転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる   作:暁刀魚

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第11話 龍神は回顧する

 ――俺以外の人間には、霊魂は人の形で見えないらしい。

 それこそ、ホラー映画の幽霊みたいな存在に見えるのだとか。

 だからわからなくても仕方がないのだろう。

 あの女性の霊魂は――明らかに子を身籠っていたと。

 

「きゃっ――!」

 

 吹っ飛んだミクモちゃんが、悲鳴をあげながら何とか受け身を取って、ゴロゴロと転がった後立ち上がる。

 

「な、何が起きたんですか!?」

「もう一人いたんだよ、あの霊魂の中に、赤ん坊の霊魂が」

「そ、それって……いや、まってください。あの霊魂――」

 

 怪我はなさそうだ。

 流石に鍛えているのだろう。

 とはいえ、本来なら霊魂がミクモちゃんを傷つけることはない。

 俺(・)が(・)渡(・)し(・)た(・)お(・)守(・)り(・)がミクモちゃんを守るはずだったからだ。

 だというのにミクモちゃんは吹き飛ばされた。

 すなわち――

 

 

「――一号霊魂じゃないですか!」

 

 

 あの赤ん坊の霊魂が、物理的に人を害することのできる一号以上の霊魂であるということだ。

 

「……生まれてくることのできなかった怨みだ、さぞかしでかいものになるだろう」

 

 先日も母の霊魂を成仏させたが、その時はそもそも子供が先に亡くなっていたからだろう。

 赤ん坊の霊魂はいなかった。

 それにしても、二度も連続して子と母の霊魂がリツの神域に入り込んでくるのか……

 

「撤退しましょう、私達だけじゃ一号霊魂は無茶です!」

「いや、ダメだ。放置したら物理的な被害が出る。それに今はリツが寝てるから実質救援は望めない」

 

 退魔師はリツの神域に入ってこれず、ロウクはどこにいるかもわからない。

 ここから救援を求めるなら、鈴を鳴らしまくってリツが起きてくることを祈るくらいだが。

 

「それに――」

「そ、それに?」

「……一号霊魂なら、俺がどうにかできる」

「うっ……」

 

 事実として、俺は過去に一号霊魂を単独でなんとかしたことがある。

 物理的な障害こそ厄介だが、それさえ何とかできれば後はいつもとやることは変わらない。

 

「無茶……といいたいですけど。実際それしか無いですよね。あの、私になにかできることはありますか?」

「事務所に戻って、神棚の鈴を鳴らしまくってくれ。アレはリツを呼ぶための鈴だから」

「……後で怒られたりしません?」

「むしろ、一号霊魂が出たのに起きてこないリツに問題があるから、大丈夫だ」

 

 仮にも、この縄張りの主だというのに。

 やはりリツの縄張りを神域と呼ぶのはなしだな。

 

「わ、わかりました。それと……」

「それと?」

「……お守り、ありがとうございました。おかげで、助かりました」

 

 そう言って、ミクモちゃんはかけていった。

 いやまぁ、あのお守りがなければ俺もちゃんと声をかけていただろうから、お相子だ。

 まさか、あんな物理的にふっとばされるとは思わなかったからな。

 

「さて……久しぶりの一号霊魂だ。頼むぞ――龍人形(タツヒトガタ)」

 

 俺は懐から、一枚の紙片を取り出す。

 龍の形をした形代だ。

 流派の関係でミクモちゃんは使わないが、人形(ひとがた)の形代は退魔師の間でもよく用いられる。

 それに近しいもの。

 現れるのは――小さな龍。

 青白い光の、勇猛さよりも美麗さが勝るどこか女性的なフォルムの龍だ。

 言うまでもなく、リツを模したものである。

 

『アアアアアアアアアアッ!』

 

 それと同時に、赤ん坊の霊魂が泣き叫ぶ。

 先ほどまでは距離が遠かったので、こちらの会話に反応していなかったのだ。

 俺が一歩近づいたことで、向こうの攻撃圏内に入ったのだろう。

 すると、即座に衝撃が飛んでくる。

 龍人形が間に割って入り、物理的な攻撃を防いだ。

 

「ミクモちゃんは、よくこれを正面から受けて無傷だったな……本人も咄嗟に防御の術式を展開したってところか」

 

 霊的な攻撃は、全てお守りがシャットアウトしていただろう。

 だが、物理的な攻撃までは防げない、そこを攻められるとこの調子だともっとすごい勢いで吹っ飛びそうなものだが。

 そこは天才退魔師の面目躍如だな。

 そう思いながら、龍人形を前にして赤ん坊に近づこうとしていると――

 

「――――?」

 

 不意に、音が聞こえなくなった。

 それと同時に、耳のあたりからじんじんと痛みが広がっていく。

 ちょっと待てこれって……耳を音で破壊したのか?

