二種の蟲の様子から、現在の四条が置かれて居る状況を推察する。

 

 

叫虫は(つがい)で使う蟲。

それを火風も知っている。

 

「四条が助けを求めているのなら、この叫虫が鳴くはず。鳴かない限りは大丈夫だと言う事だろう。案ずるな、あいつは強いよ」

「・・・わかったのですよー」

 

結局、アーエーが折れる事となった。

四条との付き合いの長さから来る火風の説得力に「面白くないのですよー」と文句を漏らすアーエーだが、何時までも文句を言い続けるほどに彼女も子供では無い。

切り替えて、場所の移動を提案した。

 

「四条が容疑を晴らすまで身を隠すならー、移動しましょうー。一カ所に留まっては見つかるリスクがあるのですよー」

「そうだな。・・・次の隠れ場所は、街外れにあった廃教会にでもしよう」

「ああー、市場で買い物している時に聞いた彼処ですねー。良いと思うのですー」

 

そうして厩舎から出た彼女達だったが、残念ながら街外れにある廃教会に向かうことはできなかった。

厩舎を出たアーエーが窮屈さから解放され、小さな身体で伸びをしたところで気が付いてしまったからだ。

 

ジジジジジと響く羽音。

空の向こうから迫る暗雲。

それを見て「おー」と小さく歓声を上げるアーエーと、彼女の腕の中で前脚を上げて歓喜のポーズを取る具足虫。

 

「火風ー、見るのですよー。確かに四条はー、アーたちの助けなんて要らないみたいですー」

 

アーエーが無邪気に指さす先を見て、火風は顔を青くした。

 

「な、なんだ・・・あれは・・・!」

 

空の向こうから、何百匹という具足虫の大群が街を目指して飛んで来ていた。

四条の目の届かない場所で、あれ程の具足虫の大群が動くことは今まで無かった。明らかな異常事態に火風は慌ててアーエーに抱えられている具足虫を見るが、勿論、彼は何も言わない。

ただ四条獅子丸(ご主人様)を助ける為にやって来た同胞の到着を、キィキィと鳴いて喜ぶばかりだった。

 

「アレが街に入れば容疑を晴らすどころか、四条が街を襲った極悪人になってしまうぞ!」

「コイツらの暴走でしょうかー。流石は過激派ですー」

「笑い事ではないぞ!」

「でもー、あの数は笑うしかないのですよー。それと止める方法があるのですかー?」

「無い!・・・いや、有る!確か前にあいつから渡されたモノが有ったはずだ!」

 

火風が荷物の中から取りだしたのは蟲笛(むしぶえ)だった。

紐を持ち回すことで鳴るうなり笛の一種で有るその蟲笛は四条お手製の一品であり、火風はもし自分の居ないところで具足虫の力を借りたい時はこの蟲笛を鳴らすようにと四条から言われていたことを思いだした。

 

「アーエー!これを鳴らしてくれ!」

「わかりましたー」

 

火風から投げ渡された蟲笛をアーエーが鳴らすと、具足虫の大群は街への侵攻を止めて蟲笛の鳴る方へと集まりはじめる。

そして、厩舎の周りに数百匹の具足虫が集結した。

 

「・・・それでー、ここからどうするのですー?」

「・・・さあな、私は困ったら蟲笛(それ)を鳴らせとしか言われてない」

 

数百匹の具足虫たちの無機質な目が二人をジッと見つめている。

森で戯れた時とは違う彼らの雰囲気に、流石のアーエーも唾を飲む。

それもその筈。彼らは今、怒っていた。昆虫に感情は無い。しかし、情動がある。

好きな食べ物があって、好きな場所があって、好きな時間があって、好きな人がいる。

()()()()()攫われたと彼らは思っている。

彼らにとって、四条獅子丸こそが()()の全部だ。

それを取り戻しにやって来たのに、()()()()()

果たして目の前の二人が同胞(味方)であるのかを、彼らはキノコ体()で考える。

四条がくだした過激派の評価は正しく、彼らは同胞(味方)でないのなら、同族にも容赦なく牙を剥く。

緊張感に満ちた沈黙を破ったのは、アーエーが抱えていた具足虫の一鳴きだった。

 

〈このこは、かわいいこだよー〉

〈そうなの。わかったよー〉

 

火風とアーエーを囲んだ具足虫の大群から、二人への敵意が霧散した。

集まった具足虫たちは各々にその場でくつろぎはじめた。

 

