転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる   作:暁刀魚

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第10話 退魔師は奮闘する

「霊媒師さーん、霊媒師さーん、失礼しまーす!」

 

 その日、俺が事務所で作業をしていると、ミクモちゃんが勢いよくやってきた。

 黒セーラーに背中にはカバン、学校帰りにそのまま来たのだろうか。

 ……ミクモちゃんの学校って俺の街から結構離れてたよな?

 

「やぁ、ミクモちゃん。学校帰り?」

「そうですよ、せっかくなので霊媒師さんに私の学生服姿を見せてあげます。可愛いでしょう」

「そうだね、可愛いね。ミクモちゃんって結構おしゃれは気にするよね」

「気にしますよ! 女の子なんですよ!? しかも美少女!」

 

 そう言って、指で口元を吊り上げてにっこりスマイルを作って見せる。

 確かにその姿は美少女だ。

 

「ええと、それで今日はどうしたの?」

「話をずらしましたね!? ま、まぁいいでしょう。私が可愛いことは揺らぎませんし」

 

 コホン、とミクモちゃんが咳払いをしてから。

 

「実は数日前、うちの方で退魔を請け負っていた二号霊魂がリツ様の縄張り……こほん、神域に逃げ込みました」

「それはまた」

 

 普段から縄張りと呼んでいるリツの支配地域だが、正式名称は神域である。

 すっかり縄張りで定着しているが。

 本人の前で縄張りというと、俺でもミクモちゃんでもロウクでも、見境なく頬をつねられるので気をつけよう。

 たまに、この場にいなくとも外から神棚を通してここの様子を視てたりするからな。

 

「そこで、この天才退魔師ミクモが、その退魔を引き継いだわけです」

「まぁ、リツの縄……神域で活動できる退魔師はミクモちゃんだけだしな」

「家からは、くれぐれもこのことは霊媒師さんには内密に、と言われていますが」

「めちゃくちゃ喋ってるな」

「家のほうが間違ってると思うので、従う必要はありません」

 

 ミクモちゃんは真面目だが、自分が正しいと想ったことを通そうとするきらいがある。

 正義感が強いのだ。

 まぁ実際、隠して後からリツにバレるより、最初から俺に頼ったほうが賢明だな。

 

「ただ、心配は無用。二号霊魂とはいえすでに手負い。後は退魔するだけなので心配は要りません」

「手出しも無用、と」

「そういうことです」

「それは拒否しておこうかな、俺も行くよ」

「なんですとー!?」

 

 驚いた様子で、ミクモちゃんは飛び退くようなポーズを取った。

 指が狐みたいになってる、何ていうんだこのポーズ。

 

「単純に、もう夜が遅いから。俺の事務所ももう閉めるし、ミクモちゃんが心配だ」

「完全に子供扱いして! 退魔師に労働基準法は関係ありませんから、二十二時以降だって働けますよ!」

「危ない発言してるなぁ」

 

 それはそれで、自分を子供だと認めている気がするのだが。

 ともかく、なんとなく嫌な予感がするのでここはついていくことにする。

 

「ただ、少しだけ待ってくれるか? 今やってる作業が後三十分くらいで終わるから」

「えー? じゃあ私一人で行っちゃいますよ?」

「アニメ視て待ってていいから」

「視ます!」

 

 速攻で手のひらは返された。

 

「俺の周りには、チョロいやつしかいないのか?」

「なにか言いました?」

「いや何も」

 

 適当に誤魔化す、ちなみにチョロいのはロウクもだ。

 リツもミクモちゃんもロウクも、すぐ餌に釣られるぞ。

 俺の周りでチョロくないのは宗屋さんくらいなものだ

 ……宗屋さんはチョロくないよな?

 

 ミクモちゃんはと言えば、俺の隣に座るとテレビをつけてリモコンをいじる。

 配信サイトに直接アクセスできるようになってるので、そこに繋いだら後はアニメを見るだけだ。

 

「二話分溜まってるので、一時間作業してても大丈夫ですよ」

「逆に作業を奨励されている」

 

 まぁ、そういうことなら作業させてもらおう。

 

「ちなみに、何の作業をしているんですか?」

「お守りを作っている」

「ほう、お守り」

 

 ある意味、まぁ見ての通り。

 俺は紙で折った袋の中に、護符を一枚入れている。

 これをとりあえず十個。

 試作という形で作っていた。

 

