転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる   作:暁刀魚

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第30話 砂蔵シオンという少女 ②

「霊的な存在に触れることができるということは、だ」

 

 そう言いながら、俺は自分のスマホにあるものを貼り付ける。

 御札だ。

 ミクモちゃんから、以前大量に買い込んだシロモノである。

 なにかに使えないかと思ってかっておいたのだが、使い所がでてきた。

 霊的な力で吸着しているので、剥がしても後が残らないのが便利だな。

 

「というわけで、これを触ってみてもらえるか?」

『ええ? いや先日みたいな大惨事はごめんっすよアタシ。いいんすよこのままスマホに触れない女として生きていくんスから!』

 

 まぁまぁ、とシオンちゃんにスマホを押し付ける。

 すると――

 

『……あれ、触れる』

「なるほど、サトルにしてはまともなアイデアじゃない」

 

 意外にも、シオンちゃんはスマホに触ることができた。

 俺の手を離れても、スマホが床に落ちることはない。

 からくりを理解したらしいリツが何やら茶々を入れてくるが、そっちはスルーだ。

 

「霊的な存在じゃないものを、こうやって御札を貼り付けることで霊的な存在にしてしまえばいいんだ」

『え、じゃあもしかしてこのスマホ、今幽霊化してるってこと!?』

「この状態で、リツが神力を叩きつけたら成仏するかもな」

「やってみましょうか? 私との写真以外のデータが入ったれーばいしさんのスマホなんて、この世に必要ないと思わない?」

 

 ええい、物騒なことを言うんじゃありません。

 シオンちゃんが引いてるから。

 

「というわけで、俺の事務所に置いてあるものなら、この大量に余ってるミクモちゃんの御札を貼り付けて行けばシオンちゃんも生活に困らなそうだったな」

『ほ、本当!? やったー!』

「あの、千枚まとめて購入して、未だに使ってなかった御札に使い道ができるなんてねぇ」

『……どうしてそんなに買っちゃったんスか』

 

 いやあ、買った時は色々と案があったんですよ。

 最終的にリツの神力使ったほうが効果高いことが判明して。

 三十枚くらい使って、後は倉庫で埃かぶることになっちゃっただけで。

 ミクモちゃんからは散々文句言われたけど、これでようやく使い道ができる。

 

『というかこれ、御札にはアタシも触れられるなら、貼るのはアタシでもできるんじゃない? したら自分で貼り付けるよ。アタシの生活に関わることだし』

「いいのか? じゃあ悪いけど任せようかな。御札はそこに置いとくから、自由に使ってくれ」

『ラジャラジャ!』

 

 部屋の隅においてある御札入り段ボールを指さしつつ、この話を纏める。

 さて、

 

「――んで、次に試したいことがあるんだが」

「……やっぱりろくでもないこと考えてるじゃない!」

『今までの前フリなんだ……』

 

 いや、前フリではないよ、シオンちゃんの生活にとって大事なことなんだから。

 単純に、やることが変わるってだけで。

 ろくでもないことを考えてた?

 ……よし、さっさと話題を切り出そう。

 

「んで、これは推測なんだが。シオンちゃん、スマホを持った時に重さって感じたか?」

『え? んー、どうだろ。元々そんな重いものじゃないよね、これ』

「じゃあ次は……そうだな、御札の入った段ボールを持ってもらえるか?」

 

 御札一枚一枚は軽いとは言え、千枚近く入っていれば結構な重量になる。

 加えて御札が中には言ってるから、段ボールごとシオンちゃんでも持てるはずだ。

 

『んー、重さを意識したせいか、重く見える……』

「まぁ、試しに持ってみるだけでいいから」

 

 俺があそこまで運んだ時はそこまで苦労はしなかったけど。

 重くはあったから、普通ならシオンちゃんも重さは感じるはずだ。

 だけど――

 

 

『……あれ、重くない』

 

 

 持ち上げたシオンちゃんは、意外そうに段ボールを抱えてみせた。

 基本的に、リツやロウクが同じように段ボールを抱えても、重さは感じるはずである。

 神や妖鬼は、肉体を持っているからだ。

 だけど霊魂は違う、魂だけの存在に肉体はない。

 それはつまり――

 

「シオンちゃんは今、物理法則を無視してるんだよ」

『物理法則を……って、ええ!?』

 

 シオンちゃんの顔が、驚愕に染まる。

 

『アタシそんなやべー感じなの!? 人間やめてるじゃん、怖!』

「やめてるでしょ」

「こらリツ。……それで、もう一つ。霊魂ってさ、宙に浮けるんだよ」

『マジで!?』

「足ないんだから、今でも宙に浮いてるのは変わらないでしょ」

 

 そう、霊魂は足がないから浮遊している。

 シオンちゃんは生前の感覚が残っているから、基本的には歩いてる感じで事務所の中を移動しているけれど。

 やろうと思えば足を動かさずに移動することもできるはずだ。

 どうやればいいのかは……経験がないから俺にはわからないけど。

 黄泉の国を歩く感じだろうか……

 

「んで、この二つを組み合わせたら……思うんだよ」

『ま、まさか……』

「配達業が捗るな……って」

『ウーバーイーツ! すごい、都会みたい!』

 

 そこで都会みたい、になるんだ……

 何にせよ、これを組み合わせるとなんかすごいことができそうな気がするよな。

 なお――

 

「……お願いだから、これ以上シオンのその特性については触れないでちょうだいね」

「ええ、ここからが面白いところなのに」

「ホントやめて」

「はい……」

 

 リツのマジな声音で、シオンちゃんの特性に対する研究は凍結となるのだった。

 うーん、色々できそうな気がするんだがな。

 

 

 ◯

 

