医務室ではお静かに。   作:一般適合者

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あ、どうも
原作崩壊です
終わりだ(絶望)



その7

「行くって、まさかテレポートジェムで?」

「無論、お前も使っているアレだ」

 

 彼女の主が誰なのか、だいたい想像ができた気がします。とある廃屋で見つけた文献を元に、長い時間をかけて私が再現したテレポートジェム。文献に記された名前と廃屋の調査から、あの文献の持ち主には娘がいたという結論を出したのですが。それにしても長生きな計算になりますね、だいたい500年ぐらいになるんじゃないでしょうか。

 そういえば、ここも似た雰囲気ですよね。静かな森の中、小川のせせらぎが聞こえる穏やかな世界です。当然ながら野生動物の生息圏、周囲に人の気配はありません。私を抱える派手な女性が取り出したのは、つい先程使ったばかりの結晶でした。

 

「私のものより精度が高い、やはりあなたのマスターというのは」

「それ以上は言うな、マスターが地味に直接話すと言っていた」

「なるほど。だからこんな薄暗くて狭いところに移動したんですね!派手好きと言いながら実は地味な場所で派手にやらかす……お姉さん、なかなかのやり手と見ましたよ」

「地味に気持ち悪いな」

「辛辣──!」

 

 もう色々吹っ切れてきたのでテンションが変になっています。自覚はあるんですけど、もうどうしようもないですね。だって現在位置不明ですし。抱えられた姿勢のまま周辺確認をしようにも、分かるのは薄暗い廊下だということばかり。人の気配、生活感は一切無し。逆に不気味になってきました。

 人が暮らす場所には、多かれ少なかれ気配というものがありますよね。それは人が発する匂いであったり埃であったり、擦り切れたカーテンだったり草臥れたフローリングだったり。人によっては『味が出た』とも表現されるようなそんな気配が無いのです。

 

「本当にここに人が……?」

「派手に用心、地味に工作。なるほどマスターの言う通り、お前は相当な切れ者らしいな」

「ええ、私なんか大したことないですよ」

 

 見抜かれている?内心の動揺を隠すため、やや大袈裟に腕を振ってみた。あわよくば何か分かるかと思ったのですが、発信機の類は私の手を離れた瞬間に破壊されているようです。残念ながら私に出来ることはこのまま運ばれていくことぐらいでしょうか。

 子牛の気分を味わいながら運ばれること数分。移動中に判明したことと言えば、この場所が随分と丁寧に作られていることと自動人形の名前がレイアだということ。炎と毒を使えたりとかしません?聞いてみたけどそんな機能は無いそうです。ミカという自動人形ならもしかすると、とか言ってましたね。ドラゴン娘……?

 

「マスター」

「戻ったか、レイア」

 

 きょろきょろと見回す私を下ろしたレイアさんは一礼、静かに定位置と思われる台座へと戻り黄色いシャツを揺らしながらポーズをとった。正面の椅子に腰掛ける少女がマスターのようだが、果たして彼女の正体は何なのだろうか。話に聞く錬金術師の中でも随分と高い技量を持っているらしい。それは、レイアさん以外に存在するであろう3体の自動人形からも察することができた。

 目を閉じて頬杖をついたまま、少女は一言も発さない。私を試しているのか、それとも何かを待っているのか。微動だにしないレイアさんに助けを求めようと視線を向けても、彼女はすげなく虚空を見つめ続けていた。非常に気まずいので環境音以外の刺激がほしい。具体的には会話とか。

 

「おい、お前」

「あ、はい。なんでしょう」

「飛鳥・レヴィ・オウスだな?」

「ええ間違いありません。私が飛鳥・レヴィ・オウスです」

「お前がここに来てからずっと観察させてもらっていた。非礼を詫びよう。その上で聞く。お前は死者を甦らせることができると、本当にそう考えているのか?」

 

