転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
時間は、少し前に巻き戻る。
――リツが消えた。
焦る気持ちを抑えて、冷静に俺は状況を分析する。
リツを連れ去ったのはタツメ以外ありえない。
リツは本来は神故の多面性で常に周囲を警戒しており、こういう不意打ちを受けることはない。
ロウクが以前警告していた、「リツが人に感化され多面性を失っている」というのは事実なのだろう。
だからこそまずい、リツとタツメの実力差はその多面性による手数の分だけリツが上回っているという状況だったそうだ。
故に、俺は焦りそうになる。
けれども同時に、タツメがリツを直接攻撃している分には他に被害が及ばないとも考えるべきだ。
タツメがリツを”殺す”方法はない。
お互いがお互いに、”封印”という方法でしか相手をこの世界から排除する術がない。
厄介なのは、タツメがリツ以外に興味を向けた時。
特に、この街そのものに意識を向けられると、まずい。
焦りの感情と冷静な感情をぶつけさせる、どちらか片方だけでもだめだ。
両方を、ぶつけ合わせるくらい激しく揺らして行くべきだ。
急ぎ、
「――ミクモちゃん、そっちの準備はどう?」
『と、とりあえず父様や新世代派の人に、”アレ”を配ってもらってます。もうしばらくかかるかと……』
「――リツが攫われた」
『リツ様が!?』
リツと話をしている最中も、色々と対策を考えて他の人に頼んでいたのだ。
基本的に俺は”魔”の悪影響を受けず、霊魂を言葉で成仏させる力しかない。
だから、できることは他人に頼るしかないのだ。
「相手は零号霊魂、リツと同格だ。不思議なことじゃないと思う。問題はあまり時間がないってこと」
『と、言われましても……どうしますか?』
「ミクモちゃんはそのまま準備を進めてくれ。雨は激しいと思うけど、”アレ”の配布を急いでほしい」
『解ってます、父様と新世代派の方たちが準備を進めてますから』
それは頼もしい、特にミクモちゃんの父親は、今回手を貸してほしい人たちを動かすのに最適な人材だ。
「まずは、一旦これからやることを確認しよう」
『はい』
「俺達のやるべきことは、タツメの探知だ。奴がどこにいるのかを探り当てる必要がある」
ただしこれは、物理的な意味ではない。
物理的な居場所は、概ね想像がつく。
リツの社だ、でもそこへ行ってもリツとタツメを見つけることはできない。
そこにある”結界”の中にリツ達はいるわけだからな。
「見つけるべきは結界の座標。そしてそれをどう隠しているか、だ。あくまで仮説の域を出ないけど――」
タツメの結界について、少し考えてみよう。
昔は時折ではあるがその存在を探知することができていた。
でも、最近になって全く探知できなくなった。
であれば
「三号霊魂の中に、紛れさせてる可能性がある」
三号霊魂は、どこにでも存在している普通の霊魂だ。
その中に三号霊魂のフリをして隠れられたら、見つけることは難しいのではないか。
木を隠すなら森の中というけれど、霊魂を隠すなら霊魂の中というわけだ。
『問題は、だからといって増えた三号霊魂を退魔して回ろうにも、数が多すぎるという理由ですが……』
「それに関しては、ちょうど宗屋さんに相談していて助かったな」
そして、ここで思い出されるのが退魔寮で計画されていた三号霊魂の一斉退魔計画だ。
リソースがかかりすぎて、やるだけ無駄という意見も新世代派にあったが。
なにか効率のいい方法はないか、宗屋さんを交えて考えていたのである。
結果、幸いにも方法は見つかった。
『父様が”アレ”を配り終わったそうです。これから準備を始めます』
「ありがとう、すごく助かる! ミクモちゃんは、探知の準備を始めてくれ。結界の座標を探知できるのは、天才退魔師御鏡ミクモしかいないんだから」
『フフン、そのとおりです! そしてすでに準備は進めています、いつでもいいですよ!』
じゃあ、こっちも行動に移る。
そう伝えて一度連絡を終えた。
俺はあるものを手に、急いで三階へと向かった。
そこでは――
『やれやれ、妖鬼使いの荒い霊媒師だ。終わったぞ、ほら』
ロウクが俺を待っていた。
そして、三階にはあるものが集まっている。
大量の三号霊魂だ。
もともとうちの事務所の三階は霊魂が集まりやすい場所だが、それにしたって数が多い。
どうやって集めたのか?
