医務室ではお静かに。 作:一般適合者
XVまで見たので初投稿です。
推しは天羽奏とキャロルちゃんとサンジェルマンでした。
でした……ッッ!(血涙)
その1
「先生、治療を」
空気の抜ける音と共にオートで開いた扉から、人がやってくる。今日で何人目なのだろう。渋々ながら顔を上げると少女が立っていた。キリッと引き締まった顔立ちと、同じくすらりとした抜き身の刃の如き細い肉体。ノースリーブから露出した二の腕を抑えているのは、先だっての戦いで受けた傷だろうか。
曲がりなりにも私の仕事、傷が残らないようにするのは容易だけれど手間がかかる。ゆっくりと立ち上がって彼女を座らせ、棚から脱脂綿を取り出しながら深く息を吐く。世間ではこれを溜息というらしい。また知識が増えたね、喜びなさい。
「はぁ、またですか。無理と無茶は違うと何度言えば分かっていただけるのでしょう。確かに装者は貴方一人であるとはいえ、孤独ではないのですよ?」
「いえ、剣とは孤高であらねばならないのです。止まり木を求め、依存し戦い続けるなどと思い上がってはなりません。ならなかったのです」
「だとしても、ですよ翼さん。人を守るというその気持ちは本物だと信じていますが、その剣が折れてしまっては本末転倒でしょう?貴方が剣だと言うのなら、その本質は刀と同じ。簡単に折れかねない繊細なものなのですから──」
「分かっています!ですが……」
「はい、処置終わりです」
「いっ……ありがとう、ございました」
「今週に入ってこれで三度目、もう来ないでくださいよ。私の仕事が増えますので。ただでさえやる事は多いというのに……」
「肝に銘じます」
私立リディアン音楽院高等科、その遥か地下に設えられたその場所で繰り広げられる会話は、女性同士と言うには余りにも物騒で、色気に欠けている。戦いを続ける、続けない。まるで戦時中の医務室のような雰囲気であるが、あながち間違ってもいないんじゃないか。私は顔を顰める歌姫に気付かないふりをして、目の前の画面を睨みつけた。
ヒトだけを襲い、触れた人間を炭素分解し諸共殺す。数年前より発生し続けている謎の生物──果たして生物と言えるのだろうか──否、災害と認定されたモノこそ、ノイズと呼ばれる化け物である。一般的な物理エネルギーを用いた兵器ではまるで歯が立たず、対抗手段となり得る手段は存在しない。
「表向きには、ね」
稀代の天才、櫻井了子の開発した対ノイズ兵器。シンフォギアと呼ばれた鎧こそ、古代より残る聖遺物によって作り上げられた唯一の武器だ。歌うことでノイズの防御システムを突破し撃破を可能とするそれを纏えるのは、適合し選ばれた少女のみ。私たちは年端もいかない子供を盾に今を生きている。
ノイズに対抗するのが特異災害対策機動部二課で、私はその特別医療チームスタッフ。日々運び込まれてくる職員の手当を行っている訳で、異端技術研究の最先端、櫻井了子女史とは違う本業の医療従事者なのだ。もっと敬ってほしい。馬車馬のように働かせるのではなく、適度な休暇と適切なボーナスを支給すべきだと思う。医療チームと銘打たれているくせに、所属しているのは私だけ。広い医務室の中でたった一人、孤独にパソコンと向き合ってキーボードを叩いているのだから。
「すみません、指先切っちゃって」
「絆創膏なら右側の棚、上から二段目の左端」
「ごめんなさい、昨日から寒気がして」
「帰って寝て下さい」
「失礼します、翼さんの様子は」
「もう帰らせました。相変わらず思い詰めているようなので、適度なガス抜きを。鍛錬ばかりではなく、年頃の女の子らしい生活も必要です」
「やっほー、遊びに来ちゃった」
「今すぐ帰ってください邪魔です」
私は割り当てられる仕事が多い。とにかく多い。専属医療チームだからって通常の医療チームと区別する必要なんて無いじゃない。訪問者を軽くあしらいながら、私は画面に映し出される情報を纏めて整理する。これだけは誰にも譲れない、私が自分で定めた義務なのだ。あの時、翼さんを襲った悲劇がもう二度と発生しないようにサポートし、バックアップするのが私の役目だと信じているから。
「絶唱のバックファイアは装者に多大な負担をかける……なら絶唱によってオーバーフローするエネルギーを別回路で制御し流してやればバックファイアの低減に繋がるはず。外部制御によるリアルタイムコントロールが可能になるのであれば──」
『先生、少し良いだろうか』
「──ええ、どうぞ」
