医務室ではお静かに。 作:一般適合者
私です。飛鳥・レヴィ・オウスです。ちまちまやってきた研究が全て無駄だって発覚した私です。もうやる気なくなったので退勤していいですか?有給山ほど残ってるんですけど。今からだと2年ぐらい休めるぐらい。ダメ?そんなぁ。
「済まない、だがこれも必要なことでな」
「立花響ちゃん、か。あの時のガングニールがまだ残っていたことに驚いていますよ私は。ああ心配しなくとも解剖なんてしませんよ。興味があるのはあくまでシンフォギア・システムに対してだけですから」
「なら、響ちゃんのカラダは私が好きにしちゃおうカナ!さーって、これから忙しくなるわよぉ!まずは服を脱いでもらってから……ぐへへ」
「了子さん、変わらないのね」
「むしろキャラ変わる方が怖いよ俺は」
緒川さんに手錠をかけられて連行される響ちゃんの映像を見ながら、私は医務室へ戻る。やだやだ、こんな所で油を売っている余裕なんて私にはないんです。それではさようなら。ああ、後でデータだけ頂けますか?私にも確認したい事があるので。
「また水着でしたね」
「そろそろ厳重注意すべきか?」
「背も高くてスタイル良くて、でもあのファッションセンスなのが玉に瑕って感じよねぇ。白衣着てるだけまだマシって見方もできるけれど」
「だとしてもですよ」
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「ここはお悩み相談室じゃないんですよ翼さん」
「ええ、理解しています。ですが剣には鞘が必要、なのではありませんでしたか?その為なら医務室を使っても構わないと仰ったのは飛鳥さんだと記憶しています」
「何年前の話だと思っているんですか。はいこれ。砂糖が少なすぎて私には合わないので代わりに飲んでください。新しい豆なんていくらでも買えますからね公費で。公務員ってのは最高ですよ」
「こ、これはいつもの飛鳥さん……!」
場所は変わって、いつもの医務室。コーヒー片手にふんぞり返っていると、不貞腐れたような顔つきの翼さんがやって来た。何年も昔の言葉を引っ張り出してくる彼女は口調こそ軽いけれど、どうにもしおらしくて見ていられない。押し付けるように飲みかけのコーヒーを手渡して、私は新しいカップを手に取った。
あ、と声を上げた翼さんに背を向ける。紅色のラインが入ったマグカップはちょうど翼さんが持っている青いものと同じデザインだ。まだ真新しくてほとんど使われていないこれは、初ライブが終わってからから奏ちゃんにプレゼントしようと用意していたもの。その機会なんて、もう二度と訪れないのだけれど。
「聞きたい事は、これでしょう?」
「ええ、はい。奏のガングニールがあの少女の身体に……そんなこと、先生は信じられるのでしょうか。例え砕けたとしても、その破片はシンフォギアの消滅と共に消え去るはずなのに」
「可能性の話をするのなら、それこそ無限にありますとも。ですが翼さん、貴方の言葉の中にも可能性の一つが紛れていることに気づいていないんですか?」
「え?」
顔を上げた彼女に対して、私は白衣を羽織りながらメガネを装備。旧スク水に白衣だなんて、随分とハレンチ?いやいや、それを考える方が破廉恥でしょうに。そう言って私は翼さんに対し胸を張る。ギチギチと音を立てる胸元で「あすか」の文字が歪んでいた。ついでに翼さんの手元からもギチギチと音がしていた。そう怒らないで、牛乳を飲みなさい。カルシウム不足はスタイルを悪くするんですよ。
さて、脱線した話を元に戻そう。部屋の電気を落とし、机の上のスイッチを押してホログラムを投影。空間に映し出された電子カルテや報告書を選り分けて残ったそれを翼さんに押し出した。よく分からない様子の彼女に対して開くように促しながら、指で髪を弄ぶ。彼女がこれを見て理解できるかと言われると分からないけれど、翼さんと奏ちゃんの関係ならあるいは。
「これは、あの時の映像ですか?どうして今更こんなものを……いいえ、これは!先生、この光は一体!」
「はい100点。期待通りの反応ですね」
「教えてください先生、これは一体──!」
「それを知るには君はまだ未熟です、翼さん。力押しばかりで他人に理解してもらおう、そう思っているような子供には教えられませんね。ましてや力づくで聞き出そうというなら、やめておきなさい」
「いいえ聞けません先生。貴方がこれを知っているというのなら私は修羅にでもなりましょう。押し通ります!」
カップを投げられたので中身ごとキャッチ。突進してくる翼さんを片手で抑え込むまで僅か数秒。カップで掬い切れなかったコーヒーの飛沫が書類の端に付いてしまったけれど、むしろ数滴で済んだのなら安いものでしょう。じたばたと暴れる彼女を脇で抱え込みながらコーヒーを啜る。
