転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる   作:暁刀魚

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第20話 そして始まる痴話喧嘩

「――サトル!」

「大丈夫か、リツ」

 

 タツメが消えた境内で、リツが俺に飛びついてきた。

 それを受け止めてると、リツはそれはもうすごい剣幕でまくし立ててきた。

 

「大丈夫、じゃないわよ! 何であんなに無茶をしたの!? 龍人形だって絶対じゃない、一つ間違えれば死んでてもおかしくなかったのに! 私はサトルが死んだら、とてもじゃないけど耐えられないわ!」

「それは、俺がリツの力を信頼してるから……」

 

 リツの心配はもっともだ。

 でも、リツの力は本物だ、本調子ならタツメを一方的に圧倒できる。

 今はいろいろな理由で一方的に追い詰められてしまっていたけれど。

 それも、俺がリツを助ければ何も問題はないのだ。

 

「そんなことはどうでもいいの! 私はサトルが心配で、サトルに危ない目にあってほしくない。そのために、サトルの身を守る力を渡したのに。今のサトルは、その力のせいで無茶ばっかりしてる」

「確かに、そうだけどさ……」

「それに、それによ!? 貴方――」

 

 ふと、そこで。

 リツの様子が、少し変わった。

 側面が入れ替わったのだと理解する。

 けどなんというか、少しだけ嫌な予感がした。

 

 

「――どうしてれーばいしさんは、私より先にあの女のことをゆーせんしたの?」

 

 

 ――あ。

 

「いや、それは」

「ねぇねぇ、おかしくない? 私と貴方って、契約関係よね? お互いにとって一番大切な関係よね? なのに、なのにどうしてれーばいしさんは私を優先してくれなかったの?」

「だって、あいつは危険だから。先にアイツをなんとかしないと……」

 

 ふぅーん、とリツが俺から離れて、下から見上げてくる。

 腕を後ろに組んで、姿勢を落として、上目遣いで。

 けれどもその瞳に、光はない。

 

「だいたい、サトルってば幾らなんでも私の上げた人形をふっとばすのは酷いんじゃない? あんなに大切に作ったのに、貴方のことを守りたいって思ったのに。それを貴方が台無しにするなんて、私どうかとおもうわ?」

「そ、それは本当にごめん!」

 

 いやでも、あの時は本当にあれしかなかったんだ。

 他にもリツのお守りを破壊しても、タツメの転移は防げたけど。

 それをするにはお守りを取り出さなきゃいけないし、そもそもあんな小さいもの今の俺じゃ撃ち抜けないし。

 などと、言い訳はできるものの。

 それを言ったらリツが更に怒ることは明白なので、黙っておく。

 

「れーばいしさんって、いっつもそう! 私の心配なんて、全然気にもとめずに無茶をするの。私って、ずっとずーっとれーばいしさんのこと心配してるのになぁ」

「う、うん」

「わかってくれないんだ! れーばいしさんは私の気持ちなんて!」

 

 ……いや、待ってくれ?

 

「サトルの分からず屋! 私の気持ちなんて知らないで、自分勝手ばっかり!」

「それ、は……」

 

 それは、流石に。

 

 

「それはこっちのセリフだ、リツこそ俺の気持ちなんて知りもしないだろ!」

 

 

 聞き捨てならないな……!

 だから俺は、思わず叫んでいた。

 

「はぁ!? 何がよ!」

「俺は、リツがくれたものに少しでも、俺なりに返したいと思ってるんだよ! 恩も、善意も、身を守る力も!」

「そ、それが何よ! 私はサトルから幸福を貰ったわ、もらいすぎてるくらい!」

「だったら言ってくれてもいいだろ!? わからない、じゃ伝わらないんだよ!」

 

 ――そうだ、俺はずっとリツの与えてくれたものに「返したい」と思ってきた。

 社を建て直した時も、こうしてリツを助けたことも。

 全てはリツに、新しい「人生」を与えてもらったことのお返しだ。

 俺はずっと、リツから与えられたものを、返したいと思ってたんだ。

 

