転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
私、御鏡ミクモが霊媒師さんと出会ったのは今から半年ほど前のことになります。
その頃、退魔寮は霊媒師さんの正体を突き止めることに躍起になっていました。
なにせあの神魔”
これは喉から手が出るほどほしい人材だったからです。
昨今、退魔師も数を減らしています。
だというのに霊魂は数を増やすばかり、三号霊魂に至っては異常事態の前触れだと言われるくらいの数。
そんな折に現れた人材、是が非でもほしいと思うのは当然の成り行きでした。
ただ、実際の霊媒師さんは彼らの思っていたように霊魂を退魔する退魔師ではなく、除霊する霊媒師だったのですが。
私が彼に出会ったきっかけは、知り合いの新世代の退魔師にスマホを買ってもらったことです。
現代、退魔師は昔ながらの生き方に固執する旧世代の退魔師と、現代科学を受容してそれを活用する新世代の退魔師の二派に別れつつありました。
そりゃそうですよね、私もそうですけど学校だと誰しも当たり前のようにテレビやスマホを使うのに、自分だけ使えないなんて不満を感じるのも当然です。
私なんて、学校の友だちの影響でアニメとか漫画へすっかりハマってしまっているのに。
家だと一切それを見ることが許されないのですから。
ともあれ、そうして買ってもらったスマホで『鞍掛霊媒事務所』の存在を発見したのがすべての始まりでした。
霊媒!? SNSアカウント!? 表の世界に事務所!?
もうなんというか、退魔師の常識からは逸脱しすぎていました。
ロックです、ロックすぎます。
だから私はすぐに、彼へ会いに行こうと決めました。
そうして出会ったとき、ちょうど彼は――霊魂を除霊していたのです。
ありえない光景でした。
霊魂は、たとえ第三号霊魂だろうと存在するだけで周囲に”畏れ”を与えます。
退魔師だって、顔をしかめるくらいにはその霊魂たちは恐ろしい存在なのに。
彼は、まるで隣人に声をかけるかのように霊魂を慰め――幽世へ送ってみせました。
幽世、すなわちあの世。
彼は言葉だけで、霊魂を成仏させてみせたのです。
どうすればそんなことができるのか? 貴方には幽世の場所が解るのか?
……と彼に聞いてみたことがあります。
曰く、
「俺にあの世の場所はわからないよ。でも案内自体は単純だ。三号霊魂は自分が死んであの世に行ってないことに気付いてないだけだから。死んだらあの世に行くんだよってことを伝えるだけでも、結構すぐに理解してくれるんだ」
とのこと。
解るような、わからないような。
そんな物言いです。
理屈はわかります。
特に三号霊魂は無害な霊魂ですし、やろうと思えば私達にもできるのかもしれません。
でも、どうやっても私達は霊魂を畏れてしまいます。
本能的に、人間である限り。
やはり、霊媒師さんは特別なのでしょう。
こうして、私と霊媒師さんは出会いました。
その後は父様に無茶をしたことを叱られたり、退魔寮から霊媒師さんとの橋渡しを命じられたり。
リツ様と顔合わせをして、なぜか退魔師であるにもかかわらず気に入られたり。
色々とあったのですが。
一番度肝を抜かれたのは、やはり初めて会った時のこと。
彼はその日、親子の霊を除霊するために仕事をしていたそうです。
私が出会ったときは、娘さんの霊を除霊していたときだったとか。
その後は父親の霊を除霊するとのことでしたが、なんとその父親の霊は二号霊魂だったのです。
それは、流石に危険過ぎます。
二号霊魂は、強い生前への未練や執着によって悪霊になってしまった霊魂です。
三号霊魂のそれと比べて、近くにいる人間への霊障被害は甚大なもので。
一般的なホラー映画の幽霊は、ここに分類されると言ってもいいでしょう。
一号霊魂はそんな二号霊魂が融合して一つになった存在です、それこそ少年バトル漫画の世界ですね。
ともあれ、一人で二号霊魂を成仏させるなんて無茶もいいところ。
胡散臭い霊媒師が、悪霊を成仏させるってそれ何のフラグですか?
