転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる   作:暁刀魚

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第17話 龍の神は人に憧れた

 リツは少しだけ、状況に困惑していた。

 突如として社に引き戻されたこと。

 そして、以前アレだけ力の差を見せつけたタツメが、どうしてここまで調子に乗っているのか。

 

「随分と、面白いことをしているわね? 駄霊が、今すぐそこをどきなさい」

「あはぁ♪ 面白いのはリツちゃんだよぉー。タツメはリツちゃんをケチョンケチョンにしに来たのに、まだ自分が上位者のつもりでいるの?」

 

 タツメがからかうように言葉を発した瞬間。

 リツの角と尾が一瞬にして形成される。

 臨戦態勢だ。

 

「あははははっ♪ こっわーい、リツちゃん怒りすぎぃ♪ そんなに怒っても、シワが増えるだけだよおばあちゃん?」

「――言ってなさい」

 

 直後、リツの左右に水が生まれる。

 その水は一瞬にして射出されると、龍のような形を描いてタツメに飛んでいく。

 すると直撃の瞬間にタツメの姿が掻き消え、水龍はそれを追いかけるように折れ曲がった。

 

「もう、挨拶が過激すぎだよぉ。タツメはリツちゃんと愉しく遊びたいのに。あ、違うかぁ。リツちゃんを愉しく遊びたいの! あはははは!」

 

 続けてタツメが現れたのは社の屋根の上。

 それを追いかけて、水龍が左右から襲いかかり――

 

「――捕まえた」

 

 リツが、それより早くタツメの首を掴む。

 霊魂にしろ、神魔にしろ、魔という存在は容易に転移を行うことができる。

 それより先に、霊魂の魂を掴むのだ。

 

「んぐっ!」

「随分と煽る割に、やっていることが回避だけなのは単調だわ」

 

 ギリギリと首を締め上げながら、左右から迫る水龍をタツメにぶつけようとして――

 

「わ、かってるってばぁ!」

 

 タツメが、三号霊魂をリツの眼の前に出現させる。

 その霊魂の霊気が、一瞬にして爆発――リツとタツメを吹き飛ばした。

 水龍が空を切る。

 

「こいつ……!」

「あはは! 自分の縄張りの霊魂を除霊してまわってるんでしょぉ! ちょっとお手伝いしてあげただけだよ!」

 

 そこから一気に戦闘は加速する。

 リツは自動でタツメを追いかける水龍の他に、水を弾丸にして射出する。

 さらには、自分自身もタツメを追尾し攻撃を加えようとしていた。

 

「ちょこまかと、逃げるのだけは得意みたいね」

「あははははははぁっ♪」

 

 対するタツメは基本、受けに徹している。

 攻撃もあくまで自身が支配下に置いた三号霊魂を使っているだけ。

 しかし、その使い方は多彩だ。

 爆発させる、体当たりさせる、盾にする。

 それらを駆使して、リツの攻撃を上手く躱していた。

 

 

「――でも、このままっていうのも面白くないよねぇ!」

 

 

 そんなタツメが、攻勢に転じる。

 長い長い黒髪が、更に伸びていく。

 溢れ出すが如きその流れは、まさに暴風雨。

 タツメ自身を台風の目とする、その攻撃スタイルこそがタツメの最も得意とするところだ。

 

「チッ」

 

 リツは迫りくる黒髪に、水龍をぶつける。

 足元はほぼ全て黒髪に覆われており、水龍のぶつかった部分だけがキレイに割れている。

 そこに立っていれば、リツが攻撃を受けることはない。

 しかし――

 

「狙いはそっちじゃないよぉ♪」

 

 黒髪は、構うことなく怒涛となる。

 狙いは――リツの後方にある社だ。

 

「こいつ――!」

 

 途端、リツが転移して社の前に出る。

 水龍もそれに合わせて場所を変え、社を襲う黒髪をその身で受け止めた。

 その瞬間――

 

「はい、捕まえたぁ!」

 

 タツメが、リツの眼の前に出現する。

 社への攻撃を囮にして、リツを誘導したのだ。

 だが、リツは神魔である。

 どれほど不意をつこうと、表に出ていない別の側面がそれに対応する。

 

 ――――はずだった。

 

