転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
「た、大変失礼いたしました」
「いえいえ」
あれから、ミクモちゃんはしばらくたって正気にもどった。
元々、緊張から気が動転していたのである。
ミクモちゃんはあくまで、俺になついているだけ。
別にこう、恋愛感情とかはないだろう、十歳近く年離れてるんだから。
「そ、その……友人に年上の彼氏って憧れるよね、みたいな話をされまして」
「手近なところに俺がいた、と」
「ああいえ、手近とかそういうのではなく。単純に年上彼氏に対するあこがれが……」
あくまで、年上彼氏という存在に憧れているということだろう。
しどろもどろになりながらミクモちゃんに説明を受けつつ。
俺達は言われた家に泊めさせてもらうこととなった。
ちなみにお代はいらないらしい。
この後人間ごと自分たちのものになるからね。
「さて、とりあえず人心地付きましたが……」
「神はこっちの動きを監視はしてるけど、この規模なら話の内容までは聞こえてるわけじゃないから、好きに話しても大丈夫だよ」
「あ、それはなんとなく感じてます。結界の規模はそこまで大きくないですね」
というわけで、荷物を部屋に置いて作戦会議だ。
ちなみに話の内容が聞こえてる場合は筆談での会話になる。
筆談すら監視されるクラスのでかい神様が相手の場合は……そもそもこんなところで悠長に話してる暇はないな。
「とりあえずここまでで、概ね敵の規模と能力、それから脅威度がわかった」
「え!? いや、まだ私達ここに来たばっかりですよ? 雨を降らすことができる、くらいはわかりましたけど」
ここらへんは、何度か因習村を破壊している俺のノウハウが生きるところだろう。
実際その御蔭で、この村の全貌は既に俺には見えている。
「まず、この村の人間は現代的な洋服を着ていた」
「それが何かおかしいんですか?」
「外とのやり取りがあるってことだよ」
「あ、ああ……え、どうやって?」
ミクモちゃんの疑問はもっともだが、やってることは単純だ。
「彼らが村の外に出ているからだよ」
「認識阻害ってことですか」
そう、認識阻害のせいで、外に出ても自分の環境に疑問を抱くことはないし。
外の人間も彼らを不思議には思わない。
だから、表面上は現代的な生活を送れている。
家にも電気が通ってるしな。
「次。村はあくまで普通の作りだった」
「神様の力がもう少しあれば、もっと宗教的な作りになってるってことですか」
「そう、わかりやすく社とか立ってるだろうな」
村の規模と住人の数、それから村の施設は神の能力の高さが露骨に影響してくる。
強い神なら、村はもっと規模がデカくなるし、宗教色が強い。
この村は、見た感じ平均的な因習村の規模だ。
「後は、村人の態度」
「なんだか、排他的でしたよね」
「因習村だと、外部の人間は嫌われるか歓迎されるかの両極端だろ?」
「確かに!」
これが何と関係あるかと言えば――
「村人の態度が良ければよいほど、神が村人を掌握してるってことなんだよ」
「あ、あー……」
態度が排他的な場合は、村人の洗脳と掌握が完全ではないということだ。
これが完全でないと、村人の強い意思による――例えば都会に出て暮らしたいなどの――行動を神が束縛できなかったりする。
まぁ、これはこれで外に出た人間が結婚して家族を村に連れてくる場合があるから、一長一短なんだけど。
そもそも掌握が完全なら、そういった偶発的な束縛からの脱出すら発生しない。
ちなみに村民が村を出て就職したり進学したりすると、そこでも認識阻害が発生するらしい。
実際には存在しない人間が所属していることになるのだとか。
怖いね神様。
この真実を知ってしまった人間を村に引きずり込むのも常套手段だ。
「今回は掌握が完璧じゃないから、上手く説得すれば村人から情報を引き出したりもできるってことですか?」
「いや、むしろ個人的には掌握が完璧な方が楽だな」
「ええ? どうしてですか?」
「危険度は高いんだけど、そのかわり村人が協力的だから、資料とか見せてほしいっていうと見せてくれる」
排他的だと、そうも行かないんだよ。
因習村は、基本的に因習の構造はどこも似たりよったりだ。
俺がこうして、ミクモちゃんにパターンを解説できるくらいには。
だけど、因習村を形成している神様がどんな存在か、というのは。
村にしか資料が残っていない。
なので、村の資料を漁って対策を建てなきゃいけないんだが、排他的だとこれが難しくてな。
「個人的に、因習村の悪神には二種類の物差しがあると思ってる。俺はこれを危険度と邪悪度って呼んでるんだが――」
「今回はどんな感じですか?」
「どっちも中だな、低、中、高、激高、極悪の五段階で中だ」
「なんで高より上が二つもあるんですか!」
そこはあって一つくらいでしょ、とミクモちゃんは言う。
いやぁ、俺も最初はそのつもりだったんだけど、いろんな因習村を相手してるうちに、俺が最初に考えた物差しを越える例外みたいなものが出てきちゃって……
「あ、ちなみにリツ様はどうなんですか?」
「危険度は極悪、邪悪度は高」
「それ、絶対に本人の前で言っちゃだめですよ?」
「大丈夫、もう知ってるから」
「ええ……」
危険度に関しては零号神魔ってところが関係していて、邪悪度に関してはリツが純粋で善にも悪にも染まりかねない危うさがあるからだ。
まぁ、俺がいる今は邪悪度の方は低でもいいかもしれないけどな(惚気)。
