勇者過軍~魔王の死後、80年後に召喚された俺たちは時季”ハズレ”の勇者と呼ばれていた。   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれれば幸いです。
m(_ _)m




第十二話

 

 

街外れにある(はい)教会(きょうかい)に到着した俺は、周囲に漂う死の香りに顔を顰めた。

人体が腐る事で香る死臭とは違う。空気が重く、息が詰まりそうになる。

この香りを俺は何度か嗅いだことがあった。

冒涜された死が醸し出す死の雰囲気(オーラ)だ。

俺にはそれが廃教会全体を包んでいるように見えた。

それ程までに暗い色。

 

「どうです旦那。悪党が潜むには、おあつらえ向きじゃねぇですかい」

「・・・ああ、そうだな」

 

廃教会の前に立っている女神像の首は折れ、顔は地面に転がり苔むしていた。

窓のステンドグラスは全て割られていて、扉は半壊し役目を果たしていない。

周りには畑の様なものもあったが、荒れ果てて農具が散乱していた。

僅かに残る人々が暮らしていた痕跡。

それが余計に此所が人々から捨てられてからの年月を表しているようで、もの悲しかった。

 

「さてと、どうしやす?正面から乗り込んでやりやしょうか?」

「・・・壁も朽ちて穴がある。正面から行って、逃げられたら面倒だ。それに罠があったら不味い」

 

宿屋で襲ってきた佐助を爆弾に変えた同級生(クラスメイト)が此所に潜んでいる場合、一歩でも建物に足を踏み入れた瞬間に爆発(ドカン)と言う事も十分にあり得る。

 

「なら、どうするんでさぁ。騎士団に通報でもしやすか?」

「俺たちも一緒に捕まることを除けば、良い案だな」

「冗談ですって」

 

おどけた態度に見える雷汞だが、努めて冷静で居るために軽口を叩いて居ることは俺にも分かった。

彼もまた廃教会を覆う死の雰囲気(オーラ)に気が付いているのだろう。

 

「旦那。どうしやす?」

 

委ねる雷汞に断言する。

 

「初手から全力で潰す」

 

あの廃教会に悍ましいナニカが潜んでいることは明らかだった。

それが人であったとしても、これ程までの死の匂いを撒き散らす輩は怪物と言って良い。

躊躇をすれば殺されるのが此方であるということを、俺は既に知っている。

 

戦闘姿勢(リーチ)だ。具足虫」

 

【神器:天害蠱軍】を発動。この場を異界と繋げて具足虫の軍勢を呼ぼうとしたところで、それより早く何処からともなく数百匹の具足虫が飛んで来た。

 

「え・・・あれ?」

「おお!流石は旦那だ!なんちゅう数の使い魔を使役してやがるんでい!」

「あ、うん。まあ、いっか」

 

俺は集まった具足虫たちに改めて戦闘姿勢(リーチ)を命じる。

羽音を響かせて、顎を打ち鳴らす彼らは何故だかやる気満々だった。

廃教会を囲うように配置した具足虫の軍勢。たとえ建物の中にいても、彼らの羽音と威嚇音が潜むナニカには聞こえているはずだ。

それでも外に出てくる気配は無い。

この時点で廃教会に潜むナニカが真面な存在ではないと確信した。

ならば、やはり即時戦闘開始(即リー)で構わないだろう

 

「具足虫。全軍突撃(ドラドラ)‼」

 

具足虫の飛行速度最大五飜(500キロ)による体当たりは城壁にも大穴を開ける。

それが数百匹となれば、既に崩れかけの廃教会を更地にするのに三十秒とかからなかった。

 

「・・・旦那。アレじゃあ、潜んでいた奴は挽肉にジョブチェンジしてやしやせんか?」

「・・・それならそれで仕方ないだろ。手を抜いて此方が被害を受けるよりはマシだ」

「へへへ、流石は旦那だ。やっぱりオイラの目に狂いはなかった。只者じゃねぇや」

 

