医務室ではお静かに。   作:一般適合者

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タイトル詐欺って言われそうですが主人公ちゃんは医者なので主人公ちゃんのいる場所が医務室なんですね(名案)



その5

「えっと、はじめまして。立花響と言います」

「風鳴翼よ」

 

 沈黙。向かい合ったまま動かない少女二人に痺れを切らしたのか、肩を叩いて翼さんに続きを促すのは緒川さん。言外に自己紹介をしろと伝えているみたいなんだけど、どうにも動きが悪いようです。そっぽを向いたまま動かない歳上に対して響さんが手を伸ばしました。握手を求めているようですね。翼さんが反応しないから下ろしちゃいましたけど。

 でも、彼女の気持ちが分からない訳ではありません。奏さんを喪ってから今までずっと一人で戦ってきたのに、突然現れた後輩が奏さんのギアを受け継いで戦うことになる。自分の隣に立つガングニールは奏さんじゃなく響さん、昔の自分の未熟さ故に守れなかった少女。翼さんの内心は穏やかではないと思います。

 

「今の私にその手を取ることは出来ないわ」

「えっと、その……あの!私、あの時、ライブ会場で奏さんと翼さんに助けられたんです。もうダメだなって思った時、二人が来てくれたんです」

「知っているわ。痛い程に理解しているつもり。だから……場所、移しましょう。緒川さん、あとはお願いします」

「はい、任されました」

 

 にっこり笑って消えた緒川さんですが、やっぱり気になるのか気配を消して二人を尾行していますね。いくら見つからないとはいえ成人男性が女子高生を後ろから見張っているというのは……頂けませんよね。あ、風鳴司令に見つかりました。え、監視が二人に増えた……?

 無駄に高い隠密スキルを無駄に発揮する無駄に人間やめてる大人二人が視線を向ける先、歩いているのは無言の翼さんと居心地悪げに周りを見ている響さん。ほら、もっと頑張って会話を広げてください。

 

「そのー、翼さん」

「奏のギアを持っている、と聞いた。ガングニール、無双の槍──それが、あの時の負傷から来るものだとも」

「あ、はい……」

「今更なにを言ったところで過去は変わらない、貴女の人生を狂わせてしまったのは私たちだと現実を突きつけられている気分だわ」

 

 翼さんの後ろを歩いている響さんに、彼女の顔は見えないでしょう。長い髪は顔をのぞき込まないと表情を隠してしまいますから。響さんにとっては何ともない話ですけど、翼さんにとってはありがたい事なんじゃないでしょうか。後悔という文字の通りに歪んだ表情なんて、アーティストたる風鳴翼が見せていいものじゃありませんもの。

 

「そんな、私はあの時たまたまライブに!」

「だとしても、よ。私の弱さが奏を殺し、貴女を傷つけた」

「──翼さんと奏さんは、私の命の恩人です」

 

 ああ、立花響さんはどうしてこんなにも眩しいんでしょうか。真っ直ぐで純粋に感謝の気持ちを伝えようだなんて、今の世界を探して一体何人ができるでしょうか。ただただシンプルに、命の恩人に感謝を伝えるという一心の想いを抱えて歩いているのですね。

 

「だから、ありがとうございました。どれだけ翼さんがそう言っても私は何回だって言います。翼さんと奏さんは世界一かっこいい私のヒーローだって」

 

 あれ?なんか方向性違いません?

 

「え」

「生きることを諦めるな、って言われてからずっと考えてたんです。あの場所で生き残った私がすべき事ってなんだろうって」

「あ、はい」

「そうやって考えて、そうしたら二人みたいになりたいって。沢山の人をこの手で守れるようになりたいって思ったんです!」

「えっ、え?」

「だから戦いましょう翼さん!」

 

 あの、立花響さんってただツヴァイウィングが好きな女の子でしたよね?これじゃ熱血系少年漫画の主人公みたいですよ?ついさっきまで凄くいい雰囲気だったのに……どこで道を間違えたんでしょう。え?昔、道ですれ違った人にアドバイスをもらった?レヴィさんみたいな?

