転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる   作:暁刀魚

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二章 因習村破壊RTA
第23話 御鏡ミクモと因習村


 御鏡ミクモ。

 俺が生活している「龍河(たつかわ)市」から少し離れたところにある街で、御鏡家の長女として生を受けた。

 

 御鏡家は退魔師の一族で、ミクモちゃんも例に漏れず退魔師である。

 自称、天才退魔師。

 たまに美少女がつくこともある。

 

 そもそも退魔師ってのは、今から千年と少し前に発足した「退魔寮」ってところに所属する、この国を”魔”と呼ばれる存在から守護する連中だ。

 霊魂、妖鬼、神魔。

 それら人ならざる怪物を、人の身でありながら退治する。

 そんなありがたい人たちなのである。

 

 欠点は、何かと伝統が古いこと。

 電子機器の類はほとんど使わないし、時代に取り残されがちだ。

 とはいえミクモちゃんは、そんな現状から脱却し積極的に科学技術を活用しようっていう。

 「新世代派」に属している。

 

 そんなミクモちゃんだが、そもそも御鏡の家っていうのは結構伝統ある退魔寮の中でも由緒ある家柄らしい。

 新世代派でも他の人から「ミクモちゃん様」なんて愛称と敬称でよばれているそうだし。

 ミクモちゃんも、その次期当主として日々邁進している。

 

 なのだが、ここ最近のミクモちゃんはどうにも元気がないように見受けられた。

 俺――鞍掛サトルの霊媒事務所にやってきては、何かとため息を吐きつつアニメを鑑賞している。

 ここ最近――というか、タツメを退治して以来俺が住む「龍河市」は平和なものだ。

 零号霊魂消滅の余波で、他の”魔”が寄り付かなくなっているらしい。

 だから、そんな俺の事務所にやってくるミクモちゃんは、遊びに来ている以外の理由は一切なく。

 それはつまり、日々の厄介事から逃げるために、俺の事務所を利用しているということだ。

 

「……それで、一体どうしたんだ、ミクモちゃん」

「あ、霊媒師さん……やっと聞いてくれましたね? 私が憂鬱な気分でこの事務所を訪れるようになってから、一週間目にしてようやく」

「そこはそっちが口火を切るものだとばっかり思ってたんだよ。すまなかったね」

 

 毎日事務所にやってきては、チラチラとこちらを見ながらアニメを見ていたんだ。

 そのうち声をかけてくると思うだろう、普通。

 

「べーっつに? いいんですよお? 私が憂鬱でも、霊媒師さんには関係ないですしぃ? こうして声をかけてくれただけでも、じゅーっぶんありがたいんですからぁ?」

「……相当参ってるな、こりゃ」

 

 普段なら、こんなリツみたいなムーブ、ミクモちゃんはしない。

 もっと素直で、自分からガンガンこっちに突っ込んでくるタイプだ。

 おっと、別にリツがめんどくさい彼女みたいっていいたいわけじゃないから、圧はかけなくていいから。

 鈴の音がチリンチリンうるさい中、俺はミクモちゃんの隣に座る。

 

「……すいません」

「いやいや、俺も流石に一週間は放置しすぎだったな。……それで、どうしたんだミクモちゃん」

 

 そして隣に座ると、ミクモちゃんは素直に謝罪してくれた。

 リツならこういうの、一生謝罪しないからミクモちゃんは可愛いものだ。

 ああこら、リツは寝てなさいって、いいから、いいから。

 

「なんかその、私を出汁にリツ様といちゃつくのやめてもらっていいです?」

「いちゃついてないが?」

「顔に出てますよ、もう」

 

 リツ――この街を見守る零号神魔”(リツ)"の気配を背中に感じつつ、俺達は話を続ける。

 

「……なんというか私って、他人と深い関係を築くことが苦手なんじゃないかって思うんです」

「それは……八方美人ってこと?」

「そんな感じです。父様にもいい顔をしてますし、新世代派の人たちにもいい顔をしてますし……学校でもそうです」

 

