勇者過軍~魔王の死後、80年後に召喚された俺たちは時季”ハズレ”の勇者と呼ばれていた。   作:白白明け

9 / 15

皆様の暇つぶしになれれば幸いです。
m(_ _)m




第九話

 

 

牢屋に入れられていると思い出す。それは俺が王都を出て行く事になった原因。

半年前、王女を殴りつけた右手を見ながら、俺は回顧(かいこ)していた。

 

約一年前、異世界召喚された三年A組(俺たち)は三つの派閥に割れた。

一つは“王道派”。

魔王が居ない世界でも、勇者としての役割を果たそうとした者たち。彼らは与えられた【神器(チカラ)】をこの国の為に使う事を選んだ。

俺の親友である愛羽は、王道派の筆頭だ。

二つ目は“帰還組”。

彼らはこの異世界から元の世界に帰る方法を探すために王国から旅立った。彼らが現在、どうしているのかを知る術はない。同級生(クラスメイト)として無事である事を祈るばかりだ。

三つ目の派閥は、一番タチが悪い。“享楽会”。

彼らの目的は、異世界を楽しむこと。私利私欲のために【神器(チカラ)】を使うことを厭わず、よくトラブルを起こす。ハズレの勇者の悪評の殆どが、彼らが原因だった。

俺の友人である久世は、享楽会に属している。

 

俺は元々、王道派の人間だった。

王国で勇者として活動して居た際、ある事を切っ掛けに第二王女を殴った事で投獄され、後に王都を追われた。縛り首にならなかったのは、国王の采配のおかげだった。果たして国王になんの意図があったのか、それを知らされぬまま俺は王都を追われ、火風が居る街へと流れ着いたのだった。

 

「火風。無事だと良いんだけど」

 

彼女には恩がある。冒険者としての基礎を教えてくれたのは彼女だ。

俺が異世界に馴染んで暮らす事ができているのは、彼女のお陰だった。

上着の内ポケットの中で眠る叫虫に視線を向ける。

彼が静かに寝ている限り、火風は無事だと信じていい。

 

「俺は、誰かに頼ってばかりだな」

 

その声に反応して、叫虫の触覚が僅かに動いたが、直ぐにまた眠ってしまった。

俺は弱い。誰かの手を借りなければ生きられない。【神器】が無ければ戦えない。

だから、【神器(チカラ)】の使い方だけは間違えちゃいけないと思っていた。

 

そんな事を考えていた時、金属を引きずる様な音が聞こえた。

膝を抱えて目を瞑っていた俺は、顔を上げる。

一見すると牢屋の中には何の変化もないように見えたが、よく見ればありえないことが起きていた。いや、ありえないと言うよりはあり得てはいけないことか。

牢屋の扉が、開いていたのだ。

 

「・・・は?」

 

ひとりでに開いた扉を前に首を傾げる。

誰かが開けたのかと思ったが、牢屋の前には誰も居ない。

明らかな異常事態に唾を飲む。

どうしようかと考えて、少しだけ牢屋の外の様子を見てみることにした。

開いた扉から首を出して、周囲を見渡すが、やはり誰も居ない。

 

「・・・()()()()()()()()

 

見張り役の騎士すら、姿を消していた。

俺は呆然としつつ、無意識のうちに牢屋から出て扉を閉めていた。

そして、気が付く。

 

「あっ、と、出ちゃまずいか。俺が犯人だって、余計に疑われてしまう」

 

そう思い牢屋の中に戻ろうとしたが、扉が開かなかった。

 

「は?おい、嘘だろ」

 

牢屋の扉は何度、空けようとしても開かない。

どれだけ力を入れて引いても、ガシャンガシャンと五月蠅い音が周囲に響くだけだった。

いくら頑張っても牢屋の扉は開かない。

 

「・・・どういうことだよ」

 

わけがわからないに状況に頭を抱えた俺の耳に、聞こえてくる声があった。

 

「だん・・・、ま・・・く…な」

「ッ⁉誰かいるのか?」

 

俺は声のした方へと向かう。其処は俺が入れられて居た牢屋とは別の牢屋。

牢屋の中には薄汚れた男が居た。

男は俺が牢屋の前にやってくると、興奮した様子で近づいてきて鉄格子を握る。

 

旦那(だんな)!よかった、言葉は通じるみてぇだ!」

「・・・お前が、俺を呼んだのか?」

「へい。オイラは雷汞(らいこう)って言いまさあ。へへへ、旦那。見てやしたぜ」

 

雷汞は下卑た笑いを漏らしつつ、頭を下げてきた。

 