「俺は、自分で言うのも何だけど普通じゃないよ。魔を畏れないし、定期的にみんなをドン引きさせるし」

「それが……何よ」

「――でも、それだけなんだ。俺にはそれ以外のものがない」

 

 霊気も、戦うための技術も。使ってる力は、その殆どがリツからもらったものだった。

 俺は、リツがいなければ誰かを守ることすらできないんだ。

 

「そんな誰かからもらってばかりの俺は、一体何を返せばいい? 俺にできるのは、守るべきものを守ることだけなんだよ!」

「……そ、れは……!」

「でも、仕方ないと思ってた。リツは人としての生活なんて全然送ってこなかったし、幸福を理解できないのも当然だ……って!」

「……だったら、あるっていうの!? 私に幸福になる資格が!」

 

 そして今度は、リツが叫ぶ。

 

「私は神よ、人じゃない! どれだけ人のように振る舞ったとしても、それは人と同じじゃない! そんな私が、人としての幸福を与えられて、嬉しく思うなんて。そんなのおかしいことだと思わない!?」

「そんなこと……」

「何よりも――」

 

 リツは、俺から距離を取る。

 少しだけ手が伸びるが、しかし。

 

 

「そのために、世界よりも大切な人を危険にさらして、そんな私に幸せになる資格なんてあるの!? 人じゃない私に!」

 

 

 その言葉に、俺の手が止まる。

 

「……だからこそ、俺はリツを幸せにするために戦ってるんだろ!」

「その戦いで、貴方が傷つくことが私にとっての、一番の不幸なのよ!」

 

 ――それは、どちらからともなく向けられた。

 リツの左右に、水龍が。

 その水龍に向けて、俺の拳銃が。

 

 

「だったら、証明してやるよ! 俺はリツに負けないくらい強い! それだけ強ければ、少しはリツも安心するだろ!?」

「だったら、教えてあげる! 貴方は決して無敵じゃない! それが解れば、サトルも少しは頭が冷えるでしょ!?」

 

 

 別に、俺の拳銃がリツを殺すことはない。

 リツが俺を殺しても、龍人形がそれを防ぐだろう。

 ようするに、これはちょっと絵面が物騒な――喧嘩だ。

 少し自分で口にするのも恥ずかしい上に、タツメにすら見抜かれていた辺りよっぽど周囲から見て明らかだったようだが。

 

 ここまでずっと、お互いに抱えてきた言葉をぶつけ合う――痴話喧嘩である。

 

 

 ◯

 

 

 リツは、精神性の変化から多面性を失っていた。

 それ自体はいいことだと思うのだが、そのせいでタツメに追い詰められていたわけだ。

 いや、実際に見ていたわけじゃないのだけど、タツメのスペックと状況から鑑みるとそうなる。

 

 しかし、今のリツは――

 

「あはははは、れーばいしさん逃げてばっかり!」

「そりゃそうだろ……っと!」

「諦めなさいサトル、今ならちょっと頭を冷やすくらいで許してあげる!」

 

 ――どこをどう見ても、多面性を取り戻していた。

 空中に浮かびながら、二体の水龍を器用に操り俺を追いかけてくる。

 更には水弾を多方向から飛ばして、こちらの足止めをしてくるのだ。

 これがまた、厄介極まりない。

 何より面倒なのは、その発生が読めないということだ。

 

「サトル、好きよサトル! だからこれは愛なの、受け取ってくれるかしら!」

「人を殺せる愛は愛と呼ぶのか!?」

「それで死なないれーばいしさんが好きなのっ! それに愛で人を殺すなんて、神様らしいとおもわなぁい!?」

 

 リツの視線が動く、付き合いの長さからその視線の意図は読める。

 視線の先に水弾を発生させるのだ。

 しかし、それとはまったく別の方向から水弾が飛んでくることもあって、これは回避が難しい。

 龍人形に守ってもらうわけだが――

 

「私の攻撃を、私が防ぐわけ無いでしょ?」

 