 目を開いた彼女の瞳が、私の心を貫いた。なぜそれを知っているのか、そう聞きたくなったけれど今は違う。あの目は、誰かを追い求め続けた人にしかできない目だ。死んだ人間を追い続けて邁進する、ある種の思考停止状態に陥っていると私は察した。翼さんも似たような状態だったのを覚えている。

 

「ええ、私の行動原理はそれですから。惜しむらくは()()も時間も、何より資金も足りません。だから有給使ってゆっくり研究しようとしたのに次はここまで連れてこられたんですよ?」

「成程、つまり素材や資金があれば問題ないということか」

「そうですね。ただまぁ、方法自体はいくらでもあるんですよ。それこそ今のあなたのように、自らのクローンを作り上げそこに記憶を転写する……なんてこともね」

「目ざといな、凡人と自称するには惜しいぞ」

 

 頬杖をやめた彼女が玉座より立ち上がる。階段をゆっくりと降りながら、自らの足で私の元へと近づいた。向かい合うと身長差で見下ろす形になるが、威圧感は変わらない。その気になれば私など、指一本で殺すことができるだろう。それほどまでに彼女は強いと、翼さんや司令を見続けた私の経験則が全力で警鐘を鳴らしている。

 

「けれど、それは本当にあなたなのですか?えーと」

「キャロル。キャロル・マールス・ディーンハイム」

「ええキャロルさん。あなた自身は自分をオリジナルだと完全に証明できますか?幾度となく死を繰り返して尚、その自意識はキャロル・マールス・ディーンハイムであると」

「愚問だな、オレはオレだ。たった今、この場所で出会ったばかりのお前に見定められてやるほど安い命はしていない。500年重ねたオレの懸想を理解できるとでも言うのか?」

「さぁ、私にはサッパリ。ただし人付き合いという点ではキャロルさんよりも重ねていると確信していますし、何よりも私たちにはテレポートジェムという共通点がある。戦うよりも話し合う方がよっぽど合理的でしょう?」

 

 勿論、戦うとなって私が勝てるかと聞かれるなら……それは不可能だ。耐えることはできるかもしれないけれど、決定打に欠ける私では趨勢を変えられない。相変わらずの無能さに反吐が出る、ほんの僅かな苛立ちを込めてテレポートジェムを見せつけた。廃屋で発見した文献に記されていた名前、大半が掠れて見えなかった末尾には『ディーンハイム』の文字があった。

 

「ディーンハイム、その名前を聞いて確信しました。貴方はこのテレポートジェムを作成した本人、またはその縁者ですね」

「──ファラ、戻れ」

「畏まりました、マスター」

 

 風が吹いて、私の後ろから現れた緑の自動人形が台座へ戻っていく。私の小細工が全て砕かれていたのは彼女の仕業だったようだ、その気になれば手に持っていた剣で首を刎ねることもできただろう。危ない橋を渡っていたようだが、動揺するのは今じゃない。ここはキャロルさんの本拠地なのだ、一歩動けば即座に殺されると仮定しておくべきだろう。

 

「風、ですか。錬金術師らしいですね」

「当然だろう?オレの造ったオートスコアラー達だからな。まさかお前に見抜かれるとは想定していなかったが」

「非才なりに努力しているつもりですよ、私は。あなた達のような才能も無ければ、天から与えられたものもない……凡人とは私のような人間のことを言うのです」

「──ふむ、なるほどな。ならば凡人飛鳥・レヴィ・オウスよ問おう。ヒトをヒトたらしめるモノとはなんだ?魂か?信念か?よもや己で定めるものがヒトとは言うまいな」

 

 一歩も動かないのは、キャロルさんも同じこと。私は凡人、特に何かできるような技術も仕込みも何もないけれど警戒しているようです。統治する者としては当然でしょう。不意打ちによる致命傷なんて、余程の平和ボケか阿呆でなければ受けません。初対面の人間を無条件で信用するほど甘いのなら、戦いを知らずに生きていた方がよっぽど良い。