さて、話はここまで。
そろそろ本格的にこの因習村を攻略していくとしよう。
◯
因習村を破壊するために必要なシークエンスは三つある。
一つは侵入。
これに関しては、今までの行動が全て侵入だ。
村に入り込み、泊まる宿を確保するまでがここに当たる。
宿を確保するまでに、村に誘引されるまでの状況と、村の景観、そして村人の態度から敵の危険度と邪悪度を測るのだ。
そして二つ目が――調査。
「調査するのは、神の本体がいる社の位置と神の来歴だ」
「前者はともかく、後者ってそんな簡単に見つかるものなのですか?」
「絶対にあるよ。それはある意味で、神がこの因習村を維持するための楔の一つなんだから」
神とは、忘れられてしまえば力を失う。
人が神を忘れないための一番の方法は、記録すること。
たとえその記憶を村人が覚えていなくとも、自身が祀られている村に記録があるということはそれだけで力になるのだ。
「そもそもこんな村を作る悪神は、世間から忘れられている。多少リスクはあったとしても、記録を残さないとそもそも村を維持する力すら生み出せないんだ」
「で、資料には社の場所も書いてあるだろうから、まずは資料を探す、と」
「正解。ミクモちゃんも慣れてきたね」
「あんまり慣れたくないような……というか、どうやって探すんですか」
これが親しげに接してくる村人ならば、村人に直接聞けばいい。
しかしそれだと、こういう排他的な村では上手く行かないだろう。
ミクモちゃんもそれが解っているから、聞いてくるのだ。
「一つは、地道に協力者を探すこと。排他的って言っても、こっちに好意的な人はいるだろう」
「部屋を貸してくれたおばあさんとかですか?」
「そうだな、そういうところから少しずつ情報とコネクションを集めて資料にたどり着くんだ」
これのいいところは、資料にたどり着く道中でも情報収集ができるという点。
ただ資料を紐解くよりも、ずっとこの村の背景を理解しやすくなる。
なにせ、因習村というのはあくまで外界と隔絶しているだけで、村の中にも歴史は存在するからだ。
「とはいえ、これは却下だ。時間がかかりすぎる」
「ええ……すっごく正道って感じの方法だと思いますけど」
「確実だけど、それだけ向こうに怪しまれる時間が増えるってことなんだよ」
時間というのは、基本的にこちらの敵だ。
元々俺達は、相手のホームに乗り込む形で喧嘩を売っている。
向こうはこちらの一挙手一投足を概ね把握しているわけで。
大事なのは、とにかく相手にこちらの狙いを把握されないこと。
「あくまで俺達が、誘導され迷い込んだ一般人であると思われているうちに決着をつけるぞ」
「な、なんだか霊媒師さんがプロみたいです!」
「プロだって! 肩書は胡散臭いけどさ」
「い、いつもの霊媒師さんは、もっと胡乱なことしか言わないじゃないですか!」
そ、それは否定できないけど……俺が何かを言うと周りをドン引きさせるけど……!
「というわけで、別の手段を取るぞ」
「えっと……どういう手段を取るんですか?」
そんなミクモちゃんの言葉に、俺はプロとして方針を示す。
「祠を壊す」
「やっぱり胡乱なことしか言わないじゃないですかー!」
はい。
◯
祠破壊といえば、前世でミームになってたアレだ。
この世界だと今のところミームになっていないが、祠破壊に対するイメージは共通しているのでいつか流行る時もあるかもしれないな。
とにかく、祠を破壊するとやばいものが出てくるというのが一般的なイメージだ。
この世界においてもそれは変わらないし、何より実際にやばいものが出てくる可能性もある。
だがそれは、あくまで外の世界の話。
因習村内部では、祠の役割はまた少し違ってくる。
「因習村内部の祠は、言ってしまえば基地局なんだよ」
「はぁ」
「神の力を、村に伝播させるためのアンテナってことだな」
俺達は、村の一角にある祠の前にやってきていた。
祠はアンテナなので、村のあちこちに存在する、少し探せば簡単に見つけることができた。
そこでこっちをなんとも言えない目で見てくるミクモちゃんに語る。
一度上がった信頼を下降させると、それを取り戻すのは難しいようだ。
普段より視線が痛い。
「これを破壊すると、どうなると思う?」
「……向こうに思いっきり気付かれるんじゃないですか?」
「危険度の高い神相手ならそうだな」
だが危険度の高い神は、そもそも村人が親切な場合が多い。
ようするに、危険度の高い神相手に祠を壊す必要はないのだ。
危険度の低い神は村人が排他的だし、祠を壊しても気付かない。
正確には――
「……よし、壊すぞ」
「おー……って、待ってください霊媒師さん、その金槌――」
俺は、荷物の中に入れた
そしてミクモちゃんがそれに言及しようとするよりも先に――
ガツン、と石でできた祠を破壊した。
その瞬間。
不意に周囲の気配が変化する。
重苦しくなったというか、なにか別のものに乗っ取られたと言うか。
ふいに、足音がした。
「だ、誰ですか!?」
異様な雰囲気だ。
それは、どこか彼女の人間離れした様子が、そうさせているのだろう。
「くすくす、くすくす」
「な、なんですかこの子……」
緑がかった白髪の、人とは思えない色の髪。
浮世離れした、白い服と赤いスカート――トイレの花子さんを思わせる姿。
そして――
「その祠、壊しちゃったんだぁ」
俺を守ろうと、前に出たミクモちゃんに、祠を破壊した時の定番セリフを口にする――
「……って、リツ様じゃないですか!?」
俺と契約した神魔、