勇者過軍~魔王の死後、80年後に召喚された俺たちは時季”ハズレ”の勇者と呼ばれていた。   作:白白明け

7 / 15

皆様の暇つぶしになれれば幸いです。m(_ _)m


第七話

 

 

 

激発物破裂罪(げきはつぶつはれつざい)

それが俺にかけられた容疑だった。

人が居る及びその可能性がある建物を、火薬を用いて爆破した場合の罪。

放火と同じくテロ行為とされる重罪。

この国の法律に則り、課せられる刑罰は文句なくの縛り首(死刑)だ。

 

「そういうわけだから、残りの人生は牢屋の中で悔い改めて過ごすの」

 

取り調べ室にて、爪の手入れをしながら俺に死刑宣告をしたピンク髪の騎士の名は亞呂恵(あろえ)と言った。

ピンク髪には緩くパーマのかかっていて、唇には艶のあるリップが引かれ、メイクをバッチリと決めていることから彼女が容姿にはとても気を遣っていることがわかる。

美少女と言っていい容姿は俺の知る騎士の姿からはかけ離れていたが、それでも彼女はこの街に常駐する騎士団の副隊長だという。

容疑者として連行された俺は、彼女のおざなりな取り調べを受けた結果、宿を爆破した犯人として死刑を宣告された。

 

「ちょ、ちょっと待て!」

「・・・なに?大きな声を出さないでほしいの」

 

亞呂恵の俺を見る目は酷く冷たい。

 

「俺は犯人じゃないって、何度も言っているだろう!」

「犯人さんは皆、そう言うの」

「碌に調べもしないで、犯人だって決めつけるなんて・・・。爆破された現場をよく調べてくれ、怪しい死体が見つかるはずだ。その死体を調べて貰えれば、俺の言って居ることが本当だってわかるはずだから」

「怪しいのはあなたなの。そして、“疑わしきは罰せよ”がウチの隊長さんの方針なの。私は隊長さんから、私が犯人さんだと思う奴は全員、私の裁量で裁いちゃって良いって言われているの」

 

亞呂恵は爪に塗ったマニュキアを、息を吹きかけて乾かしながら、そんな事を言う。

その目は既に俺を見てすら居ない。

俺は絶句する。

“白壁”の街では騎士団が大きな権力を持っている事は知っていたが、此所まで横暴だとは思ってもみなかった。

 

「な、なら、その隊長さんとやらに会わせてくれ。直接、話したい」

「隊長さんは用事で街から出かけているの。だから、今は私がこの街の騎士団の最高責任者さんなの。申し開きがあるなら、この私に言うの」

 

亞呂恵の視線が自身の爪から俺に移る。

相変わらず冷たい目だが、見られていないよりマシだ。

俺は再度、俺が犯人ではないと訴える。

俺は襲われただけであり、真犯人は別にいること。

そして、宿を爆破した真犯人(佐助)の言動から考えて、“魔人族”を狙ったらテロである可能性を彼女に伝える。

 

「宿を爆破した奴は、““魔族”と言っていた。その言葉は“魔人族”への差別用語だろう?そいつが宿を爆破して、俺は巻き込まれただけなんだ」

「・・・それは何度も聞いたの。この期に及んでも、懺悔の一つも口にしないなんて、あなたは()()()()()()()()()

 

亞呂恵が椅子から立ち上がる。

そして、取り調べ室から出て行こうとする。

俺は慌ててそれを引き留めようとしたが、同席していた別の騎士によって取り押さえられてしまう。手枷をされているため、抵抗することはできなかった。

 

「ま、待ってくれ!」

「貴様!大人しくしろ!」

「俺は犯人じゃない!本当にッ、俺じゃないんだ‼」

「・・・じゃあ、誰がやったの?」

 

扉の前で亞呂恵が振り返り、床で取り押さえられている俺を見下ろす。

その目は“冷たい目”を通り越し、虫ケラでも見るような目だった。

 

「あの爆発で、この街の人が十人以上、死んだの。その中にはあの宿屋さんを営んでいた夫婦のお子さんもいるの。余所者さんであるあなた以外に、誰があんな酷いことしたっていうの」

「それは、だから、魔人族を狙ったテロリストが・・・」

「生き残った従業員さんの一人から、既に話は聞いているの。今日の宿泊客の中に、()()()()()()()()()()。勿論、従業員さんの中にも魔人族さんはいないの」

 

亞絽恵の言葉を聞いて、顔が青くなった。

そうだ。色々ありすぎて、()()()()()

