転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
『とととととととと、とうきょう!? とうきょうとととうきょとうきょととうきょとうきょう!?!?!?!?』
「お、落ち着けシオンちゃん! なんか身体が溶けかかってる!」
こう、ギャグ漫画的な表現ではなく、物理的に!
シオンちゃんの身体が自壊しかかっているのだ。
『だだだあだだあだだだだって、ととととと、東京ですよ!? この世のすべてのじぇいしーじぇいけーの憧れ!!』
「大げさだって! いや、それくらいシオンちゃんにとって憧れなのは解ってるけどさ!」
アレだけ東京に行きたがっていたシオンちゃんだ。
提案すれば喜んでもらえるかと思ったが、反応はそれ以上だった。
というか、よもやここまで反応されるとは。
「今から1ヶ月後、俺は東京に行く用事があるんだ。そこにシオンちゃんもどうかなって」
『ま、ママママママ!? というか、アタシって外出ても大丈夫なの!?』
「あ、外に出ないのは出ちゃダメだと思ってたからなのか」
なんか、ずっと事務所にいるな、とは思ってたけど。
「問題ないよ、ちゃんと普通の人間に見えるように術式を使ってもらうから」
ミクモちゃんが以前、退魔師としての姿で事務所にやってきた時に使ってたアレだ。
見た目を普通の人に見せることができる。
ということは、ミクモちゃんも誘ったほうがいいかもしれないな。
と、思っていると。
『じゃ、じゃあ……!』
ふと、冷静さを取り戻したらしいシオンちゃんが、目を輝かせて俺に提案してきた。
『ミクモちゃんも、誘っていい!?』
ちょうど、俺が考えていたことを、きっと本人は純粋な善意で提案する。
なるほどこれは……シオンちゃんは随分ミクモちゃんと仲良くなっていたらしい。
まあ、肩を並べて漫画を読んで、色々語り合ったならそれも自然の成り行きか。
「そういうことなら、ミクモちゃんも東京に誘おう。三人……と、リツも後から合流するから、それで東京観光だ」
『……うん!』
どうやら今回の東京観光はシオンちゃんにとっても、ミクモちゃんにとってもいい経験になりそうだ。
ミクモちゃんも、まだまだ最近のあれやこれやに対する不満を解決できたわけではないからな。
『――1ヶ月後か、ならばちょうどいいな』
と、その時である。
不意に声がした。
声に何処かノイズのようなものが交じるのは、シオンちゃんと同じ特徴だが声の主は、シオンちゃんではない。
「……ロウク、どうしたんだ? というかどこから声をかけてるんだ」
『事務所のいつもの部屋だ。そもそも貴様らこそどこにいるのだ』
「資料室だよ」
ロウクである。
どうやら、俺に話があるみたいだ。
シオンちゃんと顔を見合わせる。
このまま御札張りをシオンちゃんにまかせてもいいのだが。
休憩がてら、ロウクの話を聞くことにした。
「それで、急にどうしたんだよロウク」
『仕事の依頼だ、父上から直々の……な』
「妖鬼に関する俺に届く依頼は、だいたいロウクの父君から届くんだが」
まあ優先度が高いのだろう、ということはわかった。
もしくは緊急性が高いのか。
何にせよ、ロウクはともかくロウクの父君は無碍にできない。
仮にも、現状の穏健な妖鬼を纏める総大将なのだから。
『因習村の破壊を頼みたい』
「またか、最近多いな因習村」
『そんなにあるんだ、因習村……』
因習村の破壊自体は、これまでも何度かやってきている。
だが、こんなにも連続して依頼が持ち込まれることはそうそうない。
というか、因習村の大半はリツが別の神魔を通じて見つけてくる。
今回や前回みたいに、ロウクの父君から依頼されることは結構稀だ。
『数が多いわけではない。今回の因習村が非常に特殊な作りをしているのだ』
「と、いうと?」
『一夜にして村が乗っ取られ、そのまま因習村に”改造”されたのだ』
それはまた、よっぽど強力な神魔の暴走か。
とはいえそれなら、リツの方に話が回ってきてもおかしくはないと思うのだけど。
『加えて厄介なことに、問題がもう一つある』
