転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる   作:暁刀魚

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第28話 それでアタシはこれからどうすれば

 私、御鏡ミクモの日常は、決して不幸というわけではないはずです。

 相応に充実していて、だからこそ多忙な毎日を送っているわけで。

 二足のわらじ、というやつです。

 そしてだからこそ、それぞれの場所でそれぞれの不満が少しずつ溜まって、私にのしかかっていました。

 一つ一つは大したことではないものの、積み重なるとなんとなく憂鬱な気分になります。

 ただ、決して大きな不満ではないからこそ爆発させる程ではなく。

 それ故に、じわじわとのしかかってくるのでしょう。

 

 私が唯一、不満を感じることなく過ごせる場所は、霊媒師さんの事務所だけでした。

 霊媒師さんがいて、リツ様がいて、たまにロウクもやってくる。

 そんなどこかほかとは時間の流れが違う場所で、ゆっくりすると。

 少しだけ、心が晴れる気分です。

 ただ、だからこそあんまり霊媒師さんに頼り切りというのも、よくないとは思うわけでして。

 そんな時でした、霊媒師さんがある提案をしてきたのは。

 

 

「因習村を破壊してみないか?」

 

 

 いやいやいやいや。

 なんでそうなるんですか!?

 とは思ったものの、今の私はなんというか袋小路に入ってしまっていて。

 それを脱するには、これまでにないことを始めてみるのは悪いことではないのかも知れません。

 いやでも、いきなり因習村破壊って、相変わらず霊媒師さんはぶっ飛んでますね。

 

 そこからの霊媒師さんは、私の悩みなんてどうでもよくなってしまうくらい、いつもの霊媒師さんでした。

 天候のメタ読みから始まって、あっという間に討伐する神魔の特性を詳らかにしていきます。

 村人の態度で神魔の支配力を測るって、どんなもの食べたらそんなこと思いつくんですか?

 

 村で一息ついて、読み取った特性をまとめてからは更にすごかったです。

 創作における因習村といえば、祠破壊は定番ですけど、それにしたってノータイム破壊はビビりますって。

 しかもリツ様が祠を乗っ取って、リツ様のワープでいろんなものをショートカットしていくんですよ。

 流石にそれは反則じゃないかとも、思いましたが。

 長い間人々を自分の根城に閉じ込めた神様を屠るには、そのくらいが妥当なのかもしれません。

 

 なにせ、その結果生贄として私と同じくらいの歳の子が殺されてしまったのですから。

 許せることではないですよね。

 その子――シオンちゃんも、将来の夢とかあったのに。

 シオンちゃんから神を討伐してくれと頼まれた霊媒師さんの顔は、いつも以上にかっこよく見えて。

 私、少しだけ不謹慎ですけどドキドキしちゃいました。

 

 霊媒師さんは、一見するとちょっとうさんくさい普通の人です。

 でも、私にとっては一番頼れる”大人”でした。

 父様とは、なんだかギクシャクしてしまって。

 母様は、私が幼い頃に亡くなっていて。

 周囲の人達は、私をお嬢様として扱うし。

 新世代派の人たちは、なんだか友達感覚です。

 

 だから私にとって、霊媒師さんはあこがれの人なんです。

 恋心なのかどうかは……よくわかりません。

 だって霊媒師さんにはずっと昔からリツ様が一緒にいますし。

 もし仮にこれが恋なら、横恋慕になってしまいます。

 だから、恋ではないと思うことにしました。

 だって私にとって霊媒師さん達と過ごすあの事務所は、何も辛いことのない、安らげる唯一の場所なのですから。

 ……ちょっとくらいはっちゃけるのは、まぁ若気の至りってことで流してください。

 後で思い出すと後悔するので、できるだけ触れないでいただけると助かります!

 

 そんな霊媒師さんが、神を屠る場を間近でみました。

 霊媒師さんはやることなすことおかしなことばかりしますけれど。

 誰かと相対する時は、至って真面目そのものです。

 霊魂を除霊するときも、妖鬼と対峙するときも。

 そして神に、冷徹に無慈悲に、鉄槌を下します。

 その姿こそ、私の憧れる大人そのものなのでしょう。

 

 私は大人になりたいです。

 早く周りから認められて、自分の思う通りの生き方をしたいです。

 でもそれが、子どもの考えだということは解っています。

 霊媒師さんは落ち着いていて、余裕があって。

 私が憧れる大人そのもので。

 一体、いつから霊媒師さんはこうだったのでしょう。

 本人は転生者だから、なんて胡散臭いこと言ってますけれど。

 もしそれが本当だったとしても、よっぽど大人になってから生まれ変わらない限り、あんな大人にはなれないと思います。

 もしくは、一度死んだことで今の落ち着きを手に入れたのか。

 その方が、まぁしっくりは来ますね。

 

 とはいえそれは、私にはできない方法です。

 私には、ただ今目の前のタスクを一つ一つ達成していくしかありません。

 それは決して楽なことではなく、何より私は全然それが上手く行っていなくて。

 果たして、私はこれからどうすればいいのでしょう。

 なんてことを思いながらも。

 今は少しでも霊媒師さんと一緒にいたい、なんて。

 

 恋する乙女みたいなことを、考えてしまうんです。

 恋なんて、するだけ後悔するって、解ってるのに。

 

 

 ◯

 

 