アーエーはこの街に入ってからずっと頭巾を被って、魔人族であることを隠していたんだった。

勿論、宿の人にもアーエーが魔人族であることなんて、伝えてはいない。

角さえ見えなければ、アーエーを普通の人間だと勘違いする者が大半だろう。

 

生き残った従業員は、アーエーを人間だと思いこんでいた。

そして、亞呂恵は取り調べの前からそれを聞いていた。

それなのに俺はずっと“これは魔人族を狙ったテロ”だと騒いでいた。

亞呂恵の俺を見る目にも、それで納得がいく。

最初から、彼女から俺への心象は最悪だった。

 

「自分がやったことを、居もしない魔人族さんを狙ったテロにしようだなんて、私を馬鹿にするのも大概にするの」

「ちが、違うんだ。誤解がある。話を聞いてくれ」

「もういいの。ごめんなさいも言えない口なら、閉じているの」

 

亞呂恵はもう俺の言葉を聞いてくれない。

ただ淡々と事務的に、今後について語る。

 

「あなたには弁護人を呼ぶ権利があるの。誰か当てはあるの?」

 

俺は考える。一応、俺は裁判の場に立てるらしい。

だが、“白壁”の街では騎士団が裁判権を持っている。

検察官と裁判官が騎士団(彼ら)である以上、誰を弁護人にした所で俺への容疑が晴れるとは思えない。

だが、それでも可能性があるとすれ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

俺はその二人の名を口にした。

 

「王都で勇者として活動している愛羽(あいばね)明人(あきひと)か、久世(くぜ)草太郎(くさたろう)に連絡を取れないか」

 

その名前に亞呂恵は目を丸くする。

 

「驚いたの。あなたは、勇者さんと知り合いなの?」

「二人とも友人だ。四条獅子丸からの頼みだと言えば、断られることはない筈だ」

「四条、“獅子丸(ししまる)”?・・・この後に及んで、まだ隠し事をしていたなんて驚いたの。あなたも、勇者さんなの?」

「一応は、確認をして貰えれば証明もできる筈だ」

「そう。でも、あなたがどこの誰でもかけられた容疑も課せられる刑罰も軽くはならないから、調子には乗らないで欲しいの。それと、此所から王都は遠すぎるから、その二人はあなたの裁判に間に合わないと思うの。裁判は三日後なの。その二人に一応、連絡はしてあげるけど・・・他に弁護人の当てはないの?」

 

三日後の裁判では、俺や火風が暮らす街の知り合いも間に合わない。

考えた末に辛うじて絞り出した名前は、この街に来る前に立ち寄った村の村長の名前(丈司)だった。

 

「じゃあ、裁判まで牢屋の中で大人しくしているの」

 

そう言い残して亞呂恵は取り調べ室から出て行った。

その目は最後まで俺が犯人だと信じ切っている様に思えた。

俺一人で容疑を晴らすことはできなかった。

状況的に火風に頼る事も出来ない。

最悪、彼女まで共犯にされかねない状況だ。

唯一、打開策が見いだせるとすればそれはアーエーが魔人族であることを周知し、彼女を狙ったテロであったことを証明することだが、それはできないと俺は考えていた。

佐助と名乗った男の自爆が、本当に魔人族(アーエー)を狙ったものだとするなら、万物を爆発物に変える【神器】を持つ勇者(クラスメイト)も、彼女を狙っているということになる。

なんでそんな事をしているのかはわからないが、それならアーエーはあの爆発で死んでしまったことにしておいた方が都合良いはずだ。

少なくとも、そう思われている間はアーエーと、彼女と一緒に居る筈の火風の安全が守られる。

 

だから、口に出した二人の名前(愛羽と久世)

できることなら、二人には頼りたくなかった。

特に愛羽に関しては、借りを作るのが怖すぎる。

 

愛羽明人は、幼馴染みだ。

家が隣で小中高と同じ学校に進学した。

愛羽と言う人間を一言で表すなら、完璧超人。

容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群の三拍子が揃っている。

本人は身長が少し低い事を気にしているが、それも甘いマスクによって女性を虜にする武器にしかなっていない。

俺は愛羽の為なら“走れメロス”も目じゃない走りができる自信があり、それはあいつも同じだろう。

そんな何処に出しても恥ずかしくない幼馴染みに、唯一の欠点があるとすれば、それは俺に“友情以上の感情”を向けてくることだろう。

 

『しぃ君!今日もお弁当を作ってきたから、一緒に食べよう!』

 

中学から高校までの六年間、愛羽は一日もかかすことなく俺に手作りのお弁当を作って持ってきた。

 

『しぃ君。僕というものがありながら、最近、他の学校の彼女ができたって聞いたよ。それ、本当?』

 

