転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる   作:暁刀魚

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第29話 砂蔵シオンという少女 ①

 シオンちゃん。

 本名は砂蔵(さくら)シオンというらしい。

 あの因習村で、村長の娘として生まれ。

 都会で暮らすことに憧れを持っていた。

 それはつまり、彼女が神の束縛から逃れることができるほどの意志力を持っていたということなのだけど。

 

『はえー、じゃあロウクっちはとんでもかわいいわんこ、略してきゃわわんこじゃなくて、妖鬼っていう妖怪みたいな狼なのね』

 

 シオンちゃんの柔軟すぎる奔放な態度は、彼女の意志力故ということか。

 もしかしたら、彼女が理性を保っていられるのも、意志の力が人並みはずれすぎているからかもしれない。

 なんて。

 

「とまぁ、この世にはロウクやリツみたいな、”魔”と呼ばれる人ならざる存在がいるってこと」

 

 あれから俺達は、シオンちゃんに霊的存在……すなわち”魔”の事を教えていた。

 なおロウクはシオンちゃんにモフられ過ぎてお腹を見せており、リツは飽きて帰ったので、まともに話をしているのは俺とミクモちゃんだけだ。

 

「それを退治したりするのが、私たち退魔師というわけです!」

『おおー』

 

 拍手の代わりに、ロウクの腹を揉むシオンちゃん。

 ロウクは完全に至福の表情でぐったりしている。

 

『しかしアレね、そんな少年漫画みたいな世界が外には広がってたのね。アタシ、てっきりこの世界のオカルトは怪奇ホラーの類だとばっかり』

「まぁ、因習村は特殊な環境だから……」

「あ、シオンちゃんって、漫画とか結構読む方なんですか?」

 

 シオンちゃんが自分のパーソナルが垣間見える話をすると、ミクモちゃんが反応した。

 同年代で、漫画の話ができる人が貴重なんだろう。

 新世代派の人にはそこそこオタクもいるらしいけど、顔を合わせる機会がなかなかなく。

 学校の友人にオタクであることは隠しているらしいからな。

 

『それがねー、あの村での娯楽ってほぼ漫画か小説くらいなのよさ。テレビは見れないスマホは電波が繋がらない。だからどっぷりなわけですよ』

「お、おお……」

 

 ころころと表情を変えながら、シオンちゃんが語る。

 ミクモちゃんは、同志が見つかったという顔で目を輝かせている。

 

『でも、今は違う! 私は自由、何をやっても許される! 新たなる人生! 死んでるけど!』

「ジョークがブラックすぎる……!」

『スマホ! SNSでバズる! Vの者デビュー! 夢盛りだくさん!』

「現代で自由を手に入れて、夢見る内容がそれでいいのかなぁ……」

 

 なんというか、もっと堅実かつ現実的な夢でもいいのではないだろうか、と思うのは。

 俺が古い人間だからなのだろうか。

 最近の若い子はわからん……

 

『それだがな、シオンといったか。一つ問題があるぞ』

『む……ロウクっち、問題って?』

 

 と、そこでずっともふもふされていたロウクが顔を上げる。

 自分はずっとこうでしたよ、みたいな雰囲気で腹を隠しつつ。

 

『霊媒師、貴様のスマホをシオンにもたせてみろ』

「え、いいけど……」

『スマホ!? 伝説の!? 実在したんだ!』

 

 わっしゃわっしゃと、シオンちゃんのロウクをもふもふする手が早くなっていく。

 そんな中、俺がシオンちゃんにスマホを手渡すと――

 

 ――()()()

 

 勢いよく、スマホはシオンちゃんの手をすり抜けて地面におちた。

 

「あっ」

『――――!?!?!?!?』

『だろうなぁ』

 

 言い訳をさせてもらうと、シオンちゃんはロウクを実際にさわってもっさもっさしまくっているのだ。

 身体も透けていないから足がない以外は生身の人間と同じに見えるし。

 この可能性に思い至らないのも無理はない、と思う。

 ……が、しかし。

 

『ご、ごごごご、ごめんなさいいいいいいいいいい!』

 

 シオンちゃんは即座に土下座へ移行した。

 ロウクの上で。

 

『ぐえ』

『わ、わざとじゃなかったんです! 自分が死んでるのすっかり忘れてたんですうううう』

『さっき自分で死んでると言ってただろうが……!』

 

