医務室ではお静かに。 作:一般適合者
プロット崩壊
作者の予定も大崩壊
「さて、状況は極めて危険といったところですかな?」
「……格好つけたところでお前の服装が誤魔化せる訳ではないぞ。白衣の下がビキニってのはどういうことだ。オレに向けた当て付けか、ああ?」
「いえ、極めて合理的な判断によって成り立っているんですよこの服装は。脱ぐ手間、洗濯する手間、すべて最小限で済むのです。ホントなら着るのも面倒なのですが怒られちゃいますしね」
「何を戯けたことを言っている当然だろうがッ!」
さて、私です。レヴィさんです。今日も今日とてキャロルさんの計画に加担していたわけなんですが、どうにも日本できな臭い動きが見られたので緊急会議中です。相変わらず私の部屋が会議室ですしキャロルさんはベッドの上、私はデスクなんですけれども。
キャロルさんのオートスコアラーを基に私なりに造り上げた自動人形は上手く動いている様子。小夜ちゃんからの情報も相まって、かなり精度の高い予測ができるのではないでしょうか。ああ、小夜ちゃんはこれからが本番ですからね。しばらく連絡は取れないでしょうと一方通行のメールだけを送ってくれています。それどころか……おや。
「何だ?」
「私の自動人形が情報を持ち帰りましてね」
「ああ、お前の作ったアレか。オレの思いもよらない方法だったな、褒めてやりたいところだ」
「どうも。──なるほど、岩国基地にソロモンの杖を移送していたところ、ノイズの襲撃でロスト……そんな状況なのに、今日は翼さんの合同ライブと。これはまた、随分と厄介なネタを抱え込んだものですね弦十郎さんは」
「加えて奴らの本部も移動式になったようだな、ただ拠点を叩くという作戦が使えなくなったではないか。んでレヴィ。お前の推測を聞こうか」
これからの事を見通して半目になるキャロルさん。拠点攻撃で一気に叩くのもいいですけど、あの自称人間二人組を相手して無事に居られるのでしょうか。厳しいものがあると思うので、一旦落ち着いて私の話を聞いてほしい。
「そうですね、ソロモンの杖を研究することになっていたドクター・ウェルが怪しいでしょうか。作戦報告書を読む限りでは、彼の行動とノイズの襲撃タイミングがあまりにも一致しすぎている。ソロモンの杖を自分で保有し、その上で"狙わせる"ことができるのであればですが」
「は?あのウェルとかいう男が怪しいだと?岩国で死んだんじゃないのか、大方受け取り役が何かだったんだろうな」
キャロルさん、それは早計と言うべきですね。相変わらずの定位置、私の寝床からこちらを見上げる彼女に向かって腕をクロスさせてみせる。バツ印だ、いくら500年生きていようとも思慮深さが養われていなければ意味がありませんよ。
「彼は生化学者です。特に櫻井理論を研究していた、現時点で表側にいる科学者として最先端を歩む者ですよ?シンフォギアシステムに最も近い研究者を殺すような真似、黒幕がいるとして本当にすると思いますか?アホですよただの」
「ならお前はどう見る?」
「ここで、キャロルさんの調査が役に立ちます」
取り出したのは英語で纏められた文書の束。ファイリングなんて上等なことはしていられないので雑に纏められたそれは、キャロルさんがアメリカから文字通り強奪してきた異端技術に関する報告書。データが無事なら問題ないと考えているのでしょうか、甘いですね。
ぺらぺらと紙をめくりながら目的のものを探す。必要なのは異端技術に関する組織、または研究機関の情報だ。水面下で糸を引きそうな組織をピックアップするためなんだけれど……ひとつは二課に入るよりも前のことだから、いかんせん知識としては古いし信頼に欠ける。
「一つ目、パヴァリア光明結社。今ちょうど支援を受けている組織ですが……トップが何を考えているのか読めない。アダム・ヴァイスハウプトでしたか、飄々としているようで彼には目的があるようですからね。今動くか、と聞かれたらNOです。ウェル博士との関連性もありません」
「まだあるような言い草だな」
「もちろんです。むしろこちらが本命……F.I.S.ですね。米国の聖遺物研究機関で、かつて私が所属していた場所でもあります。ウェル博士と私は同僚だったということでもあるのですが、それは今はいいでしょう」
問題は、その組織がバラバラになっていること。私が日本に去る直前、ある聖遺物の起動実験に失敗したのが切欠でしょうか。機械的に聖遺物を励起させるというアイデア自体は合理的で、私としても興味のある分野でした。安定感の無さ、出力の低さは無視できませんから結局諦めることになったんですけどね。
「F.I.S.の残党がどこにいるのか、って疑問からのウェル博士の失踪は怪しすぎるんですよね。彼ああ見えて変人というか、奇人の類ですから。英雄願望っていうのかな、そういうのに取り憑かれてますし」
「退職理由の一部はそれなんじゃないのか?……ま、オレたちには関係の無い話だ。オレとしてはお前の部下が動けないことの方が面倒だぞ」
「ああ、小夜ちゃんですか?彼女ならもう戻ってきませんよ」
「は?」
いやー、鳩が豆鉄砲食らった顔ってのはあんな感じなんですかね。珍しく素っ頓狂な声を上げて身を起こしたキャロルちゃんに、私はにっこりと笑ってみせた。肉親への想いを縁に生き続けた彼女と小夜ちゃんはそっくりですから、時折二人が重なって見えたんです。
