転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
何故かいたロウクに関してはさておいて。
こいつがいるなら、一号霊魂相手でももっと余裕持って立ち回れただろと想ったものの。
そもそもリツが起きてたらロウクは要らない子になってしまうので、指摘しないことにした。
事情を知らない方が、本人的には幸せだろう。
ともかく、今日は珍しく宗屋さん以外の仕事関係者が全員事務所に揃ったわけだ。
俺は普段、事務所で寝泊まりをしている。
三階建ての建物で、一階が事務所、二階が私室。
三階は宗屋さんの親友が守っていた場所であり、かつての宗屋さんの事務所でもあるので空けてある。
霊魂を引き寄せやすい建物なので、その霊魂が三階にくるよう誘導している……というのもあるが。
まぁ、ついでの理由だ。
『それで、霊媒師』
「なんだよ?」
そんな私室のテーブルに、俺とロウクが座っている。
小さいボディで椅子に座ってると、中々愛嬌があるんだがなぁ。
聞こえてくる声は野太いが。
『飯はまだか?』
「まだだよ、今二人が作り始めたばかりなんだからさ」
現在、台所でリツとミクモちゃんが料理を作っているところだ。
メニューはカレー、ミクモちゃんが疲れてお腹が減っていたので、買い物にいかず作れるものということで冷蔵庫を漁ったらこうなった。
「リツ様、お野菜のカットが終わりました」
「そこにおいておいて~、もうすぐお鍋がアッツアツになるのよ~♪」
ふたりとも、意外なことに料理が巧い。
リツはとにかく長く生きていて時間があるので、料理の勉強をする機会もあったそうだ。
ミクモちゃんの方も、いずれ家庭に入るのだからと一通り仕込まれているらしい。
お嬢様なのだから普段家事は使用人に任せきりらしいのだが、それでも家事ってやる機会があるのだろうか。
一般家庭に嫁げばあるんだろうけれども。
前時代的なのか、現代に適応しているのかよくわからんな。
『しかしなんだなぁ、霊媒師。我らは居場所がないなぁ』
「煽ってるのか? というか、別に俺はお前と違って手伝えるぞ? 料理はそこそこできる」
大学時代も今も、基本的には一人暮らしだった身の上だ。
最低限の料理くらいはできるし、あの場に混ざっても問題はない。
「ただまぁ、あの姦しい空気の中に混じれるかといえば、また別の問題だが」
『ふん、意気地なしめ。貴様を想っている女が二人もいるというのに』
「……リツを人間とみなすのは中々豪胆だな」
そしてリツは見た目子供だろうに。
ミクモちゃんだって中学生だぞ? 普通ありえないだろ。
ともあれ。
「そういうロウクはどうなんだよ、流石に人間には興味がないだろう」
『馬鹿にするな。我には幼い頃からの許嫁がいる』
「いるの!?」
『会ったことはないがな』
そして無いのかよ。
しかしなんというか、会ったこと無い許嫁というのがそこはかとなく不安を煽るな。
ロウクはただでさえ騙されやすく、単純だ。
実力は確かだが、それ以外の部分が見ていておっかなすぎる。
あと、その幼馴染って雄なの? 雌なの? 人型ではなさそうだけど。
「今度、その許嫁と会ったら俺にも紹介しろよ」
『何を言っている、馬鹿なのか? 親かなにかか、貴様は』
そうは言うが、ロウクの実家はとにかく実力主義だろう。
仮にその許嫁に問題があったとしても、騙される方が悪いと笑い飛ばすぞあの御仁。
絶対に一悶着あるだろうな、と思いつつ。
俺は適当にお茶を啜った。
一方その頃。
「それで? ここ最近での学校や御鏡家での様子はどうなの?」
「どう、ということもありませんよ? いつも通りです。私は真面目ないい子ですから、ロウクみたいに怒られたりもしません」
えへん、と胸を張って見せるミクモちゃん。
それをリツはニコニコと眺めながら、お鍋の方にも気にかけている。
もうすでにカレーのいい匂いが漂い始めているから、ミクモちゃんの方はほぼほぼ作業が終わっているだろう。
「ただそうですね……実家では相変わらず旧世代派の人たちと新世代派の人たちでバチバチですし、私もなんとなく父様から睨まれてるきがしていて」
「そういうことなら、私の名前を出してもいいのよ。とてもよく効くでしょう」