「どうやらー、お前に助けられたようですねー」

 

二人を救った具足虫は、アーエーに頭部を撫でられてご満悦だった。

火風は長い溜息の後、四条の扱う【神器(チカラ)】の危うさを改めて理解した。

 

「やっぱり、助けに行った方が良いかもしれないな」

「ですですー」

具足虫(彼ら)に暴走の危険があるのなら、四条の身柄は一刻も早く取り戻すべきか。最悪、この街が滅びかねない」

「アーは最初からー、そう言っているのですよー」

 

ドヤ顔を披露するアーエーにイラッとしながらも、火風は己の考えを改めた。

そして、どうやって騎士団から四条を助け出そうかと考えはじめた所で、黄色い声が辺りに響いた。

 

「あー!不審者さんを発見なのー‼」

 

二人は驚き、声の方向へ目を向ける。

騎士(部下)達を引き連れて宿屋爆破事件の捜査に乗り出していたピンク髪の副隊長、亞呂恵の姿があった。

亞呂恵は厩舎の周り集結する具足虫(怪虫)達に驚きながらも、その鋭い観察眼(本人評価)はアーエーの額にある深紅の角を見逃さなかった。

 

「怪しい魔人族さん!街中での使い魔の召喚は禁止されているの!逮捕なのー‼」

「おー、アーに喧嘩を売るとは良い度胸ですー。かかってこいですよー」

「アーエー。こら、止めろ。騎士団とトラブルを起こすな。此所は私が説明するから、おまえは下がっていろ」

 

亞呂恵に向かってファイティングポーズを取るアーエーを押しのけて、火風が前に出る。

 

「この街の騎士たちよ!剣を収めよ!私たちはけっして怪しいものではない!」

「怪しい人たちは皆、そう言うの!えいっ!」

「おわっ⁉い、いきなり斬りかかってくる奴がいるか⁉」

 

亞呂恵の振り下ろした剣を火風が得物(えもの)である手斧で受け止める。

 

「武器を抜いたの!公務執行妨害なの!逮捕なのー‼」

「ま、待て!は、話を聞いてくれ!」

「話なんて聞かないの!あなた達は何も言わなくていいの!黙って逮捕さえされてくれれば、貴方達を()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「はあ⁉あ、あんた、何を言っているのさ!」

「うるさいの!恋愛にルールなんてないの!つまり恋する乙女は無法なのー‼」

「ええい!話の通じない奴は嫌いだぞ!」

 

火風の手斧と亞呂恵の剣がぶつかり合う中、アーエーは具足虫を抱えたまま亞呂恵の部下である騎士達から走り回って(スタコラサッサと)逃げていた。

 

「鬼さんこちらー、手の鳴る方へですー」

「お、鬼種(おに)はお前だろう」

「ま、待て。に、逃げるなあ」

「フフフ、お前たち如きに捕まるアーではないのですー」

 

そんな彼らの争いをくつろぎながら傍観していた具足虫たちだったが、彼らの小さなキノコ体()はあることを思い出す。

 

〈そういえばごしゅじんさまをさらったやつらと、あいつらにてるよ〉

〈え、ほんとう?なら、“テキ”だ〉

〈ほんとだ“テキ”だ〉

〈“テキ”の“ケツ”に“タマゴ”をうみつけろー〉

〈〈〈おおー‼〉〉〉

 

具足虫の大群が一斉に亞呂恵と騎士達に襲い掛かる。

 

「え⁉きゃ、きゃー⁉なんなのー⁉」

「「「う、うわアア⁉」」」

 

次は彼らが逃げ回る番だった。

それを見てアーエーはケラケラと笑っていたが、火風は慌てた様子でアーエーの肩を揺さぶった。

 

「あ、アーエー!蟲笛を鳴らせ!蟲達を止めろ!流石に騎士団殺しはマズイぞ!」

「えー、せっかく逃げるチャンスができたのですー。放っておけばいいのではー?」

「馬鹿!放っておけるか!」

「火風は優しいですねー」

 

火風に促されたアーエーが蟲笛を鳴らしたお陰で、亞呂恵と騎士達の尻穴(ケツ)はなんのか無事だった。

それでも亞呂恵は具足虫たちに衣類をかじられ、ボロボロになっていた。

 

「うう~、助かったの。ありがとうなのー」

「いや、元々はあいつらを御しきれない私の相棒の不始末が原因なのだ。こちらこそ、迷惑をかけて済まなかった」

 