「もう一つ?」
『――その因習村に改造された集落が、妖鬼たちの隠れ里だったのだ』
――なるほど。
俺の中で、その因習村に対する脅威度が一つ上がる。
既に「一夜にして因習村に改造された」という時点でヤバそうなのに。
妖鬼の隠れ里が標的にされるとは。
『ええと……つまり何がやばいので? っていうか、妖鬼にも隠れ里とかあるんスね』
「あるぞ。妖鬼の中には、畏れを喰らうことをせずにのんびり暮らしたいって穏やかな連中もいるからな」
妖鬼は基本的に、畏れを喰らう生き物だ。
しかし中には、畏れを喰らわずとも生きていける、穏健な妖鬼もいる。
そういう連中が集まって作られたのが、こういった隠れ里だ。
「何がやばいかといえば……妖鬼の里が乗っ取られること自体だ。妖鬼は人間以上に霊的な力を多く持っているし、神にしてみれば”使い道”が多いだろう」
『ふざけた話だ』
『そんなの……許せないよ』
なんというか、如何様にもできることが多そうで、放置しておいたらまずいことになる。
ロウクが急ぎで話を持ってくるのは当然だ。
そしておそらく、ロウクがリツより先にこの話を持ってきたのは、被害者が妖鬼だったから。
つまり――
「大変よサトル、妖鬼の里が神に乗っ取られた」
「大変です霊媒師さん、妖鬼の里が因習村に改造されました!」
退魔寮にも、リツの方にも、少し遅れて話しが入ってくるということだ。
かくして妖鬼の里因習村破壊の依頼が、俺のもとに転がり込んできた。
〇
『つ、つまりその妖怪因習村にこれからみんなでカチコミをかける……ってこと?』
「まぁそうなりますね。霊媒師組のカチコミですよ」
「人を極道みたいに言わないでくれる?」
胡散臭い職業ですけど、ちゃんとカタギとして営業してるんですからね。
拳銃? 知らんこってすたい。
「それにしても……ふふ、いいわね妖怪因習村」
『妖怪ではない、妖鬼だ。何が面白いのだ龍神』
「なんだか、響きが可愛らしいじゃない」
どうやらリツの琴線に触れたらしいので、以後妖怪因習村と呼称することにしよう。
さて、そんな妖怪因習村破壊作戦だが、あちこちから俺に何とかしてくれと依頼が飛んできた。
まぁ、妖鬼の里が乗っ取られて因習村にされるとか、今までにない事態だし。
緊急性の高さは言うまでもない。
加えて、こういうのは俺に任せておけばいいという、最近の風潮がそうさせたのだろう。
『それで、いつ突入する? 我は今すぐでも構わんぞ』
「まぁ、あまり準備に時間はかけられないだろうね。一夜にして因習村にされたってことは、向こうもかなり急いでいるだろうから」
前にミクモちゃんが俺の因習村破壊を「因習村破壊RTA」とか言っていたけれど。
今度は神の方が「因習村作成RTA」をしてきたような感じだ。
『であれば、今すぐ向かうぞ。今なら我が乗せていってやろう。おんぶ紐も我慢してやる』
『え? おんぶ紐……?』
「いやまぁ、それは一旦置いておこうシオンちゃん。……残念ながらそうは行かない、ロウクは俺とロウクだけで行くつもりなんだろうけど、それはダメだ」
『なぜだ』
なんかシオンちゃんがドン引きしている。
それに関しては一切言い訳ができないんだが、とにかく。
ロウクがこちらを睨んできた、俺が止めたのが不満なんだろう。
「一夜にして里を因習村に改造したってことは、相当無茶をしてるか、相手の能力が高いってことだ」
『それは元々解りきっていることだろう、それと我が行くのを止めることに何の関係がある』
「わざわざ妖鬼の里を乗っ取ったってことは、妖鬼の特性を利用してる可能性がある」
妖鬼の特性。
それはすなわち、”生きている魔”であるということだ。
霊魂は生きておらず、神は自然そのものというべき存在だ。
純粋な生命として生きている”魔”はあらゆる”魔”の中で妖鬼しかいない。
その特性を利用したのだとしたら――
「同じ妖鬼である、ロウクは影響を受けやすいかもしれないってことですね。認識阻害とかの」
「そういうことだ」
「であれば、私の出番でしょう。ふふん、先日の因習村破壊が、図らずも一種の研修になっていたわけですね」