「どんな手品かは知らねぇが、牢屋を抜けたんだ。脱獄するつもりなんでしょう?オイラも連れて行ってくださせえ!恩は必ず返しまさあ!後悔はさせやせんぜ!」

「・・・嫌だ」

「な、なんでですかい⁉」

 

雷汞は断られるとは思わなかったという様子で驚いて居たが、「怪しすぎるだろう」と俺は雷汞を見下ろす。

薄汚れた長い金髪に無精髭。彼の見た目は浮浪者そのもので、牢屋に入れられていることから考えても、真っ当な人間とは思えない。

そんな彼を牢屋から出して、俺に何の得があると言うのか。

 

「そ、そんなあ」

「それに、俺に脱獄する気なんてないよ。そんな事をしても罪が重くなるだけだろう」

「なら、旦那はどうして牢屋の外に居やがるんですかい?」

「それは、・・・扉が開いたから、出てみたら入れなくなっただけで、脱獄する気はない。今だって、ほら、牢屋に鍵をかけて貰うために誰かを探しているだけで・・・」

「・・・それを騎士連中が信じるとお思いで?」

 

雷汞は俺の言葉を鼻で笑う。

 

「・・・流石にその説明が厳しいことはわかっている。だけど、事実なんだから仕方ないだろう。じゃあ、そういう事だから」

 

そう言って立ち去ろうとする俺の服の裾を、雷汞は鉄格子の間から出した手で掴んだ。

 

「ま、待ってくだせえ!ちょっと、ちょっとで良いから!先っぽだけでも良いから!オイラの話を聞いてくだせえ!」

「な、何だお前は!なんか気持ち悪いぞ!離せ!クソッ、握力が強いな⁉」

「オイラには牢屋を出てやらなきゃならねぇことがあるんでさあ‼」

「なんだよ!」

()()()()()()ッ、()()()()()()()()()()()‼」

 

雷汞の言葉を聞いて、身体の動きが止まる。

心臓も止まってしまったかと思った。

雷汞は語り出す。

 

「オイラは元々、王都にある貧困街(スラム)で暮らしてやした。ある日、其処に勇者を名乗る野郎たちがやって来て貧困街(スラム)に火を放ちやがった。・・・沢山焼けて、大勢が死んだ。生き残ったオイラは誓ったんでさあ。勇者たち(連中)を、殺してやるって」

「・・・勇者は、理由もなく街を焼いたのか?王都を守る騎士団は何をしていた?放火なんて、許されることじゃないだろう」

貧困街(スラム)で暮らす連中の殆どは犯罪者やその家族でさあ。騎士連中はオイラたちの火の不始末が原因だって決めつけて、真面に調べちゃくれなかった!けど、オイラは確かにこの目でアイツらが火を付けるのを見たんでさあ‼」

 

雷汞の金眼が、俺を見る。

 

「連中、火を付けて笑ってやがった。まるで遊んでやがるみてぇに、人の家(ひとんち)火付(ひぃつ)けて、笑ってやがったんだ。勇者なんて囃し立てた所で、所詮、連中はこの世界の人間じゃねぇんだ」

 

止まってしまえと思うほど、心臓の鼓動が五月蠅かった。

 

「きっとオイラたちとは、流れている血の色が違うんでさあ‼」

 

吐きそうだ。

受け入れられないことは、何よりも恐怖だと思い出した。

 

「だ、旦那?大丈夫ですかい?すいやせん。大声出しちまって、怖がらせる気はなかったんでさあ」

 

様子がおかしい俺を見て、雷汞は心配してくれていた。

謝らなければならないのは、俺の方だ。

彼を見た目で判断してしまっていた。

雷汞は見た目以上に、優しい男のようだった。

 

「話は、わかった。そう、だな。確かに、その復讐の為なら、こんな所で捕まっている暇は、ないよな」

 

俺が此所で雷汞を逃がすことが、勇者たち(クラスメイト)が仕出かした事に対する贖罪になることはない。

それはわかっている。

それでも、()()()はそうせずにはいられない。

そう思い無意識のうちに伸びた手は、何故か一瞬だけ脳裏に浮かんだ火風の姿で、止まる。

おちつけ。冷静になれ。

そう言われた様な気がした。

 

「・・・待った。雷汞が牢から出なきゃならない理由はわかったけど、そもそも、どうしてお前は捕まっているんだ?」

「・・・あー、それはー、そのー、あれでさあ。王都を出た連中を追って旅に出たは良いが、旅を続けるのもタダじゃねぇ。それでその、ちょいと、ね?」

「・・・何したんだよ」

「へへへ、街で突っかかってきた連中からちょいと授業料を頂戴しただけでさあ」

「カツアゲか。有罪(ギルティ)、復讐は罪を償い終えてからするんだな」

 