火風は亞呂恵にハンカチを差し出した。男前だった。

亞呂恵は受け取ったハンカチで涙を拭いた後、「でも」と言いながら目を光らせる。

 

「それとこれとは話が別なの。貴方達は怪しいの。逮捕させてもらうの!」

「ま、まだ私たちを信じてくれないのか?」

「私は公私をしっかりと分ける人間なの!」

「どの口がー」

「そこ!うるさいの!」

 

亞呂恵はアーエーを指さした。

アーエーは手に持っている蟲笛を鳴らそうとする。

それを見た亞呂恵は直ぐに土下座(ごめんなさい)をした。

 

「で、でも!私には真犯人さんが必要なの!じゃないと、昨日逮捕した容疑者さんが犯人さんになってしまうの!それはマズいの!」

 

顔を上げた亞呂恵がそう訴える。

彼女の中で何よりも優先されるのは四条を無罪にすることだ。

でなければ愛羽(推し)食事(デート)ができない。

瞳に炎を滾らせる亞呂恵にアーエーは若干、引いた。

対して火風は亞呂恵の熱意を好意的に受け取っていた。

 

「真実を追究する姿勢は嫌いじゃない。その熱意を信じて真実を話すが、私たちは貴女の言う逮捕した相手、四条の仲間だ」

「本当なの?」

「本当だ。この蟲達に見覚えがあるだろう?昨夜、四条が連れていた蟲と同じ蟲だ」

 

火風に言われて亞呂恵はアーエーが抱えている具足虫をジッと見つめる。

 

「・・・言われて見れば同じなの。昨日見たときは暗かったから、気がつかなかったの」

「あいつの無罪を信じるあんたに頼みたい。私たちの事も信じてくれ」

「・・・わかったの。(愛羽様との逢瀬の為に)信じてあげるの」

「ありがとう!」

「(愛羽様の逢瀬との逢瀬の為だから)お礼なんて要らないの。当然のことなの!」

「偏見に囚われず判断を下せる。間違いを認めて正せる。あんたは素晴らしい騎士の様だな!」

「当然なの!」

 

握手を交わす二人をアーエーはジト目で見て、何やら意気投合した二人の様子に溜息を吐いていた。

 

「はあー。それでー、これからどうするのですー?真犯人とやらの手かがりはー、あるのですかー?」

「ないの!だから、とりあえず四条さんに話を聞きに隊舎に戻ろうと思うの」

「そうか。なら、私たちもついて行かせてくれ。四条の奴を、安心させてやりたい」

「わかったの」

 

簡単に頷いた亞呂恵を、側に居た部下の騎士が慌てて止める。

 

「あ、亞呂恵副長!流石に部外者に容疑者を会わせるのは、マズいですよ」

「構わないの!これも早く事件を解決する為なの!」

「で、ですが、隊長に知られれば始末書では済みませんよ!」

「大局を見るの!事件の解決は何よりも優先されるものなの!」

 

そう言って騎士を制した亞呂恵に対して、火風は腕を組みながら頷いて感心していたが、彼女が見ているのは愛羽(推し)食事(デート)だけだった。

それを火風が知る日は来ない。

 

「それじゃあ、皆で隊舎に戻るのー!」

「おー!」

「・・・アーはあまり気乗りしないのですよー」

「あ、そう言えばこの蟲さんたちはどうするの?」

「どうするもこうするも、私たちにできる事は無い。此所で待っていて貰う他にないさ」

「あー、ならー、アーもコイツらと一緒に待っているのですよー」

「それは駄目だ。おまえも来るのだ」

「あーれー」

 

そうして彼女達は四条が捕まっている留置所のある隊舎へと戻ったが、其処に既に四条の姿はないのだった。

 

 

 





登場人物。

主人公ー四条獅子丸。
肩書き:召喚勇者序列第十三位。
使用武器:【神器:天害蠱軍】。
好物:発酵食品。
趣味:麻雀。

女冒険者ー火風。

魔族少女ーアーエー・シューハマー。
使用武器:蟲笛。

女騎士ー亞呂恵。
肩書き:地方騎士隊第二十三分隊副隊長。
使用武器:剣。
好きな人:愛羽明人。

勇者ー愛羽明人。
肩書き:召喚勇者。騎士団本部騎士団長補佐。
好きな人:四条獅子丸。

チンピラー雷汞。
肩書き:脱獄囚。

犯罪者ー我楽。
肩書き:人形家

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