 ミクモちゃんは優等生だ。

 人当たりがよく、皆から好かれる性格をしている。

 ちょっと調子に乗りやすいところもあるけれど、そういうところも愛嬌のうちだ。

 だからこそ、父親と新世代派の間でミクモちゃんは揺れている。

 ミクモちゃんの父親は、旧来の頑固な退魔師だ。

 いや、頑固な退魔師の中では、かなり柔軟な方なんだけど。

 先日の零号霊魂”台津芽”との戦いでも、車に乗って移動することを許容してくれたし。

 ただだからこそ、ミクモちゃんはそんな父親の期待を裏切れないんだろうな。

 

「父様は、私に伝統ある御鏡家の後継者として振る舞ってほしいみたいなんです。新世代派との付き合いも、あまりいい顔をしません」

「まぁ、旧世代派の人からしてみれば、新世代派の活動は面白くないだろうしな」

「でも同時に、こっちに歩み寄ろうともしてくれるんです。何とか今の伝統を守りながら、いいところを受け入れられないかって」

 

 千年の伝統を誇る退魔師の伝統を、変えることは相応に難しい。

 今のところ旧世代派と新世代派はお互いに不干渉を貫いているものの。

 それは旧世代派が新世代派の行動を「子供の遊び」と考えているところが大きいだろう。

 今後、そんな新世代派の人たちが大きくなって、退魔師の中できちんとした立場をもつことになれば。

 対立は免れない。

 そんな中で、ミクモちゃんは新世代派の中では、特に立場の強い人間だ。

 しかも父親は、旧世代派でありながら多少なりとも新世代派への歩み寄りを見せている。

 

「板挟みなわけだ」

「……学校でもそうです。私、一応学校では友達が多いんですけど、退魔師の仕事があるせいで、誘われても断らないといけないことが多くて」

 

 ――どうやら、ミクモちゃんの悩みというのは複合的なもので。

 一つの大きな悩みがどかっとのしかかっているわけではないようだ。

 多分、父親との間、新世代はとの間、そして学校の友人達との間で、それぞれ連鎖的に嫌なことがあったのだろう。

 なら必要なのは――新しい経験か。

 

「そういうことならミクモちゃん」

「なんですか?」

「これまでにミクモちゃんが、やってこなかったことをやってみないか?」

 

 ミクモちゃんがこちらを見上げてくる。

 不思議そうな彼女に、俺は一言用件を告げた。

 

 

「因習村を破壊してみないか?」

 

 

「いやなんで私の人生相談から、そんな話になるんです!?」

 

 ミクモちゃんの全力のツッコミが、事務所内に響き渡った――

 

 

 ◯

 

 

 因習村。

 古いしきたりや言い伝えが残っており、外部の人間を拒んだり餌にしたりする村のことだ。

 ミステリやホラーのような怪奇系の創作における舞台となることが多い。

 そしてこの世界における、”魔”のテリトリーの一つでもあった。

 

「因習村って……あの因習村ですか?」

「あの因習村だよ」

「人に忘れられた悪神が、人を閉じ込めて自分の信仰を守るためのハブにするっていう」

「その因習村だね」

 

 正確には退魔師の用語だと「神隠しの郷」とか呼ぶんだけど、新世代派の中ではもっぱら因習村呼びが普通だそうな。

 イメージしやすいからな。

 何にせよこの世界において、因習村とは人類と敵対するタイプの神魔――神様の根城と考えてもらって差し支えない。

 

「ミクモちゃんも知っての通り、昨今人々の信仰は薄くなっているんだ」

「そうなると、大抵の神は力を失いますよね。一部の大きな神は、信仰が一極化して逆に力を増しますけど」

「そして力を失った神の中には、それを受け入れられない悪神もいる」

 

 リツなんかがそうだけど、基本的に神は人の信仰に頓着しない。

 あくまで自分はただそこにいるだけなのだから、と信仰の薄れを受け入れるのだ。

 だけど中には悪い神魔もいて、因習村を作ることで信仰の薄れを阻止しようとするものもいる。

 かつて崇められ、栄華を誇っていたタタリ神などに多い傾向だ。

 

「これを破壊するのが、今回の仕事」

「いやいやいや、それのどこが霊媒師さんの仕事なんですか。そもそもリツ様が貴方をこの街の外に出したがらないですよね?」

「いや、実はこれをやろうっていい出したのはリツなんだよ」

「……えっ!?」

 

 確かに、普通ならリツは俺を自分の手元から離れさせるようなことはしないだろう。

 他の誰かが因習村破壊を提案しても、リツは却下したはずだ。

 でも、リツ自身が因習村破壊を言い出していたとしたら?