確かに、と思い返す。仮に私の目の前に神の力だとか言い始める変な奴が現れたらそうなるかもしれない。ありもしない罪状をでっち上げて国家権力にでも頼るだろう。だけど私たちには言葉がある。重ねることで相互理解も可能になる便利なツールだ。不便だと感じる時も、少なくないけれど。
「良いですか、私の話はまだ終わっていません。無辜の民を斬ることが貴方の目指す防人とやらですか翼さん。研ぎ澄まされた刃を振り翳されては、私だって軽く三度は死ねるでしょう。分析が終わっていない以上断言は出来ませんが、恐らくこれは海外から持ち込まれた異端技術です」
「聞きましょうか」
「聞き分けの良い子は好きですよ」
椅子に戻った翼さんにカップを返して、荒れた室内を軽く整頓。やや申し訳なさげな彼女に手伝ってもらおうかと思ったけれど、この歌姫は汚部屋暮らしのサキモーリ。もっと酷くなるだろうから素直に座っていてもらう。別に信頼してない訳じゃないんですけどね。信用はしてません。
落ち着いてから再展開したホロ映像を一時停止して指し示すのは、ノイズとその残骸に囲まれた二人の足元。天へ落ちていくような光に包まれた奏ちゃんと翼さんが目を見開く瞬間に現れた方陣こそが鍵なのだ。
「この方陣が光った後、奏ちゃんはこの世界から消え去った。正確にはモニタリングが出来なくなったと言うべきでしょうか。日本国内にサーチ範囲を広げても返ってこない反応から、当時の二課は奏さんをMIA扱い……事実上の死亡処理としました」
だけど、それはつい最近までの話。政権や国際情勢の変化から海外へのアプローチも始まった現在であるならば、国外における調査活動も可能になると予想できる。異端技術を保有しているのは日本だけじゃない、むしろ国外こそ異端技術の本場。だからこその異端技術とも言えるんだけれど、先日のギャラルホルン起動からのノイズ出現という例もある。調査は慎重に行わざるを得ないという現状に歯噛みしているのが私だ。
「ですが絶唱使用時のシミュレーションデータから逆算した場合、奏ちゃんの肉体は崩壊するはずなんですよ。もちろん、あなたの腕の中で」
「だがそうではなかった……」
「ええ。文字通りの消滅という結果だけが残された。私と了子さん、二人のシミュレーションが間違っていたというのであればそれまでですが、私はともかく了子さんのシミュレートですよ?極めて高い信頼度がある彼女が"そう"だと言うのであれば」
天羽奏は、まだ生きている。
「彼女はまだ生きて、この世界のどこかに居る。そう考えられるでしょう。これは主要メンバーを除けば翼さんにだけ話している重要機密です。くれぐれも口外しないように。漏洩が認められた場合、シンフォギアは没収の上こちらの管理下に入る可能性も否定できません」
「それほどまでに重要なのですか、奏のことは」
冷えたコーヒーはアイスにしてやろう。味の濃さはどうでもいい。どほどぼと氷を落としながらカップを揺らした私は、デスクから取り出した書類を見せる。非常に……非常に遺憾ながらあのクソジジイに頭を下げてまでぶんどった許可証だ。あのジジイ直筆の署名付きとあらば、日本国内で並ぶものなどないんじゃなかろうかという強権をこの一枚で主張できる魔法の紙ペラ。
「『護国災害派遣法草案』……これは一体?」
「何たらかんたら難しいことが書いてありますが……ま、つまるところが風鳴訃堂の名前を借りてやりたい放題出来ますよって証書です。早速ですが私のモチベーションに関わるので良い豆を取り寄せることにしました。納期は一週間で」
「お、鬼だ……!」
「真面目な話に移すなら、そうですね。私の知人という枠組みで異端技術の研究者に協力を依頼するとかも可能です。ジジ……失礼、風鳴訃堂はとても嫌な顔をしていましたが、これきりという契約で許可を得ましたとも」
正確には違うけど、ね。
「ともあれ、まだ奏ちゃんは生きているはず。私の方でも調査を進めますが、見つかった少女が奏ちゃんのガングニールを持っている可能性もあります。くれぐれも慎重に接触してくださいね?」
「ええ、理解はできました。あの少女には注意を払っておきましょう。ですがあれが本当に奏のものだったとするなら、私は……」
「ま、その時はその時ですねぇ」
椅子に腰掛けた私の視界に入ってくるのは顔を曇らせる翼さん。空になったカップをふらりふらりと揺らしている彼女からピントをズラして、その手前にあるモニターを見た。
『体内破片からのガングニール展開反応』
これはこれは、荒れそうです。
主人公ちゃんの論理が破綻してたりするのは仕様です。
決して作者がアホだからではありません。
1話あたりの文量
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〜1500
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