転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
俺がこの世界に生まれて、かれこれ二十二年が経つ。
ようするに、大学を卒業して就職するまでの年月だ。
その間、今生の両親は俺を良く育ててくれた。
妹も弟も、なんだかんだ俺を兄だと慕ってくれていると思う。
とにかくおおらかな人達ではあるけれど。
つまるところそれは、俺が特別な家系の出身ではないということだ。
先祖に退魔師の一族と親戚関係の人がいたりもしないらしいし、とにかく俺の家族は普通の人達だ。
当然、そんな一家から生まれた俺も、霊的な才能はなにもない。
ただ、霊魂や妖鬼――この世界で”魔”と総称される存在を視認できるだけで。
これに関しては何ら違和感はない、むしろこの世界の法則的に視えていないとおかしい。
俺は彼らの同類なのだから。
これが普通の子供なら、周囲から気味悪がられたりもするのだろうが。
生憎と俺は前世の記憶持ち。
特に周りから、違和感を持たれることはなく。
少なくとも、八歳になる頃までは幽霊が見えるだけの普通の人として暮らしていた。
人目がなく、言葉を交わすだけで成仏してもらえそうな霊魂なら、定期的に成仏はさせてたけどな。
そんな生活に変化が起きたのは、とある神魔との出会いが原因だった。
この世界の霊魂とかを総称して”魔”と呼ぶのはさっきも言ったけど。
大別すると三つの種類に分けられる。
人が死んだ後の魂だけの存在、霊魂。
動物等の存在が変化した、一般的に妖怪と呼ばれる存在、妖鬼。
そして神や悪魔のような、想像上の伝説的な怪物を、神魔。
俺が知り合ったのは、この内三つ目。
神っていうのは、言ってしまえば人間とは違う価値観で動く存在だ。
でも、俺が出会った神魔は人が神になった存在だった。
だからかまぁ、他の神魔よりは話が通じる相手だったのだろう。
個人的には、自然現象に近い神魔よりも人間を襲うことが存在意義の妖鬼の方が恐ろしいな。
ともかく。
そんな話の通じる神魔は、俺にある頼み事をした。
神魔のテリトリー……まぁ縄張りだな、本人(本神?)の前でそういうと拗ねるので言わないが。
縄張りの中で発生した霊魂を”除霊”して回ってはくれないか? と。
何でも、人ってのは些細なきっかけで厄介な悪霊になってしまうらしい。
よその神の縄張りや、人間が守護している地域なら発生してすぐに力ある人間――つまり退魔師だ――が処理してくれるのだが。
どうにも、俺が出会った神様と退魔師は折り合いが悪く、なかなか自分の縄張りに回ってきてくれないそうなのだ。
そこで、俺に目をつけたらしい。
俺としては、別に普段からそういうことは時たまやっていた。
その延長として、積極的に除霊していくというなら別にそこまで苦にならない。
というわけで、俺は神様と協力して神様の縄張りの霊魂を除霊していくようになったわけだが。
これ、案外ちょっとした人助けみたいなものだった。
なにせ、除霊のためには霊魂の悩みを解決する必要がある。
その悩みを解決するには、死に別れてしまった人との再会とかが必要だったりするわけだ。
で、そういうことを積極的にしていると、近所ではそこそこ名のしれた有名人になったりする。
あの子は死んだ人の”声”を伝えてくれる、と。
それすなわち、霊媒だ。
やがて、お金を払ってでも霊媒をしてほしいという人も現れるようになり。
最終的に大学を卒業する頃には、街のお助け屋さんと化していたのだ。
だったら、それを仕事にしちゃえばいいじゃないか。
と思い立ったのが大学の三年頃の話。
だって、二度も就活とかしたくなかったんだよ。
お祈りメールはもういやだ。
かくして、俺は霊媒師として起業することにした。
霊媒で知り合った、起業の仕方に詳しいおじさんとかに手伝ってもらいつつ。
こうして、『鞍掛霊媒事務所』はスタートしたわけだ。
そしてその直後、俺は本職の退魔師と交流を持つことになる。
なんで今さら? 答えは簡単、それまで退魔師が俺の事を見つけられなかったからだ。
さっきも言ったが、退魔師と地元の神魔は折り合いが悪い。
そのせいで退魔師は神魔の縄張りで謎の人物が除霊を行っていることは認識していたけど、それが誰かまでは特定できていなかった。
じゃあ、なんでそれが事務所を開業してからバレたのかというと。
まぁ、ちょっと退魔師らしい事情があったのである。
◯
「霊媒師さん、入りますよ―」
「はいはい、ミクモちゃんいらっしゃい」
この日、退魔師の御鏡ミクモちゃんは俺の事務所に直接やってきた。
ミクモちゃんが直接事務所にやって来るときは、たいてい退魔師から俺への用事を持ってくるときだ。
なんでも俺と退魔師との連絡役を、ミクモちゃんが仰せつかっているらしい。
「というわけで、これが今回の退魔寮からの書簡です」
「また今回も数が多いなぁ」
「八割は見ないで大丈夫ですよ。お見合いの誘いですから」
書簡のほとんどは、なんか古式ゆかしい白い封書に入れられている。
時代劇とかに出てきそうなアレだ。
中身も時代劇みたいな手書きの手紙で、パソコンで作られたものは一つもない。
文字自体は現代的な仮名遣いだから、読むことに支障がないのが唯一の救いだ。
これ、これが退魔師が俺を発見できなかった理由に密接に関わってくるんだよなぁ。