本人はそれを隠そうともしていない。

昨今、LGBTがいくら叫ばれようとも当事者からすればたまったものではない。

俺もそれが愛羽以外の男から向けられたモノであったなら、悪いがとっくの昔に縁を切っていただろう。

だが、()()()()()()()()()()()

それが長年、親友として付き合ってきた所為なのかは俺にもわからないが、()()()()()()()()()と思わせる魅力(魔力)

それを愛羽は持っている。

だから、愛羽に借りを作るのは怖い。

頼めばなんでもしてくれる分、恐ろしい。

 

ある意味では、裁判に愛羽が間に合わないのは、良かったのかも知れない。

 

自分で頼んでおきながら、そんな事を考えていた俺の肩を叩いたのは取り調べ室に残って居た騎士だった。

亞呂恵が出て行った時点で俺を取り押さえるのを止めていた彼は、色々と関係のないことを考えていた俺が落ち込んでいると思った様で、態度こそ堅いが声色は少し柔らかい。

 

「立てるか?」

「ああ、はい」

「そうか。なら、これから留置所に向かう。裁判まで、お前にはそこで過ごして貰うことになる。だが、その前にお前が勇者であるというなら、【神器】を持っている筈だな。それを渡してくれ」

 

騎士の言葉は当然と言えた。

これから牢屋に入るものに、武器を持たせたままにする奴はいない。

その武器が【神器】であるなら、尚更に。

だが、その言葉に俺は従えない。

 

「たぶん、渡せないと思いますよ」

 

俺はそう言いながら、前髪を上げて【神器】の在処を示す。

左眼孔に【神器:天害蠱軍】があるのを見た騎士は、驚きで声を上げそうになりながらも、それは必死に止めた。

 

「なっ、そっ、それはたしかに、受け取れない」

 

騎士は少しだけ考えた後、【神器】の没収を諦めた。

 

「勇者を無力化するのは、簡単だ。【神器】を奪ってしまえばいいと騎士団では、教えられている。だが、それができない以上、お前には留置所内でも手枷を嵌めたまま過ごして貰う。いいな。絶対に妙な気は起こすなよ」

「はい」

 

手枷が有ろうと【神器:天害蠱軍】の使用に支障はない。

それを悟られないように神妙に頷きながら、俺は牢屋へと向かうのだった。

 

 

牢屋の中、一人になったタイミングで【神器】を使う。

左眼が僅かに熱くなった。

そして、鉄格子のはめられた窓の外から召喚(呼ん)だ蟲が入ってくる。

勿論、それは具足虫ではない。此所で具足虫(彼ら)を呼べば、騒ぎになる。

側に騎士がいないとはいえ、監視はされているはずだ。

それに他の牢には俺の他にも捕まっている者がいた。

だから、召喚するのは見られてもあまり不審がられない蟲。

 

その蟲は一見すると蚕蛾(かいこが)の様に見える。

可愛らしいフォルムにモフモフとした白い毛は、蚕蛾そのものだ。

だが、蚕蛾は家蚕(かさん)とも呼ばれ、野生には存在しない。

成虫は翅を持つが、筋力が低下して居るために飛ぶ事はできない。

だが、【神器:天害蠱軍】で召喚するこの蟲は飛ぶことができる。

そして、蚕蛾との明確な違いは額にある縦の割れ目に、第三の眼を持つことだろう。

俺はこの蟲を“叫虫(なきむし)”と名付けていた。

叫虫は(つがい)で使う蟲だ。

どれだけ離れていても、片方が鳴くと、もう片方も鳴いてそれを知らせてくれる連絡用の蟲。

 

「火風の元へ行ってくれ」

 

雌の叫虫が頷き、窓から外へ飛んで行く。

雄の叫虫は俺の衣服の内側に入り、眠りについた。

 

これで彼女たちに何かあれば、叫虫が知らせてくれる。

何もなければ、俺は裁判までの三日間、何の行動も起こさないつもりだ。

だが、彼女たちの身に危険が迫れば、そうは言ってはいられない。

俺は牢屋から脱獄してでも、彼女たちを助けに行く。

その結果、この国中の騎士団から追われる事になろうとも構わない。

 

俺は冷たい石の床の上で膝を抱えて眠りにつく。

その地中(した)では、岩盤を砕く顎を持つ巨大な蟲が蜷局を巻いていた。

 

 

 

 

 




登場人物。

主人公ー四条獅子丸。
肩書き:召喚勇者序列第十三位。
使用武器:【神器:天害蠱軍】。
好物:発酵食品。
趣味:麻雀。

女冒険者ー火風。

魔族少女ーアーエー・シューハマー。

女騎士ー亞呂恵。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。