答えはロウクの存在と、その足元にある大きな鈴。
霊魂を呼び寄せる、リツの鈴だ。
「ありがとうロウク、三号霊魂を集めてくれて」
『この雨の中を、縦横無尽に駆けるなど我以外にできることではないぞ。運が良かったな、霊媒師』
「ああ……縁にはいつも恵まれてるよ」
ロウクが、鈴を咥えて街中を走り回ったのである。
建物を簡単に飛び越えて、どこでも駆け回れる脚力を持つロウクにしかできないことだ。
『しかし、本当に上手くいくのか? 仮説なのだろう、タツメが結界の座標を隠している場所は』
「仮説でも、やるしかないんだ」
だって――
「だってあそこには、リツがいる。俺はリツに、恩を返さなきゃいけないんだよ」
今がまさに、その時なのだから。
◯
三号霊魂を集めて、成仏させる。
俺の場合は、ロウクに鈴で集めてもらった。
だが、他の人は?
霊魂は集めようと思って集められるものではない。
よっぽどすごい”力”を持つ道具でもなければ、霊魂は寄ってこない。
だけど、ちょうどそういう道具があったのだ。
都合がいいことに、数は十。
俺と宗屋さんの分を除けば残りは全て御鏡――俺のいる街から一番近い場所にある退魔師の家が保管している。
リツのお守り、あれで霊魂を集め成仏させる。
それが今回の計画だった。
そのお守りを、近くにいる退魔師に呼びかけて使ってもらうのだ。
とはいえ、新世代派は全国各地にいる、使ってもらうための人員はこの短時間では集まらない。
だけど都合がいいことに、この街には一定数の退魔師が常に張り付いている。
以前、ミクモちゃんとの話題でも出た、俺を監視する退魔師達。
それに力を貸してもらう。
といっても、俺の話を素直に聞いてくれるほど彼らは柔軟ではないだろう。
そこで、権威に関しては退魔師の中でも随一の御鏡家当主に出張ってもらったわけ。
本当に感謝しかないな。
「――さて、こんなものかな。……協力ありがとう、どうか来世は良い人生でありますように」
かくして俺は、リツのお守りで事務所三階に集まった霊魂の除霊を終えた。
あの世へ向かっていく魂に祈りを捧げてから、ミクモちゃんへ再び連絡する。
「ミクモちゃん、こっちは終わったよ」
『父様達の方も順調だそうです、今探知を進めてます!』
後は仮説が合っていることを祈るだけ。
此処から先はあてがあるが、ここばかりはどうあっても仮説の域を出ないのだ。
俺は、その瞬間を待つ。
電話越しに、少しだけ喜色を含んだミクモちゃんの声が聞こえてきた。
『――出ました! 過去の資料にも一致します、タツメの結界の座標を割り出しました!』
「……よし! 一旦ロウクと一緒にそっちへ向かう。座標はロウクに伝えてくれ!」
『はい! いいですかロウク、きちんと覚えるんですよ!』
「ミクモは我を何だと思っているのだ!」
電話越しの声も、ロウクははっきりと聞こえていたのだろう。
最後にミクモちゃんの現在地を確かめてから、電話を切った。
さぁ、ここから反撃開始だ。
「そのために……位置的には先に宗屋さんのところだな。アレを回収してからミクモちゃんのところに向かう」
『ああ、解ったよ。まったく、またあの抱っこ紐を使うのか』
「当然だろ、普段でさえそうなのに今は大雨。アレがないと俺はロウクからずり落ちるしかないんだから」
かくして俺は、宗屋さんに預けている”あるもの”を取りに向かうため、事務所を後にするのだった。
◯
――これは、更に少し前の話。
俺は事務所の三階で、ミクモちゃんと共にあることを試そうとしていた。
「準備できましたよ、霊媒師さん。それにしても……本当にやるんですか?」
「ああ、これが有効なら俺も戦闘で役に立てるようになるからな」
「いや、普段から大助かりだと思いますけど……」
まぁまぁ、とジト目のミクモちゃんを宥めてから俺はあるものを手にした。
その手に収まっているのは――
以前、妖鬼と一緒に俺を襲撃した簀巻き男からかっぱらったものである。
そう、これを妖鬼や物理的な脅威のある一号霊魂との戦いで使えないかと思ったのだ。