 

『―――――――!!』

 

 霊魂が周囲に与える影響は、おもに二つ。

 直接触れることで畏れを引き出し、それを物理的なダメージに変換するもの。

 これは全ての霊魂が共通して持つものだ。

 そしてもう一つ、霊魂が個別に所有する能力。

 これを退魔師の間では”霊障”と呼ぶ。

 この赤ん坊の場合は、この泣き声だ。

 

 そしてその赤ん坊の声が聞こえない。

 これは流石に想定外だな、物理的な衝撃なら龍人形が防いでくれるのだが。

 純粋な音は、すり抜けてしまうのだろう。

 というか普通に耳が痛い。

 鼓膜とか破けてるよなこれ……

 

 ――とはいえ、対処できないものではないのだが。

 

 俺は、続けてもう一枚の龍人形の形代を取り出す。

 この形代、霊気とか神気を使って俺が動かしているわけではない。

 ミクモちゃんのアレは自分の霊気で動かしているから限界があるが、俺の龍人形に限界はないのだ。

 故に、この龍人形最大の強みは――数だ。

 

 複数の龍人形が出現し、その一体が俺を光で包んだ。

 龍人形にはそれぞれある程度の役割分担があり、こいつは治療担当。

 つまりヒーラーだ。

 

「――あー、あー……よし、聞こえるようになった」

 

 その回復力はとんでもなく、ちょっと骨を折ったくらいなら即座に回復する。

 これがないと、一般人の俺は霊能バトルについていけないからな。

 

「悪いな、少し待っててくれよ」

 

 そう言って、俺はゆっくりと泣き声の衝撃をかいくぐって近付く。

 やがて、赤ん坊の元までたどり着くと――

 

「もう大丈夫だ、ほら」

 

 そう言って、赤ん坊をあやす。

 赤ん坊の霊魂を成仏させる方法は、これが最も確実だ。

 泣き止むまで、辛抱強く。 

 その間、周囲を赤ん坊の泣き声が響き渡り。

 それによる破壊を龍人形が防ぐなか、俺は根気強く赤ん坊をあやし続ける。

 

 数分後、ようやく赤ん坊は泣き止み――除霊は完了した。

 

 

 □

 

 

「――もう、それで私が叩き起こされたってわけね」

「あはは……ごめんなさい」

「ミクモは責めてないのよ。私が怒っているのは、無茶をしたれーばいしさんなんだから」

 

 夜、鞍掛霊媒事務所にて。

 リツが、カンカンに怒って俺を出迎えてくれた。

 隣には、怒られていないのになんだか申し訳そうなミクモちゃん。

 あと、部屋の隅になんかいる。

 けどまぁ、この丸っこい毛玉は放っておこう。

 寝てるみたいだし。

 

「とりあえず、霊魂は無事に除霊できたよ。赤ん坊の霊魂だったのは幸いだった」

「お、お疲れ様です。……ごめんなさい、私がカッコつけようとして逸ったばっかりに」

「それは俺も同じだよ、中にもう一つ霊魂があるのは解ってたのに。まさか一号霊魂だとは思わなかったから」

 

 お互いに謝り合う、そのまま何度もこちらこそ申し訳なかったとやり取りをして――

 

「あーもう! 私を無視しないでよ、ミクモもれーばいしさんも、私なんてどうでもいいっていうの?」

「あ、いや、そういうわけじゃないんですリツ様! これは、えっと」

「そうだぞ、元はと言えばリツが起きてこないのがいけないんだから」

「霊媒師さん!?」

「うぐ……痛いところをつくじゃない」

 

 まさか俺が反論するとは思わなかったのだろう、ミクモちゃんは目を白黒させている。

 だが、俺とリツの間だとこれくらいが普通のやり取りだ。

 端から見れば顔を真っ青にするやり取りでも、である。

 

「まぁいいわ。とにかくこれ以上、不毛なやり取りで時間を使わないでちょうだい」

「解ったよ、その点は悪かった。ミクモちゃんもごめんな」

「こ、こちらこそ! 助けていただきありがとうございました!」

「助けたのは、主に私の神気がこれでもかと使われたあのお守りでしょうね。一体何と戦うつもりよ」

 

 いいながら、机に置きっぱなしだったお守りをいじるリツ。

 ……なんか指が少し透けてない?