『ぐぐぐ』
ミクモちゃんの言う通り、前回因習村を破壊する時にミクモちゃんを連れて行ったのは結果的に大正解だった。
ロウク以外の存在を、今回の因習村破壊に同行させられる。
「じゃあ決まりだ。ミクモちゃんは新世代派の人に連絡して、何か情報がないか探っておいてくれ。ロウクは道案内、今回は車で行くからな」
「わかりました!」
『ふん、仕方あるまい』
今回、あまり時間はないがかと言って、一切情報がないのも困る。
退魔師の方にはミクモちゃんを通じて連絡を取ってもらう。
妖鬼に関しては、留守番になるリツに連絡役を頼む。
ロウクは案内役として、俺と一緒に車に乗ってもらわないと行けないからな。
この車での移動時間が、他の勢力に情報を集めてもらう時間だ。
軽く場所を聞いたが、結構遠くの県にあるので高速を使っても数時間はかかるだろう。
『あの――』
ふと、そこで。
シオンちゃんが、手を上げた。
意を決した様子で、こっちをみている。
それは――
『……あ、アタシも! 連れて行ってもらえ……ませんか?』
意外なお願いのような、当然の成り行きのような。
そんな言葉だった。
「え……だ、ダメですよ! 危険すぎます!」
『そうだぞ、貴様は素人ではないか。ここは我々に任せておけ』
ミクモちゃんとロウクが、口々にシオンちゃんを止めようとする。
リツは、神棚に腰掛けたまま口を開かない。
俺とシオンちゃんの方を、じっと見ていた。
『そ、そうはいっても……アタシもう死んでるから、これ以上の危険とか……ないし。それに、ほら。幽霊だから……二人にはできないこともできる……なんて』
その言葉に、ミクモちゃんとロウクは顔を見合わせる。
そうする理由は、何となく分かる。
二人に変わって俺がシオンちゃんに質問した。
「……どうして、そうまでして俺達についてこようとするんだ?」
『それ……は……』
「例えば、一人になるのが不安なら、リツはここにいるから大丈夫だ。ミクモちゃんにいいところを見せたいなら、それは今じゃなくてもいいだろう」
『……』
シオンちゃんが、俺達についていきたい理由は、想像することならできる。
俺が口にした理由以外にも、シオンちゃんは因習村の出身だ。
因習村が形成されることによって発生する被害を見過ごせない、とかも。
理由としては当然の理由だろう。
だが――だからこそ、ミクモちゃんもロウクも専門家として、それは許容できない。
だから、納得できるだけの理由が必要だ。
それをシオンちゃんは、何やら言いにくそうにしている。
ふと、それをみて俺は――
「大丈夫、どんな理由でも俺はそれを真剣に受け止めるから」
そう、答えるべきだと感じた。
やがて、数秒ほどためらった後シオンちゃんは、ポツリと零す。
『……ごめんなさい、なんとなく、です』
それは、本来ならば受け入れるべきではない理由だ。
ミクモちゃんもロウクも、俺が言った手前どう答えるべきか解らずに迷っている様子だ。
俺が、シオンちゃんに答えを返さなくてはいけないだろう。
「それは、つまり直感的に行かなきゃいけない、と感じたってことかな」
『……っす。なんか、どうしても行かなきゃ後悔するって、そう思っちゃって。自分でも、よくわからないんだけど』
――それならば。
「なら、行こう。その直感は、大事にするべきだ」
『本当!?』
「ああ」
その時、視線が突き刺さる。
こっちを見ていたリツが、「本当にいいのか」と問いかけてくるのだ。
俺はそれに、責任は自分が取るといって返す。
リツのため息が、この場の状況を決定付けた。
「俺も、直感は信用することにしてるんだよ。だから、シオンちゃんの直感も信じるよ」
『……ありがとう』
なにせ――俺もまた、自分の直感を信じて動くタイプの人間だからな。
転生してからは、なおさらそうだ。
のりこめー!
というわけで第二回RTAは妖怪因習村破壊RTAです。
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