デスクトップは終業時間を示していた。画面を落として顔を上げ、終業と共にロックされる扉の鍵を解除。入口からやって来た偉丈夫に片手を上げながら、私は皺の寄った眉間を揉みほぐす。休み無し、というのは誇大表現だっただろう。正確に言うのであれば、私自らが休みを返上して研究に当てているという表現の方が正しいかも。
私は天才でなく、唯の凡人。才能なんか持ち合わせない一般人だからこそ、天才に追いつくための努力が必要なのだ。そう信じているからこそ私はずっとここに篭っているし、その努力が報われる日など永久にやって来ないことも理解している。
「何連勤目だ」
「さぁ。1ヶ月を超えてから数えてませんね」
「だからって、住み込みで打ち込むほどじゃない。了子くんにも助けを仰ぐべきだ。君一人では限界があるだろう?俺たちだって──」
「防げなかったのは、私ですよ」
「奏のことか」
その身に不釣り合いな小さい箱を手に持って、赤いシャツに身を包んだ司令が歩いてくる。呆れたような顔は私の容貌を見たからだろうか。最後にシャワーを浴びたのはいつだったかな。彼が近づくと共に椅子を下げ、微妙な距離感を保ちながら顔を上げた。彼の表情は相変わらず厳しいが、こちらへの憐れみも含まれているように感じられる。
だが、それに嫌悪感は抱かない。そう思われて当然だと客観視しているから。今でも夢に見る、あの光景を生涯忘れることはないだろう。斃れる奏ちゃんと泣き叫ぶ翼さん、片翼を手折られた彼女はあの日からずっと……強さばかりを追い求めているようだ。いっそ病的とも言えるほどの訓練と自己研鑽を積み重ねる戦士──それこそ、アーティスト風鳴翼の裏の顔。それは私も同じこと、かな。
「あのままで終わらせませんよ、私は。どんな手を使ってでも真相を解明する。それが私の──」
「生きる理由、か。俺としては、もっと違う方面にエネルギーを向けて欲しいところなんだがな。風呂も食事もこの部屋で済むように改装したのは俺だが、まさかここまで立てこもられるとは思っていなかった」
「医務室ですから」
「とにかく、少しは陽の光を浴びろ。君の身体を労るのも君の仕事なんじゃないのか?綺麗な髪が傷んじまうぞ」
「余計なお世話です!」
広い医務室は、中央のカーテンで仕切られている。奥側は私のプライベートスペースで、半ば自室のような扱いをしてしまっているのは認めよう。だけどこちら側にも十分なスペースは確保してある。ベッドが三つも並んでるんだから、これで許して欲しい。
奥側をちらりと見た私の視線に気付いてか、弦十郎さんは差し入れを置いて去っていく。一人分にしては随分と多いそれは最近話題のスイーツ店の紙箱で、あの弦十郎さんが並んだ場面を想像すると少し笑えそうだ。まさか、本当に?
「差し入れ、感謝します」
「たまには身体も動かせよ。健全な精神は健全な肉体に宿る。思いっきり運動するのも悪くないぞ」
「考えておきますね」
パーソナルスペースへ足を運びつつ、弦十郎さんに会釈。扉が閉じられてロックされると、大きく息を吐いてカーテンを開く。苦手ではないが、やはり他の職員と話すのは苦手だ。ワンマン運転の医療チームでは、必然的に同僚と話す機会が減る。生まれてこの方、人付き合いというものを学ばなかった私には随分と荷が重い。
キッチンとシャワー、ソファにベッド。学生の一人暮らしと言えば想像がつくような空間にぽつんと置かれた真新しいテーブル。差し入れを乱雑に放置して、私はベッドへ向かう。少し乱れたそこは誰かが座っていた痕跡なのだろう、そう判断した。
「私には随分と荷が重い仕事だ──そうは思いませんか。誰も死の運命を変えることは出来ない、ただ受け入れるしかない。神に定められた歩む道、命を運ぶと書いて運命。だとするのなら、奏ちゃんも……」
『だからといって、気を落とす理由にはならない』
「そう、そうだ。休んじゃいけない。休めない。足を止めることは死と同じ、探求を止めた存在に生きる理由なんてないのだから」
『今までも、これからも?』
「ずっとそうよ」
『だとしたら、君は何を求めている?』
うつ伏せになった私の顔は見えないだろうけれど、笑っているはずだ。性根の腐った偏屈な女と陰口を叩かれるのならそれで良い。私とはそういうモノだ。人でなしと呼ばれても仕方ないだろう。
「死者の蘇生、神の力。それこそが私の求める力」
私は、禁忌を犯そうとしているのだから。
不定期更新です。
主人公ちゃんの名前は次回出てきます。
感想と評価をくれ。特に感想。
シンフォギアエアプすぎて分からんのです。
教えて有識者。
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