俺の言葉に雷汞は何故か嬉しそうな様子だったが、俺は内心、驚いて(ビビって)いた。

俺は隠語(通し)で彼らに“全軍突撃(ドラドラ)”を命じたが、実際に彼らが行った攻撃は最大飛行速度による“MAX(満貫)全軍突撃(ドラドラ)”だ。

具足虫たちの体当たりによる攻撃は、その数と速度により破壊の規模が変わる。

だからこそ、普段は細かく別けた隠語(通し)によって威力を調節しているのだが、今回はそれが上手くいかなかった。

 

「・・・確かに俺は何飜か(速度)の指定はしなかったが、普段なら彼らが上手く調整してくれるんだけどな。・・・今のヤツの数を増やしたのが“人和(れんほー)”だぞ。・・・必殺技(アレ)が暴発する可能性があるとすると・・・ヤバくないか?」

「旦那、何をブツブツ言ってるんですかい?」

「イヤ、ナンデモナイ」

 

彼らの数がもっと多かったら、破壊の規模は廃教会に留まらなかっただろう。

それを誤魔化しつつ俺は彼らに倒壊した廃教会の探索を命じる。

何処かで貯まった鬱憤を晴らしたという様子の彼らが嬉々として瓦礫と化した廃教会の周りを飛び回る。

それを眺めながら、俺は戦闘姿勢(リーチ)を解いた。

解いて、しまった。

 

次の瞬間、瓦礫の隙間から伸びてきた数十本の触手によって具足虫(彼ら)が捕まった。

触手に囚われた彼らの鳴き声が周囲に響く。触手は粘液にまみれていて、彼らの堅い外殻が溶かされていた。

 

「な、なんなんでい⁉ありゃあ‼」

「具足虫‼戦闘姿勢(リーチ)東場(トンば)だ‼」

 

即座に彼らに廃教会上空からの撤退を命じる。

直ぐに具足虫の大半は俺の周囲に戻って来て、空中停止(ホバリング)での戦闘姿勢に移行したが、逃げ遅れた数十匹が数十本の触手によって捕らえられ、瓦礫の下から這い出してきた()()によって()()()()()

 

「旦那ッ。ありゃあ、“魔物”ですぜ」

 

“魔物”。

それは魔王の死後、人前に現れることは全く無くなった“人を喰らう動植物の通称”。

人々が忘れつつある人類の敵を前に息を呑む。

雷汞も同様の様子で側に落ちていた農具を拾い魔物に向けて構えていたが、農具を握る手は僅かに震えていた。

 

「雷汞。魔物と戦ったことはあるか?」

「へへへ、オイラは王都出身の都会っ子ですぜ?あるわけねぇや。旦那はどうですかい?」

「似たようなモノと手合わせをした事はあるけど、あんな冒涜的な形じゃなかった」

 

その魔物は巨大なイソギンチャクの様な形をしていた。上部には無数の触手が蠢き、胴体と思われる場所は半透明で内部が透けて見えた。下部には上部のものより短い触手が生え、それが蠢きながら少しずつ移動している。

その魔物が現れてから、周囲に充満する死の匂いは強くなった。

 

()()()、それ以上の“脅威(オーラ)”。

蠢く魔物の横を通り、“赤毛の男”がやってくる。

ボサボサ癖毛。

その間から見える瞳は血の様に赤い。

一目見て、彼が廃教会を覆っていた死の雰囲気(オーラ)だと気が付いた。

それ程までに死臭が男は、俺たちの顔が見える所まで歩いて出てくると血走った目を向けて、叫んだ。

 

「君ら‼(ひと)()にいきなり何してんのオオオオオオオ‼」

 

男は地団太を踏みながら、続けて叫ぶ。

 

「僕らが地下室で生活してなきゃ!僕を含めた家族全員死んでいたよ‼そうなったら責任とれるの⁉ねえッ!責任取れるのオオオオオオオ⁉」

「え、あ、あれ?その、ごめんなさい」

 

魔物を伴って現れた男だが、怒っている内容は至極真っ当なモノだったので思わず謝ってしまった。

しかし、横にいた雷汞がそれを止める。

 

「旦那。頭なんか下げなくていいですぜ。あの野郎の顔には見覚えがありやす。“人形家”の我楽(がらく)。有名な犯罪者(クソ野郎)でさあ」

「いや、でも、彼が犯罪者であっても、その家族には罪はない。俺の浅慮で彼の家族を巻き込んだなら、謝るべきだろう」

「流石は旦那、立派な考えだ。でもね、やっぱり頭なんか下げなくていいんだ。我楽はこの国で一番有名な墓荒らしでさあ。女の死体、それも子供のもんばかりを掻っ払って人形遊びにフケる変態。奴の言う家族ってのは、きっと死体で作った人形のことですぜ」