彼はいつものことだといいますが、流石に放ってはおけません。
私も同行することにしました。
とはいえ、すぐに後悔することとなるのですが。
私、御鏡ミクモは天才です。
退魔師としては、この若さで二号霊魂と渡り合うことだってできる逸材なんです。
でも、やっぱり霊魂は恐ろしいのです。
今回遭遇した二号霊魂も、まさしく脅威と呼べる存在でした。
私の視界には、漆黒よりも黒い影が映っています。
霊媒師さんには、彼が普通の霊魂に見えているのでしょうか。
ありえません、私が出くわした霊魂はどこまでもどす黒く、こちらを吸い込んできそうなくらい黒い霊魂でした。
影、闇、怨嗟、絶望、未練。
闇でありながらその暗黒には眼があって。
眼は、じっとこちらを見ています。
眼、眼、眼、眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼――――
「――大丈夫」
少しだけ呑まれかけていた私を、霊媒師さんはそう言って引き戻しました。
思わずハッとして、頭をふる私。
二号以上の霊魂と相対すると、必ず感じる根源的な恐怖。
心を強く持ち、まっすぐ相手を見据えることでそれは回復しますが。
恐怖をすべて拭えるわけではありません。
今回だって、私は冷静になっても背筋に感じる得体のしれない感覚は拭えませんでした。
けれども、霊媒師さんは平気な顔をして、霊魂へ近づいていきます。
『――――――――!!』
霊魂が、霊媒師さんへの攻撃を開始しました。
無数の黒い刃のようなものが、四方八方から霊媒師さんを狙っています。
アレに触れれば、霊障によってダメージを受けるのは必至。
私は急いで結界をはり、霊媒師さんを守ろうとしますが――
そもそも、影が霊媒師を捉えることはありませんでした。
驚くべきことに、すり抜けていったのです。
そもそも、アレは私達退魔師にとっては攻撃ですが、霊媒師さんにとってはそうではありません。
霊魂の行う攻撃は、霊魂そのものが攻撃的になっているのではないのです。
あくまで、霊魂から溢れ出る未練や憎悪が周囲を攻撃しているだけ。
これが一号霊魂ともなれば物理的な破壊を伴うので、霊媒師さんでも簡単には行かないそうですが。
少なくとも、二号霊魂のそれは――霊媒師さんにとっては単なる”癇癪”でしかないのでしょう。
『――――!!』
「……なぁ、お父さん」
呆然とする私の前で、霊媒師さんはためらうことなく霊魂へ声をかけます。
お父さん。
彼は先に成仏させた娘さんの父親です。
そう言葉にされると、何となく私は――霊魂を私のお父様に重ねました。
『――! ――――!! ――!』
「……アンタの娘さんは、アンタに感謝してもいなければ、恨んでもいなかったよ」
『――!?』
「ただ――疲れた。そう言っていた」
『――!!!?!??!!??!?』
霊媒師さんの言葉に、霊魂は驚くほど動揺した様子を見せました。
先ほどから、霊媒師さんを”攻撃”している影が緩み。
余波でこちらに迫ってきていた影の刃も、霞んで消えてしまったのです。
私は、警戒を解きはしませんが――
「だから、娘さんはアンタに何も思ってない。それが全てだ」
『――――…………』
どうやらこれで、本当に終わったのだと。
そう、理解することはできました。
二号霊魂は、なんなく除霊されてしまったのです。
――後に聞いた話ですが。
父親は娘に、過剰とも言える期待を注いでいたそうです。
厳しくしつけ、自分の望む形に娘を育てようとしていたのだとか。
そして、それに疲れ切ってしまった娘さんが、死を選び。
父親は周囲から娘が死んだのは父親のせいだと責められたのを苦に、後を追ったのだとか。
そして娘さんは三号霊魂に、父親が二号霊魂になったのです。
普通は逆だと思うかも知れませんが、霊媒師さんが言った通り娘さんはもう恨みを抱くことすらつかれていました。
逆に父親は、娘からの恨みを畏れていた。
それが本人を悪霊にしてしまうほど、大きな恐怖になっていたのでしょう。
そんな父親に、どうして霊媒師さんがあんな言葉をかけたのか、なんとなく私には解ります。
父親は娘に恨んでほしかったのでしょう。
死んでまで自分のことを思っていてほしいなんて、身勝手な話です。
私には、あの娘の感情が解ります。
私も――父様や周囲の人間へ期待を押し付けられているから。
自分でも、私が真面目な人間だという自覚はあります。
父様達がそうなるように、育てたから。
流石に、それで死を選ぶほど私は疲弊してはいませんが――それでも。
いつかは私も、ああなってしまうのかなと、そう思わずにはいられないのです。
そして、だからこそ。
異質なのは、霊媒師さんです。
彼の家庭は決して、私のような不和を抱えているわけではないとのこと。
本当にごくごく一般的な家庭で育ったと聞いていました。
だからこそ、どうして彼はあそこまで的確に、霊魂へ必要な言葉を投げられたのでしょう。
そんな私の問いに、霊媒師さんはこう答えました。
「死には、二つの意味がある。救済と逃避だ。今回の場合、娘さんは死による救済を選び、父親の方は逃避を選んだ。本人が死にどちらの意味を見出しているか。それによって、かけるべき言葉は自ずと解るんだよ」
事故による無念の死などは、また別とのことですが。
それでも私には、霊媒師さんがとてもすごい人に見えたんです。
だって私達が霊魂を畏れる原因は、それが”死そのもの”だからです。
人は誰だって、死ぬのが怖い。
それが畏れを産むのです。
だけど彼は、死を畏れていない。
それは単純に、彼が無謀だというわけではなく。
彼が死を受け入れて、その中に救いを求めているからこそ、彼は死を畏れないのです。
正直なところ、彼の考え方は退魔師とはあまり相性が良くないと思います。
なぜなら退魔師は、死を畏れそれを遠ざけるために退魔を続けているのですから。
退魔師は彼という人材を欲しがっていますが、退魔の考えに固まった今の退魔寮を彼が受け入れるでしょうか。
程よく距離を取って、連携はしつつも独立した存在であり続ける。
今の形が、彼の考えな気がします。
でも、それを旧世代の人が受け入れないのは、解ります。
ですから、私が彼をお守りするのです。
退魔師として、霊媒師さんを。
なにせ私は天才、御鏡ミクモ。
誰もが将来を嘱望された、未来の最強退魔師なのですから!
ですから、その、アレです!
霊媒師さんは、早く私を大人のレディとして扱うのですよ!