「それは流石に最終手段にしたく……あ、お皿とか配膳しちゃいますね」
向こうは向こうで、色々とリツがミクモちゃんを気にかけていた。
リツは神魔だから基本的に気難しいし、個人に優しさを向けることはない。
だけどミクモちゃんには、こうやって親身に対応しているんだよな。
それでいて、俺のようなどこか偏執的な愛情は感じない。
あるのは純粋な親愛の念だけだ。
宗屋さんに向ける感情も、少し近い。
「配膳は俺も手伝うよ」
「もう、家主は座っているのが仕事でしょうに。でも、これ以上待たせてもサトルに悪いわよね。ミクモと二人でやってもらえる?」
「私の方が活躍しますからね、霊媒師さん!」
そうだね、と腕まくりして見せるミクモちゃんに返す。
『ふああ』
「これで無駄飯ぐらいは、貴方だけみたいね? ロウク」
『わふんっ!?』
いや、ロウクは獣なんだから配膳はできないじゃん。
なんてツッコミをしながら、俺は立ち上がる。
――なんというか、不思議な関係だ。
決して、全員に精神的な繋がりも血族的な繋がりもない。
転生者と、人間と、妖鬼と、神魔。
誰もが違う立場の寄り合いだ。
しかし、どういうわけか居心地がいい。
俺は結構、この場所を気に入っているようだ。
多分、リツもそう思ってくれているはず。
というか、リツがそう思っているからこそ、この寄り合いは成立しているのだろうと、俺は思っていた。
□
「ちょっとロウク! あんまりがっつかないでくださいよ! というか机の上で食べないでくださいよ! 飛び散るじゃないですか!」
『はっ、そもそも我の席の前に皿を置いたのは貴様だろうが、ミクモ!』
「ムキー! ちょっと親切にしたらすぐこれですよ!」
賑やかな食卓というのは、一人暮らしを始めてからはなかなか貴重なものだ。
もともとミクモちゃんもロウクも、この街で暮らしているわけではない。
全員が顔を揃える機会は貴重で、そういう機会でなければリツもあまり食事を食べには来ない。
もともと、神魔には食事が必要ないために。
あまり食事そのものに楽しみを見出してはいないのだ。
「それで、れーばいしさん、私のカレー……美味しい?」
「ああ、美味しいよ」
「もう、もう。サトルってば、いつだってそればっかり。私にお預けをしてそんなに楽しいの?」
一時期は俺に料理を毎日作ろうとした時もあったけれど、あまりに毎日俺が「美味しいよ」としか言わないからか、今はやっていない。
いやでも、美味しいとしか言えないんだもの。
前世から変わらず一般庶民の俺に、食レポみたいな味の批評を求めるほうが間違っているのだ。
俺としても、何かしらリツにいい感じの感想を返せればと思ったこともあるんだが。
味のよしあしは、未だによくわかっていない。
「聞いて下さいよ霊媒師さん! ロウクってば私のこと子供あつかいするんですよ!? ロウクの方がよっぽど子供ですよね!」
『何を言っている!? 貴様はまだ十五の小娘だろうが。俺はこの中でこの神の次に年上だぞ!』
先ほどから、ロウクとミクモちゃんはずっと言い争いをしている。
この二人はとにかく相性が悪くて、会えば常に口喧嘩をしている仲だ。
完全に思春期の兄弟である。
……姉妹か? ロウクの性別は分からん。
「――あら、ロウクってば今、私のことをおばあちゃん扱いしたの?」
『ヒィ!』
「ヒィ!」
そして今、ロウクがリツの地雷を踏んだことで喧嘩は強制的に終了した。
「ふたりとも? おしゃべりは結構だけど、今は食事中よ? 礼儀を守って話してね?」
「はいぃ……」
『すいません……』
しぃん、と静まり返る食卓。
しょんぼりした様子で、二人はおずおずと食事をする。
「ははは、あんまり責めないであげてくれ、リツ。二人はこうして話をすること自体が楽しいんだから」
「わ、私は別に……というか霊媒師さん、また私を子供扱いしていますね?」
「こうしてロウクと同年代の会話をしていると、余計にそう感じるんだよ」
「私はロウクよりお姉さんです。そ、それに……霊媒師さんに大人のレディとしてもっと扱われたいですよ?」
ちょっとだけ恥ずかしそうに言うミクモちゃん。
背伸びをしたいというのが、全面に出ているな。