「霊媒師さんに拳銃て、本当におっかない組み合わせですね」
「そうかなぁ」
「絶対にこっち向けないでくださいね? 拳銃の一発や二発、結界で耐えれますけど。その結界を霊媒師さん無視してきそうで」
「結界で拳銃を耐えれるのも十分すごいと思うけどなぁ」
退魔の現場で拳銃等が有効なのは、周知の通り。
だからこそ、俺もそれを扱えないか試そうというのだ。
「これに関しては、宗屋さんに感謝だな。普段は宗屋さんが保管するっていう条件なら、緊急時の拳銃携行を許可してもらえたんだから」
「あの人も、たいがいヤバイコネもってますよね」
一体どこから許可をもらって、誰が許可しているんだかしらないが。
とにかく、もし仮に見つかって問題になっても、宗屋さんの名前を出せば問題ないようにしてくれるらしい。
そうでなくとも、認識阻害で銃を持っていることがバレることはない。
銃弾も宗屋さんが調達してくれるとのこと。
後の問題は、俺が拳銃を使いこなせるか、だ。
「やってみよう、音がうるさいから気をつけて」
「防音結界は完璧です、ご近所迷惑になることもありません。霊媒師さんも耳がやられないようにしてくださいね」
ああ、と頷いて俺はなにもない三階の端に設置した的へと拳銃を向ける。
海外で銃の扱いを学んだ経験があるという宗屋さんから、最低限のレクチャーは受けているけれど。
実際にその通りにこなせるかは、また別の問題。
いやまって宗屋さん本当に何者?
こほん。
俺は気を取り直して、トリガーに指をかけ狙いを定めて……発射。
乾いた音が響いて、それが何度か続く。
マガジン一つ分の弾丸が拳銃から放たれた後、俺は一つ呼吸を置いた。
「結果を見てみましょう」
行って、パタパタとミクモちゃんが的の方へ走っていく。
結果は――
「……初めてにしては、思ったより当たってると思います!」
一言でいうと、筋が良いというやつだった。
後に宗屋さんにも見てもらったけれど、初めて拳銃を持つ人間の精度ではないとのこと。
普通なら銃を撃つという恐怖から、どうしても体幹にブレが生じるらしい。
でも、俺にはそれがない。
畏れ知らずが、こんなところでも有効に働いたか。
加えて、普段から除霊のためにあちこちを飛び回っていて、最低限の体力もついていたのが良かったそうな。
かくして俺は、最低限の拳銃スキルを身につけるに至ったわけだが――周囲の人間からは、
「霊媒師さんって、銃撃ってる時も普段と変わらなくて怖いです!」
『アレは暗殺者か忍者かといった感じだな』
と、大不評だった。
いいじゃないか、それくらい。
◯
宗屋さんのところで拳銃と大量のマガジンを回収して、ミクモちゃんから座標を教えてもらって。
そして、俺達はリツの社の前までやってきていた。
「雨がひどいな」
『立っていられるか? 霊媒師』
「これくらいなら、何とか」
雨は更に酷くなっている。
このままでは、物理的な被害が出るのも時間の問題か。
すでに警報はでて住人は避難しているそうだけど、家屋に被害が出るのはできるだけ避けたい。
リツも心配だ。
急がないと。
「それで、結界はどこに?」
『少し待っていろ、我が結界を攻撃する。そうすれば貴様でも認識できるはずだ』
「頼むよ」
なんだかんだ、ロウクはここまで俺を運んでくれた。
頼みごとも聞いてくれるし、ロウクにも頭が上がらないな。
そう思っていると、ロウクは鉤爪を振り上げて――それを叩いた。
『チッ、結界が分厚いな。流石に零号霊魂の結界は厄介だな』
「ありがとう、ここまでやってくれれば十分だ」
空間が揺らいだ。
俺は霊気を感じ取ることはできないが、一度認識した霊的異常は異常として認識できる。
ようやく、タツメを見つけたぞ。
『ふん、貴様のためでもあの神のためでもない。零号霊魂の討伐という実績が必要なだけだ』
「だとしても、だよ。善意には善意で返したいんだ。なにか困ったことがあったら、俺は必ずロウクを助ける」
『……ふん、それはあの神に言ってやることだな』
「……どうだろうね」