「結構すごいお守りなんだ。まずこの紙、宗屋さんの家で眠ってた古い和紙で、退魔用の術符を作るために使われてたもの」

「おー、結構すごい霊気を感じますね。最近は術符もコピー機でコピーする時代だというのに、気合入ってます」

「それはミクモちゃん一派だけだと思うけど、流石に」

 

 とはいえ、他の退魔師だってコピー機は使っていなくとも、和紙自体は新しいものを使っているはずだ。

 古い和紙の方が霊気がこもっており、効果が高いのは事実である。

 

「退魔寮に売ったら、多分六桁円くらい出ますよ」

「お金には困ってないから」

 

 殆ど宗屋さんからの依頼で賄ってるけど。

 

「それで、この紙の入れ物の中に、リツに書いてもらった術符を入れる」

「うわー、これだけで二号霊魂が退魔できそうです。一体何と戦うつもりなんです?」

「最善を尽くしているだけです。それで最後に――」

 

 俺は、以前使ったリツの神気入りスプレーを取り出し。

 プシュッと。

 

「…………今、何しました?」

「リツの神気を吹きかけた」

「直接?」

「直接」

「ええ……」

 

 そしてドン引きされた。

 

「というわけで、一つ完成。ミクモちゃんに上げるね」

「もらえませんよ! 値段つかないじゃないですかこんなの!」

「まぁまぁ」

 

 というわけで、一つ押し付けておいた。

 ところでこれ、通販とかで売ったら結構評判いいと思うんだけど、どうかな?

 リツが許可出してくれない? ですよね。

 

 

 ◯

 

 

 というわけで、試作したお守りは一旦神棚に奉納しておいてリツの反応を待ちつつ。

 俺達は二号霊魂を探すため、事務所を出た。

 すっかり時刻は夕方、早めに終わらせてミクモちゃんを家に帰さなきゃ。

 

「ところで霊媒師さん、さっきの神気スプレーなんですが」

「うん、それが?」

「アレ、結構良さそうですね。どうやって作ったんですか?」

 

 ふむ、どうやってと言われても。

 

「神棚に空のスプレー缶を奉納して、神気が中に貯まるのを待っただけだ」

「あそこ神気すごいですからね。ってことは、ただ神気を缶の中に入れただけってことですか」

「そうそう。霊気でも代用できるんじゃないか?」

「いいですねえ、咄嗟の不意打ちに有効そうです」

 

 缶の外からは、神気を感じないんですよ、とミクモちゃん。

 なるほど、缶が擬似的な結界になって中の神気を外と隔絶させているわけだ。

 確かになにもないところから霊的パワーが吹き出してきたら、魔には結構効くよな。

 

「私も今度作ってみます」

「おー」

 

 ――と、ここで余談。

 このときはふたりともせっかくだしやってみよう、程度のつもりだったが。

 後でこっぴどくリツに怒られた。

 最近の退魔師は現代的すぎるから、せめて戦闘中くらいは格式を保ちなさい、とのことだ。

 退魔師嫌いなくせに、退魔師の格式にはうるさいリツであった。

 

「それで、退魔師はどうやって霊魂を探すんだ?」

「まぁ、退魔師は霊媒師さんと違って霊気を感じ取れますから、気配のする方に向かって地道に前進あるのみです」

「結構気長だな……」

 

 一応、本格的な探知の術式もあるそうだがミクモちゃんは霊気の察知に敏感な方なので要らないらしい。

 

「そもそも、霊媒師さんってどうやって居場所のわからない霊魂を探すんです?」

「以前やった時は霊魂を大量に集めて、その中から特定の場所に向かっていく霊魂を選別してその後を追いかけた」

「力技過ぎません?」

「結局、リツに手を貸してもらわないと必要な数の霊魂が集まらなかったな」

 

 あの方法は、結果的に見れば失敗だったと言えるだろう。

 そこで俺は改良案を考えた。

 

「今はリツが寝てるみたいだから、力を借りれない。というわけで、別の方法で探す」

「ほうほう」

 

 そう言って俺が取り出したのは――

 

「ええと」

「何だ?」

「……ダウジングマシンですよね? これ」

「まぁそうだな」

「ポケモンでしか見たことない奴!」

 

 現代っ子な反応が返ってきた。

 まぁ俺も、ポケモンと古いアニメ作品でしかみたことないが。

 まぁ、そのダウジングマシンだ。

 折れ曲がった棒を二つ持つアレ。

 