 黒髪は水龍が押し留め。

 タツメの出現と同時に四方八方から襲いかかる霊魂を水弾で撃ち落とす。

 そして最後に、眼の前から迫るタツメ自身の手を、神気をにじませた手で受け止める。

 両者の霊気と神気がぶつかり合い、これでお互いが千日手――になることはなく。

 

「はい、残念♪」

 

 

 その瞬間、リツの身体が水に覆われた。

 

 

「!?」

 

 思わず目を見開く、身動きが取れない。

 それどころか、リツを覆う水の圧が一瞬にして膨れ上がる。

 まずい、と思うよりも先に――

 

「どっかーん!」

 

 膨れ上がった水が、リツを押しつぶすほどの勢いで炸裂した。

 

「ぐ、ぅ――――!」

 

 思わず、リツはその場に膝をつく。

 痛み、などというものを感じたのはいつ以来だ?

 いや、神としてのリツは、痛みなど感じたことはないのではないか?

 

「みてみてー、リツちゃんみたいに水を操れるようになったの♪ 便利だよねぇ、おかげでリツちゃんもこの通り!」

 

 タツメは、完全に攻撃の手を止めて膝をついたリツを見下ろしている。

 煽っているのだ、この戦闘における優位は圧倒的に自分である、と。

 

「なに、が……どうして」

「あは」

 

 それを、タツメは――

 

「あははははっ! あはははははははははははははっ!」

 

 大いに笑う。

 

「あはぁ、その顔サイッコー♪ リツちゃんってば本当に解ってないの?」

 

 そして、弧月の如く笑みを深めて、言う。

 

 

「堕ちたんだよ、リツちゃんが」

 

 

 ――堕ちる。

 それは神魔が人を愛した結果、人の欲望を叶えるために人を害するようになったことを指す。

 神には力があり、それは只人にとってはあまりにも大きすぎる力だ。

 その力を使って他者を排除しようとしたり、自分の欲望を叶えることを神に願ったとして。

 神が人を愛していれば、それを容易に叶えてしまう。

 無論リツも、霊媒師のことは心の底から愛しているし、霊媒師がそれを望むなら外道にも堕ちるだろう。

 

 だが、少なくとも今のリツはそれとは正反対の状態にあった。

 

「私が、堕ちる? 笑えない冗談ね」

「そりゃあそうだよぉ、リツちゃんは正しいんだもん。神として、人として。でもさぁ、必要なかったよね?」

「……」

「その、社。()()()()()()()()()()()よね? 神様のリツちゃんにとって社は確かに大事だけど、失くなったところでリツちゃんが死ぬわけじゃないもん」

 

 よっぽど大事なんだぁ、と笑うタツメに対し。

 リツは、ほんの一瞬、少しだけ。

 この()()()()()()()()()()()に、意識を向けた。

 

 

 ◯

 

 

 あの夏の日の出会いは、リツのこれまでを過去に変えるには十分だった。

 リツは比較的穏やかな神だ、プライドは高く人を顧みない神としての気質はあるものの。

 人の見せた気概を無駄にはしない慈悲もある。

 あくまで「神としては」と枕につくものの、リツは間違いなく穏健であり。

 穏健であるがゆえに神として生きてきた過去は、虚無と言い換えてもいいものだった。

 

 神域に住まう者達が、長閑に人の生を謳歌していればそれをただ眺め。

 災厄が人々を苦しめれば、彼らの祈りに応える形で人々を守る。

 ただそれだけの生活を、リツは千年も続けてきたのだ。

 

 それを後悔したことはない、それがリツにとっての当然だったから。

 それを虚しいと思ったことはない、それがリツの神としての在り方だったから。

 

 それでも、変わってしまった。

 彼が変えてしまったのだ。

 あの霊媒師を名乗るおかしな人間が。

 

 人を見守るだけだった神としてのリツを、一つのリツという命へと。

 

「社を新しくしないか?」

 

 ある時、彼はそんなことを言った。

 リツは返した、どうでもいい、と。

 

「そうは言っても、ここはリツの家なんだからさ。もう何百年もそのままなんて、寂しいだろ?」

 

 ――家。

 ――寂しい。

 

