医務室ではお静かに。   作:一般適合者

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おはようございます(遅刻)



その13

「──以上が、姉さん達に関して私の知る全てです」

「う、うむ。ありがとう。まさかフィーネの魂を持つと自称するとは……我々からすると滑稽にも見えるが、あちらとしては大真面目なのだろうな。変化した月の軌道の話も信じられないのだが……」

「まさかF.I.S.の残党なんてねぇ。レヴィちゃんの古巣みたいなものなんだから、あの子も責任もって出てきてほしいんだけれど」

 

 さて、二課仮設本部にて事情聴取を受けるセレナの姿は至ってラフなセーターとスカートだった。フィーネ──否、F.I.S.の装者三人を相手取り人質を守りながらも余裕を見せていた彼女の実力の前には拘束など無意味だろう。そう提言した翼によって彼女はほとんど制限のないまま本部に拘留されている。仮に脱出しようとて、仮設本部は潜水艦。流石のセレナも水圧には耐えられない……はずだ。

 

「レヴィさん、ですか」

「以前の話から察するに、君は彼女の下で働いていたのではなかったか?米国への潜入調査もその一環だと言っていたな」

「ええ。必要なデータを盗み出すことは叶いませんでしたが、その概要は暗記しています。フロンティア計画、海の底に沈んだ古代遺跡を浮上させ人類を救うなど──救世主ノアの伝承をなぞるつもりなのかもしれません」

「英雄となることを望む狂信者ウェル博士……まさかあの男がそんな内面を秘めていたとは露も知らずに我々は」

「私ですら信じられなかったのです、翼さんたちに見抜けと言う方が酷でしょう。ですがソロモンの杖を持っているのがF.I.S.残党だとすると……」

「ウェルのヤローが使ってるってか、くそっ」

 

 腹立たしげに両手を叩き合わせ、カウンターの奥のクリスが顔を顰めていた。その気持ちは分かる。二課への潜入の折、クリスのことも調べてあるのだ。その境遇や今までの動向も把握した上で判断するのは失礼なのかもしれないが、それでも贖罪の心があるのならまだマシだろう。静かにセレナは頷いた。

 この場所に集まった二課主要メンバーに囲まれながら、セレナは事情聴取を受けていた。姉と刃を交えることへの抵抗感はあるが、救われた命をどう使うかは自分次第。長い時を経てセレナも大人になったということだろう、身内への情と善悪を切り離して考えるなど造作もない。

 

「あの時は叶いませんでしたが、もし再び遭遇したのなら腕を落としても取り返してみせましょう。ところで、お昼ご飯はまだでしょうか」

「マイペースだなオイ!今作ってるから待ってろよ!あっつ!誰だよ油こんなに入れた奴!逃げんな響!」

「うぇ、そ、それはほら!強火で一気にバーッと!」

「弱火でゆっくり加熱しないと風味が飛ぶんだ。時間をかけないと美味しくなくなっちゃうよ?」

「た、玉ねぎが催涙ガスを出している!目が、目が痛い!助けてくれ雪音!立花、小日向ァァァ!」

「ツッコミ役が足りねぇ……っ!」

 

 ライブ会場にて犠牲者を出すことなく戦ってみせたセレナだったが、マリア達を逃してからずっと話し続けるのには流石に疲労の色を見せていた。水ばかりというのも味気ないだろうと出されたコーヒーはとても美味しかった。私、あなたに好みとか伝えてませんよね?友里の笑顔はプロフェッショナルのそれであった。

 マリアを含めた武装組織フィーネの構成や目的を話し終えた頃だろうか。話に飽きたらしい装者と未来はマイペースに料理を始めていた。なぜここで料理?響曰く『自分で作った美味しいご飯を一緒に食べたら仲良くなれますッ!』らしい。響全肯定ガールこと正妻小日向未来は即座に承諾、流されるように翼も乗っかり、ツッコミ役兼常識人枠でクリスも連行されていった結果がアレである。

 

「仲が、良いのですね」

「あれでもつい最近までギスギスしてたんだがな。響くんの底抜けな陽気さと熱血具合にクリスくんも絆されちまったらしい。今じゃ苦労人ポジションさ」

「もうすぐできっから、な!待ってろよな!」

「はい。あ、もし良ければ手伝いましょうか?」

「……頼む」

 

 分かりました、手伝いましょう。やや疲れたように顔を出してきたクリスさんに会釈して、思い至ったので提案してみるとあの返事です。あれは周りが言うことを聞いてくれなくて困っていた時の姉さんの顔ですね。調さんと切歌さんが暴走しがちでしたからよく見ました。