さようなら。

俺は牢屋を後にしようとして、次は雷汞に足首を捕まれた。

 

「そんなあ!此所まで来ておいてそりゃねぇですぜ!一緒に(牢屋から出て)イクって言ったじゃねぇですかい!オイラのこの滾ったモンはどこにぶちまければいいんでさあ‼」

「ええい離せ!やっぱりなんか気持ち悪いぞ!ていうか、腕が長いなあ⁉」

「確かにオイラはチンピラから金を盗りやした!けど、先に殴って来たのは向こうでさあ!それをあのピンク髪のエロカワ女が、オイラがこの街の住人じゃねぇからって、オイラだけ捕まったんですぜ⁉オイラ、可哀想でしょう⁉」

「それは、・・・確かに同情する」

 

ピンク髪の女とは、十中八九、亞呂恵の事だろう。

俺も彼女に誤認逮捕された身の上だ。

 

「その反応!旦那もあの女に恨みがあると見た!へへへ、なら、話は(はえ)え。オイラと此所を出て、あの女をとっ捕まえて、一緒に○○○して×××して※※※してやりやしょうぜ!」

「・・・お前、いくら恨みがあっても言って良いことと悪いことがあるだろ」

「だ、旦那⁉へ、へへへ、か、勘違いはいけねえや。勿論、今のは冗談でさあ」

「俺、かわいそうなのは駄目だ(抜けない)から。じゃあ、さよなら」

「ま、待ってくだせえ!旦那アアアアアアアアアアアアアア‼」

「冗談だよ。此所まで来たら、何かの縁だ。牢から出してやる」

 

俺は結局、雷汞を牢屋から出すことにした。

()()に流された訳じゃ無い。

ただそうすることで、事態が好転する気がした。

 

「鉄格子を破るから、少し離れていてくれ」

「へ?旦那は鍵開けができるんじゃねぇんですかい?」

「俺の牢の扉を開けたのは、本当に俺じゃないんだよ」

 

鍵開けなんて器用な真似は出来ない。

雷汞を牢屋から出すには、鉄格子を破るしかない。

その手段を俺は常に用意していた。

最初から、叫虫が鳴けば脱獄する気だったのだから、それは当然のことだった。

 

「来い。“鬼百足(おにむかで)”」

 

【神器】の呼びかけに応じて地中から現れたのは人の腕の太さ程の胴体と2mほどの体長を持つ巨大な百足(むかで)。彼は赤銅色の外殻に付いた土を落とす為に身体を震わせ、その度に数多の足がグロテスクに蠢く。

【神器:天害蠱軍】が召喚できる蟲の中で、最も人に嫌悪感を与える外見をしているのがこの鬼百足だ。そもそも百足は害虫を食べる益虫でありながら、その外見故に不快害虫とされている不遇な昆虫。

それが巨大化した鬼百足もまた見た目で損をしていると、俺は思っている。

雷汞が彼らを怖がるのなら、力を貸すのは牢を破るまでになるだろう。

そう思い雷光を見たが、彼は目を輝かせていた。

 

「か、カッケェ。こりゃ、旦那の使い魔ですかい。へへへ、やっぱオイラの目に狂いはなかった!一目見た時から、旦那は只者じゃねぇってビンビンに感じてたんでさあ!」

 

要らない心配だった。

 

「よっしゃ!じゃあ、旦那!その立派なモンで、牢屋に一発ヤッちまってくだせえ!ほら、此所ですぜ!この辺りが敏感(よわ)そうだ!」

「・・・やっぱりお前、なんか気持ち悪いぞ」

 

鬼百足の大あごは、岩盤もかみ砕く。

鉄格子はあっさりと噛み千切られた。

牢屋から出た雷光は、その開放感からか伸びをしていた。

 

「・・・ていうか、雷汞。お前、デカいな。身長、いくつ?」

「へい、190ちょいでさあ」

「チッ」

「なんで舌打ちしたんですかい?」

「五月蠅い。黙れ。行くぞ」

「へい!」

 

そうして俺は雷汞(チンピラ)を伴い、脱獄することとなるのだった。

 

 

 

 




登場人物。

主人公ー四条獅子丸。
肩書き:召喚勇者序列第十三位。
使用武器:【神器:天害蠱軍】。
好物:発酵食品。
趣味:麻雀。

女冒険者ー火風。

魔族少女ーアーエー・シューハマー。

女騎士ー亞呂恵。
肩書き:地方騎士隊第二十三分隊副隊長。
好きな人:愛羽明人。

勇者ー愛羽明人。
肩書き:召喚勇者。騎士団本部騎士団長補佐。
好きな人:四条獅子丸。

チンピラー雷汞。
肩書き:犯罪者(恐喝)


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。