 

「穏健な神にとっても、因習村って目障りなものなんだよ。神魔って、自然現象の化身みたいなものだろ?」

「人から発生するのが霊魂、自然から発生するのが神魔、その中間が妖鬼とはたまにいいますね」

「悪神の作る因習村は、自然の摂理を歪めてしまうんだ。神魔にとって、それはあまり好ましいことじゃない」

 

 もし因習村をあちこちで放置していたら、最終的にその歪みが未曾有の大災害を発生させるかも知れないのだ。

 破壊できるなら、それに越したことはない。

 

「そこで俺は、ロウク達穏健な妖鬼と強力して、この国の因習村を破壊してまわってるわけ」

「……待ってください? それってつまり、ここ数年問題になってる因習村の破壊事件の下手人が、霊媒師さんってことになりますけど!?」

「まぁ、そうなるね」

「そうなるね、じゃないんですよ!」

 

 俺が因習村を破壊して回っていたことは、退魔師の間でも話題だったらしい。

 でも俺は妖鬼達と協力しているから話が退魔師の方まで回ってこず。

 犯人不明のまま、事件は処理されていたらしい。

 

「そのせいで、退魔寮の事務の人達と、この国の行政がどれだけ苦労したと思ってるんですか!」

「それは……ごめん」

「因習村が破壊されるということは、()()()()()()()()()()()()()ってことです。本人たちは認識阻害のせいでなんにも疑問を思いませんけど、いきなり戸籍のない人間が数十人単位で発生することに変わりはないんですからね!」

 

 因習村には、その村の村民として囚われている人たちがいる。

 この人たちは本人は普通に生活をしているつもりだけど、実際にはこの国に()()()()()人たちだ。

 なにせ村の存在自体、行政に把握されていないんだから。

 当然村が破壊されたらその人達は解放されるし、彼らは戸籍を持っていない。

 行政はそんな彼らの戸籍を、()()()()()()()()()()()()()()()()()作らなくてはならない。

 まぁ、大変な作業だろうな。

 

「でも、因習村は破壊しないといけない代物だ。退魔師だって、破壊に取り組んでるんだろ?」

「それは……そうですが。因習村の発見が難航してる上に、行政との共同作業でこっちは腰が重いんですよお」

「それに、一部の退魔師は把握したうえでわざと無視してるんじゃないか?」

 

 なにせ、俺が因習村破壊を始めた頃に退魔師とのコネがなかったから報告していないだけなのだ。

 隠れて破壊していたわけじゃない。

 妖鬼とは連携しているし、妖鬼の中には退魔師と同盟を結んでいるものもいる。

 もしかしたらそういう人たちは、妖鬼達が因習村を破壊しているのをわかったうえで放置していたんじゃないだろうか。

 

「自分たちでやると腰が重くなるから、見てみぬフリをしてフットワークを軽くしてた可能性はあるぞ」

「あっちにも問題があれば、こっちにも大問題です! ええいもう、気にしないことにしますよ私は」

 

 賢い。

 大人は汚いからな。

 

「それと、そういうことなら私もついていきます! 霊媒師さんを一人で因習村に行かせたら、因習村破壊RTAが発生しかねません」

「…………」

「ちょっと霊媒師さん!? なにか言ってくださいよ霊媒師さん!? 貴方これまでどんな方法で因習村を破壊してきたんですか?!」

 

 ――かくして、俺とミクモちゃんは。

 我が国にはびこる因習村を、破壊することと相成った。

 これが因習村に関わるある大事件の始まりとなるのだと、知るよしもなく。




第二章「因習村破壊RTA」始まります。
カードゲーム店長二巻発売記念です。

前回もお知らせしましたが、書籍化します。
イラストはカードゲーム店長に引き続きtef先生です。
よろしくお願いいたします。
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