 灰色のエプロンを手渡されて案内されるのはカウンターの中ですが、なんだかこう、調理実習のような空間ですね。資料でしか知りませんが、そんな空気感です。テーブルで難しい顔をする弦十郎さん達は監督の先生みたいなものでしょうか?こちらも知識として頭に入れているだけなんですけれども。

 

「む、セレナ女史。意気揚々と装備を固めているようだが、油断してはならないぞ。この部分が毒を含んでいるのだ。素手で触れることも危険なのだろうな」

「セレナでいいですよ。それとジャガイモの芽は包丁のここで抉ると取れます。翼さんならすぐできると思いますし、まずはチャレンジですね」

「こうか、なるほど。包丁とは即ち刃、私が扱えない道理もなかろうが……下準備にも技を使うとは、料理とはかくも奥深いものなのだな。まさか料理人になることも修行になるのでは?」

「翼さん?」

「うむ、分かったぞセレナ。私の未熟さを指摘しながら修行の道まで伝えてくるとは、やはりF.I.S.を単身で相手取っただけのことはある。その強さは日常にて鍛え上げられたもの、常在戦場かくあるべしだな。私も見習わねば、まずは料理を極めてみせよう!」

「翼さん?おーい、聞いてますか?」

「あー、セレナさん?残念だけどこの人こんな感じだから諦めた方がいいぞ。最近はずっとこんな感じでな、『奏に会った時顔向けできん!』って繰り返しなんだよ。万能超人でも目指してんのかって」

「万能超人」

 

 翼さん、アーティストと装者の面しか知らなかったんですけど面白い人ですね。とても個性的でこちらが楽しくなってきます。問題はツッコミ役のクリスさん一人では足りないのと、クリスさんも大概慣れてしまっていることでしょうか。二課特有の空気感があるんですね。

 

「セレナさん、お料理得意なんですか?」

「未来さんには及ばないと思いますが、それなりには。レヴィさんに助けられてから覚えたので、付け焼き刃のようなものですけれどね」

「ああそうだ、それです。マリアさん達のことは聞きましたけど、セレナさんのことってまだ知らないじゃないですか。お姉さんと別行動している理由は、さっき話してた実験に何が関係があるとかじゃないですよね?」

「そうですね、関係あるというよりも私がその実験に立ち会っていたので当事者そのものなんです。でも面白い話にはなりませんから、ご飯を食べた後にしましょう。今はこの醤油を入れるのが先です」

「隠し味は醤油派でしたか」

「私にとって大切な人は、日本の味が大好きだったんです」

 

 

「マム、日本の味デスよ!」

「奮発して和牛切り落とし、付け合わせにはおいしいニンジンもある……私の自信作、すき焼きもどき」

「切歌、調……これは?」

 

 同じ頃、隠れ家にて漂うのは醤油と砂糖が混ざった特有の香り──早い話がすき焼きの香りであった。ドヤ顔で見せられたキクコーマンの醤油に困惑しながら皿を受け取り、ナスターシャは首を傾げた。はて、買い出し用に握らせた2000円でここまで豪勢にできたのかと。

 

「通りすがりのおねーさんに助けて貰ったデスよ!」

「バイト代。ぶい」

「バイト?危ないことじゃないわよね」

 

 マリアよ今更それを言うのですか。世界を敵に回して宣戦布告したというのに、どこか庶民派な感性を持っているらしい。よそわれた肉を頬張るが、これが案外美味い。噛めば脂が染み出てくる、それなりに良いランクのものだとは容易に推測できた。ぐつぐつと煮える鍋に寄ってきたウェル博士も同じ。ブツブツ呟いているところは昔から変わらないが、今回は肉の出処について思案中のようだ。

 

「待てよ、通りすがりの女性だと?」

「はい!()()()綺麗な人デスよ、折角なので写真も撮ってもらったデス。調はいいって聞かなかったんデスけど」

「無理矢理のスリーショット」

「なんだこれは!今すぐ消去だ、消去!関係ない場所で無闇やたらと姿を晒すんじゃない!僕たちの計画が流出しかねないだろうが!」

「でも私たちにお肉を買ってくれたのはこの人。記念写真を消すのは失礼じゃないかな」

「そうデスよ、この人が居なければ今頃緑のたぬきを捕獲して食べる過酷な生活が待ってたのデス……感謝してもしても足りないぐらいデス!んー、おいしい!」

「そうでしょう、なんてったって最上級ですからね。金額を思い出すと気が遠くなるので黙っててくださいな。あ、どうも皆様。お久しぶりです。お写真よりも遥かに綺麗なレヴィさんですよ」