 その上で彼女の疑問について思案する。ヒトをヒトとして定義する枠組みについては、私も考える時がある。結局、私は人でなしだから解答を出すことはできなかった。魂なんてものは存在しない。微弱な生体電流によって脳神経内で交わされる信号の積み重ね、それこそがヒトをヒトたらしめるとしか思えない。だけど。

 

「それを決めるのは、私でもあなたでもありません。ヒト自らが己を定義するのであれば、それこそが個体識別となるのではないでしょうか?あなたが自らをヒトであると定義するのなら、あなたはヒトでしょう」

「お前は違うと?」

「人でなしですよ私は。誰に言われなくとも自覚しています。感情が完璧にコントロールできるようなヒトガタなんて、作り物と同じですからね」

 

 その場その場に応じて与えられた役目を演じ、求められる反応を返すだけ。全ての行動についての思考を並列処理しながら、常に客観視した自分の姿を見続ける。感情ではなく理性によって動き、人間の感情全てを理解したつもりになって生きているヒト。それが私なのかもしれません。

 

「面白い、自分を人でなしと称するか。本気でそう言っているとするのなら、お前は"2人目"だ。自分を人でないと称するなど、イカれた人間の狂言か本物の人でなしのどちらかだからな」

「本気ですとも。私はいつでもね」

「くく……あっはははは!そうか!お前は……()()()は本気でそう思っているんだな!」

 

 大真面目に返したのに、キャロルさんは笑っていました。心外です、こちらは求められた会話に応えただけだというのに。不貞腐れながら彼女を見下ろす私に対して、彼女は目尻の涙を拭いながら手を差し出しました。

 

「ならば、オレと来い」

「……あなたの目的は、何ですか?私だけが開示するの、不平等だと思うんですよね。あなたも使う錬金術の本質って等価交換じゃないですか。それに、まだ私を試しているつもりなら帰りますよ?」

「確かに、そうかもしれんな」

 

 ニヤリと笑ったキャロルさんが水になって飛散する。高度なダミーだとしても、薄らと透けた瞳の向こう側は隠し切れていませんよ。半目になった私の視線の先、濡れたスーツをあっという間に乾かした彼女は玉座に在り続けていたのでした。

 

「わざと見抜けるようにしましたね」

「いや、それは違うな。そうだろうガリィ」

「やだなあ、ガリィちゃんはマスターの忠実な下僕ですよ?マスターを危険に晒すようなポカをやらかすように見えますか?ま、バレて攻撃されるのも面白そうだとは思いましたけどね」

「貴様の役目が違えば即座に破壊していたものを」

「お褒めに預かり恐悦至極」

 

 慇懃無礼、という言葉がぴったり似合う青色の自動人形はガリィというらしい。玉座の影から現れた彼女は過度に恭しく大仰な礼を披露して、台座へとするりするり。移動した彼女の足跡が凍っている。錬金術師であるなら、彼女の扱う属性は水──レイアさんが土、または地だとするなら、おそらく残りのミカさんは火を扱うのだろうか。

 

「随分と高性能なオートスコアラーなんですね。意思表示を行い自ら行動するなんて、少なくとも私が知る自動人形ではありえません。ああそうだ、どなたか貸してくださいません?分解して解析したいんですけれど」

「最悪だゾ」

「ん?誰か何か言いました?」

「「「「いいえ何も」」」」

 

 はて、四人分の声。つまりミカさんがいるということですね。姿を見せないところを考えると、修理か調整中なのでしょうか?おそらく彼女たちは四機揃って運用されるべき存在、この場に居ない理由があるはずです。私には推測することしかできませんが。

 

「さて、聞きたいのはオレの目的だったな。これまでの言動は無駄ではなかったと証明する為にも明かすとしよう」

 

 そう言って、彼女は手を広げた。




フィーリングフィーリング。
次回はビッキーズに戻しますやで
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