「まぁ、使い方としてはダウジングマシンだよ。こうして、そこにいる霊魂に頼んで巻き付いてもらってだな」

「ええ……」

「霊魂はより大きい霊魂の元へ向かう性質があるから、こうして巻き付いた霊魂が大きな霊魂の方向に動いて……」

「ええ……」

「あっちだ」

「ええ……」

 

 ミクモちゃんが、「ええ……」としか言わなくなってしまった。

 けど、間違ってはいないようだ。

 俺がその方向に進み始めても、ミクモちゃんは止めない。

 

「むしろ、一番理不尽なのは方向が間違ってないことです」

「そりゃあ霊魂の習性なんだから、当然だろ」

「拾った霊魂はどうするんですかぁ」

「終わったらちゃんと成仏してもらうんだよ」

「ええ……」

 

 そういう取引だからな。

 

「というか、移動方法はどうする?」

「場所は近いみたいですから、徒歩で行きましょう」

「了解」

 

 それから、ミクモちゃんと話をしながら目的地へ向かう。

 まぁ、話す内容はたわいもないものだ。

 

「最近は、兎にも角にも三号霊魂の大量発生が各地で問題になってまして。全国的に一斉に退魔しようって話になってるんですよ」

「三号霊魂は、二号以上の霊魂の下にいなければ無害な霊魂なのにな。ただ闇雲に成仏するとなると、面倒事が増えるだけだろ」

「実際そうなんですよね、私達新世代一派は何とかいい方法がないか考えているんですが」

 

 どうやら、ミクモちゃんたちは「新世代一派」というらしい。

 まぁ、文字通りの意味だし、そこまで不思議ではない。

 

「ただやはり、若輩者ばかりの集団ですからどうしても聞く耳をもってくれなくて」

「まぁこればっかりはな、俺が言っても聞いてもらえないだろうし。……そうだな、宗屋さんに相談してみるのはどうだ?」

「宗屋様……ですか? 霊媒師さんの後見人の」

 

 宗屋さん、元退魔の一族であり魔に関する知識を有している。

 加えて非常に優秀な経営者であり、先達でもあった。

 相談する相手にはちょうどいいだろう。

 そして、退魔寮的には宗屋さんは俺の退魔の世界における後見人扱いらしい。

 色々と面倒を見てもらっているし、何も間違いではないな。

 

「そうそう。あの人なら、ミクモちゃんたちにいいアドバイスをくれると思うんだ。ミクモちゃんたちなら、宗屋家との確執もないだろ?」

「……確かに、そもそも外部の人で退魔に関する知識があるってとても貴重ですし、いい考えですね」

 

 後で他の人にも相談してみます、とミクモちゃん。

 結構有意義なアドバイスができたようだ。

 そんなことをはなしているうちに、目的地――近くの公園に到着である。

 ところでこういう公園って、霊能バトルの現場になりやすいよねとか思いながら。

 

 

 ◯

 

 

「いいですか、退魔は私一人でやりますから。霊媒師さんは見ているだけですよ」

「はいはい」

 

 という話をミクモちゃんと公園に入る前、三回くらいして。

 多分これは事務所で俺が渡したモノの存在は忘れているな、と思いつつ。

 俺達は公園へと突入する。

 公園は人気がなかった。

 霊魂がいるからだろう、そこが”畏ろしい”物がある場所だと人々が無意識に察知しているのだ。

 とはいえこれは、あくまでこの公園が普段は平和な場所だから。

 霊が好む場所――心霊スポットみたいな場所は、普段から畏れを感じる場所なので逆に感覚が麻痺しやすい。

 

「……こっちですね」

「みたいだな」

「…………その霊魂、そろそろ解放してあげてもいいのでは?」

 

 相変わらずダウジングマシンを使って探知する俺を見て、ミクモちゃんが一言。

 霊魂を気遣ってというよりは、絵面を気にしての発言だろうけど。

 まぁ実際いいタイミング――ここで解放しないと二号霊魂に引き寄せられてミクモちゃんを攻撃しかねない――なのでここでお別れだ。

 助かったと礼を言って霊魂をあの世へ案内する。

 そうすると、二号霊魂へ引き寄せられることなくまっすぐ成仏した。

 

「よし」

「……くれぐれも、気をつけてくださいね」

 

