転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
日記といえば、因習村のようなオカルトやミステリにおける重要なアイテムだ。
現実においては何でもかんでも日記に残すような筆まめな人は少ないけれど。
今回のように、他者に読ませる前提で日記を書くことはたまにある。
因習村の中で、因習を破壊したいと思いながらも実行できていない人が。
外からやってきた人に、情報を渡す手段として。
電子機器の類が役に立たない因習村では、日記が一番確実な方法として使われていた。
――だからこそ。
諸々の過程をふっとばして神魔の元へと向かう俺のやり方は。
そういう努力を無下にしてしまう。
結果――
『ひぐ……えぐ……アタシが……アタシがどんな思いで……あの日記を残したと……すっごく、すっごく怖かったのに……』
――俺は今、そんな日記を残してくれたはずだった少女を、泣かせていた。
ミクモちゃんが、背中を撫でて慰めている。
彼女の名前はシオンちゃん。
何でも、この因習村の村長の娘だそうだ。
『あ、アタシ……生贄にされたんだよ!? 村のためとか……海士蜘蛛様のためとか……いって、あのクソ親父に……殺されて……! それでも、もう他の人に……アタシと同じ目にあって……ほしくないから……!』
「いや……ごめん、本当にごめん。海士蜘蛛を排除するためとはいえ、村の人達にとっては無神経だった」
『……海士蜘蛛を、殺してくれるんですか!?』
俺の言葉に、シオンちゃんは顔を上げる。
その表情は何と言うか、凄く嬉しそうだった。
『あのクソ神を!? アタシの高校進学を阻んだゴミクソ神を!? バラ色の都会生活をゴミにした、畜生腐れ外道神が!?』
「罵倒が随分ダイナミックですね!?」
まぁ、話をまとめると。
シオンちゃんは、都会での生活に憧れる今どきの少女だったようだ。
それがなんでかこんな田舎村に生まれてしまい、しかも生贄として父親に殺されることになってしまった。
せめてもの抵抗として、見つからないように日記を書いて隠し。
やってきた人に警告を出そうと、幽霊にまでなってここで待機していた……そうな。
本人はそんなことを、アグレッシブ極まりない罵倒を織り交ぜながら語ってくれた。
幽霊とは思えないくらい、生命力に満ち溢れた子だ。
『それでえっと……二人はどういうご関係で?』
「パートナーです!」
「ええと、俺は霊媒師をしていて、この子が退魔師なんだ。いきなりそんなこと言われてもびっくりするかもしれないけど、海士蜘蛛みたいな悪い霊的存在――”魔”を討伐することを生業にしてる」
正確には俺の場合、除霊なのだけど。
因習村破壊に関しては完全に討伐なので、こう説明する。
ミクモちゃんはスルーだ。
『……まぁ、実際に幽霊になってるアタシがここにいるわけだし、納得はするけど』
「正確には、幽霊ではなく霊魂っていうんですよ、業界用語で」
『そ、そう。っていうか、何? そうするとアタシ、成仏させられちゃうの?』
最もな疑問を、シオンちゃんが口にする。
それは色々と言葉にしにくいんだけど――俺とミクモちゃんがどう伝えたものか悩んでいると。
シオンちゃんがハッスルしはじめた。
『いーーーやーーー! やだやだやだ! 成仏したくない! 退魔されたくないー! だってせっかく死んでクソ親父ともおさらばできたんだもの! 海士蜘蛛が死んだのを見届けたら都会に出て、雰囲気だけでも都会ガールになるの!』
「本当に死んだことに一切ネガティブな感情がないですね……」
「まぁ、気持ちはわかるよ」
「解らないでください」
だって俺も一回死んだことあるし。
とかいうと、ややこしくなるので黙っておくけど。
「それなんだけど、シオンちゃん」
『やだ……大人の男性にちゃん付けで呼ばれてる……アタシの青春来ちゃった……?』
ええい、愉快すぎるぞこのコ!
