勇者過軍~魔王の死後、80年後に召喚された俺たちは時季”ハズレ”の勇者と呼ばれていた。 作:白白明け
前に書いていたオリジナル小説のリメイク作品です。
駄文ではありますが、皆様の暇つぶしになれば幸いです。
m(_ _)m
村を出てから二日後の早朝、俺たちは街に到着した。街を覆う白壁の外壁が朝露に濡れて僅かに湿っている。朝日を浴びて輝く白壁は、長旅により疲れている俺たちの気力を回復させるのに十分な光景だった。
「“白壁”の街。此所には王国騎士団の支部が居る筈だ。四条、面倒事は起こすなよ」
「どの口がそんな事を言うんだよ。トラブルメイカーは火風の方だろう」
そんな俺たちの会話にアーエーは首を傾げていた。
「“白壁”の街とはなんですかー?」
「知らないのか?いや、この国の者でないなら、知らないか」
アーエーの疑問に火風が答える。
「この国で街と呼ばれる都市には二つの種類がある。“黒壁”の街と“白壁”の街だ。二つの街はその成り立ちが微妙に違うのだが、今はその辺は割愛しよう。重要なのは街に騎士団が居るか居ないかだ。私や四条が暮らす街は黒壁の街で騎士団が
「そうですねー。普通に考えればー、騎士団が居る方が治安は良くてー、居なければ治安が悪いのではないでしょうかー」
「そうだな。それもある。確かに騎士団の存在は街の治安維持に貢献しているのだろうよ。だが、それは同時に白壁の街では騎士団の権力が大きいと言う事でもあるのさ」
俺たちが暮らす黒壁の街で治安維持を担うのは街の人々によって立ち上げられた警備隊だ。
街の
俺が前に居た世界でいうのなら、警備隊は警察のようなもの。捜査権と逮捕権は持っているが、そこまでだ。
だが、騎士団は違う。
彼らはそれに加えて裁判権も持っている。
「白壁の街で問題を起こせば、騎士団の裁量次第で簡単に牢獄行き。だから、騎士団に目を付けられない様に気をつけようって話さ」
「なるほどー、わかりましたー。目を付けられない様にアーも気をつけるのですー」
アーエーはそう言いながら、頭巾を被った。
魔人族の証である深紅の角が頭巾を被れば見えなくなる。
俺たちの街を出るときに受けた魔人族への差別。
それを受けて、少しでも受ける差別をなくす為に彼女自らが買って来た頭巾を見ると、やりきれない気持ちになる。
それは火風も同じ様子だ。
火風は俺たちの影に隠れる位置に移動してきたアーエーの肩を抱きながら、歯を見せて笑う。
「なあに、そこまで心配することではないさ。いざとなれば王都から離れたこんな所に配属される程度の騎士共なんて、ぶっ飛ばしてやる。なあ、四条」
「そうだな。仲間が危険に晒されたなら、俺の勇者魂が火を噴くだろうね」
「・・・フフフ、お前たちは馬鹿ですねー。アーがヘマをやらかす筈がないのですよー」
そうして俺たちは街へ入って行くのだった。
その日の夜。
まさか本当に騎士団と敵対する事になろうとは、思ってもみなかった。
ーーー✠ーーー
街へ入った俺たちは市場が開くのを待って物資の補充を行うことにした。
話合いの結果、火風はアーエーと一緒に行動し、俺は一人で市場を回ることとなった。
「アーは四条と一緒が良いのですよー」
「駄目だ。女同士でしか出来ない買い物もあるだろう。文句を言わずに着いて来い」
「あーれー」
火風に
勿論、市場で買うのは旅で必要な物だが、それでも買い物を楽しいと感じるのは俺自身が気疲れをしていた証拠だろう。
火風もアーエーも良い人だ。付き合いやすくはある。
だが、それでも二人は女性で、しかも魅力的だ。
男である以上、気を遣わない筈がない。
「さてと、必要な物は揃ったけど・・・もう少し市場を見てまわるか」
息抜きが必要だった。
俺の暮らす街からこの街まで歩いて五日ほどの距離しかないが、やはり街が変われば市場の品揃えも変わる。
特にそれが顕著なのが市場で扱う食品の種類だった。
俺は見慣れない食品に目を奪われる。
「この街じゃチーズの種類がこんなにあるのか」
市場に並べられたチーズの山を前に足を止めた。
発酵食品は好きだ。
前に居た世界での好物はフナ寿司だった。
若者向けの味ではないと言われるが、美味い。
他にも俺の趣味が麻雀だったこともあり、おっさんくさいと揶揄われたこともあるが、美味いものは美味いのだ。
商品を見ていると店主から話しかけられた。
「お客さん。旅人か?」
「はい。王都を目指して、旅をしている所です」
「旅のお供にチーズは欠かせねぇ。気になるのがあれば、手に取って見てくれよ。試食も出すぜ」
店主からそう言われたので、遠慮なく手頃な大きさのハードタイプのチーズを手に取る。