 押しつぶされたロウクが、土下座したシオンちゃんに文句を言う。

 とはいえ、元はと言えばこうなったのはロウクのせいなので、ロウクは一旦置いておくとして。

 さて、どうしたものか。

 別にスマホはこわれてはいないようだけど。

 

「とりあえず、顔を上げてシオンちゃん、怒ってないから。気付かなかった俺も悪いし、むしろ無神経でごめん」

『うう……霊媒師さんの優しさが胸にしみる……』

 

 すんすんと、涙を流しながら、シオンちゃんは顔を上げる。

 霊魂でも涙を流せるのか、と思う気持ちも若干あるが。

 血の涙とか流す霊魂もいるし、涙くらいは不思議じゃないか。

 そう考えると……

 

「まずは、シオンちゃんができること、できないことを確認するべきだな。それに、ものを持てないからって何も問題はないさ」

『えっと、それはどういう……?』

「シオンちゃん! 事務所の本棚から最近の漫画を持ってきましたよ! 一緒に読みましょう!」

 

 いつの間にかいなくなっていたミクモちゃんが、色々と漫画を持ってきた。

 俺の事務所の資料室の一画を占有している、俺が最近読んでいる漫画を適当に持ってきたのだろう。

 そう、読めないなら誰かと一緒に読めばいい。

 ミクモちゃんは趣味も合うし、まさに適任ではないだろうか。

 

『お、おおおお……ミクモちゃん、いいの?』

「いいってことですよ。”魔”の存在について色々勉強して、疲れたと思いますし。ここは一度休憩ってことで」

「いいんじゃないかな? シオンちゃんのできることを確認するのは、別に今日じゃなくてもいいんだし」

『ありがとー! ってあ、これアタシが死ぬ前に読んでた漫画の最新刊! ずっと読みたかったんだぁ』

 

 なんて、わいわいと話をしながら空気が弛緩して。

 そこでふと、シオンちゃんが首を傾げながらこっちを見る。

 

『そういえば、”魔”と退魔師の関係については解ったんだけど。ただそのぉ、一つ疑問があって』

「疑問? なんだい?」

『ええと――』

 

 少し、ためらうようにしてからシオンちゃんは、

 

 

『……霊媒師さんって、結局なんなんで?』

 

 

 と、なんか身も蓋もない事を口にした。

 対して、

 

「……謎です」

 

 ミクモちゃんが、どこか遠い目をしてそう答える。

 いや、謎じゃないから。

 霊魂を除霊する霊媒師だから。

 シオンちゃんも、なんか納得した様子で半眼にならないでくれ!

 

 

 ◯

 

 

 霊媒師を名乗る、胡散臭い男の話はさておき。

 今はシオンちゃんのできることを探るターンだ。

 と言っても、あの後はシオンちゃんとミクモちゃんが漫画を読み漁る隣で事務仕事をしている間に一日が終わったのだけど。

 

 翌日、今度はメンツを変えて俺、リツ、そしてシオンちゃんの三人で検証を行う。

 ロウクはいつの間にかいなくなっていたし、ミクモちゃんは学校だ。

 リツがやってきたのは意外だったが、多分俺とシオンちゃんを二人にしたくなかったのだろう。

 これは、ミクモちゃんと知り合った直後もそうだった。

 

『あ、あのぉ……なにかそちらのお嬢様から、大変な威圧感を感じるのですが』

「あら、私のことはいいのよ? うふふ、私はここであなた達のやっていることを見ているだけなのだから」

 

 どこか神秘的な雰囲気を漂わせて、リツが神棚に腰掛けてこちらを見ている。

 ただ、角と尻尾は出していないからリツだって本気ではない。

 新入りに対するからかいを含んでいることを、俺はこれまでの経験から知っていた。

 

「まぁ、リツのことは一旦置いておこう。怒らせなければ温厚な神様だから」

『お、怒らせたら?』

「……」

『何か言ってよぉ!?』

 

 とまぁ、茶番はさておき。

 

「まず、シオンちゃんは霊魂だ。一般的に霊魂は、一号霊魂と呼ばれる存在から物理的に周囲へ干渉できるようになる」

『ふつーに考えたら、アタシはその一号霊魂じゃないってことっすか』

「そうなる。霊力の量から言っても、今のシオンちゃんは二号霊魂に相当すると考えていいだろう」

 

 ”魔”には三号、二号、一号、そして零号が存在する。

 という説明は、割とあっさり飲み込んでくれたシオンちゃん。

 話にも問題なくついてこれていた。

 