 

 それはどう見てもレヴィであった。数年前に姿を消した優秀な研究員が今更何をしに現れたのか?残念ながらウェル博士にそれを探る時間は与えられなかった。だって切歌の隣に座って頬杖ついてるし。

 

「クソ女ァ!」

「あらあらあらあらあら自称英雄の天才科学者様じゃないですかぁ?ぽっと出の凡人の私に研究成果を上塗りされてどんな気分です?」

「今最悪になったとも!今更何をしに来たんだ!」

 

 にっこりと笑う白衣にメガネとスーツ姿のレヴィは、ぽかんと見上げる切歌と調に肉をサーブして二人の発言を先行ブロック。写真と姿が違うって?気のせいですよ、私はさっきここに来たばっかりですからね。

 文字通り金を握らせている、これが汚い大人のやり方なのだ。あまりこういうことはしないように。キレ散らかすウェルに隠れてマムは隣のマリアにそう教えていた。

 もぐもぐと満足気に肉を食らう切歌の頭を撫でながら、笑みを崩さないまま取り出したのは小さなチップ。真っ黒なそれを見たウェルがまた何かキレているようだが、調にはよく分からなかった。肉と白菜が美味しいので満足なのです。

 

「ここに全てが入っています。あなた方が知りたいこと──例えば、聖遺物の行方とかも。ま、アレに餌を与えるならそこらの欠片程度じゃ不足しているでしょうがね」

「何が言いたいのです」

「ああ、ナスターシャ教授お久しぶりです。積もる話はまたの機会ですが、ともかく単刀直入に言いましょうか。ネフィリムに与えるべき餌に丁度いいモノがあるんですよ、二課には」

 

 にんまりと笑う彼女の目は薄く開いて、向き合う三人に取引を申し込んでいる。揺らめく銀の髪と、開いた目から見える金の瞳。胡散臭い薄ら笑いとメガネも相まって蛇にも感じられる雰囲気は、気を抜けば丸呑みされそうな空気を漂わせていた。切歌と調は肉をがっついているが。

 

「もぐぐ、もっきゅもっきゅ、むぐ?」

「うーん違いますね。デュランダルは響さんが握りクリスさんがフィーネを裏切って後二課の本部に保管され、その後深淵の竜宮に移送されることになっています。もっと手軽に入手できるのがあるんです」

「いいから結論を言え!回りくどいのは昔からだな!」

「せっかちなのも変わりませんねぇ、やれやれ」

 

 調の差し出した肉を頂きながら、チップを机に置いて再びポケットから取りだしたのは一枚の写真。会場では見つけられなかった少女の姿に、マリア達は身を固くした。

 

「立花響、融合症例第一号──いずれその身そのものが聖遺物と成り果てる少女です。もうそろそろ生体核融合炉ってぐらいの進行になるんじゃないですかね?暴走する聖遺物の力はヒトをヒトの枠より外してしまう──私の想定していた結果にはなりませんでした。望んでいたモノにもなりませんし、もういいかなと。まぁ、お好きになさってくださいな」

 

 つい最近まで協力していたはずの二課を裏切り、あまつさえ仲間を売る行為。ウェルは写真とチップを持って研究室へ消えていったが、残された四人は違う。いとも容易く行われるえげつない行為に絶句し、立ち上がったレヴィを見上げていた。

 

「なぜ、こんなことを?」

「マリアさん。どうも、妹さんとは無事に再会できましたか?」

「貴方は一体、何がしたいというの……?」

「ふふ、何がしたいと思いますか?F.I.S.を裏切り二課を裏切り、錬金術師に魂を売った私の目的──推測するといい。君たちにそれが可能ならな」

 

 そう言って背を向け結晶を砕いて方陣と共に消えていく。振り向きざまに向けられた視線は、路傍の石を見るように冷酷で無感情だった。

 




「翼の料理スキルってほぼ無いようなもんだからなー」
「聞いている話では、野菜を切るためにシンフォギアを使うとか?随分と個性的な方ですね」
「お料理なら得意ですよ」
「確かにメシは美味いけど今じゃないよな!」
「ふむ、では私も料理の際には錬金術を」
「「それだけはダメです(だ)」」
「何故……?」
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