 そんなこと、彼と出会うまで意識したことすらなかった。

 リツの社は古ぼけていた、数百年前に一度建て直されたもののその後は一度も建て直されていないからだ。

 理由は宗屋家との対立、この地の有力者となった宗屋家に対してリツが怒りを向けたことで。

 宗屋家の「社を建て直す提案」は全てリツに跳ね除けられていた。

 その関係が、霊媒師と宗屋の老人の交流を経て改善された。

 少なくとも今のリツは、宗屋の老人を疎んではない。

 むしろ、好ましく思っている。

 彼の霊媒師としての立場を保証してくれるからだ。

 

「貴方は、この社が新しいほうが嬉しい?」

「ああ、嬉しい」

「なら……お願いしようかしら」

 

 そんな会話をしたことを、覚えている。

 社はしばらくの準備期間と、結構な工事期間を経て少しずつ新しくなっていった。

 相当に古い社は、殆ど一から建て直す必要があったし、それをするには多くの人手が必要だったからだ。

 

 リツは、そんな工事の様子をただ眺めていた。

 神の姿は、神が人に見せようと思わない限り見ることはできない。

 だからずっと、人知れずリツはその様子を眺め続けた。

 ただただずっと、眺めて――眺め続けた。

 

 やがて社は完成した。

 

 それを二人で眺めていると、彼は言う。

 

「……これで少しでも、俺はリツに何かを返せたかな」

「……わからないわ」

 

 リツは返す。

 返すべき言葉が、わからない。

 自分がどう感じているか、わからない。

 新しくなった社は、見違えるほどに美しく。

 リツは思わず、見入っていた。

 

「この感情を、なんて言葉にすればいいのかわからないの」

「感情を?」

「込み上げてくるような、湧き上がってくるような、抑えきれないような、溢れてしまいそうな――そんな感情を、私は知らない」

「それは……」

 

 霊媒師の彼は、少しだけ言葉を選ぶ。

 霊魂に対して、常に的確な言葉を向ける彼にしては珍しい逡巡。

 

「――幸せ、かな」

「……幸せ」

「人は、温かな感情に触れると幸福を感じる。リツのその溢れてしまいそうな感情の発露が幸せじゃないのなら……俺は少し寂しいかな」

 

 そう言って、苦笑しながら頬をかいた。

 その顔が、なんだかとっても愛らしくって。

 リツも少しだけ、吹き出してしまう。

 お互いに、そんな笑みを少し浮かべて。

 でも、リツは言葉を続けた。

 

「……いいのかしら、私がこんなに幸せで」

 

 神である自分が、人ではない誰かが。

 幸福になることなど許されるのだろうか、と。

 そんな思いが湧いてくる。

 

「――いいんだ、それで。それでいいんだ」

 

 彼は必死に、そう言葉を募らせる。

 けれどもリツは、その言葉を上手く受け入れられないでいた。

 

 

 ――人だった頃の人生は、親に捨てられ終わった。

 

 

 それ以来、リツはずっと一人だったのだ。

 そんなリツにとって、初めて自分を見つけてくれたのが霊媒師の彼だった。

 神は人に姿を見せようと思わなければ、見せられない。

 そんな神を、人と同じように見つけてくれたのが彼だった。

 人と同じように見てくれるのは、彼だけだった。

 

 今のリツがいるのは、彼のおかげ。

 今のリツの幸せは、全て彼が教えてくれたもの。

 今のリツは、彼がいるからリツなのだ。

 

 ああ、こんなにも幸せでいいのだろうか。

 

 受け入れることは難しい。

 千年もの間、なにもない世界で生きてきたリツにとって。

 幸福のない世界しか知らなかったリツにとって。

 

 その幸せは、あまりにも劇物過ぎた。

 

 そして何よりも、そんな幸せを享受している自分が、あまりにも相応しくない存在に思えてならなかったのだ。

 

 

 ◯

 

 

「――それを堕ちた、っていうんだよ」

 

 少しだけ、怒気をはらんだ声で、タツメは言う。

 髪に隠れた視線を鋭くしながら、自身が膝をつかせたリツに向かって叫ぶ。

 

「神は、神でなければならない。個人の幸せなんてあってはならない。超然としていて、頂点でなければならない。なのに今の貴方は、何?」

「…………」

「教えてあげよっかぁ♪ 神様って、複数の多面性を持つでしょ? だからこそ一度に何個もの苦難が訪れても一つ一つがそれに対処してしまう」

 

 ある意味、無敵ってやつ?