 

俺は言葉を失った。

そして、我楽を見ると彼は嬉々として語る。

 

「君は失礼な奴だな。僕の娘たちは人形なんかじゃない。死体の娘たち(ネクロガールズ)って、ちゃんとした名前があるんだ。僕は娘たちを心の底から愛している。だから、娘たちを傷つける奴らは絶対に許さない」

 

我楽の怒りに応える様に魔物が触手を蠢かせる。

それに対して具足虫(彼ら)も、また威嚇音を鳴らし怒りを表すが魔物相手には通じていない。

俺が具足蟲(彼ら)を操ることに、我楽も驚いては居なかった。

 

その事に疑問を覚える。

そして、同時に湧いた疑問を雷汞に投げかけた。

 

「なあ、人間が魔物を操るのは、普通にあることなのか?」

「馬鹿言っちゃいけねぇや。()()()()()()()()

「だよな」

 

あり得た場合、俺の【神器(チカラ)】の価値は下がる。

加えて()()()使()()()()なんていう【神器】の存在価値は無くなってしまうだろう。

 

「旦那。あ、いや、魔人族の連中が、魔物を使い魔として使役するのとは訳が違ぇや。それにオイラの知る“人形家”は、ただの死体性愛者(ネクロフィリア)の変態野郎だった筈でさあ。やいやい!我楽ッ、テメェッ、いつの間に異種間性交(アニマルプレイ)にも目覚めたんでさあ‼この超変態野郎!」

救世主(メシア)に、出会ったのさ」

「・・・救世主(メシア)、だあ?」

 

雷汞のヤジに我楽は笑いながら答える。

大仰に両腕を広げて天を仰ぐ様は聖職者のようで、熱に浮かされた様に火照った表情のまま「救われたんだ」と語る様は狂信者のソレだった。

 

「あの御方が僕の娘たち(人形)達に生命力を与えてくれた。僕に死体の娘たち(ネクロガールズ)を守る為の戦う力を与えてくれた。だから、僕はあの御方のために戦う!娘たちを傷つけようとしたお前たちを許さない!」

 

思い出して感動して身を捩る。

その我楽の姿には見覚えがある。

まるで初めて正式な卓で役満を上がった時の俺の様だった。

 

「ああ、わかるよ。全能感が全身を包んで、何でもできる気がするだろう」

 

異様な様子の我楽に怯んで一歩下がってしまった雷汞に替り、俺が一歩踏み出す。

 

「だ、旦那」

「大丈夫だ。下がっていろ。我楽は既に“人形家”なんかじゃない。アレは“怪物家”だ」

 

なら、その相手は俺がするべきだろう。

これでも俺は、救世主(勇者)なんだから。

それに我楽の魔物を操る力が与えられたモノだというなら、彼には聞かなければならないことが多すぎる。

 

戦う理由は出来た(卓は立った)。東場をはじめよう。具足虫、戦闘姿勢(リーチ)!」

「アッハハ!その小バエで、僕の“ネクロスライム”と戦う気かい?いいよ。来なよ。“四条”」

 

 

突撃(ドラ)ァア‼」

 

 

 

 





登場人物。

主人公ー四条獅子丸。
肩書き:召喚勇者序列第十三位。
使用武器:【神器:天害蠱軍】。
好物:発酵食品。
趣味:麻雀。

女冒険者ー火風。

魔族少女ーアーエー・シューハマー。
使用武器:蟲笛。

女騎士ー亞呂恵。
肩書き:地方騎士隊第二十三分隊副隊長。
使用武器:剣。
好きな人:愛羽明人。

勇者ー愛羽明人。
肩書き:召喚勇者。騎士団本部騎士団長補佐。
好きな人:四条獅子丸。

チンピラー雷汞。
肩書き:脱獄囚。

犯罪者ー我楽。
肩書き:人形家。
使用武器:魔物(ネクロスライム)
好きなもの:娘たち。


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