 

「凄まじく無責任な通りすがり……聞いている限りだと間違いなくそれは飛鳥さんだと思うのだが。というよりも!なぜ戦うという話に至った!?私の覚悟は一体何だったのだ!?」

「え?基本的に女の子磨きはアニメ見てご飯食べて寝ることですよね?その言葉通りに過ごしてたらイジメとかどうでも良くなっちゃいました!大丈夫です!翼さんがどんな気持ちを抱えていても、拳を交えたら分かります!」

「思考が風鳴弦十郎ッ!」

 

 尾行していた緒川さんからの冷たい視線が突き刺さってますが、本人曰く面識はなかったとの事。いやいや、映画観て飯食って寝るってアナタがいつも言ってることじゃないですか。ツッコミは今日も冴えてますね緒川さん。本当に初対面だとしたら一体誰がそんな無責任なことを?

 困惑しながら気圧されて、翼さんは訓練室へと響さんを案内していきます。確かにこう、懺悔するつもりで過去の自分の弱さと対面しようとしていたら勝手に相手が乗り越えてた挙句とんでもないポジティブガールになってたって……はい、凄く困りますね。

 

「なら、刃を交えた後で聞かせてほしい。貴女がどんな人生を送ってきたのか、何を考えて生きてきたのか。お茶でも飲みながら、どう?」

「大丈夫ですッ!拳は全てを解決してくれますッ!」

「お父様、叔父様、私はもうダメかもしれません」

「さぁ、いきますよッ!」

「もうどうにでもなれぇぇぇ!」

 

 が、頑張ってください翼さん!

 

「司令、響さんのことですが」

「調査部に連絡してある。とにかく、一度戻るぞ。飛鳥くんが彼女に接触していた過去があるのなら、響くんの人生になにか大きな影響を与えた可能性も否定できん。良くも悪くも、な」

 

 いやほんとにそうなんですけども、改めてそう言われるとレヴィさんが凄く悪者みたいに聞こえますよね。事実なんですけど、本当に無責任に女の子の人生を変えてそのままってクズ男のそれです。所業が鬼畜。ひとでなし。元からでしたね、どうしようもないですよこんなの。

 訓練室から漏れ出てくる轟音に背を向けて大人たちが立ち去っていきます。やや疲れたような顔の司令と心配そうな緒川さんの対比が印象的ですね。確かについ最近まで戦いとは無縁の女の子だった響さんが翼さんと渡り合えるのかとか心配になるのは分かりますけど!

 

「──何者ッ!」

 

 あらら、ここまでみたいですね。

 

「どうした!」

「いえ、誰かが背後に立っているような気が──」

「間違いではありませんよ」

 

 司令が拳を握っています。殴り合いですか、私が勝てるとでも?手を挙げて降参の意を示しても信用してもらえません。そんな、こんなに愛くるしい姿のレディなんですよ?

 

「ま、侵入者だな。少なくとも響くんの友人には見えん」

「それもそうですね。では、はじめましてと言うべきでしょうか。風鳴弦十郎さん、そして緒川慎次さん。翼さんと響さんのやり取りは私も知らないので、後で当事者からお話を聞くべきだと思いますよ」

 

 見つかってしまったものは仕方ありません。大人しく出ていった方が懸命でしょう。こちらに銃を向ける緒川さん、随分と正確な狙いです。ほとんどズレもなく私の胸に照準を合わせていますね。ステルス迷彩も案外アテにならないものです、今度はもっとちゃんと忍ぶとしましょう。

 油断なく私を睨む大人お二人に一礼。ここに至っても警報やアラートの類が鳴らないのは、下手な侵入者だとこの二人で撃退してしまえるからでしょうね。ほとんど人間やめてるようなOTONAですし、私のようなか弱い乙女なんて一瞬で組み伏せてしまえるでしょう。

 

「か弱い乙女、か。君は何者だ?アメリカ政府の送り込んできたスパイ……では、ないだろうな」

「まさか。この見た目こそが答えです」

「黒目と黒髪、果たしてそれが貴女の正体ですか?」

「どうでしょうね?」

 