 術符を取り出しながら、俺にカバンを預けて言う。

 俺が渡したアレはポケットに入ってるはずだから、忘れてるの確定だな。

 で、他にもミクモちゃんは退魔の道具を取り出しつつ。

 

「――でてきてください!」

 

 勢いよく叫ぶ。

 そこにはほんの少しの霊気……が混じっているんだろう、俺には何も見えないが。

 だが、霊魂は普通霊気以外に反応しないので、霊気が混じっていることは結果から判断できる。

 

『アアアアアア――――』

 

 若い女性の霊魂が、どこからとも無く現れた。

 ――ん、あの女性。

 

「……なぁ、ミクモちゃん」

「下がっていて、この霊魂は私一人で十分です」

 

 残念ながら話は聞いてくれそうにない、若いな。

 ともあれそういうことなら、俺は一旦後ろに下がる。

 保険はきちんとかけてあるからだ。

 

「御鏡流次期当主、御鏡ミクモ――参ります!」

 

 その宣言と共に、ミクモちゃんの手に収まっていた術符がミクモちゃんの周囲にばらまかれる。

 回転する術符、それを剣印――人差し指と中指を立てるアレ――で操りつつミクモちゃんが戦闘を開始する。

 

「行け!」

 

 退魔師にも、流派というものが存在してそれによって戦い方も大きく変わるのだという。

 ミクモちゃんのそれは、術符を操るのが主体。

 複数の術符が、二号霊魂へと襲いかかった。

 対する二号霊魂も、周囲の三号霊魂を飛ばしてくる。

 それらはぶつかり合うと、三号霊魂がバチバチと光を迸らせて消失する。

 退魔され成仏したのだ。

 

「こっちです!」

 

 ミクモちゃんが、横に走りながら術符を飛ばしつつ迫ってくる霊魂を躱す。

 実を言うと、術符一枚で三号霊魂を成仏させることは、中々困難なことだ。

 それをこともなげに、連続で行えているのはひとえにミクモちゃんの才能ゆえである。

 とはいえ――

 

「……きりが無いですね!」

 

 三号霊魂の数が多すぎる。

 こういう光景を見ていると、三号霊魂が多すぎて大変と言っている退魔寮の考えもわからなくはない。

 焦れたミクモちゃんは戦い方を変化する。

 ミクモちゃんの腕の隣に、大きな術符の腕が形成された。

 宙に浮かぶ腕が二つ、ミクモちゃんに追随する。

 

「っらあ!」

 

 ツッコミ、腕を振るう。

 術符一枚で吹き飛ぶ三号霊魂が、術符の塊に耐えられるはずもなく。

 一方的にミクモちゃんは三号霊魂の波をかき分けていく。

 

「とり、ましたあ!」

 

 そしてついに、その腕が二号霊魂の女性を掴む。

 

『ア、アアア』

「にがし、ません!」

 

 もう片方の腕も二号霊魂をつかみ、霊魂はバチバチと光を迸らせる。

 

「魔よ、退きなさい!」

『アアアアアアアアアッ!』

 

 霊魂は、苦しんでいるように見える。

 けれど、実際に痛みを感じているわけではない。

 アレは霊魂の中にある恨みつらみ――つまり、霊魂を強大足らしめている部分を引き剥がしているのである。

 俗な言い方になるが、退魔とは言ってしまえば強制的なデトックスである。

 生前に未練があって、それが辛くて仕方ないから霊魂は二号以上の霊魂になるのだ。

 その未練によって発生する苦しみ、悲しみを洗い流す。

 

「もう、苦しまなくてもいいでしょう! あなたが、これ以上悲しむ必要はないでしょう!」

 

 その言葉に反応して、少しずつ女性の霊魂は力を失っていく。

 やがて、暴れる霊魂は大人しくなった。

 そして、少しずつ消失していく。

 成仏しているのだ。

 

「……ふう、一丁上がりです」

「……」

「どうですか霊媒師さん、私も大したものでしょう。まぁ、この霊魂には”霊障”がないようでしたから、純粋な力押しで対処できましたが――」

「――まだだ!」

 

 俺は、そこで叫んだ。

 間違いない、この霊魂は――

 

「――――え?」

 

 ――”中”に、別の霊魂がいる。

 そう伝えようとした瞬間。

 

 

 腹の中から飛び出した、 ()()()()()()が勢いよくミクモちゃんを吹き飛ばした。

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