「そんなに、俺を身内に取り込みたいかね」
「リツ様が恐ろしいのでしょう、身内にさえ取り込んでしまえばリツ様も受け入れてくださるでしょうから。霊媒師さんが自分で選択したのなら、ですけど」
リツ、というのはこのあたり一帯を”シメ”ている神様、というか神魔。
俺に除霊を頼んだ神様だ、今も親しくさせてもらっている。
退魔寮――退魔師を統括する組織――はリツから嫌われているが、自分の縄張りへ挑発的に足を踏み入れたり、俺に危害を加えなければリツも退魔寮をどうこうするつもりはない。
ミクモちゃんはリツと仲が良いから普通に出入りしているし、こうやってお見合い作戦で俺を身内に取り込むことも許容している。
俺がお見合いを受けるつもりがないから、というのが理由だが。
「そして日に日に、ミクモちゃんを推薦する書簡が増えてるなぁ」
「まぁ、私以外に霊媒師さんと友好的な接点を築いてる退魔師はいませんし……それに、私だって立派な大人のレディなんですよ!?」
「はいはい、結婚できる年になってからね。……彼ら、写真使わないから全部人相書きでお見合い相手の顔が送られてきてるけど、ミクモちゃんの顔ですら安定してないな……」
「ムキー! またそうやって子供扱いして! ……ほら見てくださいよ、人相書きは私を大人っぽく書いてくれてますよ!」
人相書きには、なんというか江戸時代の絵みたいな感じの古風な顔が描かれている。
クオリティはまちまちで、中には本格的な画家レベルの絵から子どもの落書きレベルまで。
外部の絵師とか雇ったりするわけではないから、送ってくる人の絵のレベルがダイレクトに出ているな。
「お見合いの誘い以外は……各地で出た霊魂や妖鬼、神魔による事件の被害報告か。相変わらず三号霊魂が異常に増えてるって話がメインだな」
「退魔寮でずっと問題になってますからねぇ」
「単純に、普通の人が死後の世界を信じなくなったから、あの世への行き方が理解らなくなってるだけなんだけどな」
三号霊魂、前にも話したが霊魂の中で最も無害な霊魂だ。
なぜ無害かと言えば、彼らには生前への未練がないから。
この世界の霊魂は未練があればあるほど、厄介になる。
だから本来なら、未練のない霊魂は普通に成仏できるのだが昨今はオカルトを信じる人がいなくなって、異様に三号霊魂の数が増えてたりする。
「退魔寮の人たちからしてみれば異常事態でも、世間の流れを見たら当然……みたいなことが最近は多いですね。退魔師は、時代に取り残されてますから」
「この書簡もそうだよなぁ。後は……ミクモちゃんの正装も」
ミクモちゃんは現在、退魔師の正装で事務所にやってきている。
肩とか露出したソシャゲみたいなデザインの巫女服だ。
現代でコレを着て歩くのは、コスプレかなにかにしか視えないだろう。
「えー? そうですか? レームちゃんのコスプレみたいで可愛いですよ? それに、認識阻害の術式を施していますから、一般の人には普通の女性に見えています。……三歳くらい盛ってますけど」
「若い子に東方が人気なのってホントだったんだ……あとやっぱり盛ってるんだ……」
「やっぱりってなんですか!」
とにかく、退魔師というのは古風な人たちなのだ。
人里離れた場所に隠れ住み、独自の生活を営んでいる。
時たま因習村かなにか? みたいな連中もいるから、面倒な話。
「それと、街の外に出るときは霊的アイテムは絶対に持ってでないでくださいね。相変わらず、街の外では霊媒師さんを見つけるための間者が張り付いてますから」
「暇だなぁ……まぁその点は大丈夫、街の外に出るときは車使うから。彼ら、車は避けるだろうし」
恐ろしい話、そういう連中は俺を連れ去って強引に身内にしてしまえばいいと思っている。
街の外――リツが睨みを利かせていないギリギリの場所で待機して、俺を見つけて連れ去ろうとしているのだ。
ただし、そういう人たちは車のような文明の利器は嫌うので、車に乗ってマスクでもしていれば確実に見つからない。
向こうには俺の写真とか伝わってないし。
「あと霊媒師さん、今日は霊媒師さんのところでアニメとか見させてもらってもいいですか?」
「いつも通りのやつね、問題ないよ」
「やりました。これで溜まってるアニメを消化できます」
「ただし、お客さんが来るかも知れないからエッチなアニメは避けてね」
「見ませんよ!?」
――そんな中で、見ての通りミクモちゃんだけはそういった現代文明に抵抗がない。
いや、他にも現代文明に抵抗のない若い退魔師はいるんだけどね。
新世代、とでも言うべきか。
その中で、俺の街に最も近い場所に住んでいたのが、ミクモちゃん。
偶然にも俺が開業した際に作った『鞍掛霊媒事務所』のSNSサイトを見つけたのだ。
そう、どうして俺がミクモちゃんに特定されたのかは、至って単純。
どうして退魔師達が俺を見つけられなかったのかも、至極当然。
退魔師は、科学的な道具を避けているが、ミクモちゃんは普通にスマホとか使うからだ。
先日も、電話で俺に色々聞いてきてたしね。
ちなみに契約とかは、新世代の中でも特に大人な、すでに成人している退魔師が保護者になってやってくれるらしい。
退魔師にも、変革の時代がきているのだなーとか適当なことを思いつつ。
書簡に目を通しながら、ミクモちゃんのアニメ鑑賞を横目に見るのだった。