「彼女の名前、知ってます?」
片目に映るのは翼さんのライブ会場。出現したノイズに囲まれて大騒ぎする観客の姿と、その前でギアを展開した相方のマリアさんが居て、そこに紛れるように小夜ちゃんが立っています。響さんたちと連番なんですねぇ。これは幸運と言うべきでしょうか。
●
「小夜、さん?」
「もしかして、私の名前って知られてる感じなんでしょうか?そうだとしたら有名人みたいで恥ずかしいですね」
動けない自分に苛立ちながら、響はただの観客として一般人を装っていた。機密事項たるシンフォギアを衆目に晒す訳には行かないのだ。理解している、これは軍事利用されるわけにいかない。だが折角のライブを台無しにしてくれた不届き者が目の前にいる。何故自分と同じガングニールを使っているのかは分からないが、最高のステージを壊したツケを払わせてやらねば気が済まない。
皆を守らなければ。国によって隠されている意味を重々承知の上でギアを起動しようとした響だが、固く握る手は黒い髪の女性によって制止される。報告に上がっていた小夜と呼ばれる女性は、緒川と弦十郎の二人を相手取り軽々と生還する程の達人。ここで遭遇したのにも意味があるのだろうか。
「でも一旦落ち着いて。あなたが暴れたらノイズが襲ってくるかもしれません。幸いなことに、ノイズは自発的に動いていない。下手に刺激して状況を悪化させるのは最も愚かな手段です」
「な、な、それは、」
「ああ、これですか?」
「響、どうしたの?」
「おい、暴れんなよ……うわ!」
わなわなと震えながら、響は目を見開いて小夜を指し示す。ようやく響の異変に気がついたらしいクリスと未来が覗き込んでくる。怪訝な顔は次第に響と同じく歪んでいき、同じように小夜に指を突きつけた。
「マリアさんの大ファン、なんですか……」
「えぇ、そうなんです。びっくりしました?」
「これが本気のアイドルファンなんだね」
「にしたってやりすぎだろ。法被もハチマキも売ってなかったぞ?まさかとは思うが自作か?」
「ええ、そうですよ。背中には刺繍も入れてあるので」
聞いていた話から想像した小夜とは全くの別人、悪戯っぽく片目を閉じて笑う彼女の姿はただのファンにしか見えないが……これが本当に本部へ侵入した武術の達人なのだろうか?毒気を抜かれた三人に微笑んで、彼女はおもむろに法被を脱ぎ出した。
「これ、どうぞ」
「え、ちょっとそれは」
「いやいや、どうぞ」
「私は翼さん推しなので」
「推しを推してない自分に厳しいタイプなんだよなこいつ」
「厄介オタクとも言うよね」
あー、と小夜は頷いた。確かにそうだ。自分もマリアを推していない自分を許せないと思う。何かを察した響が手を差し出してくるので、とりあえず握手しておく。同士を見つけるとこんなに安心できるものなのだ、小夜はちょっと学習した。それはそれとしてグッズは預けたい。
「ちょっと席を外しますので、預かっていただけると」
「推しのグッズですもんね、任せてください」
「なんで通じ合ってんだ?」
「ほら、オタク同士理解し合える時もあるんじゃないかな。私も響の良さを分かってくれたクリスちゃんのことは同士だと思ってるし」
「あー、そういうもんか」
ノイズに囲まれているというのに、まるで緊張感の無いように見える会話。未来は響がいるから安心している。響とクリスはそれぞれ大切な人を傷付けないように、努めてリラックスさせるような会話を心がけている。では小夜はどうだろうか。法被とハチマキ、ついでに中に着込んでいたTシャツ(もちろん自作)を響に手渡していた。
あまりにもマイペースすぎる彼女に巻き込まれたのか、響もどこか抜け気味だ。黒いズボンと、肌に吸い付くような黒いインナー姿でボディラインを顕とした小夜に気づいていないのだから。とはいえクリスは、その引き締まった肉体に驚いた。随分と鍛え上げているらしい。
「じゃ、私はこれで」
「あ、はい」
「おう、早く戻ってこいよな」
「小夜さん!」
「大丈夫。あの人がシンフォギアを起動したのなら、ここで私が出ていくことに意味がありますから。重ねた罪を清算する第一歩にもなる──」
「それは、あたしらに顔を晒してまでする必要性があるってことだよな。アンタは何者なんだ?」
振り返って
「それって」
「まさか!?」
「む、下がれ!ここは危険……で……」
台に上がるのは、彼女だけだと誰が決めたのだろう。歩きながら彼女は思う。息苦しい偽装はもう必要ない。揺れる髪をひとつに束ねた彼女の姿は随分と様変わりして、上げた視線が向かう先には狼狽えて動けない歌姫が二人。
「──────あなたは、誰なの」
シンフォギアを纏い、槍を向けるマリア。決めた覚悟の揺らぎは槍に現れていた。定まらない視線を遮るように翼を背に庇い、守るようにして彼女に向かい合う小夜のきりりと締まった口が開く。
「私は、セレナ」
「セレナ・カデンツァヴナ・イヴ」
「久しぶり、姉さん」
「いやあ遂に決まりましたねこのセリフ」
「ずっと出番が欲しい出番が欲しいって言ってたしな、本人としてもテンション上がりまくりなんじゃないか?」
「まさに悲願成就ですね、お姉さんと仲良くできたら良いのですが……そうも言っていられない状況です」
「待て次回ってな」
「あ、ご飯の時間ですよ」
「「まだ出てこないで!」」