俺は、あまりにもリツに助けられすぎている。
命だって何度救われたかわからない。
それに対してできることはあまりにも少なく、俺はいつだって何を返せるか考えてはどん詰まってばっかりだ。
『……ふん、救いようのないバカどもめ。まぁいい、それでどうやって結界を突破するつもりだ』
「必要なのは、”魔”が十分に伴った力。それと、物理的な威力だ」
そう言って、俺は拳銃を引き抜く。
霊的防御がたっぷり込められたこの拳銃は、土砂降りの中でも動作不良を起こすことはない。
「リツの神気を弾丸に込めた」
『まぁ、妥当だな。だが、それだけでは届かないだろう』
「ミクモちゃんに、霊気を付与してもらった」
『……二重にやったのか?』
「そして、ロウクの牙をすり潰して液体にして拳銃自体にかけてある。ロウクの妖気もここに乗るんだ」
『おい待て』
聞き捨てならないという様子で、ロウクが俺に待ったをかける。
「いや危ないぞ、この拳銃の弾丸は当たればロウクの土手っ腹だってふっとばすんだから」
『誰と戦うつもりだ、誰と!』
「零号霊魂だが?」
『くそ、相手にとって不足がなさすぎる』
というわけで、俺の知り合いのいろんな力を混ぜ込んだ拳銃と弾丸だ。
これで撃ち抜けない魔があるのなら、それはもう人がどうにかできるものではない。
とはいえ――
「流石に一発じゃ、破れないだろうけど……!」
俺は構えを取って結界に弾丸を放つ。
雨に乾いた音はかき消され、弾丸だけが見えない壁に突き刺さった。
激しく、結界が揺れるのがわかる。
「よし、もう一発」
『まさか貴様……このまま結界が破れるまで叩き込み続けるつもりか?』
「当然だ。……行くぞ!」
そのまま、何度も乾いた音が響く。
数発当てると手応えがあった。
けど、結界はまだ破れていない。
複数の層からなる多重結界のようだ。
ならば俺は、それをすべて破るまで。
「……待ってろ、リツ」
『我はいかなくていいのだな』
「ああ、悪いけどここで待っててくれ、俺一人のほうが戦いやすいんだ」
『ふん、今回ばかりは譲ってやるが、次はないぞ』
単純に、俺の身を守ってくれる存在の筆頭である龍人形は俺しか守れないのだ。
もしロウクも戦場に突入する場合、ロウクには自分で自分の身を守ってもらわないと行けない。
そしてそうなった時、耐えきれないかもしれないという自覚がロウクにもあるのだ。
「行ってくる」
俺はマガジンの弾丸が尽きるまで拳銃をぶっ放し、尽きたらマガジンを取り替えて再び放つ。
そうして石段を、少しずつ登り始めた。
雨が激しい。
俺が台風の目に到達するのを防ぐのは何も結界だけではない。
この雨も、間違いなく俺の敵だ。
吹き飛ばされないかという恐怖を煽り、前に進めないのではないかという絶望を煽る。
そんな、台風の目を守るもう一つの壁。
だが、そんなことはどうでもいい。
俺はリツを助けないといけない。
リツが苦しんでいるのに、それを助けないのは間違っている。
これまでもらってきたものを少しでも返せるチャンスなのだ。
俺には、力がない。
畏れを感じないだけの、ただの人間だ。
リツとの契約がなければ、一号霊魂を相手にしたら容易に命を落としてしまう。
妖鬼との戦闘なんてもってのほか。
俺が悪意に抗うための力は、そのほとんどがリツから与えられたものなのだ。
だったら、返さないと。
畏れを感じないだけの俺にできるのは。
畏れることなく、戦場に飛び込み。
与えられた力を信じて、それを振るって戦うことだけだ。
「――リツ!」
叫び、そして最後の結界を割る。
途端、嘘のように視界が晴れた。
空は青々としている。
嵐に見舞われた世界の中で、ここだけが陽の光を浴びている。
リツが、いた。
それと同時に、黒い髪の少女もいた。
その表情は驚愕に歪んでいる。
だけどリツは、明らかに痛みによって顔を歪めている。
「リツに……これ以上!」
俺は、拳銃を構え、叫び。
「手を、出すな!」
発砲した。
評価感想お気に入り、ありがとうございます。
大変嬉しいです。
一章はあと三話位になると思います。