 

「退魔師の術符を使ってるから、私の神気が力の源なのに私まで影響を受けるのよ? おかしいでしょうこれ」

「ええ……零号神魔に影響与えられるって……」

 

 二人してドン引きされた。

 いやまさか、ここまで性能が良くなるとは思わず……当初の目標は一号霊魂の霊障を防ぐことだったんだが。

 

「もー、それですら過剰すぎよ? れーばいしさんって、ちょっとお馬鹿さん?」

「…………」

「ミクモちゃんはなにか言って!?」

 

 コホン。

 

「それにしても――こうも立て続けに、母親と赤ん坊に関わる霊魂が現れるのは、普通じゃないよな?」

「……そうね」

 

 リツが、俺の事務所の机に腰掛けながら空中にお守りを浮かして弄びつつ答える。

 

「嫌だわ、タツメの顔を思い出しちゃった」

「タツメっていうと……以前リツが話していた?」

「リツ様と争ったタツメ……? って、それ!」

 

 リツの不快そうな言葉に、俺は昔聞いた話を思い出す。

 確か、数百年前にリツと対峙した――

 

 

「零号霊魂”台津芽(タツメ)”じゃないですか!」

 

 

 そうだ、零号霊魂のタツメだ。

 

「ええそうよ。あの霊魂が私の神域に土足で踏み入ってきた上に、民草を踏みにじってきたの」

 

 タツメ。

 たしか、台風の夜にどこからとも無く現れる霊魂で、そんな夜に出歩いている人間を河川に引きずり込んで殺す霊魂だったか。

 もう何百年も存在している存在だが、台風が過ぎ去るとどこかへ消えてしまうことから追跡が難しく。

 結果、未だ退魔に至っていない厄介な相手である。

 加えて霊魂としての力も尋常ではないそうで。

 これを退魔しようとして有力な退魔師が壊滅した結果、宗屋家は退魔師を廃業せざるを得なくなったそうな。

 

「厄介なのは、昔はリツ様と激突したときのように存在を辿れている時もあったのに、今は影も形もなく居場所がわからないということです」

「どんな手品を使っているのかしらね、忌々しいことこの上ないわ」

 

 とにかく厄介なのはその隠密性。

 いつどこに現れるかわからないというのは、対策のしようがないのだ。

 せめて、どうやって姿を隠しているか解ればいいんだがなぁ。

 ちょっと今度、理由を考察してみるか。

 

「痛めつけて弱らせることには成功したのだけどね。そのせいで向こうを警戒させてしまったみたい。それ以降、私の神域に現れることはなかったのだけど……」

「リツ様を警戒して、なわば……神域に踏み込まないのですか」

「なわば? ……まぁいいわ。私、自分の神域から外にでるつもりはないから」

 

 カタン。

 リツは机から降りて、下駄で床を鳴らす。

 ミクモちゃんは、真っ青な顔で口元を抑えていた。

 ジロリとそんなミクモちゃんを睨んでから、続ける。

 

「でも、向こうからやってくるなら話は別。うふふふふ、あれから神域を強化して”魔”による人死にが出そうになったら気付くようにしたのよ。今度は後れを取らないわ」

「……それには、いつも助けてもらってるな」

 

 普段から、霊魂が人を祟り殺そうとした時に事前に察知してそれを防げるのは、リツのおかげだ。

 頭があがらない。

 

「と、というか、零号霊魂は流石に無茶ですよ。過去に零号霊魂を退魔できた例はないんですから」

 

 ミクモちゃんが、流石にこればかりは……とリツを諌める。

 確か、過去の零号霊魂は、封(・)印(・)が限界だったんだったな。

 まぁ、あまり面白い話ではない。

 それに、今回の一号霊魂もすでに除霊されている、話を変えよう。

 

「ところでミクモちゃんは、随分暗くなったが、今日はどうするんだ?」

「あ、はい。家には霊媒師さんのところで夕飯をいただくって連絡してあります。……リツ様が、食べていきなさいって」

「そういうことなら構わないよ」

 

 なんとなく、リツがいい出したのは想像できる。

 リツは俺と契約して以来、親しい人間とのふれあいを好んで求めているからな。

 いいことではある。

 

 なお帰りは、新世代派の人に車で迎えに来てもらうそうだ。

 俺が送ると、また一悶着ありそうだしそれがいいだろう。

 ――ところで、

 

 

『ほう、夕飯か。せっかくだ、我も喰ってやろう』

 

 

 さっきから部屋の隅で物理的に小さくなって寝てるとおもったら、何を言っているんだこのロウクは。

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