 タツメはどこか軽蔑するような声音で言った。

 

「でもその多面性ってさぁ、人間性を引き換えにしたものなんだよ。今の貴方みたいな人間の小娘みたいな幸福に一喜一憂する存在のどこに、神秘的な多面性があるの?」

「あ、ぐ――」

「――――ほんっとうにつまらない」

 

 心底、心底つまらなそうにタツメは吐き捨てた。

 神は、人に近付くほどその神秘的な多面性を失う。

 隙を生んでしまうのだ。

 タツメがリツの首を掴む。

 ギリギリと締め上げるように、持ち上げる。

 

「失望したよ、神様なのに人の幸せなんて感じてさ。貴方ってそんな幸せなんて感じるタマだったんだ。ほーんと、がっかり」

「ぐ……」

「そ、れ、にぃ。貴方が幸せになっちゃいけない本当の理由は、もう一つあるでしょぉ?」

「わ。たし、は――」

 

 違う、とそういいたかった。

 だが、その言葉を口からこぼれさせることはできず。

 

「貴方の大切な霊媒師くんが、あんなに危険な目に遭ってるのに。その元凶である貴方が――幸せになっていいはずないよねぇ!」

 

 タツメは、リツを社に向けて投げ飛ばす。

 なすすべもなくリツは社に叩きつけられて、建て直された社は少しだけ壊されて。

 それでもリツは、何も言えなかった。

 

 言えるはずが――なかったのだ。

 

 

 ◯

 

 

 人を愛した神は、人と共に堕落する。

 だがそうならなかった人間は、英雄と呼ばれる。

 そうなった時、神は絆されるのだ。

 人の暖かさ、優しさ、そして善意に。

 そうなった時、神は人としての幸せを求める。

 当然だ、神とはもともと人間性を極限まで希薄にした存在であり。

 そんな神にとって、溢れんばかりの人間性は劇薬すぎる。

 だからこそ、神は苦悩する。

 

 そんな神に愛され英雄となった人間の生き様は、無数の困難に満ち溢れるからだ。

 

「許されるはずがないよねぇ! 貴方みたいな傲慢な神が、そんな幸せ!」

 

 タツメから伸びた髪が、二つの巨大な(かいな)となる。

 それがリツに向けられて振るわれた。

 

「が、あ、ぐ!」

「大切な人を傷つけて得た幸せの味はどう!? それを無惨に壊される悲劇の味はどう!?」

「や、め、なさい……! が!」

「やめるわけないじゃん! 私はこのためにここまで来たんだからさぁ! 弱った貴方をボコボコにして、溜まった鬱憤を晴らすために!」

 

 何度も、何度も、何度も痛めつける。

 その度に余波が社を破壊していく。

 彼との思い出が、壊されていく。

 

「いやぁ、契約関係だっけ? いい関係だとタツメ思うよ? だってそうじゃん、相手に困難だけを押し付けて。自分は幸せになれる契約なんて!」

「ちが、……う!」

「違わない! 事実じゃん! 貴方は霊媒師とかいう男に自分の役目を押し付けた。時には一号霊魂とすら戦わせて、命の危機に彼をさらしてる!」

 

 リツは何とか、その場を脱出しようと転移を試みる。

 しかしそれを読んでいたかのようにリツの周囲を水の泡が覆った。

 身動きがとれなくなる、転移もだ。

 

「この間なんて特にそう! よかったね、彼が自分が死んでも大丈夫なように対策を打ってて。そうでもなければ、彼本当に死んでたよ?」

「――っ! ――――っ!!」

 

 そして、水を――炸裂させる。

 炸裂した水圧に、リツは悲痛な叫び声を上げる。

 

「……っ! あああ!」

「ああいや、死んでも生き返る人間って気持ち悪すぎるな。いやキモいな、死ねよ死んでくださいよ。何だアイツ、関わりたくないなぁ」

「この……っ!」

「あは、怒ったぁ? 男の趣味が悪いって大変ねぇ。タツメだったらあんな男、すぐポイしちゃうのに。ああいや、ポイして噛みつかれても困るから――」

 

 再び膝をついたリツに、これまでで一番の笑みを浮かべて吐き捨てる。

 

 

「殺しちゃうかなぁ、その霊媒師とかいう男」

 

 

 その瞬間、

 

「だまりなさい――!」

 