 水弾を受けた龍人形は、そのまま消えてしまった。

 いや、水弾一発を受けてくれるだけでも温情を感じるのだが。

 それにしたって、数体居れば銃弾だって弾いてしまう龍人形を一撃というのはやっかい極まりない。

 こちらの龍人形は、後どれくらい残ってるか正直俺にもわからない。

 だけど、決して無限ではないことは事実だ。

 

「諦めなさいサトル! 人が神に勝つことなんてできないの。貴方がどれだけ英雄だろうとそれは揺るがない!」

「俺は、正直英雄になったつもりはないけどな!」

 

 とにかく俺にできることは、動き回ってリツに狙いを絞らせないこと。

 先程のタツメとの戦いで、殆ど体力を消費していなくて助かった。

 リツの体力は少し休めばすぐに回復してしまうが、こちらの体力は有限なのだ。

 

「――今、あの女のことを考えたでしょう」

「本人を直接じゃないっての!」

「だとしても許さない! 私以外の女を見るなんて、絶対絶対絶対に! 許さないんだから!」

 

 叫びに呼応するように、水龍が俺を左右から囲む。

 水弾の回避に集中している間に追いつかれた……!

 だけど、こいつらはまだ対応可能な方だ。

 なにせ、的が大きい!

 

「この……!」

「ちょっと、私の可愛い水龍ちゃんに、そんな物騒なものを向けないでよ!」

 

 拳銃を構えて、引き金を引く。

 三発撃って、当たったのは一発。

 狙いをつけられないと、まだまだ命中率は安定しないな。

 それでも、動きを止めるには十分だ。

 なにせこの銃弾は、リツの神気だけではなくロウクの妖気とミクモちゃんの霊気が混じっている。

 龍人形よりは、有効に水龍を攻撃できる。

 

「――ま、その程度で止まるわけないんだけどね? れーばいしさんをつかまえちゃえ!」

 

 とはいえ、できるのは足止めだけだ。

 片方にしか撃っていないから、動きが止まるのは片方だけ。

 もう片方の水龍が俺に襲いかかってくる。

 それを何とか回避して、すれ違いざまに胴体へ一発。

 

「ひどい人!」

 

 水龍二体が動きを止めた、俺はその間に何とかリツへ接近しようとする。

 だが、水弾がそれを阻みさらには――

 

「追いつかせないんだから。れーばいしさん、追いかけてきて! あはは!」

 

 ――リツがその場から掻き消える。

 転移で、俺から離れたのだ。

 タツメは油断と不意打ちで転移を阻止できたが、リツの場合はそうは行かない。

 リツの神気は境内に充満しているけれど、自分の神気で神が動きを止めるはずがないのだから。

 対するリツは、んーと唇に人差し指を当ててなにやら思案している。

 

「でも、このままじゃサトルが可哀想よね」

「可哀想……!? はぁ、この!」

「そう、可哀想。れーばいしさんが勝てないのに、頑張って疲れちゃうのが可哀想!」

 

 水弾を龍人形で受けて、水龍を弾丸で足止め。

 リロードを挟んで、更に移動。

 疲労が少しずつ蓄積している。

 この追いかけっこは、そう長く続けられるものじゃない。

 

「だから、ここで終わらせて上げる」

 

 その瞬間。

 

「はい、どうぞ?」

 

 ()()()()()()()()()

 

「――嘘だろ?」

「嘘じゃないわ。さっきは多面性が足りなくて二体しか出せなかったけど、本当は四体まで出せるのよ?」

 

 ……まずい。

 流石にこれは、本気でまずい。

 

「ねぇねぇ、どうして私が昔みたいな多面性を獲得してるか、解る?」

「……なんとなくは」

「あはははは! 霊媒師さんさっすがぁ! 答えは簡単!」

 

 そしてリツは――

 

 

「全部の私が、貴方を見てるからよ! 反省しなさい、サトル!」

 

 

 水龍を、俺へ向けて解き放った。

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