「そうだね、ミクモちゃんがもっと大人になったらね」
「そ、その約束忘れないでくださいよ! 絶対ですからね!」
『……ミクモは、この男のどこがいいのだ?』
「あらあら」
俺が適当に流すと、ミクモちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべた。
リツが全く問題にしていない辺り、完全にリツにとっても子どもの背伸び扱いなのだが。
まぁ、指摘はしないでおこう。
「そういえば霊媒師さん」
「どうしたんだ?」
と、そこでミクモちゃんが話を変える。
ぱくり、とカレーを口に運んで、飲み込んでから続けた。
「結局あのお守り、どうするんですか?」
「せっかくだし、通販で売ってみようかなとかおもったが」
「絶対にやめてね」
「ということになったので……とりあえず、全員いるか?」
リツが一瞬、角を見せて俺を威圧してきた。
正直、作ること第一でその後のことは何も考えていなかったのだが。
とりあえず販売はナシの方向で。
『それ、我が持つと多分相当ダメージ受けるんだが』
「私ですら影響受けるのよ? れーばいしさんって、もしかしてきちくなのー?」
「いやそういうわけでは……」
何故かミクモちゃんも俺を睨んでくる。
彼女の俺に対する印象は一体何なのだろう。
慕ってくれている時もあれば、こうしてドン引きしている時もある。
「それはそれ、これはこれです」
「そ、そう……」
「とりあえず、必要ない分はこちらで預かりますね。有用な護符であることに変わりはありませんし」
「そうだね……一つは俺が持っておくとして、もう一つは宗屋さんに渡しておこう。今まで作った中で、一番強力な護符だから」
あの人も、命に関わる呪いは初対面の時に祓ったけれど。
霊媒体質自体は改善したわけではない。
こうして護符を渡して、俺と同じように守ってもらうのが最善だ。
「それに、退魔寮の方で好評なら、報酬を出せるかもしれませんから。通販で売るよりはずっといいです」
「じゃあ、そうさせてもらうよ」
「渡す相手は間違えちゃダメよ?」
「うっ……が、頑張ります」
退魔師嫌いのリツが、若干ミクモちゃんに圧をかけていた。
新世代派にくばるなら、問題はないと思うけどな。
リツもそっちの派閥には、隔意はそこまでないわけだし。
『んぐ、もぐ……おかわりだ、霊媒師。よそえ』
「はいはい。他の人は?」
「私はお腹いっぱいですー」
「私もね」
そうして、ロウクがおかわりを叫び。
ほか二人がお腹いっぱいになって。
夕飯の時間は、和やかに過ぎていった。
□
『ふおごごごごごごご、ぐおごごごごごご』
「しゅぴーーー、すぴーーーーー」
夕飯後、ケンカを始めたロウクとミクモちゃんが疲れて眠って少し。
こうしてより重なって眠っていると本当に、兄弟のようだ。
もしくは、幼子を守る飼い犬か。
「本当によく眠ってるわね」
「このまま寝かせておこうか」
「ミクモの迎えはいつ頃来るの?」
「仕事が終わってから来るから、もう少しかかるらしい」
それを、お茶を飲みながら微笑ましく眠る俺とリツ。
恐ろしいことに、ミクモちゃんが食べた後に眠ることは想定済みなのか事務所に直接連絡が来た。
新世代派の中でも、ミクモちゃんは妹分扱いなのだろう。
「ミクモは大変よね、親と確執があって。家で落ち着かないのは辛いでしょうに」
「その分、うちでゆっくりしてくれればいいさ。それに、ミクモちゃんはまだマシな方だよ。お父さんはそれなりに理解があるから」
「……そうね」
ミクモちゃんとロウクを見つめるリツの目は、完全に母の瞳だ。
普段ならもっとコロコロ変化する側面も、概ね固まっている。
「……私、この時間が好きよ」
「そうだな」
「こんな時間が、ずっと続けばいいと思ってる。私には無かったものだから」
リツの元になった少女は、貧乏な家の娘だったと聞いている。
冬を乗り越えられるかもわからない、明日には家族の誰かが死んでいるかもしれない環境。
そういう時代だったと言えばそうなのだろうが、リツはその中でも特別家族からの愛情を受け取れなかった人生だったらしい。
それゆえか、幼子に対しては特に優しい。