「じゃあ具体的に二号霊魂に何ができるかって言うと……」

『できるかっていうと……?』

「謎だ」

『ええ……』

 

 いやだって、こればかりは仕方がないのだ。

 深い……かどうかはさておいて、どうしようもない理由があるのだから。

 

「これまで、無害な二号霊魂が確認されたことは、()()()()()()()んだから」

『そうなの?』

「――そもそも」

 

 鈴の音と、下駄の音。

 リツが話に割って入りながら神棚から降りて、こちらに歩み寄ってくる。

 

「二号霊魂は、すなわち人に精神的な害を与える霊魂よ。どれだけ霊力があろうと無害な霊魂なら三号に該当する」

『ええと……』

「霊魂の分類を決めるのは、能力じゃなくて脅威度ってことだな」

 

 ややこしい話だが、霊魂、妖鬼、神魔、三種の”魔”はそれぞれ”格”の分類方法が違う。

 神魔なら歴史のふるさが格を決めるように。

 霊魂なら、脅威度がそのまま格になる。

 

『ええーっ、じゃあせっかく私二号に分類されたのに、無害な三号に格下げってこと!? ショックー!』

「いやそこでショックを受ける必要はないんじゃないかな……」

「もっと言えば」

 

 やがて、リツがシオンちゃんを覗き込んで、訝しむように睨む。

 ひい、とシオンちゃんの悲鳴が聞こえた。

 抑えて、リツ抑えて。

 

「――貴方、本当に霊魂?」

 

 俺は睨むリツを抱えながら引っ剥がす。

 すると、リツの顔はなんだかへにゃっと嬉しそうに歪んだ。

 普段から厳しい顔が多いリツにしては、かなり油断した顔だ。

 ……こうされたくて、わざわざシオンちゃんを挑発した?

 

「まぁ、そう言われてみるとそうだよな。何か別の……妖鬼か神魔に変質しててもおかしくはない。けど、それだとおかしなことがあるぞ」

「……そうね。今のこの子からは霊力しか感じないもの」

 

 俺は引っ剥がしたリツごと、ソファに腰掛ける。

 それを見たシオンちゃんが――

 

『あのぉ……夫婦のイチャイチャを見せつけながら、考察しないでもらっていいっすか?』

「ふふん」

 

 そのツッコミを受けて、リツはなんだか満足げに立ち上がると、また神棚の方へ戻っていった。

 こいつ、ツッコまれることまで想定してちょっかいをかけたな!?

 

「仮にこの子が神魔になっているなら、別に今の状況はそこまで違和感もないのよ」

『えーと……リツ様もそうだから?』

「よく解ってるじゃない」

 

 人が死んで、神になることはたまにある。

 リツ自身がその例であるのに加えて、伝承にもそういう話は結構みられた。

 シオンちゃんの場合、生贄として殺されているから神になる条件を満たす可能性は結構ある。

 

「とはいえそれなら、貴方には必ず神力が生まれているはず。今の状況とは合致しない」

『アタシが特異個体ってこと以外、なんにもわかんないってことっすか』

「とりあえず、できそうなことを一つずつ試していこう」

 

 既に解っていることとして、シオンちゃんはロウクに触ることができる。

 それはつまり”魔”にふれることができるということ。

 試しにリツにも触れてみてもらったが、やはり触ることができた。

 対して、俺やミクモちゃんを触ろうとするとすり抜けるのは確認済み。

 霊力を持っているミクモちゃんならあるいは、と思ったが。

 残念ながら人にふれることはどうやってもできないようだ。

 

『んーつまり』

 

 少し実験を行ったところで、シオンちゃんがポツリと零す。

 

()()()()()()()()()()()()ってことなのかしらん』

 

 それを聞いた俺は、ふと一つのアイデアを思いついた。

 

「――そうだ、シオンちゃん。一つ試したいことがあるんだが、いいか?」

『え? いいっすけど――』

「ダメよ」

 

 それに同意しようとしたシオンちゃんの前に、リツが現れる。

 驚いた様子で、シオンちゃんは転移してきたリツを見た。

 

「そうやって、またろくでもないことを試すつもりなんでしょう!」

「しないしない、普通のことだって!」

『え!? アタシなにされちゃうの!?』

 

 いやほんとに、ちょっと試してみるだけだから。

 ろくでもないことじゃないから――!




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