 

 それから、俺も暇だったのでシオンちゃんと二人で事務所の備品に御札を張っていくことにした。

 リツはあの後、頭を抱えながら眠りについてしまったのでいない。

 いつもご迷惑おかけします。

 

『んー、やっぱ浮くって感覚よくわかんねっすわ』

「そうか、浮けると便利なんだけどな」

『なんか実体験みたいに言ってるよこわ……』

 

 いやまあ、退魔師の術に浮遊の術とかあるし。

 俺もその恩恵にあずかったことがあるだけだよ。

 

『アタシ的には、今も足がある感覚なんだよね。普通に地面を踏みしめてるし、こうやって脚立にも乗れてるし』

「考えてみれば、足で歩いてる感覚がないと、そのまま地面にめり込み兼ねないしな」

『うわこわっ。それってそのまま地面を落ち続けて地球の反対側に出るってこと!? そのまま下手したら宇宙へゴー!?』

 

 シオンちゃんは、基本的に地面をすり抜けることができない。

 建物の壁なんかはすり抜ける事ができる。

 恐らくだが、これは本人の認識がストッパーをかけているからなんだろう。

 幽霊だから壁はすり抜けられるだろうという認識と、地面をすり抜けたらそのまま落ちていくという認識のストッパーだ。

 

「その場合は、リツに宇宙まで転移してもらって回収してもらおうな」

『リツ様、宇宙にでれるんすか……』

「やったことはないけど、できると思う。空気がないところで活動できることは確認済みだからな」

『リツ様になにさせてるんすか……そんなことさせてるから、あんな反応されるんスよ……』

 

 いやそれはまぁ……うん。

 でもしょうがないんだ、これまでの事件にはそういうことをしないと解決できない事態がちょくちょく発生したんだから。

 それもこれも、俺とリツの巻き込まれ体質が悪いのである。

 

『それにしても……結構いろんな本があるね。霊媒師っぽいオカルト本に、なんか明らかに曰くの有りそうな呪いの本に……』

「あ、明らかに見た目が古い本は御札はる必要はないからな。危険はないけど、万が一があるから触れることもないように」

『ひえ。……そしてそんな本と一緒に経理の本とか、普通の漫画本が並んでいるのはシュール……!』

 

 そこはまぁ、俺の事業が事業だからな。

 霊媒師はオカルトに関わる職業だし、俺の仕事は個人事業だ。

 税金のあれやこれやとか、宗谷さん――俺を支援してくれる、この街の有力者――に助けてもらってはいるけれど、基本は一人で片付けるものだし。

 というか、今年からは社会人なんだから、これまでの学生感覚で宗谷さんを頼るのは自重しないと。

 

『それにしても、霊媒師さんも結構オタクなんだねぇ。有名どころはだいたい揃ってるじゃん』

「俺だけじゃなく、ミクモちゃんやリツも見るからな」

『リツ様も見るん!?』

「最近の子の流行りはよくわからないって言いながら、たまに目を通してるな」

『ままぁ……』

 

 正直、俺は積んでいる本の方が多い。

 とりあえず揃えとけば、そのうち読むかなと思って揃えてるものがほとんどだからな。

 

『これだけの数、よく揃えてるなあ……』

「なんというか、霊媒師業が思ったより儲かるからお金の使い方も雑になりがちなんだよ。ソシャゲはやらないし、あんまり使い道がないのもあるが」

『ソシャゲ!? あの伝説の!? え、今のオタクならアタシみたいなの以外みんなやってるものと思ってたけど!?』

「リツがいい顔しないんだよ……」

 

 ソシャゲといえば、顔のいい女と男を集めて楽しむゲームだからな。

 リツにやってることがバレたら、スマホごと破壊される。

 というかされた。

 まぁ俺にとってソシャゲとリツ、どちらを選ぶかといえば答えは明白なので問題はないのだが。

 

「シオンちゃんがやりたいなら、別の端末買ってきてそっちに入れるよ」

『え? 悪いよ! ただでさえ、基本的に穀潰しなのに』

「全然穀潰しなんかじゃないって、人が増えて賑やかなのは俺としてもありがたいよ」

 

 シオンちゃんは俺の事務所にやってきて以来、事務所で暮らしていた。

 普段は事務所内をブラブラしていたり、三階の霊魂が集まりやすい場所で他の霊魂にコミュニケーションを試みたりしている。

 今回、御札を貼れば日常生活に不便なさそうなのがわかって、シオンちゃんもできることが増えてくるだろう。

 

「シオンちゃんは、これから何がしたい?」

『何が……って言われると、正直わかんないスよ。できることが増えすぎて、何からやればいいのかさっぱりで』

「まぁ、ゆっくり考えていけばいいんだ、シオンちゃんには時間が山程あるんだから」

『……そう、だね。アタシ、自由になったんだから』

 

 シオンちゃんは、なんだか今もこうして自由でいることの実感がないようだ。

 こればっかりは俺も、感覚を共有することはできない。

 俺とシオンちゃんの共通点なんて、()()()()()()()くらいしかないんだから。

 

「……そうだ」

 

 ふと、そこで俺はあることを思い出す。

 シオンちゃんの喜びそうなイベントが、1ヶ月後に起こるのだ。

 それは――

 

「シオンちゃん、東京に行ってみないか?」

 

 上京だ。

 俺は、とある事情で年に一度東京に足を運ぶ用事がある。

 それにシオンちゃんが同行するのはどうか――と、思って声をかけてみたのだが。

 

『とう、きょう』

 

 シオンちゃんは、なんかこう……

 

『とうひょう!?』

 

 作画が変わった、みたいなデフォルメ顔で恐れおののいていた。

 器用だな、霊魂……

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