「リツがそう思ってくれてるだけで、俺は十分だよ」
「嬉しいこと言ってくれるわね。……いいのかしら、こんなに幸せで」
「いいに決まってる。そのために俺は頑張ってるんだ」
「……そうね」
俺とリツは契約関係だ。
俺はリツの代わりにリツの縄張りで霊魂を除霊する。
その代わりに、リツは俺に身を守る力を提供するという契約。
それがあるから、俺はリツを守れている。
それがなければ、俺はただの霊魂が見える転生者だ。
「でも、無茶はダメよ。今日の一号霊魂もそうだけど、一体どこに神様の神気を詰め込んでお守りを作る人間がいるの?」
「いや、本当にごめんって」
「……思い出したらまたムカムカしてきたわ。れーばいしさんはいつもいつもろくでもないことばっかり! 心配する私の気持ちにもなってくれる!?」
「だからごめんって。それと、あんまり騒がしくするとミクモちゃんが起きちゃうよ」
思わず立ち上がってこちらを睨んだリツが、俺の言葉であら……と口元を手で抑える。
それから、むうとむくれてこっちを睨みながらまた座り込んだ。
「れーばいしさんったら、ずるい人!」
「本当にごめんって」
それから、はあとため息一つ。
リツは諦めたようにこぼす。
「私をこれだけ困らせる人は、後にも先にも貴方だけよ、サトル」
「本当に申し訳ないな」
「でも、私をこれだけ夢中にする人もあなただけ」
ふと、正面にいたはずのリツが俺の隣にいた。
少しだけ潤んだ瞳で、こちらを見上げている。
「私には、愛しいと思う人は貴方だけなのよ。好ましいと思う人間ならいる。でも、愛しい人は貴方だけ」
「……」
「それに、思ってみれば私が人を好ましいと思うようになったのは、貴方がいたからよ」
「ミクモちゃんと宗屋さんか」
ええ、とリツが頷く。
二人とも、俺がいなければリツと話をすることすらないような相手だ。
あとは俺の家族なんかもそうか。
彼らとも、リツは良好な関係を築いている。
「でもそれは、全て貴方がいたからなの。貴方がいなければ、私は人を愛せない。そんな私に、どうして貴方は優しくしてくれるの?」
それは、きっとリツの本音なのだろう。
どこまでいってもリツは神魔で、人ではない。
だからどうしたって、リツは本当の意味で人を愛せない。
多分俺も、人としては愛されていない。
もっと別の何かを愛でるような感じだ
それが何かは、いまいち判然としないけど。
「それは……」
俺はそれに、言葉で返すことしかできない。
それも、単純でありきたりな言葉だ。
「それは……リツが優しさを返してくれたからだよ」
「優しさ?」
「そう、優しさ。リツはさ、優しいんだよ。自分が想ってるよりもずっと」
それは例えば、宗屋の一族が土足で自分の縄張りに足を踏み入れても、彼女はそれを排そうとはしなかった。
ただ放置したのだ。
排そうとするほど、関心がなかっただけではあるのだろうけれども。
「優しくない神様は、きっともっと他人を傷つけているよ」
「……そう、かしら」
「タツメなんかがいい例だろ? あっちは人を殺す霊魂だ、同じ人間が死んで”成った”存在なのに、随分な違いだよな」
「…………よく、わからないわ」
リツは、穏やかではあれど、神である。
人の感情というものには疎いし、人へ向ける優しさも単純なものではない。
「それに、少しずつリツはその優しさを他人に向け始めてるだろ? 俺と出会った頃のリツじゃここまでミクモちゃんやロウクを受け入れなかったはずだ」
「……そうね。でもそれは貴方がいたからよ、サトル。私はそれに感化されただけ」
「だとしても……俺はそうやって優しさを返してくれるリツに、少しでも優しさを返したいんだ」
「……それも、よくわからないわ。でも、悪い気はしない」
ならよかったよ、と俺は返す。
対するリツは、俺に体を預けてくる。
静かな夜の時間が過ぎていき、俺達は――
『……なぁ、そろそろ起きていいか?』
「しっ、だめに決まってますよ。二人がいい雰囲気なんですか、ら――」
そんな、ロウクとミクモちゃんのヒソヒソ話が聞こえてきて、終わりを告げるのだった。
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