保存食として旅に持って行けるのは、やはりこの辺のものだろう。
「こんなに濃いオレンジ色をしたチーズははじめてみたんですが、これは保存が効きますか?」
「おう。そりゃ保存食にゃ持ってこいさ。少し切ってやるから、貸してみな」
手に取ったチーズを店主に渡せば、試食用に端を少しだけナイフで切り落として渡してくれた。
遠慮なく頂く。
中々の固さだが、美味い。
味は“からすみ”の様だ。
「この通りの堅さだから、持ち運ぶのに問題はねえ。熟成が進むとナイフが入らないくらい硬くなるが、そうなったら砕いて口の中で溶かしながら喰えばいいさ。オススメするぜ」
「この味なら、火風も好きそうだ。その塊一つ、ください」
「おっと、連れが居るのか。なあ、お客さん。連れは女か?」
「はい」
「なら、一応、伝えておくか。このチーズなんだが・・・作るのにダニを使ってんだ。チーズ作りに虫を使うのは珍しいことじゃないんだが、女の中には嫌がるのもいるだろ?勿論、完成したそのチーズにダニなんて居ないが、どうする?」
「ウチの女性陣は虫嫌いじゃないですから、大丈夫ですよ。買います」
「まいどあり!しかし、女で虫嫌いじゃないってのは、珍しいな。お客さんも虫は全然大丈夫なクチか?」
「はい。昔から大丈夫でしたが、最近は好きになってきた位です」
「そうか。なら、お客さんに是非、オススメしたいチーズがあるんだ。見てってくれよ」
店主が笑いながら取り出したチーズを俺は知っていた。
知っていたが、実際に見るのは初めてだ。
これは前にいた世界で“
発酵食品が好きな俺が、前の世界で存在を知って食べてみたいと思いながらも、その入手の困難さから食べるのを諦めていたチーズだ。
「チーズ好きでも食えない奴もいる
美味い商売だ。
これでは買って食べない訳にはいかない。
「じゃあ、一口分ください」
「度胸があるな。まいどあり!」
先ほど買ったチーズとは違い、このチーズは柔らかい。
店主が木の匙で一口分を掬い、渡してくる。
「ウジ虫が跳ねるから、気をつけて食えよ」
「これは中々のビジュアルですね」
木の匙に盛られたチーズの中で数匹のウジ虫が蠢いている。
このチーズを食べる時、ウジ虫を取り除く人もいるというが、せっかく食べるのなら、ウジ虫ごと食べるべきだろう。それでこそ、このチーズの本当の味がわかる筈だ。
チーズを口に入れる。
店主が小さく声を上げて喜んでいた。
「おお!躊躇せずにいったな。味はどうだい?」
「うん。うん。クリーミーなチーズの中に違う味、苦みや食感が混じっていて、面白くはありますね。ただ・・・まあ・・・俺は青カビ入りチーズで十分かも知れません」
「ハッハッハ!まあ、そうかもな。でも珍味だ。この街でも、このチーズを売ってるのはウチだけだぜ。どうだい?買ってかないか?連れの女たちとの話の種にはなるぜ」
確かにこのチーズを火風に食べさせた時のリアクションは気になる所だ。
アーエーは食べないかも知れないが、買って帰っても嫌われることはないだろう。
そう考えて買おうとしたところで、別の
俺が別の
「・・・せっかくですけど、止めておきます。チーズのウジ虫と
「・・・は?
「はい。大人しそうにみえて他の蟲に対して、嫉妬深いんですよ」
「虫に嫉妬するって、ヤベえ
「ええ、まあ、(異界の蟲だから)ヤベえですね」
店主の顔が何故か引きつっていた。
俺は不思議に思いつつ、オレンジ色のチーズの代金と一口分のウジ入りチーズの代金を支払う。
そして、包んで貰ったオレンジ色をしたチーズを受け取った所で、俺を呼ぶ声に気が付いた
「おーい!四条!買い物は終ったかー!」
「アーは早く宿で休みたいのですよー!」
声のした方を向けば、遠くから火風とアーエーが手を振っていた。
「連れが探しに来たみたいです。店主さん、珍しいモノを食べさせてくれてありがとうございました!機会があればまた来ます」
「お、おう。是非、また来てくれよな」
店主にお礼を言って、俺は二人の元へ駆けて行くのだった。
店主は四条の事を、手を振って見送った。
そして、彼が連れの二人と合流したのを見て、しみじみと呟いた。
「綺麗な姉ちゃんと可愛い嬢ちゃんじゃねぇか。あの二人が虫を相手に嫉妬するとはなあ。世の中には、変な女がいるもんだ」
店主の勘違いを解く者はいなかった。
登場人物。
主人公ー四条獅子丸。
肩書き:召喚勇者序列第十三位。
使用武器:【神器:天害蠱軍】。
好物:発酵食品。
趣味:麻雀。
女冒険者ー火風。
魔族少女ーアーエー・シューハマー。