 体を覆うローブにフードでは、体格も読めないでしょう。読めないですよね?内心の焦りを誤魔化すように口角を上げる。曲がりなりにもアメリカ政府のエージェントから100%オフで仕入れたステルス迷彩。それなりの効果は出せると信じていたのですけれど、これではおままごとのようなものです。

 

「その外套はアメリカのものだろう」

「ああ、これはほら、あれです。100%オフというやつですね。軍事研究所のセキュリティなんてあってないようなものですし」

「随分と手癖の悪いお嬢さんだな。名前は?」

「小夜。小さい夜と書いて『さよ』と読みます」

「何が目的だ?」

「その……」

 

 いや、すごく気まずいんですけど。

 

「風鳴訃堂様からの品を届けようと思いまして。はいこれ、コーヒー豆です。確か……飛鳥レヴィさん?に届けるようにとの言伝なんです」

「風鳴訃堂……なぜ?」

「あぁ……飛鳥くんの、では……なるほどな。君はメッセンジャーだということか?」

「いえ、本当にこれを届けに行けって服と一緒に渡されただけです。今の時間なら医務室で寝てるだろうと聞きましたが、本人はどこに?」

「ついさっき有給申請して帰った。タイミングが悪かったな、それは俺が預かっておこう。なに、悪いようには扱わん」

「ではこちらにサインを」

「む、ペンまで。これは丁寧にどうも」

 

 よし。

 

「では帰りますので」

「うむ、気をつけてな」

「司令!?」

「安心してください、本当にただのコーヒー豆です。確か……すごく高級だと言っていましたよ。すごく希少なもので、国内ではまず手に入らないらしいです。開けましょうか?」

「いや、いい。匂いで分かる」

 

 それじゃ私の用事はこれで()()完了です。帰ったらゆっくりお話を聞かせてもらいましょうか、入れ替わりのタイミングになったことも含めて。そんな私の内心を見透かしているのか、司令さんはコーヒー豆を片手に乗せながら出口を示してくれました。

 

「これはご親切に」

「そうだな、ゆっくり帰ってもいいんだぞ?」

 

 二人に背中を向けた瞬間、大きな気配が動く。司令さんが私を確保しようと動いたはず。その前に聞こえた銃声は緒川さんのものでしょうか?リアルニンジャだと聞く彼の攻撃です、噂では影あるものの動きを停めてしまうとか?そんなもの受けては逃げられませんからね。

 まずはくるんと半回転。私の影を射止めようとした鉛玉は明るく照らされた床だけを穿ちます。案の定、袋を放り投げた司令さんが私に向けて拳を振りかぶっていました。彼の性格上、私が直接殴られることは無いでしょう。軌道から逆算すると、床を狙った牽制の一撃と見ます。なら敢えて回避はしない。いくらあの二人でも動揺を誘えばコチラのものですからね。

 

「本気で殺す気でないと、私は捉えられませんよ」

「む、これは……身代わりだと!?」

「まさか、貴女も!」

「いえ、違います。あなた方が間合いを見間違ったのですよ」

「武術の心得があるようだな。なるほど、独特の歩法を隠すためにもその外套を着込んでいる訳だ」

「さぁ?どうでしょうか。ああでも一つだけ、私の正体に近づくヒントをあげます」

 

 ぱりん、と割れた音が聞こえて私の身体が光に包まれる。垂らした手に握っていた結晶が砕けて散ると、足元に展開されるのは輝く方陣。ああそう、その顔です。答えにたどり着くまで、そう遠くはありませんね?

 

「それでは、またお会いしましょう」

 

 それっきり、私の身体は地下深くから消えていく。ああ、お二人は確かに生身でも素晴らしい能力を持っている。けれどあなた方が手を伸ばすよりもっと早く、私はこの空間から消えるのです。あの時のように。

 

「さようなら」

 




調子悪いッスね?
プロットは無事崩壊しました。
さようなら、プロットゥ。
ダメじゃないか崩壊した奴が出てきちゃあ。

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