 リツが、タツメに飛びかかる。

 勢いよく神と霊はもんどり打って境内に躍り出る。

 そこから、二匹の水龍と霊魂の黒髪が激しくぶつかりあった。

 リツは転移を繰り返して、水の泡にとらわれるのを防ぎつつ水弾を飛ばす。

 対するタツメは、それを手で弾くだけだ。

 やがて、タツメはあることを口にする。

 

「――試せば、()()

 

 感情を感じない瞳で、言う。

 リツは、それに目を見開く。

 一瞬の隙、その間にタツメはリツを水で捉える。

 

「っ!!」

 

 そのまま、炸裂と同時に黒髪の腕を連続で叩き込む。

 

「が、うっ、ぐっ!」

「零号霊魂の封印だよ! アレには人柱が必要だけど、()()()()()()()()()んだから! やってみればいいじゃん、そうすればここから逆転できるかもしれないよ!」

 

 それは、選択肢としては最初からリツの中にあったものだ。

 神魔でも零号霊魂の人柱になれる。

 特にリツは零号神魔、格としては十分すぎるほど。

 だが、それをわざわざタツメが口にした時点で――

 

「――罠ね」

 

 端的に吐き捨てる。

 その言葉に一瞬だけ、タツメは視線を逸らした。

 つまらなそうな顔をして、けれどもすぐにまた笑みを浮かべてリツを見下ろす。

 そもそも、だ。

 零号霊魂が封印以外で退魔できないように、零号神魔も封印以外の方法で排除することはできない。

 この戦いに、そもそもの決着は存在しないのだ。

 強いて言うなら、タツメに関してはこのままリツの心を折り、大切なものを全て殺し。

 そして神域を滅茶苦茶にしてこの場を去ればそれが勝利だ。

 もしくは、リツの言う通り()()()()()()()に意味があるか。

 

「けどさぁ、それじゃあ貴方はどうしようもないでしょ?」

 

 だが、リツには勝利がない。

 ここがリツの神域である限り。

 リツに、大切なものがある限り。

 タツメは何度でもリツを襲うだろう。

 仮にここで撃退できたとしても、次もリツが大切なものを守れる保証はない。

 

「確かに罠かもしれないけど、封印の効果自体は絶対だよ。タツメは貴方と一緒に封印される、それは変わらない」

 

 そう言葉にする間も、腕はリツに振るわれる。

 

「私はいいんだよぉ? このまま貴方を殴り続けるのも、貴方の大切な人を殺しに行くのも!」

「っぐ……!」

「あははは! 楽しいねぇ楽しいねぇ! やっぱりさぁ、人の顔をこうやって殴りつけるのが一番スッキリするよね!」

 

 何度も、何度も、何度も。

 

「まぁ、貴方がタツメを封印しないならぁ、タツメはずうっとこのまま貴方を痛めつけるだけなんだけどねぇ!」

 

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

 

 そして、宣言する。

 

「だってここは、絶対誰にも見つからない、私と貴方だけの台風の目なんだから!」

 

 宣言して、また殴ろうとして。

 ピタリと、それが止まった。

 

「……ねぇ」

 

 タツメの笑みが、不可解なものを見るものに変わる。

 訝しんだように、リツに問いかける。

 

「貴方、どうして()()()()の?」

 

 その言葉に、リツはより一層、笑みを深めた。

 

「だって、ねぇ」

 

 にぃ、と。

 先程までのタツメのように。

 

 

「貴方は、何も解ってない」

 

 

 その瞬間、確かに。

 

 

 ()()()()()()

 

 

「な、何……!?」

「貴方は彼を、あの人を、何も解ってない」

 

 何度も、何度も、何度も、

 

「ええ、確かに一瞬、考えてしまったわ。封印、それも選択肢なんじゃないかって」

「何!? 何が起きてるのさ! ありえない、まさか――攻撃されてる!?」

 

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

 

「でも、必要ない。私の霊媒師さんは、サトルは――」

 

 やがて、何かが崩れ落ちる音がして。

 音は、止んだ。

 

「ありえない、ありえない……ありえない!」

 

 そして、

 

 カタン、と。

 音がした。

 

 靴が石段を叩く音。

 

 

「――誰よりも理不尽で、誰よりもすごくて、誰よりも……かっこいいんだから」

 

 

 霊媒師と呼ばれた男は、石段を上がってやってきた。




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