転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
はい、よーいスタート。
というわけで、俺達は現在因習村を破壊するため山奥の街道を走っていた。
車の中で俺とミクモちゃんは二人きり。
お互い、特に会話はない。
こういう時こそ、ミクモちゃんの悩みを聞き出すべきなのかも知れないが。
今回の因習村破壊は、ミクモちゃんを普段の生活から遠ざける狙いもある。
本人が話したくないなら、無理に突っ込むべきではないだろう。
「――雨が降ってきましたね」
ふと、ミクモちゃんがアニメをみているらしいタブレットから視線を離し、外へ向けた。
しとしとと降り注ぐ雨は、なんだか俺達を不吉な気分にさせる。
そしてそれは、あながち間違いでもないのだ。
「因習村が近いからな」
「雨と因習村に関係があるんですか? タツメが復活したとかじゃないんですし」
「あるよ、そして雨や雪がふるかどうかっていうのは、因習村を破壊するうえで重要なファクターの一つだ」
ええ、とミクモちゃんが怪訝そうな顔をする。
そうだな、ここは一つ創作の中での因習村を例に話をしようか。
「ミクモちゃんは、創作の中で主人公が因習村に迷い込む理由って、何があると思う?」
「えーと……その村に探してる人がいたりとか、ですか」
「それも一つの理由だね」
先程まで見ていたアニメを見せながら、ミクモちゃんが答える。
どうやらミクモちゃんはここに来るまで因習村が舞台のアニメやドラマを見て予習していたらしい。
真面目な子だ。
「主人公が目的を持って因習村に訪れるというのは、創作の導入としてはよくある。けど、現実だとこれはなかなか起こらない」
「この世界の因習村は、物理的に神様の力で隔絶してますからね」
「だから他の理由――雨や雪で車が立ち往生してしまって、やむなく村で泊めてもらう、って理由だ」
「……あっ!」
どうやらミクモちゃんもピンと来たらしい。
個人的に因習村の導入には色々なパターンがあると思う。
目的を持って主人公が村を訪れる場合と、偶発的に訪れる場合だ。
この世界だと、因習村の構造的に前者はなかなか起こり得ない。
なので後者――雨や雪による立ち往生が、人が因習村に迷い込むファクターである。
つまり、
「現在、俺達は因習村に囚われかかっている」
「なるほど……でもどうして、因習村は私達を囚えようとするんですか?」
「理由は二つ、新しい血を村に入れることと、村人たちへの見せしめだ」
前者に関しては言うまでもなく。
因習村というのは、作られた当初から周囲と村が隔絶されてしまう。
長年村人を囚えたままの因習村は、やがて血の袋小路へ行き着くのだ。
それを防ぐため、何より人口を増やして自分への信仰を増やすため、神は外部から餌を求める。
それはミクモちゃんも、すぐに理解できたようだ。
「見せしめ……というのは?」
「神は村人を認識阻害などで縛ってるけど、心を完全に縛れるものじゃない。心を縛るには、恐怖や絶望――つまり、”畏れ”が必要になる」
結局、この世界のあらゆる霊的存在は、”畏れ”を根底に成り立っている。
それがなければ力が発揮できない。
神は畏れを信仰とすることで力を得るのだ。
「外部の人間が村に”囚われて”いく過程は、村人たちにとっても恐怖だろう」
「悪辣ですねぇ」
「それが悪神というものさ。とはいえ、これは俺達にとっても向こうの力を図るのには有効だ」
強まっていく雨脚の中で、俺はためらうことなく車を進める。
「雨脚が強くなればなるほど、向こうのテリトリーに近づいているという証明。わざわざミクモちゃんに退魔の術で探してもらう必要もない」
「うわー、霊媒師さんらしい雑な探知ですね」
「君は俺を何だと思ってるんだ」
「失礼、豪快と言い換えます」
言い換えれてないぞ。
とにかく、他にもあるぞ。
「それに、雨でこちらを誘導するっていうのは、これから相手をする神が、
「どういうことですか? 私達を誘い込むためだけに、天候すら操ってみせるんですよ?」
「それくらい、タツメなんて存在するだけでできてしまうことだぞ? リツだって水神の類だから簡単にできる」
自然の化身である神にとって、そこまで天候を操る技術はたいしたものではない。
退魔師にとっては違うのだろうけれど、神にとっては天候を操るなんてのは対したことではないのだ。
「もっとやばい神なら――そもそもこちらに疑問すら抱かせない」
「えっと……?」
「俺達の方から、因習村に足を向かわせるよう意識を誘導するんだ」
いうなれば、この世界だとなかなかありえないと先ほど断言した主人公が目的を持って因習村を訪れるシチュエーション。
これを人為的に発生させるのだ。
神のやることだから、神為的というのが正しいか?