 こうして、因習村は破壊された。

 といっても、大きな変化があったわけではない。

 村人はこれからも、この閉ざされた村で生活を続けていくだろう。

 ただ、外へ意識が向かないよう縛り付けていた神はいない。

 交通の便も悪いこの場所から、生活の基盤を移すものも出てくる。

 それはすなわち、この村の止まっていた時間の流れが動き出すということに他ならなかった。

 

 とはいえ、変化がなかったわけではない。

 この村の村長――シオンの父が逮捕されたのだ。

 罪状は色々だ。

 彼だけは、この因習村において加害者だった存在だ。

 それも、海士蜘蛛に生贄を提案したのは彼だという。

 自分から加害者になった存在を、流石に野放しというわけには行かなかった。

 

 そのことは色々と周囲の村人に衝撃を与えるだろうけれど。

 報道規制がかかっているため、外部で話題になることはなく。

 やがて、村人たちにもこの事件は過去のものになっていくはずだ。

 

 大変なのは、退魔師と行政の人たち。

 前にも言ったけど、村は外界と隔絶していて村人には戸籍がない。

 これを”あったこと”にするのは退魔師とつながっている行政の特殊な部署。

 なんか、霊的存在特別対策室とか、そんな名前がついてるそうな。

 なんてそれっぽい。

 いつもお世話になっています!

 

 さて、外部の話はこれくらいにして。

 因習村を破壊した後の俺達について。

 

『――まったく、我を伴わずに因習村破壊など、危険ではないか』

「ふん、どうせロウクが行っても全然役に立ちませんでしたよ。だいたい霊媒師さんとリツ様がなんとかしてしまうんですから」

「ねーねーミクモ? 私はれーばいしさん側の存在じゃないのよ? れーばいしさんだけに責任を押し付けてくれない?」

『ふん、貴様はそもそも霊媒師関係なく恐ろしい存在……あだだだ、引っ張るなおい!』

 

 事務所には俺の他にリツとミクモちゃん。

 それからロウクが遊びに来ていてなんだか賑やかだ。

 普段からして、四人で集まると何かと賑やかなのだが、今回は話題が全員に関係しているからかことさら賑やかだ。

 それはそれとして、リツは俺に責任を押し付けないでほしい。

 資料のある場所に直接転移する方法を提案したのはリツだからな? 俺じゃないからな?

 

 とはいえ、そんな事務所の賑やかさを加速させる要因は他にもあるのだけど。

 それは一旦置いておいて。

 

「ミクモちゃん、お疲れ様。初めての因習村破壊はどうだった?」

「あの、なんかさらっと労う感じでとんでもワード繰り出すのやめてもらえます?」

「いや事実しか言ってないし……」

「もー、霊媒師さんは常におかしいんですから、自分の言動に気を使ってください」

 

 それはそれで理不尽すぎる!

 いやまぁ、自覚がないわけではなくもなくもなくもなくもないんだけど。

 ……あれ今どっちだ?

 

「まぁ、そうですね……私にとって、神と直接対決するのってこれが初めてなんですよ」

「アレ? そうなのか」

「神魔って、穏健でない神は因習村に引きこもってるかすでに退治済みなのよ」

 

 リツの補足が入る。

 ああ、前にもそんな話をリツがしていたな。

 アレはいつだったっけ……?

 東京で神が暴れたときか。

 

「霊魂とは、また違う畏れを感じました。霊魂は底冷えする恐ろしさなんですけど、神魔のそれは息を呑むような感じというか」

「あら、ミクモったら私には全然畏れなんて感じてなかったの? 友人として喜ぶべきかしら、神として怒るべきかしら」

「ひっ。い、いやリツ様は怒ったときの強さは神の域すら越えていると言いますか……」

 

 あんなの相手にできるの、霊媒師さんだけですよ。

 と、ミクモちゃんは失礼なんだかそうじゃないんだか、よくわからないことを言う。

 まぁ、リツはなんだか嬉しそうなのでいいんだろう。

 

『……おい。貴様ら、我を放置するな。というか……』

 

 と、そこでさっきから何やら不機嫌そうなロウクが俺達に声をかけてくる。

 そんなロウクは現在、それはもう勢いよく撫で回されていた。

 誰に? と言われると。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()としか言いようがないが。

 具体的にいうと――

 

 

『あははすごーい! もっふもふー!』

 

 

 ()()()()()()だ。

 先日の因習村で出会った、霊魂の。

 なんでここに? と思うかもしれないが……なんでここにいるんだろうな?

 わからん、なんかいつの間にかここにいたとしか。

 いや正確にいうと、因習村を破壊した時点で村の外に彼女をつれて行こうという話はあったのだ。

 どう考えてもあそこにいて成仏できる性格と未練じゃないし。

 とはいえ、神の贄として殺されたシオンちゃんはどう考えてもあの場所に縛られてるはず。

 一旦、解決方法を退魔寮とかに相談しようってことになったんだが。

 普通に移動できたのだ。

 理由は謎。

 

『でですね、えーとあのー』

「何かな?」

『それでアタシはこれからどうすれば』

 

 シオンちゃんの尤もな質問。

 俺たち四人……正確には二人と一柱と一匹は顔を合わせて。

 

「……どうしよう」

『ええ……』

 

 皆して首を傾げて、シオンちゃんに困惑されるのだった。

 




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