「実は君……霊魂の中でもかなり特殊な存在みたいなんだ」
『え? どういうことッスか?』
「霊魂って普通、シオンちゃんみたいに生前の姿そのままで、自我を保ったままなるものじゃないんだ」
普通の霊魂はもっとこう、イメージ通りの幽霊みたいな感じである。
例外は零号霊魂。
タツメのような存在は、普通に俺達とも意思疎通が可能だ。
が、しかし。
シオンちゃんには零号霊魂ほどの霊力はない。
せいぜい二号霊魂……頑張れば一号霊魂になれるだろうか、という霊力だ。
具体的に言うとミクモちゃんとどっこいである。
『ははぁ、つまりアタシって特別ってことね。ラッキー』
「ラッキーて。いいんですかそれで」
『いいのいいの――なにせ、生きてた時に感じてた苦しいことも、辛いこともぜーんぶ吹っ飛んでるんだもん。アタシ、死んでたほうが幸せみたい!』
――その言葉に、俺とミクモちゃんは顔を見合わせる。
流石にそれは、いくらなんでもひどい話だろう、と。
そう、思いを一つにしたからだ。
「――解った。そういうことなら海士蜘蛛は、俺達が必ず討伐する。もう二度と、君が苦しまなくてもいいように」
そうして、告げた俺の言葉に。
シオンちゃんは顔をうつむかせて――
『うん、お願い』
そう、ぽつりとか細い声で。
呟いた。
◯
社は、森の奥にある。
ほとんど人が入りこまないような場所に。
忘れられた場所にあった。
本来ならば、そのまま忘れられていくはずだったのだろう。
それが自然の摂理であるならば。
だが、今その場所は歪んでいた。
時間から、歴史から、人々の歩みから取り残され。
それが怨念となり、こびりついている。
ただただ息を呑むほどに、その社は腐っていた。
怨念が、妄執が、執念が。
絡みつき、まとわりつき、染み付いている。
ただただ、そこにはもはや生きることしか望みのない。
故にこそ生きていない屍が横たわっている。
「――これが、海士蜘蛛ですか」
ミクモちゃんの、どこか呆れと憐憫の混じった声音が。
その腐れ堕ちた神へと突き刺さる。
神は横たわっていた。
その瞳には、幾つかの感情が張り付いている。
だが、そのどれもが――退廃に満ちている。
「生存を望んだ神は、願いを持った神は堕落する。人に恋した神と同じだ。本来の神のあり方から著しくずれてしまう」
もしも俺が、リツの恋に応えていたならば。
リツもこうなっていたのだろうか。
そう感じてしまうほどに、今の海士蜘蛛は腐っているのだ。
そして、そんな神が――
『――――ない』
こちらを、見た。
俺はゆっくりと前に出る。
ミクモちゃんを庇うように。
『―――
海士蜘蛛の、どこか歪んだ声が周囲に響く。
神も、霊魂も、魂が歪むとその声音も歪む。
どこかノイズが走ったような、そんな声になるのだ。
『死にたくない、消えたくない、忘れられたくない』
「故に、人を縛ったのか」
『そうだ、そうだそうだそうだそうだ』
「故に、贄を受け入れたのか」
『そうだそうだそうだそうだそうだそうだ』
反響するように響く声。
俺は海士蜘蛛の前に立つ。
「お前の思いは、間違ってはいないだろう」
『そうだ』
「だが、その方法は……間違っている」
俺は、手にしていたリツの神力がこもった金槌を振り上げる。
当然、海士蜘蛛はそれを防ぐ。
糸を俺の腕に、そして金槌へとまとわりつかせた。
『ならば、吾を殺すのか?』
「間違いは、正さなくてはならない」
『――傲慢だ。傲慢だ。傲慢だ』
助けに入ろうとするミクモちゃんに、待ったをかける。
必要がないからだ。
リツの神力がこもった金槌は、海士蜘蛛程度では防げない。
糸は段々と焼け切れ、俺は解放される。
「そうだな、傲慢だ。だけどな――」
『……っ!』
「それをどの口が、言うんだよ……!」
振るわれた金槌が、海士蜘蛛の身体を叩く。
途端に、海士蜘蛛の身体は”ブレ”た。
直後――
「――水の糸か」
今度は、水が糸のように射出され、俺の周囲を飛び交う。
伝承にあった通りだ。
海士蜘蛛は蜘蛛の糸と雨を融合させ、水を糸のように操る。
蜘蛛と水の神。
2つの要素を融合させたそれは、ただの糸よりもずっと頑丈であり――
「
そして、射出が可能だ。
細い水鉄砲は、さながらハリのように俺を狙う。
しかし、俺がそれと同時に呼び出した龍人形によって糸は弾かれた。
海士蜘蛛の手札は、この二つ。
それを正面から打ち破り――
さぁ、ここからが本番だ。
「聞け、神よ!」
――神を討伐する。
それは、言葉以上に簡単ではない。
ただ殺すだけなら、このまま金槌を振り続けるだけでいい。
だけど、それによって死んだ神は、完全に死んだわけではないのだ。
人々の信仰が、何かしらの形で発露すればまた神としての”格”を得る。
忘れられた神に、その可能性はほぼないだろうが。
もし仮に復活した場合、その神は今以上の祟り神になる。
避ける方法があるなら、避けなくてはならない。
「お前は間違えた。この信仰は正しくない!」
『ならば――』
「だが、再び信仰を得る方法はある!」
故に、神を説得する。
元々神とは、人々の信仰によって鎮められ、奉られるものだ。
仮に堕ちた祟り神といえど、神は神。
正しく扱われなければ、それは自然の摂理に反する。
厄介なもので、神を殺すということはただその神が再び復活した時に、より厄介な祟り神になるだけではなく。
自然に大きな歪みを発生させてしまうことにも繋がる。
それでは、今この因習村を築き自然を歪めている海士蜘蛛と、やっていることは何も変わらないではないか。
故に――
「合一せよ! 神として、俺の契りし神。”
俺は、龍人形を海士蜘蛛の元へと向かわせる。
それはリツの一部だ。
これを通して、海士蜘蛛という神を、リツという神と
信仰とは、結びつくものだ。
複数の信仰が一つになって、神が同一視されることは神話の世界だとよくあることだろう。
それを、この場で再現する。
『――合一すれば、再び神としての信仰を得られるのか』
「そうだ」
『忘れ去られることなく、死ぬことなく、消えることなく?』
「そうだ」
俺の言葉に、海士蜘蛛はどこかすがるように問いかけてくる。
そうして、沈黙し顔を伏せ――
『それは……』
葛藤の末に。
『それは――そんなもの……今更受け入れられるはずもない!』
拒絶した。
ああ、それならば――
「――ならば、こちらも答えは一つ」
俺から言えることは、一つだけだ。
「お前に選択の余地は、ない」
すでに、海士蜘蛛は引き返せぬほどに罪を犯した。
今更拒絶しようと、この
抵抗の意思を示す海士蜘蛛を――龍人形は、一瞬にして飲み込む。
討伐、完了だ。
伸びてる時に更新しろの精神で連続投稿です。