「それって……メチャクチャやばいじゃないですか!?」
「そう、やばい。でも今回はそうじゃない」
「……なら、いいですけど」
「あと、アレだ。実はもう一つ問題があってな」
んで、これは当たり前と言えば当たり前なんだけど――
「俺にはこの誘導、効かないんだよ」
「ええ……?」
「なにせこの誘導は、人が無意識に感じる畏れに干渉してるからな。畏れを感じない俺は、そもそも影響を受けたかどうかすら気付けないんだ」
「あの、それって」
そしてどうやら、ミクモちゃんは気付いてしまったらしい。
いやまぁ、気付いてもらうために話してたんだから当然だけど。
「私を探知機にしようとしてません?」
「普段はロウクを飼い犬ってことにして連れてくんだけど、今回はミクモちゃんが同席してくれて助かった」
「霊媒師さん? ほんとそういうとこですよ、霊媒師さん!?」
いや本当にごめん、と謝りつつ。
因習村にたどり着くまでの道中、俺は甘んじてミクモちゃんの文句を受け入れる。
そうしているとやがて、そんなミクモちゃんの文句は普段の愚痴へと変化していった。
◯
「……私、それなりにいろんなことを要領よくやってるつもりなんですよ」
なんでミクモちゃんに「探知機にしてる」なんて失礼な話をしたかといえば単純で。
俺に対する文句から始めて、最終的にミクモちゃんの愚痴をきちんと引き出すためだ。
大人として、親御さんの許可を経てミクモちゃんを連れ回しているわけだから。
責任を持って彼女を助けるのが、俺の役目だろう。
「でも、私がやらなきゃいけないことって、本当に多いんです」
普段の生活、退魔師の修行。
父との軋轢、新世代派での活動。
学校でのこと、友人との交流。
いくらなんでも、一人の少女に背負わせるにはなかなか重いと、確かに思う。
「だから全部を上手くやろうとすると、結局上手くいかなくって。……どうすればいいんでしょうね」
「そうだなぁ。まあ優先順位をつけようとか、アドバイスできることは色々あるんだろうけど」
んで、ミクモちゃんの悩みは一つ一つは小さな悩みだ。
それらが積み重なって、身動きが取れなくなってしまっているのが問題なだけで。
俺ができるアドバイスは、それらの悩みを効率よく解決する方法か、それらの悩みと向き合う方法だ。
前者に関しては、俺よりミクモちゃんの方がよっぽど上手くやるだろう。
俺は別に、そこまで要領がいいタイプじゃないんだから。
「とりあえず、アレだな。そういう悩みで頭がこんがらがってる時は、一旦意識を切り替えよう」
「今回みたいに、因習村を破壊して気分転換をしようってことですか?」
「因習村は破壊するけど、気分転換ってほど軽くはないぞ……っと、ついた」
やがて、強くなった雨を何とかやり過ごしつつ、俺達は目的の場所までたどり着く。
そこは山の中に作られた小さなトンネルだ。
車で入るには、少し狭い。
「一旦車はここに置いていこうか」
「流されないといいんですけどね、車」
「その場合はロウクに迎えに来てもらおうな」
「退魔の術で強化すれば自分で帰れますよ! 抱っこ紐は絶対嫌ですからね!」
なんて話をしつつ、俺達はトンネルへと足を踏み入れるのだった。
◯
長いトンネルを抜ける。
因習村にはこうやって、内部と外界を阻む結界みたいなものが存在することが多い。
今回みたいに規模がそこまでではない因習村は、特に。
「……空気が変わりましたね。結界の類が敷かれているみたいです」
「探知助かるよミクモちゃん。一応、中で退魔の術を使うと支配してる神にバレるから、ギリギリまで使っちゃダメだよ」
「解ってますって。一応、対因習村のノウハウは退魔寮にもあるんですから」
なんて話をしながらトンネルを抜けると――
「雨が弱くなってますね」
「もう、俺達を誘い込む必要がないからな」
アレだけ激しかった雨が、小雨になっている。
俺は誘導が効かないし、ミクモちゃんも退魔師として耐性があるので違和感に気づけるが、普通の人はそうではない。
だったら帰ろうという話にはならず、村で宿泊できないか考えるだろう。
「ここからどうするんですか?」
「村の人に話しかける。これも結構大事なポイントだぞ」
まず、少し歩いて村の様子を観察する。
いくつかの田んぼと、古ぼけた家屋。
昭和の時代に戻ったかのような光景だが、それ以外に特徴はない、と。
んで、傘を差しながら歩いている村人に声を掛ける。
彼らの格好は比較的現代的で、ちょっと飾り気がないかなという程度。
ともあれ。
「……誰だ、あんたら」
「あー、すまない。俺達はこのあたりを通りかかったモノなのですが、雨で車が立ち往生してしまいましてね。一晩、宿を借りることはできないでしょうか」
「…………なら、あの家の奴に言え。外からの客を泊める部屋がある」
声をかけた壮年の男性は、こちらを怪訝そうに一瞥する。
明らかに歓迎されていない雰囲気だ。
少しだけミクモちゃんを俺の後ろに隠す。
「ありがとうございます。ではこれで」
「……あんたら、どういう関係だ?」
「え? か、関係ですか?」
去り際の俺達に、ふと男が問いかける。
これは男が聞きたくてした質問ではない。
そう神が誘導した結果のものだ。
もしここで俺達に血の繋がりがなかったら、そのまま夫婦として村に取り込むつもりなのである。
優しいところあるじゃないか、と思うかも知れないが。
村から出れなくなった俺達を、互いに依存させる形でつなぎとめるためだ。
「……恋人同士か」
「こ、こいび!? そう見えますか!?」
おっとミクモちゃんが反応してしまった。
なんかこう、普段から俺に身近な大人の男性としてそこそこ懐いている雰囲気のあるミクモちゃんだ。
こういう時にお世辞でもなんでも、言われると嬉しいんだろう。
「なんでもいいがな」
「え、えへへぇそうですか。恋人ですかぁ、へへへ」
男は、それからどうでもよさそうに帰っていった。
俺達の関係を恋人と断定したからだろう。
それはそれとして――
「あの、ミクモちゃん? お世辞みたいなものだから、真に受けちゃだめだから」
「えへへ……腕とか組んじゃいます?」
「まずいって、ダメだって! 後でリツに二人まとめて殺されかねないんだぞ!」
「愛の前に、障害なんてありません……!」
ダメだから、当たっちゃうから!
なんてやり取りをしつつ、俺はミクモちゃんから逃げ出すように案内された家を目指すのだった。
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